5-59『無駄な努力』
「エル爺、大丈夫っすか?」
「問題ない、少し、腕が痺れる程度だ」
「エル爺の腕が痺れるって相当っすね」
エルダックの腕を痺れさせた。そんな威力の攻撃を放つことが出来る人というのはそうそう居ないため、そこにケルドは驚いたが、それよりもマナはこの一撃を受けてその程度のダメージであるということに驚いていた。
魔剣『ノヴァ』はあらゆる物を斬ることが出来るとされている剣だ。
その剣でマナは全身全霊の一撃を今放った。撃破までは行けずとも、もう少し大きなダメージを期待していたのだが、それが少し腕がしびれた程度だという。
「本当に、賢者というのは化け物ね」
何もさせてもらえずに取り押さえられたカルマ・エルドライトと言い、賢者というのは化け物であると再認識する。
それと同時に今まで部下が頑張っている中、眠りこけていた数分前の自分を諫めた。
部下のピンチに気がつけず、何が王かと。
「魔王様、決して無理だけはなさらぬよう、お願いします。ぼくらのトップはあなたなのですから、あなたが居なくなれば魔族と言う存在は分解しますよ」
「えぇ、分かっているわ。油断だけはしない、無理だと思ったら逃げる。これでいいかしら?」
「はい、それで問題有りません。ぼくも出来る限りサポートをします」
ハルゼンがマナを守るようにして一歩前へ出る。
ハルゼンも別にマナを弱いと思っているわけじゃない。だが、それでも部下としてここは譲れないものがあった。
王に守られる騎士がどこに居るのだと。
「あー、盛り上がっている所ゴメンなんだけど、僕は早く帰りたいんだわ。だから、早く僕らに討伐されてくれないかなっ!」
「っ、分断!」
いきなりだった。
ケルドが地面に足を叩きつけたかと思ったその次の瞬間、ハルゼンとマナを分断するようにして『土壁』が出現した。
さっきまでの戦いを経て、一番厄介なのはマナの騎士を自称するハルゼンだと判断したのだ。それに、賢者の目的は魔王の討伐。魔王を討伐してしまえば、統率の取れていない魔王軍など直ぐに壊滅する。
ハルゼンに関しては魔王を討伐した後、ゆっくり相手すればいい。
今一番危惧しなければいけないのはハルゼンに魔王の討伐を邪魔されることだ。
そして、ケルドとエルダック、どちらのほうが実力が上なのか。ハルゼンとマナ、どちらのほうが厄介そうなのか。
それを鑑みた結果、ケルドとエルダックが下した判断は――
「くぅっ、やっぱりそうなるかぁ!」
「お主を押さえつけるにはケルドじゃ少し荷が重いと思ってな」
「――と、言うわけで、魔王ちゃんの相手は僕だ。『土塊豪拳』」
「っ!」
分断直後、ハルゼンをハンマーで殴り飛ばし、マナとハルゼンを分断。エルダックは徹底的にマナの方へとハルゼンを行かせないよう、立ちはだかる。
対するケルドは速攻を仕掛け、マナを『土塊豪拳』で殴り飛ばした。
剣で防御し、衝撃波受け流したので、そこまでのダメージにはならなかったが、この二人の行動によってハルゼンとマナは引き剥がされてしまった。
ハルゼンは超スピードなので、マナへ寄ろうと思えば雷の力を使って駆け寄ることも可能。だが、それはエルダックも同じ。
同じ雷同士だと、スピードで上回ることは難しいと言えよう。
それもあってハルゼンをエルダックが担当することになった。
しかし、これはまずい状況だ。
マナが魔剣『ノヴァ』を使っているとは言え、相手は賢者。マナが危なくなったらハルゼンが守るつもりだったものが、この一瞬で全て崩されたと言える。
だが、ハルゼンには奥の手が存在する。
「あんたらがぼくらをどれだけ必死に引き剥がそうとしても、ぼくを引き止めるということは物理的、致命的に、運命的に、天文学的に無理なんだよ!」
「お主、待て!」
エルダックがハルゼンに手を伸ばす。
だが、少し遅かった。エルダックの手がハルゼンに触れる前にそれは発動した。
ハルゼンの瞳に時計とカードが浮かび上がった。
「んなっ」
それは瞬きの間だった。
気がつけばエルダックの眼の前からハルゼンの姿は消滅しており、代わりにケルドの眼の前にそいつは出現した。
マナに追撃を加えようと駆け出していた時に突如現れたハルゼン。当然そんな奇襲には反応することが出来ない。
「ぐぅっ!」
ハルゼンの振るった刀。それを防御するため、ケルドは魔力で強化した腕で受ける。
再びハルゼンの瞳に時計とカードが浮かび上がった。
ハルゼンの一撃はケルドが防御する数瞬前に振るわれた。防御が間に合わなかったのだ。
胸に大きな傷跡を付けられ、大量の血が溢れ出す。腕は強化しても胸を強化することは出来ていなかった。
通常、魔力というものは纏わせる範囲が広ければ広いほどその出力が弱くなってしまうという特性がある。
そのため、防御をするのであれば、魔力で腕を強化し、腕で攻撃を受けるなどが一般的だ。そのため、胸は全く守られていなかった。まともな、致命的な一撃を受けてしまった。
「ごほっ、ごほっ」
直ぐにハルゼンから離れ、『ストレージ』から治癒ポーションを取り出し、一気飲みするケルド。
本当は高練度の『ヒール』の方が治癒効率が良いのだが、今はサックドもフーズも気絶している。四の五の言っている場合ではないのだ。
(傷が深すぎて、あまり治った気がしねぇ……)
しかし、本来であればケルドの防御は間に合うはずだった。
ケルドの目から見て、ハルゼンの攻撃は途中から急に速くなり、ケルドの防御速度を上回って攻撃を命中させたように見えた。
ハルゼンの戦いは賢者たちにはとても不可解で、奇妙で、不気味だ。




