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5-54『変態』

「ん、服汚れた」


(おいおい、こんな戦いをしている最中に気にすることはそれかよ)


『水爆弾』を撃ち終わり、手をおろしたレーナは服に付いてしまった砂埃をパンパンとはたき落とした。

 相手が目の前にいる状況でそんな事をするのは呑気であると言わざるを得ない。


 レーナという少女は魔族であり、魔王軍幹部だ。

 だがしかし、ケルドの目からはあまり状況を把握できていなく、姿通りの少女のようにしか見えなかった。

 どこかほんわかしており、この戦いも勇者ごっこと思っているようにしか見えない。


 ただ、そんな少女が魔王軍幹部クラスの力を得てしまった。

 場合によっては他の幹部よりも危うい存在と言える。


(子守をするためにここまで付いてきたわけじゃないんだけどなぁ)


 さっきまでの戦いでも、レーナは周りを気にしていないような、自己中心的な魔法ばかりを使っていた。それによって周りがどんな被害を受けるかというのも考えずに、好き勝手魔法を使っている。

 実際問題、ケルド以外の賢者たちにもレーナの魔法は被害を及ぼしていた。

 これがケルドとレーナの中だけで収まる問題なんだとしたらよかったが、他の賢者も巻き込まれるとなると厄介だ。

 それに加え、レーナの攻撃は他の幹部には効いていないように見える。


(果たして、これが魔眼によるものなのか……それとも)


 ――切り札(カード)。その可能性もケルドの脳を過った。

 正直、切り札(カード)というものはわりと何でもありだ。その人の人柄や人生に大きく左右され、その人に合った切り札(カード)が開花する。

 確率の低い魔眼よりもケルドはよっぽどこっちのほうが現実味があると考えた。


 しかし、ケルドは今の今まで一度もレーナがカードを持っている姿を見ていない。

 誰でも例外無く切り札(カード)を発動する時はキラキラ輝くカードが一度権限する。

 もちろん、カードが出てくる瞬間なんてほんの一瞬のことのため、ケルドが見逃してしまったという可能性は無くはないが、一度使っただけでこう何度も仲間には効かない魔法が使える様になるわけではないはずだ。

 大魔法を発動するときには必ずカードが顕現しているはず。


(切り札(カード)の発動を阻止したら大魔法の発動を中止するか? だが少女、それも魔族が仲間を巻き込んでしまいそうだから魔法の発動を中止するなんていう考えに至るとは到底思えないわけだが、やってみる価値はあるか)


 覚悟を決め、レーナへと駆け出すケルド。

 このまま放っておいたら再び大魔法を使ってくることだろう。

 大魔法は消費魔力が大きい魔法ではあるのだが、それを連発してきているところを見るに、レーナの魔力にはまだ余裕があるように見える。

 そんなに魔力があるのは化け物と言わざるを得ないのだが、まだまだ使ってくることが予想できる。


「荷物検査の時間だレーナちゃん。危険物を隠し持っていないか、隅々まで調べさせてもらうよ!」


「変態ロリコンさんだぁ」


「僕は変態でもロリコンでも無いよ! 僕はただの遺跡荒らしだ!」


「レーナみたいな子の身体を調べようとするのは変態ロリコンさんだってハルゼンが言ってた! 『水天槍牙』」


「そうか、なら情報を改めてくれ! 僕は別に君の身体に興味があるわけじゃない」


 肉薄するケルドに対し、『水天槍牙』で対抗しようとするレーナ。

 その水の槍は思い切り振りかぶられ、タイミングを見計らって突き放たれる。

 ケルドの中心、心臓部を捉えたいい一撃だったと言えるだろう。ケルドの肉体を貫通した水の槍に目を落とし、ほんのりドヤ顔を浮かべるレーナ。


 その直後、ケルドの身体は崩れ、砂塵と化してしまった。


「え?」


「『土人形(ダミー)』だよ、レーナちゃん。僕はこっちだ」


 気がつけばケルドはレーナの背後へと回り込んでいた。

 振り返ると同時に逃げられないよう、レーナの頭を鷲掴みにしたケルドはレーナの身にまとっているローブへと手をかけた。

 カードが外から見て見当たらないということは服の中に顕現しているのではないかと考えたのだ。


 ケルドという男には罪悪感や羞恥心というものが存在しない。必要とあらばなんだって出来てしまう思い切りのいい男なのだ。

 普通ならば躊躇ってしまうような少女の身ぐるみを剥がすという行為さえも、彼にとってはただの作業の一つでしか無かった。


「変態!」


 さっきまで小さい声で喋っていたレーナの耳をつんざくような甲高い声が響く。

 空を斬るような勢いで手に持っていた水の槍が振るわれたため、ケルドは一旦諦めてレーナとの距離を取らずを得なくなってしまった。

 ローブのチャックには手をかけた。だが、下ろす時間までは与えてくれなかった。


 それに、今のはレーナの隙を突くことによって簡単に背後を取らせてもらえたものだが、相手はどんなに幼い見た目をしていようが、幹部は幹部、同じ手が二度も通用するとも思えない。

 彼女のローブを剥ぎ取る千載一遇のチャンスを逃してしまったことにケルドは小さく舌打ちをした。


(しかしまぁ、表情が変化しないもんだなぁ)


 ほんのりと表情筋が動いているのは見て取れるものの、表情筋が基本はガッチガチに固まっているのか、表情を変化させているのか真顔なのかの区別が全然つかない。

 さらに、レーナは変態と言う単語こそ知っていて、ケルドをそう批難しているものの、その実、具体的なことは何も知らないようにも見える。


 今、ケルドがレーナを脱がそうとしたというのに、顔色を変えないどころか恥ずかしがる素振りすら無い。

 ケルドが触ったことによって少し着崩れてしまったローブを直そうという素振りすら見せないのだ。


(あれじゃ、本当に幼女じゃないか……本当に貧乏くじを引いたものだなぁ)


 相手は魔族。しかし、幼女を手にかけなければいけないという事実に思わずケルドは天を仰ぎ見てしまうのだった。

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