5-53『燃え尽きる』
「ごはぁ」
沈黙したかと思いきや、サックドはその場で口から灰を吐き出した。
血液混じりでほんのり赤く染まっていて、灰を吐き出した後の口からはまるでボヤの様に濁った煙が立ち上っていた。
オーバーヒートによる影響だ。火力を上げすぎたことによって身体へ反動が来て、自分の肉体を内から焼いてしまったのだ。それによって焼け焦げた体内の細胞が口から吐血と共に溢れ出てきた。
それなりに長く冒険者をやっているサックドだが、こんな事になったのは今回が初めてで、内心動揺している。
今までサックドはここまで力を引き出さなければ倒せないような相手と戦ったことはなかったためである。
「蒼炎は極地である。故に、誉とされている。だが、同時に身に毒でもある。お前が火属性を極めたという証であると同時に、いつ爆発してもおかしくない地雷と成ってしまったのだ」
「なにが、言いたい」
「お前はもう帰ることを推奨する。その身体の状態でどう戦う。オーバーヒートを引き起こして魔力回路が焼き切れた今、魔力を操るのは困難なはずだ。今も治癒魔法をギリギリ使うので精一杯なんだろう?」
だが、間違いなく治癒魔法の精度も落ちている。
魔力が上手く扱えないことによって治癒が思うようにできないのだろう。さっきまでちゃんと繋がっていた腕に切り込みが入り始めた。
サックドの『治癒』をバルゼットの『永遠』が上回り始めているということの証明だ。
「俺に、負けを認めろということか」
「そうだ。しかし、我としてもこの様な決着は本意ではない。なにせ、お前は我の攻撃ではなく、自滅をしたようなものだからな。だが、ここはあえて宣言しよう――我の、勝ちだ」
「なら、」
そう言うとよろめきながら立ち上がり、サックドは不敵に笑みを浮かべた。
そして――
「認めるわけにはいかないな!」
「な――」
魔力回路がズタボロでもう戦う気力も残されていないはず。サックドの魔力回路は焼ききれてしまっているのだから。
だと言うのに、サックドはエルダックへ手のひらを翳すと、火球を射出。先ほどとは違って青色ではないが、この状態でも尚、魔法を使用し、それも高い完成度で放ってきた。
バルゼットが斧を振るい、火球を両断すると、分断された火球がバルゼットの背後の床に着弾。爆発を引き起こした。
バルゼットは驚いていた。
普通、こんな状態では魔法を禄に使うこともできなくなるというのが普通だ。
だが、サックドはそんな常識知るかとばかりに平然と魔法を使った。それに、こんな状態で無茶をすると下手したら魔法が二度と使えない体になってしまうかもしれない。
だから、普通はそのことが頭をよぎってしまい、魔法を使うことを躊躇う人がほとんどなのだ。
「……それがお前の答え、というわけか」
サックドは最後の最後まで戦士として戦い続けることを選んだのだろう。
それこそ、ここで敗北を認めるくらいならば死を選ぶというように。冒険者、賢者としての死を選んだ。
それは未来への可能性を捨てる行為だ。
しかし、充分にバルゼットにはサックドの覚悟は伝わっていた。
ならば、バルゼットも最後の一瞬まで全力で相手をするのみ。
「ドラぁっ!」
「ぐぅっ」
猛スピードで飛びかかり、燃える拳をバルゼットへと叩きつけるサックド。
瞬時に反応して拳を斧で受け止めたバルゼット。『炎歩』を使っていないお陰でその威力は間違いなく下がっている。
流石にオーバーヒートした直後では『炎歩』と『滅羅滅羅』のコンボをキメることは出来ない。
押し合いつつ、前蹴りを放つバルゼットだったが、サックドは飛び上がり、バルゼットの頭上を取った。
その拳は更にメラメラと燃え盛っている。
「『極拳』」
その一撃はバルゼットの脳天を打った。
瞬間、視界がチカチカと明滅し、一瞬意識が混濁する。その隙をサックドは見逃すことはなく、もう一発『極拳』を放ち、バルゼットを炎の拳で殴り飛ばした。
バルゼットの身体が宙を舞う。そこで正気に戻ったバルゼットは空中で体勢を立て直すと、手に構えた斧を思い切り地面へ叩きつけた。
「『壊炎』」
地面がひび割れ、それが広がってひび割れから炎が噴き上がる。
その一撃は回避したサックドだが、別にバルゼットもこの一撃で倒そうとはしていない。目隠しだ。
「それはさっき見たぞ」
「むっ」
炎の中から飛び出し、斧を振るうバルゼットだったが、その炎はサックドの腕に纏われた炎の籠手によって受け止められてしまった。
流動性のある炎とは違い、サックドの異常なまでに緻密な魔力操作によって硬化させられた炎。
一瞬の判断を間違えてしまった。
「今度は俺がお前に言うぞ――俺の勝ちだ」
突き刺さった。
サックドの炎を纏った拳は武器を受け止められ、無防備となってしまったバルゼットの腹にクリーンヒット。
これ異常無いくらいに見事に直撃してしまった。
バルゼットもサックドの事を言えないくらいにはもう限界だった。
全身の激痛、熱気で大幅に奪われた体力、いつ倒れてもおかしくない状態だった。
通常のバルゼットだったら一度使った戦術は対処される可能性も考えて第二第三の作戦も考えるだろう。
だが、疲弊していたバルゼットの脳は正しく動くことはなく、愚策を行動に起こしてしまったのだ。
「これが、賢者の意地だ」
――あ、これは無理だ。
ここまでなんとか立っていたバルゼットだったが、この瞬間、何かが切れてしまった。
保てなくなる意識。暗くなっていく視界。
最後にバルゼットが見た光景は、サックドも自分と同じ様に力なく地面に倒れ込んでいく姿だった。
本来、賢者は魔王軍幹部よりも強いのですが、相性の問題で、サックドもフーズも相打ちになってしまいました。
もしサックドがガナン、フーズがバルゼットと戦っていたら結果は違っていたかもしれません。
あとはハルゼンVSエルダック、レーナVSケルドの戦いですね。
まだこの四人に関しては底が知れていないですからね。
特にハルゼンVSエルダックに関しては注目ですよ。




