5-51『フーズ・ユーシェン』
――メル――メル――め、るちゃん――
ユーシェン家。代々続く魔道具技師の老舗店の娘として私、フーズ・ユーシェンは生を受けた。
その村はとても小さな村で、大きな街へ行くには馬車を使っても尚泊りがけを覚悟しなければいけないほど辺鄙な場所にあった村だったけど、村の人たちはとても優しい人たちばかりだったし、何も苦労はしていなかった。
私の家系は魔力が強いことが特徴らしい。どうにも魔道具にずっと触れ続けてきた事による影響がでているのだとか。
そしてそれが遺伝子レベルにまで染み込んでおり、子どもにも遺伝して、強い魔法を使うことが出来るようになることが多いんだとか。
その中でも私は飛び抜けていたと思う。
魔力回路が壊れるから使うなとこっぴどく叱られたけど、十歳の誕生日を迎える前に超級魔法の発動に成功した。
十歳になったら冒険者学園に通い始めたけど、正直低レベルだと感じてしまったほどだ。飛び級で五年が経過する前に卒業した。
私には妹がいる。
メルバードというとてもとても可愛らしい女の子。私と違って元気で色々なものに興味津々で、魔道具が大好きで……私には魔道具制作の才能というのが乏しかったから、これで跡継ぎの心配は要らなくなった。
めるちゃんは本当にすごい子だ。
小さい頃から驚くような魔道具を作っては私に見せてくれていた。目をキラッキラさせて、あの時のめるちゃんはこの世界の誰よりも輝いていたと思う。
私はそんなめるちゃんが大好きだった。当然だ、私のたった一人の妹なのだから。
だからめるちゃんも守ることが出来るようにもっともっと強くなろうとした。自分の得意な光属性の魔法を極めて、何があってもめるちゃんを守ることが出来るようにって。
必死になって努力をしていたら、いつの間にかどんどんと冒険者ランクが上がっていった。
それに伴って称賛を受けることも多くなってきた。だけど、私が欲しい称賛はめるちゃんからのもので、その他から貰った称賛に価値は見いだせない。
『お姉ちゃん凄い!』
『お姉ちゃんかっこいい!』
『お姉ちゃん好き!』
そんな反応を期待してめるちゃんに報告したんだけど、そんなめるちゃんから返ってきた反応は――
「Sランクになった? そうですか」
とても淡白なものだった。
少し前からめるちゃんは私への対応が冷たくなっていた。その前まではずっと私にベッタリで、会うと一緒に魔法の練習をする仲だったはずなのに、いつの間にかそういった交流も無くなっていた。
私はなにかめるちゃんに嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。私はただめるちゃんを守りたくて、めるちゃんに褒めてもらいたくて頑張っていたのに。
……もっと頑張ればめるちゃんはまた昔みたいに私と仲良くしてくれるかもしれない。
そう思って半ば自棄だったと思うけど、努力をして、ついには賢者の座に上り詰めていた。
その事はめるちゃんには手紙で報告した。もう冒険者学園に入学したし、色々忙しいだろうから、会いに行くと迷惑になるかもしれないと思って自重した。
だけど、その手紙の返事が返ってくることは終ぞ無かった。
どうしてなんだろう。どこで間違えてしまったんだろう。
もう一度めるちゃんに会いたい。もう一度会って、ちゃんと話をしたい。めるちゃんになにかしてしまったんならちゃんと謝って仲直りしたい。
昔のように、お話したい。
こんなところで死んでいられない。
「はああああああああああああああああああああああああああああああ」
ガナンの両手首を握りしめ、全身の力を込めて肩に突き刺さっているダガーから引き剥がす。
もう体力の限界だ。この『魔力解放』だっていつ解除してもおかしくない。魔力も底をつきかけている。身体もあちこちが痛い。
だけど、それでも諦められない理由が私にはある。
私は賢者だ。絶対に負けることは許されない。
めるちゃんにも直接会って話をしなければいけない。
まだまだやることがたくさんあるんです!
今だけ全てを忘れろ。魔力の限界だとか、全身の激痛だとか、そういうのはすべて忘れて、今この瞬間に最大の力をひねり出せ!
私は武闘派じゃないし、他の賢者の方と比べたら非力な方ですが、でも、姉という存在は、妹のためならば何十倍、何百倍にも力をひねり出すことが出来る存在なんです!
めるちゃんへの想いが私の身体を更に強く強く突き動かすっ!
「私の歩みを邪魔する人は全員力付くで退かしてみせます! 私の人生の道のりから退いてください!」
ズドォォン。
私は最後の力を振り絞ってガナンの肉体をハンマー投げの要領で投げ飛ばした。
投げ飛ばされて壁に激突したガナンはそのまま力なく地面へと倒れ込む。どうやらもう起き上がってこないらしい。
随分としぶとい彼だったけど、流石に体力の限界が来たようだ。
正真正銘、私の勝ち。
「はぁ……はぁ……はぁ……早く、魔王さんのところへ行かなくちゃ」
肩に突き刺さったダガーを抜きながら足を引きずるようにして階段の方へと足を動かす。
だけど、流石に私も限界だったらしい。
急に身体の制御が効かなくなったように力が抜けてしまい、その場に倒れ込んでしまった。本当に情けない姿だなと自分でも思う。
今この場にめるちゃんが居なくてよかったですね。
めるちゃんに情けない姉だなんて思われたら私はもう生きていけないところです。
私には進む意思がある。だけど、そんな意思とは反するように、身体がピクリとも動いてくれない。
そして徐々に徐々に意識が遠のいて行き――




