5-50『執着』
斬撃舞い、聖光満ちる。
防御をせずに回避に徹するしか無いというのにフーズは的確にガナンの攻撃を回避し、カウンターの一撃を放つ。
フーズは基本、ガナンに近寄らない。近距離はガナンの間合いだと言うのもあるが、フーズが得意としている魔法は基本的に遠距離攻撃のもの。
ガナンが近寄ろうとしたらフーズも離れる。必然的にガナンも遠距離での戦いを強いられていた。
だが、遠距離攻撃の練度は桁違いだった。
ガナンの放つ遠距離の斬撃など、フーズの魔法によってかき消されてしまう。逆に、フーズの攻撃に関してはガナンでは相殺することが出来ない。
必至に回避するガナンだが、これでは体力を大幅に奪われるだけだ。ただでさえ、魔力消費も大きく、体力の消耗も激しい『魔力解放』を使っているのだ。
早く勝たなければいけないという焦りがガナンの脳内を支配する。
先ほど放たれたレーナからの水の針をまともに受けたというのに、フーズは何事もなかったかのように動き続けている。一瞬でも動きが鈍ってくれればガナンが有利になるというのに、フーズは全くペースを崩さない。
「うらぁっ! 『狂刃旋風』」
ガナンが両のダガーを振り上げると、正面に巨大竜巻が出現。それはフーズへと向かっていき――
「『聖光の導き』」
フーズの手のひらから射出された聖光の極太レーザーによって打ち消され、そのままレーザーはガナンの方へ。
軽く舌打ちをしつつ、ガナンはダガーから突風を射出することによって吹き飛び、そのレーザーを回避すると、そのままの流れでトップスピードを利用し、一気にフーズとの距離を詰めてゆく。
「焦っても何も良いこと無いですよ? 『天聖』」
「あぐっう」
フーズが手を振り上げるとガナンの真下から聖光が立ち上り、吹き飛ばされる。
ガナンの動きを読み、置き魔法でガナンに魔法を直撃した。
一撃まともに受けてしまったガナンは少し地面を転がり、膝をついてなんとかフーズを見据えるが、今の一撃が相当堪えた様子で、肩を揺らしながら呼吸をする。
ここまでのダメージの蓄積が今になって重く感じてきていた。
ガナンは今までなんとかアドレナリンで誤魔化していたが、本当は立っているのもやっとだ。
今この状況はガナンが魔族の中でもタフだからこそのもので、ここまで耐えることが出来る魔族もそうは居ない。
その事にフーズも焦りを抱いていた。
体力の消耗の条件はフーズも同じ。もう倒せているであろうと自己評価できる様な攻撃を直撃させたとしても奴はまた立ち上がり、自分に向かってくる。
フーズに関してはこの後の魔王戦も控えている。ここで体力を使いすぎてしまえば魔王と戦えなくなってしまうというおそれもあった。
だから出来うる限り『魔力解放』は使いたくなかったのだが、それでも使わされてしまった。
(なぜこの人はここまで私に向かってくるのでしょう)
フーズの一番の目的は魔王の封印。それを成し遂げることさえ出来れば魔族退治など後でいくらでも出来る。
そのため、ガナンが戦意を喪失するのであれば一旦見逃して魔王の元へ行こうと考えている。
だが、ガナンはまるで何かに取り憑かれているかのようにフーズへ向かってきた。彼の言動から鑑みてもフーズにはどうしても魔王への忠誠心が強いようには思えなかった。
そもそも、魔族というのは自由な種族だ。
統率を取るというのが無理な話で、誰かを慕うということも一部の例外を除いて、ありえないだろう。
だから、ガナンが戦う理由というのがフーズには見えてこなかった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
雄叫びを上げながらまるで獣の様にフーズへ突っ込んでくるガナン。
ガナンの限界はとっくに超えていた。気力だけで戦っているような状況。
「勝たなきゃ俺じゃねぇんだよ!」
「――っ! 『聖光の導き』」
フーズの手のひらから放たれる聖光。
この一撃はありとあらゆる物を焼く熱線だ。ガナンが触れれば今度こそガナンは戦闘不能になるに違いない。
だが、ガナンにはもう回避する余力すら残っていないというのはフーズの目から見ても明らかだった。ただやけくそになってがむしゃらに突っ込んできているだけ。
そんなヤケクソの攻撃では賢者に届かせることは出来ない。
フーズの『聖光の導き』にガナンが飲み込まれてしまった。一切回避動作をすること無くまるで魔法の中に突撃していったかのように走り飛び込んでいった。
「…………」
終わった。
最後は意外と呆気ない幕引きだった。
流石は魔王軍幹部と言ったところだろう。賢者であるフーズにここまで体力を使わせることなど他の魔族には不可能だ。
こんなのが城下町に攻め込んできていたら、一瞬で街を落とされてしまうかもしれない。
少しでもフーズが気を抜いていたら敗北していたのはフーズの方だったのかもしれない。そんな予感が脳を過ぎるが、今回勝ったのはフーズだ。
「さようなら、ガナンさん。あなたの事は一生忘れません」
「そうかよ、じゃあ、直ぐに忘れることになるなぁ!」
「なっ!」
「だって、あんたの一生は今ここで終わるんだからなぁ!」
死んでなかった。
勝利を確信したフーズだったが、なんと、ガナンは『聖光の導き』の中を突っ切り、フーズの眼の前に飛び出してきた。
狂っている、そう言わざるを得ない。肉を切らせて骨を絶つどころの話じゃない。既に骨も切らせているような状態だ。
聖光に肉体は焼けただれ、体中が血で染まっている。辛うじて残っている髪型でガナンだと判別できるような状態。
だが、そんな状態でもガナンはダガーを振るった。
「――っ!」
咄嗟に『守護』を展開するフーズだが、そんなものはガナンには通用しない。
「俺一人で死ぬわけねぇだろうがよ! 死ぬんならあんたも一緒だぜ!」
その一言と共にガナンの両ダガーは勢いよく振り下ろされ――パリン――フーズの両肩に深々と突き刺さった。




