5-48『雷勝負』
閃光走る。
二つの雷撃がぶつかり合い、巨大な雷と化して周囲に稲妻をもたらす。
その破壊的なエネルギーはたった二人の男から放たれていた。エルダック・ヴォラキュリアとハルゼン。
つい先程、レーナから放たれた水の針を身体に受けたというのに、その殆どを吹き飛ばし、何本か刺さっているというのに、そんなのは関係ないとばかりに超高速で動き続けるハルゼンの動きについて行っていた。
「『落雷』っ」
「『雷鳴狂波』」
「ぐふぅっ」
雷を纏わせた刀をエルダックへ振り下ろそうとした刹那にエルダックは両手をパァンと打ち鳴らす。
瞬間、ハルゼンの肉体に雷撃が走った。一瞬身体が硬直し、血を吐き出すがそれでも意地とばかりに強引に身体を動かし、そのまま刀を振り下ろす。
落雷したかのような轟音が鳴り響いた。だが、一瞬でも身体が硬直したことによってエルダックは回避動作を取ってしまっていた。
それでも深く刃が届くことはなかったものの、雷の斬撃はエルダックの肉体を切り裂いていた。
「ぐっ」
一進一退の攻防、どちらも譲らぬ攻撃の応酬。
傍目から見てもどちらが有利なのかというのは判別つかないほどだった。
だが、エルダックには気がかりなことがある。ハルゼンが雷属性魔法を使っているというのもあって、素早いのは問題ない。
エルダックも雷属性魔法を使っているため、エルダックも素早いため、追いつくことが出来ている。
だが、一度だけ、その雷というだけでは説明がつかないほどに素早くなった瞬間があった。
あれをハルゼンがまたいつやってくるかがわからないため、常に神経を尖らせておく必要がある。
賢者となったエルダックにとって魔物など討伐して当然。苦戦することなど無かった。
でも、今目の前にいるハルゼンはその今まで戦ってきた魔物など凌駕するほどの実力を持っている。正しく魔王軍幹部第一位の座にふさわしい。
これほどまでに緊張感のある戦いは久しぶりだった。
「お主も雷に適正があるのか。ならば、どちらの雷が強いか、ここは一つ勝負と行こうか」
「いんや、ぼくは別に雷に適正があるって言うわけじゃない。そういう話じゃないんだよ」
「それじゃ、なんだ?」
「別に? わざわざ自分のことを敵に教えるバカがどこに居るんだ?」
「ふむ……それもそうだな」
「でも、そうだね。あんたがそう望むんであれば、あんたの得意で興ってやる」
その雷の出力はどう考えても雷が得意じゃない人のそれではなかった。
雷属性を得意としている人、それも上澄みに存在するレベルの出力に苦笑いを浮かべると、エルダックも構える。
まるでその光景は雷神と雷神が喧嘩しているかのよう。一般人にはこの世の終わりにすら見えてしまうことだろう。
「ぼくはね、弟の借りを返したいんだ。手加減なんて期待しないでくれよ」
「それはお主がわしに言われる言葉ではないか?」
「言ってくれるねぇ、爺さん」
本来武器の重量的にも素早く動けるのはハルゼンであり、ハルゼンの方が有利に見えるのだが、そんなハルゼンの攻撃をほぼ全て防ぎ、そしてカウンターにまででているエルダックは異常だと言わざるを得ない。
二人の肉体が稲妻を帯びた。その刹那、その場には閃光のみが残され、二人の姿は一瞬にして消滅する。
次に二人の姿が目視できるようになったのはコンマ数秒後、二人の立っていた地点の丁度中央に位置する場所にて二人は刀とハンマーで押し合いをしていた。
「さっきもやっただろう? お主のパワーではわしには届かないと!」
だが、やはり体格差も大きいのだろう。ハルゼンは徐々に力に押され始める。
あの巨大ハンマーを軽々と振り回せるほどの腕力だ。並大抵の腕力では土俵に立つことすら出来ないだろう。
「でも、体格差は負ける言い訳にはならない」
「むっ」
「それを超えてこそ真の強者ってやつっしょ」
力加減をコントロールすると、振るわれたハンマーを受け流し、そのままハルゼンはエルダックの懐に潜り込んだ。
その手のひらには稲妻が迸っており、流れるような動作でエルダックの腹に向けて手のひらを突き出す。
ハルゼンの手のひらが直撃する寸前、エルダックは足を思い切り地面に叩きつけ、踏み鳴らす。
「『雷鳴狂波』」
「くっ、足で!?」
エルダックに隙は無い。
通常は手で放つ『雷鳴狂波』を足音で発動させてしまった。
通常とは違う発動方法は高難易度だと言うのに涼しい顔で成し遂げるエルダックをハルゼンは雷撃によって体勢を崩し、倒れ行きながらも恨めしそうな顔で見あげた。
そんなハルゼンにハンマーが振り下ろされた。
このタイミングは確実に回避することはできない。このハンマーをまともに受けてしまえば大抵の生物は致命的なダメージを受けてしまうことだろう。
だが、エルダックは石橋を叩いて叩いて叩いて叩き壊す性格だ。念には念を――
「『雷震』」
エルダックの背後に巨大な雷の化身が出現。エルダックの構える数倍の大きさのハンマーが共に振り下ろされた。
地面にハンマーが叩きつけられたその瞬間、地面が割れ、地鳴りかと思ってしまうほどの轟音が鳴り響いた。
奇しくもこれはヴァルモダを敗北に至らしめた一撃だった。兄弟共々この一撃の前に倒れた。
「む?」
エルダックは違和感を抱いた。
間違いなくハルゼンはハンマーの下から脱出することはできず、エルダックのハンマーはそのまま叩きつけられた。
それは誰の目から見ても明らかだった。だが、エルダックだけはこの結果に満足がいっていない様子で、恐る恐るハンマーを持ち上げてみると――
「居ない!?」
「やっと気づいたのかよ、爺さん」
「うぐぅっ!」
直後、背後から刀が突き刺され、つい先程のようにエルダックの胸から刀が生えてきた。
ハルゼンだ。
いつの間にかエルダックの背後へと回り込んでいたハルゼンが刀を突き刺しているのだ。
その瞳の中には左目に時計が、右目にカードが浮かび上がっていた。




