5-47『怠惰な男の頑張りどころ』
次々と放たれる高圧の水。簡単に岩にも穴を開けてしまう程のそれはケルドに何度も襲いかかる。
それを回避しつつ、時折『土壁』を使用して着弾までの時間を稼ぎ、回避。
土属性の魔法は難しいと言われている。
その理由は基本的に土属性は床や壁、時には天井に手を触れなければ発動できないためだ。
大地を操作する系の魔法であるため、大地に直接魔力を流し込む必要がある。
足からでも流し込めないこともないが、大地を手足のように操作するためには手で操作するのが一番だ。
だが、ケルドはそんな常識を打ち破り、足から魔力を流し込むことによって『土壁』を発動している。それによって通常の土魔法発動の速度を大幅に上回っており、レーナの素早い魔法発動速度に追いつくことが出来ている。
ケルドは基本、面倒くさがりである。
それゆえにケルドが編み出した戦法。いちいち地面に手を触れずとも魔法を発動できるように鍛錬した。
だが、足で土属性魔法を操作するというのは至難の業だ。だからそんな大変なことをわざわざやろうという人もそうそう居ない。
やったとしても、このケルドほど魔法の精度は良くなることはないだろう。
ケルドの執念はその常識すらも破ってしまうほどの実力だった。
(なんでこんなことをしているんだろうな)
ケルドは別に冒険者をやりたかったわけじゃない。ただただ、好きな遺跡を見て回りたかった、ただそれだけだった。
両親も遺跡の探索をしていて、時々遺跡から見つけてくる魔道具を見て目を輝かせる。ケルドはそんな少年だったのだ。
だから、いつしか自分もすごい魔道具を見つけることが出来るような人になりたいと考えていた。別に冒険者になりたいとか、そんなわけではなかったのだ。
(遺跡の探索は冒険者じゃないと許可が下りなかったから仕方がなく冒険者になってしまったけど、賢者になる気なんてなかったんだけどなぁ)
仕方がなく冒険者になったあと、ケルドは遊び道具を与えられた子供の様に遺跡を探索しまくった。
だが、遺跡というのは色々な危険がつきもの。中には凶悪な魔物が潜んでいる遺跡だってあった。必然的に強くなる必要があったのだ。
だからケルドは自分に一番適性があった土魔法の鍛錬をした。
「――はぁっ!」
「っ!? 『ウォーターベール』」
タイミングを見計らってケルドは自分で作り出した『土壁』を自分で蹴り砕き、土壁の残骸をレーナへ向けて蹴り飛ばした。
その礫をレーナは周囲に水の膜を作り出すことによって勢いを殺して防御して見せるが、『ラグーン』を解除したその一瞬をケルドが見逃すことはなかった。
『身体強化』を発動して地面を蹴り砕く勢いで駆け出すとレーナへと一気に距離を詰める。
ケルドはめんどくさがりである。だが、その面倒くさい事案を解決し、趣味の時間を作るためならば彼は誰よりも力を発揮することが出来る男である。
「『重力波』」
両の手首を合わせ、手のひらをレーナの『ウォーターベール』に叩きつけたその瞬間、レーナの身体に凄まじい反重力が襲い掛かり、吹っ飛んでいく。
水属性の防御魔法、『ウォーターベール』は大概の攻撃の衝撃を止めきることが出来るが、衝撃波系の攻撃を防ぐことは出来なく、レーナはケルドの攻撃をまともに受けた。
小さな体は城の壁に叩きつけられ、レーナの動きが止まる。
そこへケルドはさらなる追撃をするべく駆け出した――
「いたい、こんなに痛いの久しぶり。でも、レーナ負けない! 『水爆弾』」
「はぁ!?」
徐に手を頭上へかざしたレーナ。
その手のひらからは巨大な水球が形成され、レーナの頭上に浮かび上がった。
そしてその水球は徐々に徐々に収縮するようにして小さくなっていき、やがて風船が破裂するように限界を迎えた水球ははじけて周囲に飛び散る水の針。
しっかりと鋭利なその針は頑強な城の壁床にまで突き刺さるほどの威力を持っている。
咄嗟に魔力で肉体を防御したケルドだったが、それでも何本もの水の針が突き刺さり、ケルドはしかめっ面を浮かべてしまった。
幸いなのが、この針には毒のようなものが含まれていないということだろう。これが毒の水とかだったら突き刺さった時点でチェックメイトのようなものだ。
「おいおい、そんな攻撃をしたら君のお仲間まで巻き込まれるでしょーや」
「ん、なんでぇ?」
「なんでって、そりゃ当たり前でしょう。すぐそこで他の幹部たちも戦って――え?」
周囲を見回してみる。
今の攻撃で賢者たちには数の違いはあれど、水の針が襲い掛かっているのに対し、幹部には一切針が刺さっていないように見えた。
しかも、その針は幹部の身体をすり抜けたかのように何事もなかったかのように壁や地面に突き刺さっている。
(こりゃどういうことだ? 普通、あんな攻撃をしたら味方まで巻き込むだろう? どんな手を使ったらあんな飛び散り方になるんだ?)
もし、レーナの攻撃が味方を巻き込むことが無いというのであれば、それは確かにハルゼンの言うように固定砲台として機能するだろう。
なにせ、どんなに広範囲攻撃をしようが、味方を巻き込むことが無いということが担保されていれば何も気にする必要は無い。
ただただ、その場の思い付きで高火力魔法をぶっ放せばいいだけの話だ。
(たーしかに、さっき『終焉の大海』を使ってた時も幹部たちには何の影響も出ていないように見えたな。くそったれ。僕はただ遺跡探索がしたいだけだっていうのにさ)
ケルドはただただ遺跡探索のためだけに実力を高めた。
その結果、賢者として見初められるまでになってしまい、成り行きで賢者になってしまった男だった。




