5-46『うわようじょつよい』
魔王軍幹部は全員で五人存在する。
一人はガイアと言い、先程ケルドに殴られ、そこら辺に倒れている。
そしてバルゼット、ガナン、ハルゼンの三人は賢者たち四人との戦闘を繰り広げられている――あと一人はいったい何処へ?
答えは簡単、潜伏していたのだ。
それは可憐な少女の見た目をしていた。腕にはくまのぬいぐるみを抱えていて、妖精のようで、儚くあどけなさを感じる幼女と言っても過言ではないほどの少女。
銀の頭髪と赤の瞳は更に彼女に神秘的な雰囲気を与えるパーツとして役割を果たしている。
彼女――レーナはずっとそこに居た。だけど、誰も彼女の存在に気がつくことは出来なかった。
それは偏に、彼女の認識阻害魔法の練度が高いことが起因している。
ハルゼンは彼女の事を固定砲台と評価した。
魔族はほとんどの人は相手と正面からぶつかり合うのが得意としている。ガナンやヴァルモダが良い例だろう。
だが、ハルゼンやバルゼットの様に考え抜き、作戦を持ってして戦う頭脳タイプも存在する。
ただ、彼女はそんな頭脳タイプの彼らともちょっと違う。
彼女は相手と正面から戦うことは滅多に無い。言うなればハルゼンの言う通り、固定砲台なのだ。
(なぜ、この攻撃を受けて尚、魔王軍幹部の奴らは影響を受けていない!? 超級魔法だぞ!)
エルダックは心の中でぼやきつつもハンマーを構え、魔力を込める。
「『海割』」
エルダックがハンマーを振るうと、この空間に埋め尽くされていた水が割れた。
激流から解放され、地面に投げ出される賢者たち。だが、これで終わりではない。一時的に水を分断しただけで時間が経過したらもとに戻ってしまう。
直後、ケルドは地面に手を当てた。
「『土壁』」
水がもとに戻る前に水をせき止める土壁を作り出し、なんとか再び激流に飲み込まれることは防いでみせた。
並大抵の冒険者だったら今ので一層されていたことだろう。
そもそも、『終末の大海』の激流を斧で割るという行為がイカれているのだ。普通、そんな事出来るはずがない。
そのため、今の一撃でレーナも倒せると思っていたのだろう。
不服そうに頬を膨らませつつ、ゆっくりゆっくりと地面に降りてきた。
「ん、失敗。もう一発行く」
「ちょ、ちょちょちょ、今のもう一発撃たれたら溜まったもんじゃないよ!」
「むぅ……」
もう一発『終末の大海』を使おうとしたレーナへ突撃していき、魔法をキャンセルさせたケルド。
とても軽やかな動きだった。自分の身体の半分は有りそうな大きさのぬいぐるみを抱えているとは思えないほどのステップでケルドの突進を回避した。
直後、レーナはぬいぐるみの腕をイジりつつ、ケルドへジト目を向けた。
「……ロリコンさん?」
「何でそうなるんだよ!」
レーナの言葉にこの場にいる全員が吹き出してしまった。特にハルゼンなんて腹を抱えて笑っている。
そんな皆の様子にケルドは顔を真っ赤にした。
だが、ただ一人、レーナだけはなんてこと無いように無表情で口を開いた。
「レーナみたいな小さい子に抱きつきに来るのはロリコンさんなんだって、ハルゼンが言ってた」
「あのクソ魔族! 絶対にぶっ殺す! って、そうじゃないね。僕らは魔王を倒しに来たんだから、僕らを邪魔するというのなら、討伐対象だ。面倒なんだけどさ」
ケルドのその言葉を受け、レーナは困ったような表情を浮かべてハルゼンへと視線を向けた。
あいも変わらず腹を抱えて笑っていたハルゼンだが、レーナの視線を感じ取ると、レーナへサムズアップをし、そして指示をする。
「ロリコンさんは悪だからな。レーナが悪を成敗してしまえ!」
「誰がロリコンだ誰が!」
「ん、分かった。レーナ、ロリコンさん、成敗する!」
きっと正義のヒロイン気取りなのだろう。
ハルゼンの言葉を聞き、目をキラキラと輝かせたレーナはぴょんぴょんと飛び跳ねると、髪色が銀色から水色へと変化し始めた。
間違いなくこれは『魔力解放』。その光景にケルドは苦笑いを浮かべ、数歩後ずさる。
「いきなりかよ、おいおい」
「あ、言っておくけど、その子と戦ったらぼくが固定砲台だと言っている理由が分かるはずだ」
「いったい何を言って――」
「『ラグーン』!!」
「ちょちょっ! なんだそのアホみたいな量は!」
『ラグーン』は上級魔法である。超級魔法である『終末の大海』よりは下位の魔法ではあるが、周囲に出現する水玉の量が桁違い。
通常の三倍の数は出現しているのではないだろうか。
確かに、多くの魔力をつぎ込めばつぎ込むほど多くの水玉を作り出すことが出来るのだが、そんなのは一発入魂でこの一撃にすべてを賭けると言う場合でしか通用しないやり方だ。
普通はこの一発で魔力切れを起こしてしまう。
「つまり、これを防ぎきればいいってわけだな! 『土曇』」
周囲に煙幕が出現。レーナからは完全にケルドの姿が見えなくなってしまった。
「むぅ……いい。数撃ちゃ当たるってガナンも言ってた!」
姿は見えないのだが、残弾数は大量に存在している。
そのため、煙幕の中を満遍なく攻撃するように高水圧の水を一斉に射出し始めた。乱射もいいところであり、出鱈目な攻撃方法。
まるで自分の魔力を気にしている素振りすら無い。まるで魔法の扱いになれていない幼児、見た目そのままの思考能力だ。
だが、そんな攻撃はケルドには通用しない。
気がついたらケルドの姿は煙幕の中から消え去っており、レーナの背後へと回り込んでいた。
「幼女を殴るっていうのはちょっと心が痛むけど、魔族に生まれたことを後悔してくれ! 『土塊豪拳』」
「ん、びっくり」
「んなっ」
完全に不意をついた。
だと言うのに、ケルドの拳は空振ってしまった。レーナの肉体にはかすりもせず、レーナの姿は揺らぐと、ケルドからはちょっと離れた位置に彼女は存在していた。
蜃気楼に近い現象だ。ケルドの目からは確かにもっとレーナが近くにいるように見えたのだが、実際はもっと離れた位置にレーナは存在していた。千載一遇の大チャンスを逃す結果となってしまったのだ。
「『水天』」
「えぐしっ」
ケルドへ向けられたレーナの手のひら。
そこからは高圧の水が射出され、ケルドはぶっ飛ばされてしまう。
「レーナ、ロリコンさん倒す!」
「はぁ……君さ、僕のことを悪人かと思っているかもしれないけど、僕からしたら君たちの方が悪人なんだよね」
「違う、ロリコンさんは悪だから」
「だから僕はロリコンじゃないと……まぁいいや。戦いで分からせることにするよ」




