5-45『固定砲台』
エルダック・ヴォラキュリアは堅物で生真面目な男である。故に、毎度会議に来ないゼルドガルやネムナ、それから勝手に姿を消したカルマを心底嫌っている。
そんな彼らが自分よりも強いと考えるとうんざりするほどだ。
だが、それと同時にエルダックは彼らに憧れを抱いている。
幼少の頃よりエルダックの考え方は凝り固まっており、常にルールに縛られて生きてきた。
――当たり前。そう、アタリマエなのだ。
人々を守るために戦うのも、自分を犠牲にしてまで身を粉にして働くのも。眼の前に居る誰かを見捨てて、より大勢の人々を助けるというのも。
より多くの人を助ける。それが冒険者、エルダック・ヴォラキュリアに課せられた使命。
自由などそこには存在していない。ただ彼は世界のためにただロボットのように動く、ただそれだけの意思を持たぬ奴隷。
だからこそ三人のことが羨ましかった。
実力もあって全ての人を取捨選択せずに助けられたら、偶には仕事のことも忘れてゆっくり休めたら、そしてこんなキツイ仕事など投げ出して逃げることが出来たら、どれだけ良かったことか。
だが、エルダックは出来ない。そんなことできようはずもない。
だってエルダックは世界の奴隷なのだから。
だからゼルドガル、ネムナ、カルマのことが大嫌いであり、同時に憧れている。
エルダックは三人を咎めるようなことはしない。誰に何を言われようともエルダックは不干渉を貫いている。
カルマはともかく、ゼルドガルとネムナは最低限の仕事はちゃんとやっているのだ。だから、それでいいじゃないかと、エルダックは考えている。
サックドがどう思っていようが、知ったことではない。
だって三人は手にしているのだから。
自分が手に入れることが出来なかった自由というものを――
☆☆☆☆☆
ハルゼンが軽く刀を振るった瞬間、雷の斬撃がジグザグと地面をバウンドしながらエルダックへ放たれる。
それをエルダックはハンマーで迎え撃った。
瞬間、まるで落雷したかのような轟音が鳴り響き、稲妻が弾ける。
そのままの流れでエルダックが地面へハンマーを打ち鳴らすと、エルダックの周囲から衝撃波の様に斬撃が四方八方へと打ち放たれ、ハルゼンはそれを刀で斬って防ぐ。
どちらも譲らぬ一進一退の攻防だ。
激しい雷撃戦が繰り広げられており、そこに差し込まれるは土の壁。
ハルゼンがエルダックとの距離を詰めようと走っているところへ突然土の壁が出現し、ハルゼンはブレーキを掛ける。
しかし、止まり切ることが出来なかったハルゼンはそのまま壁を蹴り、なんと垂直の壁を走り上った。と、次の瞬間、土の壁が一瞬にして破壊された。エルダックがハンマーで壁を破壊したのだ。
上っていた土の壁が無くなってしまったことによってハルゼンの肉体は宙へと投げ出される。
「空中に居ちゃこれは回避できないのではないか? 『雷震』」
エルダックの背後へ出現する巨大な雷の化身。その手に構えられている巨大な雷のハンマーがハルゼンの肉体を叩き潰さんとばかりに勢いよく振り下ろされた。
「『闇の鎖』」
だが、直後、化身の動きが止まる。
ハルゼンの発動した『闇の鎖』によって動きが止められてしまい、ハンマーを振り下ろすことができなくなってしまったのだ。
そのまま着地したハルゼンは一瞬だけ地面に足をつけると雷の速度でエルダックへと急接近。
「『雷瞬』。今の位でやられるんならぼくは幹部をやってないよね」
「わしの『雷震』を止めるとはなかなかやるな。だが、今のがわしの全力だなどと思わないことだ」
「へぇ、じゃあ見せてもらおうか、おじいさんの全力というものを」
「お主がわしに全力を出させるのだ!」
刀とハンマーがぶつかり合う。
だが、素の筋力はエルダックの方が上のため、そのままハルゼンは殴り飛ばされてしまった。だが、それでも体勢を崩すこと無く地面に足をつけるハルゼン。
そこへケルドが急接近。拳に土塊を纏わせてハルゼンへと殴りかかってくる。
「横槍失礼するよ! 『土塊豪拳』」
「どうぞ」
「は?」
ケルドが目の前に迫ってきているのを見て、まるで受け入れるようにして両腕を広げるハルゼン。
ケルドも困惑し、何かの思惑に気がついたものの、攻撃を止めることは出来ずにそのままハルゼンを殴り飛ばす。
防御も何もなかった。
生身の状態で攻撃を受けたハルゼンはまるでボールのように地面を飛び跳ねつつ、転がってゆく。
(いったい何が目的で――)
そう思ったのもつかの間。
ハルゼンを殴り飛ばし一拍の後、突然ハルゼンを殴り飛ばした腕に電流が走ったような激痛がケルドを襲い、腕が爆発を引き起こしてケルドは爆風にぶっ飛ばされてしまった。
殴り飛ばしたハルゼン同様、地面を転がるケルド。
爆発してしまった腕を見てみると、肉がぼろぼろになっており、骨も折れているようで変な方向へと曲がってしまっていた。
「『人間地雷』。相手の触れた箇所に電撃を流し込むことで爆発させることが出来る。どう? 面白いでしょ、その魔法」
「狂っている、そう言わざるを得ないね。そのためにわざわざ僕の『土塊豪拳』を受けたっていうのかい? それはあまりにも君へのリスクも大きいような気がするんだけど」
「確かにそうだね。だけど、君たち人間にはこんな言葉もあるそうじゃないか。狂気も才能だって。ちょっと狂っている方が生きれるんだよ」
「もしそれが強さだって言うんなら、僕は強くならなくても良いかな。痛いのは嫌だし」
でも、これに関してはただの狂気ではないということにケルドは気がついていた。
この『人間地雷』は相手に触れた瞬間に電撃を流し込まなければいけないのだが、ケルドがハルゼンを殴り飛ばしたその一瞬で『人間地雷』を発動できるほどの電撃をケルドに流し込んだということになる。
これは並大抵のことじゃない。魔法の発動速度が常軌を逸している。
狂気も才能? ――それは違う。お前はただの化け物だ。ケルドはそう評価した。
「ケルド、大丈夫か」
「大丈夫大丈夫。ただ、あいつは強いね」
賢者を前にしても臆さない。なんだったら攻撃を受ける余裕まで見せている。
今の今までハルゼンが一切本気を見せていない可能性すら考えられる。
「賢者に敗北は許されない。わしらが最後の砦であるということを忘れるな」
「へいへい……」
ボロボロになってしまった腕だが、魔法を使う分には問題ない。
あとでサックドかフーズのどちらかにでも治癒をしてもらえば直ぐに完治することだろう。
エルダックと並んでハルゼンへと視線を向ける。
「あ、やる気を出している所ごめんね。うちの固定砲台さんが動き始めちゃったわ」
「固定砲台、だと?」
「何を言って――」
「じゃあ、生きてたら続きをしようか」
その次の瞬間、空間が水で埋め尽くされた。
激流。まるで殴られるかのような水流にエルダックもケルドも流されるのみ。そんな中、平然とハルゼンだけがそこに立っていた。
ここだけじゃない。
サックドも、フーズも流されているというのに、ガナンとバルゼットだけが平然とその場に立っていた。
(これは『終末の大海』!? だが、こんなものどこから――)
流されている最中、エルダックは上空を見上げた。
そこに居たのは水玉の中に入って宙に浮いている一人の少女だった。




