5-44『狂気も才能』
「な、んだよ、これ」
ガナンは戦慄した。
フーズが魔力解放を使い、髪色が変化した。ここまでは良いのだが、フーズが一度手を上空へ翳した瞬間、驚くべき現象が起こった。
「さっさとあなたを倒し、魔王を倒しに行かせてもらいます」
「なるほど、これが賢者か」
さっきまで無機質で薄暗かったこの空間に無数の星星が出現した。
キラキラと輝き、見るものの目を奪う。だが、それは確かにフーズの魔法なのだ。あれら一つ一つから濃密なフーズの魔力を感じ取ることが出来る。
賢者という者はいわば人類の最終兵器と言っても差し支えないほどの戦力を持った人物たちのことなのだ。
即ち、Sランク冒険者ですら敵わない相手すらも相手することになる、人類の最終防衛ライン。
ここが崩れると、一気に人類は滅亡の一途をたどることになると言われるほどの戦力を持っているのだ。
そんな括りに入れられるためには当然、Sランク冒険者でも苦戦するような相手を簡単に倒せるだけの実力を備えていなければならない。
今、幹部たちが相手にしているのはそういう存在なのだ。
これはフーズに限らない。サックドやケルド、エルダックも同様の実力者。対して、幹部とも言えども、Sランクの上澄みというだけだ。
今のユイたち勇者パーティーでは敵わないとしても、相手が賢者ともなると――
普段、賢者たちは自分たちの担当区域から出ることはなく、魔王軍へ攻め入って来ることはないが、今回は緊急事態と考えたのだ。
そして、まだユイたちには任せられないと判断し、自分たちが赴いた。それは一体何を意味するのか。
――魔王軍最大の危機である。
「私の聖光に焼かれて散りなさい! 『星屑光群』」
瞬間大量の星からガナンへ向けて視界を埋め尽くすほどのレーザー光が射出された。
超級魔法、だが、それも賢者が使えば威力は桁外れだ。
目をつむりたくなってしまうほどにまばゆい閃光と共に城の壁や床がじゅわっと蒸発するように溶けていく。
この城も本来であれば魔力によって守られているため、そんなに大きな傷はつかないようになっているのだが、その常識さえ打ち破り、城がどんどんと蒸発していく。
過剰暴力――そう言わざるを得ない攻撃だ。
「ふぅ……すこし、カッとなってしまいました。イケませんね」
やがて光が収まり、視界がひらけると、そこに映し出された光景は焼けただれた石の床や壁。破壊されたのではなく、溶けたと言うほうが正しい光景だった。
これほどの暴力が人類に牙を向いたら――そう考えると恐ろしいにも程がある。
そのため、その戦力を監視するためにも賢者と言う枠組みに置いて管理していると言う側面もある。
賢者の実力が人類に牙を向いたら人類は抵抗するすべを持ち合わせていないのだから。
「さて、それでは私は魔王さんのところにでも――」
風切り音が聞こえた。
踵を返し、魔王の元へ向かおうとした次の瞬間、風が吹いたかと思いきや、フーズの足は斬られ、歩くことが出来ずに躓いたようにして前方へ転がるようにして倒れ込んだ。
一瞬、何が起こったのか理解が追いつかなかった。なにせ、ガナンは今の一撃で蒸発したはずで――
「はぁ……はぁ……勝手に殺すんじゃねぇ……俺は生きてんぞ。試合、続行だろうが」
「あなた、どうして」
「は、ははっ、てめぇの攻撃なんぞ、怖くねぇって言うことだ。なにせ、俺様が最強なんだからなぁ! 俺以外は全員雑魚だ。俺に勝てるやつなんざ、どこにも居ねぇんだよ!」
そう言ってフーズの眼の前に現れたガナンの姿は左腕を犠牲にし、胴も半分ほどえぐられてしまっている状態だった。
誰がどう見ても致命傷。そう長くは持たないだろう。
だが、それでもガナンは笑っていた。口から血を吐き、焼け溶けた顔から片目が脱落しようとも、彼は笑っていた。
「……魔力解放ですか」
そんなガナンだが、その髪色は緑色に変色しており、魔力がさっきよりも強くなっているように感じられた。
そうだ、ガナンは魔族。人間の物差しが通用しない相手だ。
どれだけ致命傷に見えたとしても油断は出来ない。フーズは足を直ぐに治し、ガナンを見据える。
「あんたを殺してやるよ――そう言いてぇところだけど、一旦あんたと俺のタイマンはここでおしまいみたいだ」
「――え?」
ガナンがそう告げた直後、フーズの視界は水で満たされた。
☆☆☆☆☆
「『極拳』オララララララッ」
サックドが次々と炎の拳を叩き落とす。
バルゼットはそれらの攻撃をなんとか防いでいるが、その度に周囲の温度が上がっていき、更にサックドの火力が上がっていく。
まさに炎の申し子、バルゼットはサックドをそう評価した。
(我も火属性にはそれなりの自信を持っていたが、これはっ!)
回避、時には受け流す。
「はぁ……はぁ……」
サックドの放つ熱量によってバルゼットは大量の汗を流していた。
火属性の適正があるものは、他よりも熱に対する耐性が強い。そのため、高温地帯でも耐えることが出来るのだが、流石のバルゼットも肺が焼けそうな感覚を味わっていた。
サックドほどバルゼットは『治癒』の練度も高くない。これ以上、戦いを長引かせるのは危険だ。
「逃げてばっかじゃなんにもならないぞ!」
「そうだな……これ以上続けるのも我が不利になるだけだ。『爆炎』」
大斧を構え、サックドへ突っ込んでいくバルゼット。
そんなバルゼットを見てサックドは口角を上げた。
サックド・レストランテと言う男は魔族にも引けを取らないほどに戦いが好きな青年だ。
幼い頃からずっと人と戦い続け、実力を付けてきた。負けるのが嫌いで、負ける度になぜ負けたのかと一週間は考え続け、更なる戦術を考えるバトルジャンキー。
フーズやカルマほど最初から才能があったわけじゃない。むしろ、魔法の才能に関しては賢者の中で最も無い。
だが、どうして今彼は賢者の席に居るのか。それは偏に彼が狂っていたからである。
人としてどうしようもなく狂っていた。
確かに、『炎歩』を使えば魔力がそこまで無かったとしても魔法の威力は熱量と共にどんどんと上がっていく。
だけど、そんな事誰もしようとはしない。自分が傷つくということに耐えられる人はそうそう居ないからだ。
だからこそ、そんな危険な魔法を使っているのは現代だとサックド位なものだろう。
サックドは戦っている最中、常人なら耐え難いほどの肉が焼ける激痛を味わっている。そのうえで、戦い続ける狂った精神力。
思いついても誰もそんな事しようとしない。
だが、彼は強くなるためならば何でもする。
それこそ、自分の身がやけようとも。
この戦いをするためには『治癒』の熟練が必須となる。だから、彼は『治癒』の腕を磨き続けた。
結果、彼は本職の治癒師すらびっくり仰天な程の治癒魔法の実力を身に着けた。
彼は狂っている。故に賢者なのだ。
「お前の覚悟に俺の心もメラメラと燃えているぞ! そうだ、もっと抵抗してみせろ! 『極拳』」
炎を纏ったバルゼットの大斧とサックドの『極拳』がぶつかり合う。
瞬間、大きな炎柱が吹き上がり、周囲に炎をもたらしていく――
「熱い、消化する」
その甲高い女子の声が響いた瞬間、周囲が水で埋め尽くされた。




