5-39『爆炎』
サックドが駆け出し、バルゼットが構える。炎の拳と炎の大斧
両者の攻撃は共に放たれた。拳と斧がぶつかりあったその瞬間、その場に大きな炎柱が立ち上る。
灼熱の熱気を放ち、近づくもの全てを焼き焦がす。その中心で二人は筋力勝負を開始していた。
素の筋肉量で居たらバルゼットが圧倒的であり、比べるまでもないのだが、サックドは『身体強化』を使用することによってバルゼットのパワーに対抗していた。
両者が力を入れれば入れるほどにどんどんと火の勢いは強くなっていき、周囲に放たれる熱量も凄まじくなっていく。
「あっつ! おいバルゼット! 近くの俺たちのことも考えろ!」
「むっ!」
ガナンからクレームが入る。
その声を聞き、これ以上ぶつかり合うのは周りに悪影響だと察したバルゼットは無理矢理筋力で地面へ攻撃を叩きつけ、爆発を引き起こすことによって爆風で吹っ飛び、一旦サックドとの距離を開けた。
「済まない」
「やるなぁ、お前! 素晴らしい熱量だ。お前が魔族じゃなければこのまま永遠に高め合いたいところだ」
「悪いが、我はお前なぞには興味ない」
「そうか、それは残念だっ!」
言うとサックドは両の拳をぶつけ合い、更にメラメラと燃え盛る。
皮膚が焼けただれていくが、それを強引に『治癒』することによって自傷ダメージにも耐えている。
明らかに常軌を逸している戦い方に流石にバルゼットも顔を顰めた。
(凄まじい熱量だが、これも自分の身を犠牲にして戦っているからこそ……他者ではこの様な戦い方は不可能であろう。何という男だ。だが、その実力は本物……一撃を交えただけで理解した。油断したらその瞬間に我はこの世を去ることだろう)
バルゼットの額から一筋の冷や汗が滴り落ちた。
「さぁ、これからだぜぇ!」
再びバルゼットへと急接近するサックド。だが、その前にバルゼットは大斧を振り上げ、技を既に構えていた。
魔力を込められた斧は勢いよく地面へ振り下ろされ、地面を叩き割る。
その次の瞬間、大地が連鎖するようにしてどんどんとひび割れ始めた。その事にサックドは思わず足を止める。
「お前の炎は大したものだ。だが、我の炎も負けてはいないぞ。『壊炎』」
ひび割れた地面から炎が吹き上がる。まるで壁だ。
サックドの行く手を阻む巨大な炎の壁が形成された。一瞬でも触れれば肉体は焼かれてしまうことだろう。
だが、サックドは今でも自分で同じ様な状況を作り出しているようなものだ。今更この程度の炎に触れたところでなんとも無い。
(こんなもので俺の足を止めることが出来ると思うなよ)
そうして再びバルゼットへと駆け出そうとしたその瞬間だった。
突然炎の壁の先から斧が飛び出してきて、サックドを襲った。瞬時に腕をクロスして『身体強化』によって腕を強化することによって防いだが、その腕には深く傷跡が出来上がってしまった。
「ぐぅっ、まさかそう来るとは思わなかった」
「お前は普通じゃないようだからな。だから俺も常識という箍を外したまでだ」
なんとバルゼットは己の肉体が焼けるのも厭わず、自分で作り出した炎の壁に飛び込み、サックドの不意をついて攻撃を叩きつけたのだ。
その甲斐もあってサックドへ初めてダメージを与えることが出来たのだが、その代償はかなり大きく、バルゼットの肉体が焼け焦げてしまっている。
サックドほど治癒魔法の練度も高くはないため、回復しきれては居ない様子だ。
「はは、お前どうしたんだその格好は! ボロボロじゃないか! 残念だ……俺に与えたこのダメージに関しては一瞬で治癒する。だけど、お前はすぐに回復できない。これは勝負あったな」
そう、バルゼットが付けた傷などそれなりに深い傷であろうが、サックドにかかれば浅い傷となる。サックド程の練度の治癒魔法であれば一瞬で治癒するためである。
サックドならば死んでさえ無ければ死の淵からでも蘇ることが出来る。
その様子から生まれた二つ名は『不死鳥』。
みるみる内にバルゼットが付けたサックドの傷が塞がってしまった。
「残念……もう元通りだ」
サックドは見せつける。自分の勝利だと、そう誇るようにしてバルゼットへ綺麗な腕を見せつけた。
だが、バルゼットは眉一つ動かさない。まるでこうなることは最初から分かっていたとでも言いたげに――
瞬間、再びサックドの腕には同じ傷跡が出来上がった。
「なっ!」
何が起こったのか理解できなかった。だが、それでもサックドは再び傷が開いてしまった事を察し、『治癒』で同じ様に傷を治した。
これで元通り――になることはなく、またまた傷が出来上がってしまった。
治す――傷――治す――傷――治す――傷――治す――傷――治す――傷治す傷治す傷治す傷治す傷。
傷ができる度に蘇る激痛。肉を割かれ、骨を叩かれる激痛が何度も何度も再生され、気がおかしくなりそうになる。既に肉体が焼かれるという激痛に耐えているというのに、そこにさらに肉を割かれる激痛が加わり、サックドは目眩がしてきていた。
「おいおいおい、どうなってるんだ!」
「やっと気づいたか……お前みたいなやつに何の策もなしに突撃するわけがないだろう。切り札『永遠の裁き』。お前に最後に与えたダメージを永遠に繰り返すようにした。これでお前の傷は治らない。だが、治癒の手を緩めたらその瞬間に連続攻撃でお前の腕は吹っ飛ぶから気をつけるんだな」
「魔族ぅぅぅぅぅっ!」
サックドの叫びが周囲に響き渡った。




