5-38『激戦』
ガナンの目がきらりと光る。
それは瞬きの間だった。一瞬にしてフーズに接近し、両ダガーを振り上げるガナン。常人ならば目が追いつくことは絶対に有り得ない速度。
キュイィィィィィンとドリルの様な音が響き渡り、ダガーに風が渦を巻いてまとわりつく。
「『双牙』」
その二つのダガーはまるで獣の牙の様にフーズへと襲いかかった――だが、またもやその攻撃は『守護』によって阻まれてしまった。
その強固な守りの前には獣の牙ですら歯が立たない。
しかし、そんな事は既に理解していた。一度見せられて理解できないほどフーズもバカではない。
「ドラぁっ! 『風渦』」
ダガーに纏われている竜巻を利用し、身体のひねりは必要とせず、その場で軽くダガーを振ることによって風の斬撃による竜巻を巻き起こしてしまった。
これだけ大量の斬撃――いくら強固な『守護』だとしても防ぎ切ることは不可能だと、常人はそう考える。
――否、賢者にそんな常識は通用しない。
たしかにフーズの『守護』だとしても防ぎ切ることは不可能だろう。だがしかし、防げないのであれば吹き飛ばせばいいじゃないかと。
「『極光』」
「なに!?」
周囲をまばゆい光が包み込む。その直後、二人の立っていた地面は爆発を引き起こし、ガナンの作り出した竜巻は綺麗さっぱり消し飛ばされてしまったのだ。
何が起こったのか――フーズが『極光』を地面に叩きつけたのだ。そんなことをしたら自分にも爆発によるダメージが入るだろうに。
(ちぃっ、魔法の発動が速すぎないか? あの一瞬で『極光』を発動した直後『守護』を発動して自分への爆風を防いだっていうのか? そりゃありえねぇだろうが)
だからこそ賢者と言う存在は常識外れと言われている。
Sランクにすら化け物と称される人達。それが賢者なのだ。
それを今、ガナンは身を持って味わっている。自分の攻撃が全く通用しない、その経験はこの世に生まれ落ちて初めての経験だった。
これほどまでに自分の攻撃が通用しない相手。ガナンの中の魔族の血がうずき始めた。
「決めたぜぇ! 俺はあんたを絶対にぶっ殺すってな! それで俺は賢者よりもつえぇということを証明してやるよ!」
今度は二振りのダガーを手の中で回転し始める。
(試してみたくなった。どの程度の攻撃ならばあいつのバリアを突破できるのか。俺の限界はどこなのか!)
にやりと口元を歪ませ、ダガーを構えてフーズへと再び突っ込んでいく――だが、ガナンの行く手は遮られてしまった。
フーズへと突撃しようとするガナンの眼の前に現れたのはサックド。
その拳をメラメラと燃え上がらせ、ガナンへと振り下ろしてきていた。咄嗟にガナンもその一撃に合わせ、ダガーを振るうと、その瞬間大爆発が巻き起こり、サックド、ガナン共に吹き飛ばされた。
「てめぇ、なにしやがる」
「お前たちには仲間意識というものはないのかも知れないが、これは総力戦! タイマンではない! 横槍を入れられたとしても責められる謂れはないだろう! それともなんだ? お前はタイマンじゃないと勝てないっていうのか?」
「……上等じゃねぇか。雑魚が何人集まろうが雑魚には代わりねぇんだよ」
目の端をピクピクさせて怒りを顕にしながら、ダガーを構え、ゆっくりとサックドへ向けて歩き出す。
だが、ガナンは肩に手を置かれたことによってその歩みを止めた。
その肩に乗る手は大きく、手を置かれただけだと言うのにガナンはその体をピクリとも動かすことができなくなった。
サックドへ怒りをぶつけることが出来ない。そうなれば必然的に肩に手を乗せている方へと怒りの矛先が向くのは当然のことだった。
「おい、バルゼット。こりゃいったい何のつもりだ? 何の権限があって俺の歩みを止めている?」
「一旦落ち着けガナン。我らの目的を思い出せ。お前の怒りをぶつけるのが目的じゃないだろう。我らは奴らを返り討ちにしなければならない。しかも、ガイアはやられてしまった。そうなれば、もう余裕は残されていないのだ。少しはおとなになれ」
「てめぇ、いったい誰に物を言って――」
「ガナン――」
「……っ!」
「ガナン」
「……ああ〜ったよ。俺はあのバリアを殺す。バルゼットはあの炎を殺れ」
「我もそう思っていたところだ。我と彼の火力勝負と行こうじゃないか」
ガナンはバルゼットの圧に屈した。
バルゼットにとってもマナを守る事は最優先事項。自由なやつが多いこの魔王軍の中で数少ないまともに思考を回せる男だ。
この場での優先順位は分かっている。
(そう、それが最適解だ。何を遊んでいるのか知らないが、お前なら『守護』使いなど相手にはならないだろう。そして我が相手する男はあの炎か。我もちょっと覚悟をするか)
舌打ちをしつつフーズへと向かっていくガナンを見送りつつ、サックドへと向き直るバルゼット。
さっきからずっとサックドの火力は見続けていた。それはバルゼットの目から見ても見事なものだと言わざるを得ないだろう。
最悪、自分はこの場で死ぬかも知れない。だがそれでも魔王様を置いて逃げる理由にはならない。
「ほう……お前からは灼熱の気配を感じるぞ! 俺はサックド・レストランテ。お前の名前を聞いておこう!」
「魔王軍幹部第四席、バルゼット。いざ尋常に、参る」




