5-37『守護者』
「ハルゼン、ガイアやられたぞ。どうする」
「あぁ、バルゼットか。ガイアなら大丈夫だと思うよ。意外としぶといし、忘れたころにでも復活してるんじゃないかな」
別にハルゼンはガイアの心配などしていない。あれくらいでやられるような奴じゃないということは統括する立場であるハルゼンならよくわかっている話だ。
それよりも、今ハルゼンの興味が向いているのはケルドの魔法。
ガイアとケルドは全く同じ魔法を使ったというのに、威力はケルドの方が上だったように見えた。
さすが賢者という所だろう。
「まぁ、ぼくら魔族は魔法の腕だけが取り柄じゃないからいいんだけどさ」
「我はそう言うことを言いたいのではない。あいつが復活するまで我らの数の利が無くなったということだ」
「そうだね……賢者相手にそれはまずいねぇ」
顎に手を当てて言うハルゼン。
だが、あまりにも軽い口調にバルゼットは軽くため息をつきつつ言った。
「まったくまずいとは思っていなさそうな口調だな」
「そうかな。これでもぼく、結構焦っているんだけどね。でも、ぼくには返さなきゃいけない借りがあってね……あの大槌使いはぼくに任せてくれないかな」
「……行けるんだな」
「さぁ、どうだろう。でも、弟に約束しちゃったからね……死ぬつもりはないよ」
ハルゼンが死ぬつもりはないという言葉に込められた覚悟をハルゼンは感じ取った。
魔王軍幹部とも言えどもこんな風に共闘したという経験が何度もあるというわけではないのだが、ハルゼンが死ぬつもりはないと言ったら絶対に死なないというのは良く知っている。
それに、ハルゼンが今までに見たこと無い様なすごい剣幕をしている。いつものらりくらりとしているハルゼンがここまでに殺気立っているというのはバルゼットも初めて見たというほどだ。
あの大槌が何かハルゼンの地雷を踏んだのだろうと考え、巻き込まれないようそれ以上はバルゼットも何も口にしなかった。
「随分と悠長にしておるようだな。お主らの仲間がやられたというのに」
「仲間? 仲間かぁ……そこが人間と魔族の違いだな。ぼくら魔族には特に仲間意識というものは無いよ。だからガイアがやられたことに関しては心底どうでもいいかな。勝手に突っ込んで行ったガイアの責任だしね」
「知ってはいましたが、魔族の方々は薄情なのですね」
「薄情? ちょっと違うかな。ぼくらはただ単に他者への興味というのが無いだけだ」
その瞬間だった。
フーズの背後から風が襲い掛かり、フーズは吹き飛ばされてしまった。
何とか手に持っている杖を地面に突き立てることによって空中で体勢を整え、踏みとどまり、背後へと視線を向ける。
そこには白髪の青年の姿があった。両手にはダガーを構えており、渦のような風を刃に纏わせているのが見える。
「びっくりしました。いつの間に背後に回ったんですか?」
「だはっ、俺のスピードが速すぎて見えなかったか? そりゃ残念だ。つまりあんたは俺の相手にゃならない雑魚っていうことだな。ポンコツぅっ!」
「でも、あなたは不意を突いたというのに私に致命傷を負わせることが出来なかった雑魚以下、ということですかね」
「あぁぁん? 雑魚はあんただけに決まっているだろうが! 誰が雑魚だって!? 今に見てやがれ。俺があんたをぶっ殺してやるからよぉっ!」
「あら短絡的……ポンコツはあなたじゃないですかねぇ?」
ふふふと笑うフーズ。その姿が更に青年を怒らせていく。
「決めたぜ。あんたはこの俺、魔王軍第三席ガナンがぶっ殺してやるぜぇ!」
ダガーを背後へ向けると、そのダガーからは突風が射出される。
その勢いを利用し、ガナンが一気にフーズへと距離を詰めていく。そのスピードは『追い風』以上のスピードだ。
ダガーの向きを変えることによって自由自在に走る方向を変化させることが出来る。自分で走るのとは違い、殆ど射出された風の勢いで走っているため、体力もそんなに減らない。
「この一撃であんたを細切れにしてやるぜぇ! 『天迅』」
一度フーズの真横をすれ違い、直後振り向きざまに風によって鋭くしたダガーを振るう。だが、その刃はフーズに直撃する前に見えない壁に直撃し、止められてしまった。
凄まじく固い壁だ。このまま力任せに叩きつけたとしても全く歯が立たないというのがはっきりと理解できてしまうほどに頑丈な壁にガナンは大きな舌打ちを鳴らす。
「どうやら『守護』の熟練度はかなり高いようだな」
「お褒めにあずかり光栄です」
「俺は良いと思ったものは素直に褒めることにしているんだ。それが強者の余裕というものだからだ」
このまま攻撃を叩きつけていても仕方がないため、一度ガナンはフーズとの距離を取る。
(ちっ、それにしてもとんでもない展開スピードだ)
普通、『守護』というものは全体をぐるっと囲むように展開することは出来ず、一方向を守る盾というものになる。
一応、何枚かの『守護』を展開して囲うことは出来るが、数に応じて強度が落ちてしまうため、あまり行う人は居ない。
特に、全身を囲うような『守護』では魔王軍幹部のような実力者相手だとほとんど意味を為さない。
しかし、これほどの強度を持つ『守護』を展開できたということは一方向に狙いを定めて展開、しかもあの一瞬で展開したということになる。
(でも、それがいつまで持つか楽しみだな)
ガナンという男は自分の勝利を信じて疑わない。防御だけが取り柄の相手に自分が負けるわけがないという自信があるからだ。




