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5-36『開戦』

 周囲に見えるのはさっきまでの魔族とは大違いの実力を持った魔族ばかり。

 ハルゼンを入れて五人だ。今ここに揃っている賢者全員を合わせても人数的に不利。賢者たちは攻め込んでいると思っていて、実は誘い込まれていたらしい。


「どうやらわしらは囲まれておったようだな。これほどの魔力を隠蔽するとは、かなり高レベルの魔族揃い……」


「おい、エル爺動いて大丈夫なのか!?」


「あぁ、幸い急所は外れておる。後は筋肉を引き締めて止血をしたら問題なく動けるだろう」


「バケモンだな、あんた」


 エルダックはハンマーを勢いよく地面に突き立て、立ち上がる。

 すでに突き刺されていた箇所の血は止まっており、まるで何事もなかったかのように平然と立ち上がるエルダックの姿にハルゼンは思わず顔を歪めてしまった。

 今の一撃でエルダックは持っていくつもりだったため、ハルゼンの計算は外れてしまった。


「今のでやれたと思ったのに。残念」


「ふむん、小僧。あまりわしをナメるんじゃないぞ」


「ま、そりゃそっか。あんたはヴァルをあんなに一方的に打ちのめしたほどだしな……」


 互いに『喝』をぶつけ合うエルダックとハルゼン。

 余裕の笑みを見せ、相手を牽制し合う二人だが、実のところ両者ともに内心では焦っていた。


(あの小僧、わしの筋肉を貫通して刀を突き刺してくるとは。何という実力だ。間違いなくわしが今まで戦ってきた魔族の中ではトップクラスの実力を持っておる)


(えぇぇぇ、なにあのおっさん。不死身とかそんななの? 人間が胸刺されて生きていられるわけ無いじゃん。バカなの? ねぇ、バカなの? 生物としての法則(ルール)をちゃんと守ろうよぉ)


「あのさ、誰も僕の心配はしてくれないのかい?」


「あ、忘れてました」


「そっか、忘れてたかぁ。ま、良いけど……」


 地面に倒れていたケルドも立ち上がる。

 炎によって服はかなり焼け焦げてしまっているが、まだまだピンピンしている様子。そんなケルドに一先ずフーズは『治癒(ヒール)』を施した。

 だが、それでも全回復とまではいかなかった。『守護(プロテクション)』を発動していたからここまで抑えられているものの、周囲に居る魔族――魔王軍幹部の火魔法を全て受けてしまったのだ。

 大ダメージは必至。


「あのさぁ、全身が痛いんだけど、僕帰ってもいいかな」


「賢者なら最期まで戦え!」


「そのさいごって死ぬまでっていうことだよね!? 僕は家に帰ってぬくぬくしたいんだけど!!」


 泣き言を言うケルド。

 今この場にいる賢者の中で一番やる気がなく、そして一番実力が低そうなケルド・ハムバーズ。彼が一番の突破口に見えたのだろう。

 賢者全てを同時に相手にしては居られない。そのため、一人一人始末するというのは当然の思考なわけなのだが、魔王軍の中でマナを抜いて最高地位にまで上り詰めたことによって驕っていたのだろう。

 ハルゼンと大斧を手にした大男以外の三人はケルドくらいなら簡単に倒せそうだと考え、一斉にケルドへと飛びかかっていってしまった。


「ちょ、待て! 統率を乱すな!」


 しかし、魔族というのは人の話を聞かないで有名だ。故に、統率を取るなんてそんなのは最初から無理だったのだ。


「『暴風蹴り(ハリケーンショット)』」


「『水天槍牙』」


「『土塊豪拳(ガイア・インパクト)』」


 三つの攻撃がケルドへ同時に炸裂する。

 攻撃の相乗効果により、大爆発を引き起こし、周囲に凄まじい爆風をもたらす。普通の人間だったらこの一撃で粉々になってしまうほどのものだ。

 賢者だったとしてもこの一撃をまともに受けてしまえば一溜まりもないことだろう。それに加えてさっきのダメージもまだ全回復できていないと来た。


 この一撃が直撃したらケルドを倒すことが出来るという自信が三人の幹部にはあった。

 あくまでも直撃したらの話だが。


「なっ」


「居ない?」


「跡形もなく消し炭になッたゼぇ?」


 攻撃が炸裂した地点にケルドの姿はなかった。

 その場所に残されていたのは少しの土埃のみで。血潮の一滴すら見えなかった。

 もしかしてこの一撃で跡形もなく消し炭になったのか? などと都合の良いことを考え始める幹部たちだったが、ハルゼンの思考は凄まじい速度で回転を始めていた。

 賢者ともあろうものがこんなに簡単にやられるのはオカシイ――そう考えると自ずと答えは出てきた。のだが、その答えにたどり着くのは少々遅かったらしい。


「っ、ガイア、上だぁぁぁぁぁっ」


「え――」


 ハルゼンが叫ぶのと同時に『土塊豪拳(ガイア・インパクト)』を放った彼に頭上からの攻撃が襲いかかった。

 そう、彼が使ったのと同じ『土塊豪拳(ガイア・インパクト)』だ。


 まるで閃光のようにも思える速度で頭上より落下してきた『土塊豪拳(ガイア・インパクト)』を回避する術など彼には無く、そのまま土塊の拳に押しつぶされるようにして地面へと叩き潰されてしまった。

 顔面から地面へツッコミ、大量の血が頭から溢れ出している。頭部が破壊されずに原型を留めているのが不思議なほどの一撃だった。


「『土塊人形(ダミー)』かな」


「そうそう。なんか来そうな予感がしたからさ……僕は本当は戦いたくないし、家でぬくぬくしていたいわけよ。でも、戦わなくちゃいけないじゃん? なら、自分の身は自分で守る力を持っていなくちゃね。僕は死にたくないし」


「……へぇ……」


「ま、最初に君がくれた奇襲へのお返しって言ったところかな? 絡め手は君の専売特許じゃないんだよ」


『土塊人形(ダミー)』とは、その場に土塊の分身を残し、自分はその場から退避するというもの。この力を使って攻撃を受ける直前に回避し、頭上を取ったということだ。

 この賢者の中で一番実力が低いなんてとんでもない。彼は自分の身を守るために強くなった。

 ケルドは自分を守るための戦いだったら賢者の中でも一番力をひねり出すことが出来る男だ。

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