5-34『人を助けるってレベルじゃねーぞ』
「人間だ! 人間を殺せ!」
「ひゃっはー、敵だ敵だ敵だぁぁぁぁぁっ!」
「コロス。オデ、ニンゲン、コロス」
賢者たちが魔王領に入ってすぐ、大勢の魔族たちが襲い掛かり、そして一瞬にして返り討ちにされていた。
後々襲撃してきた魔族たちもその惨状を見ていたはずなのに、それでもテンション高く、奇声を上げながら突っ込んでくるため、賢者たちも困惑気味だった。
「魔族というのはどうしてこうも全員が全員戦闘狂なのか……」
「人間とは根本的に考え方が違うということですね!」
「この程度では肩慣らしにもならないな!」
ここら辺に居る魔族くらいじゃ賢者の相手にもならない。歩きながら適当に倒されていく魔族たち。
賢者は魔族を討伐することを目的としているわけではなく、魔王を討伐することを目的としているため、適当にぶっ飛ばしてそのまま魔王城へと向かって行った。
奥に行けば行くほど瘴気が濃くなっていく。
木々はどんどんと枯れて行き、他では見たことが無い様な毒々しい見た目の草花も増えていった。
ダンジョンとは比べ物にならない。人間は生きていくことが出来ないのではと思ってしまうほどの濃い瘴気だ。
魔物や魔族が生きていくためには必要なものではあるのだが、人体には毒となってしまう。
「さっきは実力を理由にしていましたが、勇者たちは連れてこなくてよかったかもしれませんね」
「あぁ、この濃い瘴気。あの小娘たちが耐えられるとは思えねぇ」
「そういや、勇者パーティーじゃなく、ゼルドガルとネムナの二人はどうしたんすか? 彼らも一応賢者っすよね」
「……一応連絡した。だが、ゼルドガルには一言『面倒』と言って断られた。ネムナは来るとは言っていたのだが……おそらく二度寝をしておるな」
「あの二人、一度喝を入れる必要があるかもしれないな!」
「おいおいおい~そういうことはあの二人に勝てるようになってから言うもんっすよ」
ケルドの言葉にサックドは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるほかなかった。
ケルドの言う通り、サックドはゼルドガルとネムナを強引に動かそうと思っても勝てるだけの力が無いのだ。
というか、この場に居る人は誰もあの二人に勝てる人は居ないだろう。だからこそエルダックだって強く出ることが出来ないのだ。
「まぁ、来ないというのならば仕方がない。わしらだけで何とかするしかないわけだ」
現状この四人だけでも何の問題もなく先に進むことが出来ている。
この場に居ない人のことは考えず、とにかく先へ先へ進んでいく。
十分ほど小走りで進み続けると、ついにその場所にたどり着いた。
「おぉ、ここっすね」
突然ケルドが発現した。
全員が足を止めて周囲を見回してみる。だが、その場所はさっきまでと全く変わらない何の変哲もない魔王領と言った景色。
魔王城らしきものは一切見当たらない。
「おいケルド。何もないじゃねぇか。お前の能力壊れてんじゃないのか!?」
「いいや、間違いなくここにあるよ。『解除』」
手を伸ばし、魔法を発動するケルド。
その次の瞬間、まるでガラス細工が割れたかのような音が周囲に鳴り響き、空間が割れ砕け散った。
それと同時に、周囲の景色が変化。さっきまではただの瘴気で荒廃した土地が広がっていただけだというのに、目の前に巨大で立派な白が出現したことで全員目を見張る。
見ただけでわかるこのまがまがしさ。
間違いなく、これが魔王城なのだとこの場に居る全員が理解した。
よし乗り込もう――だが、その前に片づけなければいけないことがあるらしい。
全員の視線は城ではないとある一点に向いた。
「あれは人間? 男性です!」
「洲巻にされてやがる。あいつら、人間を攫ってきたのか?」
彼らの目の前に見えるのは何人かの魔族が洲巻にした男性を担ぎ上げて魔王城へと運び込もうとしている姿。
その姿は誰がどう見ても魔王への貢ぎ物にしようとしているようにしか見えなくて、全員の目の色が変わった。
「まずはあの男性を助けるぞ」
「待ってたぞ!」
エルダックのその号令と同時にサックドは走り出した。
サックドの手は燃え盛る炎に包まれ、真っ赤なグローブを作り上げる。歩く地面は燃え上がり、炎の大地が形成されて行く。
果てには全身が炎に包み込まれ、激しく燃え上がり始めた。そしてその炎の勢いがどんどんと強くなっていくにつれ、サックドの走る速度もどんどんと上がっていく。
『炎歩』――サックドが最も得意とする上級魔法。
自分の身体を燃え上がらせ、それを燃料とし、加速度的に自分の行動速度を上げていく。ただし、自分の肉体は焼いてしまうため、そう長く使用していると大やけどを負ってしまうというデメリットが存在する。
つまり、こうして走っている間、サックドは肉体を灼熱の炎で焼き続けているということになる。
「お、おい、火だるまがこっちに向かってきてるぞ」
「はぁ!? 『炎歩』を使うとか頭おかしいんじゃねぇのか!?」
「魔族に頭おかしいとか言われたくないなぁっ!」
そのままのスピードで男性を抱えている魔族たちの懐に一瞬で飛び込んだサックドはグローブの拳を思い切り振りかぶり、殴りつけた。
拳が魔族に接触した瞬間、周囲はさらなる勢いで燃え上がり、大爆発にも似た燃え上がりを見せた。
周囲の物を全て焼き尽くすほどの火力に他の賢者たちはただただ呆然と立ち尽くしていた。
「あの人、何考えているんでしょう」
「さぁ、わしにもわからん」
「人間を助けるっていう話だったのに、纏めて焼いちゃ意味ないでしょーが」
三人が呆れていると、先ほどまで魔族たちが抱えていた人間がエルダックへ向けて飛んできたため、しっかりとその丸太の様に太い腕でキャッチした。
見てみると、先ほどサックドの豪炎によって纏めて焼かれたはずだというのに、その男性には傷一つついていない。おびえ切って涙が溢れてきてはいるが、服はボロボロだというのに少なくとも身体は綺麗なものだった。
「治癒しておいたぞ! そいつの保護は任せた!」
「ねぇ、エル爺。僕は仕事をさぼる無能だと自覚しているけど、やる気のある無能っていうのも厄介だと思わないかい?」
「ふむぅ……」
ケルドのその問いにエルダックは唸ってしまうのだった。




