5-32『ヘルプ』
魔法陣に飛び込んだ瞬間、俺たちの視界は真っ白に染まり、やがて――視界に色が戻った。
視界いっぱいに広がる青い空、青々とした草原。頬を撫でる風。
ダンジョンで擬似的に作られたものとは違う、何もかもが新鮮な存在で、俺たちはダンジョンの外に出てきたんだという実感が湧いてくる。
「なんだか丸一日中に居ただけですけど、外に出るのが本当に久しぶりな気がしてきます」
「えぇ……カリュブディスに遭遇したせいで想像以上に濃いダンジョン探索になったわ」
だが、そのおかげで俺たちは更に強くなれた気がする。
今魔人と戦っても前のように無様な結果には決してならない筈だ。いや、魔人なんて遭遇しないに越したことはないんだけどな。
酷く疲れた気がする。今の勇者パーティーならここまでCランクダンジョンくらいでここまで疲弊することはないと思っていたんだけどな、本当に運が悪かった。
「でもこれで、勇者パーティー完全復活ですね! ボクらはそう簡単に折れませんよぉぉぉっ!」
明るく振る舞うメルバード。
だが、俺はどうしても彼女のことが気になっていた。
昨夜俺にだけ見せたメルバードの闇。弱さ。今更俺がなんとかしてやることが出来るものでもないが、すこしでもその悩みを晴らすことが俺に出来ないだろうか。
今でもいざという時は魔法を使ってくれているが、それでもメルバードの魔法には迷いのようなものが感じられる。
まぁ、それはあの話を聞いたからそう感じるというだけなのかもしれないが、一度気になってしまったものはそう簡単にどうにかできるわけじゃない。
色々と考えることが山積みで頭の中がパンクしてしまいそうだ……。まぁ、これに関しては魔王軍と勇者パーティーを二股している俺が悪いんだけどな。
今日はとにかく疲れた。早く皆を王都に送り届けて俺は森へ帰るとするか。
オルターン滞在期間中はお言葉に甘えてルリハの家に泊まらせてもらったけど、久しぶりにちゃんとした寝床で寝たらなんか違和感がすごかったんだよな。
やっぱり俺は野宿のほうが好きだ。
帰りも俺が御者をすることになると考えたら億劫だが、このまま帰らないわけにもいかない。俺は野宿でも良いが、みんなまで俺に巻き込むことは出来ないからな。
☆☆☆☆☆
馬車を走らせて数十分。
背後にある客車の中からは女子トークが聞こえてくる。
寂しい、そんな考えが脳裏をよぎった。俺はただ一人御者席に座り、眠い目をこすりながらただただ馬車を走らせ続けているだけ。
景色もそう変わるものではない。ただただだだっ広い草原が広がっているだけだ。
時々魔物の姿も見かけるが完全に無視。危害を加えてきそうな距離に居る魔物以外は全て無視だ。その上、俺はユイたちには気づかれないように『喝』を使用しているため、よほど頭の出来が良くない魔物以外はそもそも近づこうとすらしてこないだろう。
だから絶賛暇である。
ここら辺には街という街も無いしな。
暇つぶし感覚で適当におやつ代わりに乾パンをかじりつつ、馬車を走らせ続けていると、突然俺の眼の前に手紙が出現した。
手紙というものは相手を思い浮かべて送り出すことによってどこに居ても目的の相手に届けることが出来る。誰かが俺に送ってきたのだろう。
面倒な内容じゃなきゃ良いが。
でも、今の俺はハルト・カインズだし、そんな俺に送ってくる内容とはどういうものなんだろうか。
マナが送ってきたっていう可能性も無くはないが、勇者パーティーへの手紙だったらリーダーであるユイに送られてくるだろうしな。
とりあえず齧っていた乾パンを適当に『ストレージ』へ放り込むと手紙を受け取って広げた。
「差出人は――っ!?」
書かれていた差出人はヴァルモダ。
つまり、この手紙はエシュド宛てに送られてきたものだということだ。
今まで一度たりともヴァルモダから手紙何て送られてきたことがない。読むのが怖い、絶対に何か緊急事態があって俺に連絡しているということなんだろうから。
そうじゃなければあいつが俺に手紙をよこす理由が全くわからない。
とりあえず、これがエシュド宛てなんだとしたらユイたちにこれを読んでいることをバレたらマズイ。魔族としての連絡なんだろうから、魔族と繋がりがあるとバレてしまう。
そっと静かに音を立てないようにして手紙を広げ、内容を確認する。
手紙の大きさはそれなりの大きさの紙を使用していた。だが、そこに書かれていた内容はたった一言。けれども、鮮烈で強烈で、一撃で俺をノックアウトしてしまいそうなほどの文言だった。
――魔王様の居場所が賢者にバレた。
目を疑った。何かの冗談なんじゃないかとも思った。
だって、あいつらにマナの居場所がバレてしまったとなると、マナの身が危ないからだ。
一応、マナはユイの剣以外で殺されたとしても復活できるが、賢者たちが積極的にマナの居場所を探していたということはなにか神剣以外でのマナの倒し方を見つけてしまったのかも知れない。
もしそうだとしたら……ゾッとする。身の毛もよだつ思いだ。
どうするどうするどうするどうする。
どうしたらマナを守れる、マナを救える?
賢者は強い。特にゼルドガルとネムナの二人は強すぎる。正直、俺が助けに行ったとて二人からマナを守りきれる自信はない。
――いや、待て。
どうして俺はマナを守ることを考えているんだ? 冒険者としてはマナを倒すことなんて当然のことじゃないか。
それが自然なことなんだ。人間としてはそれで良い――
『私、見栄を張ってた。魔王だからって、こんなの示しがつかないって。でもね、私本当はエシュドと同じく旅が好きなんだ。色んな場所を見て回るのが好き。美味しいものを食べるのが好き。人間たちの営みを見るのが好き。だからこうして時々、観光に来てる。エシュドの前だからって格好つけて偵察なんて言ったけど、あれは嘘だったんだ。ごめんっ!』
くそ、俺は大馬鹿者だよ。
そんなことをしてしまったらそのあとどんなことになるのか、簡単に想像が着くはずなのに、俺は……俺は……。
あんな顔を見せられちゃ、俺はやっぱり見捨てられない。
「ハルト、様子がおかしいけど、何かあった?」
このパーティーの中で一番長く時を共に過ごしたルリハ。彼女はいち早く俺の異変を感じ取ったらしい。
客車の中から身を乗り出して、俺の顔を覗き込んでくる。
ルリハが近づいてきたのを感じてすぐに『ストレージ』に手紙は仕舞ったが、俺の表情はそんなにすぐ変わってくれない。
「顔、青いよ。大丈夫なの?」
「どうかしました?」
「お腹でも痛くなりました? なら、ボクたちは待っているので、行ってきても――」
「………………いんや、なんでもない。それよりも、ちょっと急ぐ。振り落とされないようにしっかり掴まっててくれ」
「――え、ちょ、ハルト君!? どうしたんですか!?」
全速力だ。
賢者たちがマナの居場所を知ったのだったら恐らく直ぐに行動を始める。マナが逃げない内に攻め込んでくることだろう。
だから、時間はない。一刻を争う。
ただし、ユイたちを連れていく訳には行かないし、俺がここで御者を放置して魔王城に向かったら三人は困り果ててしまうことだろう。
まずは三人を王都に送り届けなければならない。その後、走ればいいだろう。
全力で走れば間違いなく俺は馬より速い。
頼む。
マナ、無事で居てくれっ!
カルマの走行速度って本気を出さずとも馬より速いし、なんだったら現実の自動車よりも速かったりします。
ただ、ここからカルマ一人だけで走っていく訳にもいかないので、困り果ててる感じですね。
そんなに速いなら普通に加減しなければソニックブームが発生しますね。




