↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/224

5-30『ヴァルモダ/オーバーロード』

5-30『ヴァルモダ/オーバーロード』あとがき有り

(はぁ……はぁ……もう一ミリも身体が動かねぇ……)


 身を切った最後の決死の一撃もエルダックには通用せず、『雷震』に叩き潰されてしまったヴァルモダはエルダックの眼の前で地べたに這いつくばることしかできなくなっていた。

 逃げるのならさっきの一瞬が最後のチャンスだったのだろう。

 もう逃げる余力すら無くしてしまったヴァルモダはエルダックにトドメを刺されるのみ。


(俺の攻撃は何一つ通用しなかった。これが賢者……噂には聞いていたが想像以上だったぜ……。こんな化け物、魔王様の元に行かせるわけにはいかないんだけど……もうちっとも動けねぇんだ。まな板の上の魚ってこんな気持ちだったのかぁ?)


 諦めの境地と言うやつだった。

 ヴァルモダはもうすぐ殺される。だと言うのに、彼の頭の中はやはりマナのことでいっぱいだった。

 彼はこの状況でも尚、マナを護るための騎士であった。


「もう流石に動けないか……。それでは、お主に聞こう。最初の問いと同じだ。魔王マナ・デストラーラの居場所は知っているか」


 当然だ、知っている。

 ヴァルモダはつい先程マナに魔王城を追い出されたのだからマナはまだ魔王城に居ることだろう。

 だが、そんなこと口が裂けても言えるわけがない。なにせ、行ってしまったら最後、人類の最終兵器とも呼べる化け物たちがマナを討伐するために動き出してしまうだろうから。


 あくまでもこの状況になってもヴァルモダはマナを護るための騎士だ。マナのフリ液になり得る行動は絶対にしない。

 そう、例えその身が滅びようとも、マナを売るような真似は絶対に――


「はぁ……やはり言わんか。口を噤んでも無駄だぞ。わしの前で隠し事など不可能だからな。切り札(カード)『世界之真実(せかいのしんじつ)』」


 宣言をするとエルダックの眼の前にキラキラと光るカードが出現。

 それを手に取ると、そのカードをなんと、ヴァルモダの額にぺたりと貼り付けた。

 何をしようとしているのか分からず、困惑していると、エルダックはヴァルモダのことをじっと見据える。


「こいつは貼り付けた相手の思考をジャックする。条件はこいつを貼り付けることと、十秒間対象と目を合わせ続けることだ。つまり、キサマだ。十秒、目を合わせた後はお主はわしに隠し事などできなくなる」


「んなっ!」


「だから言っただろう? お主が言わなくても、魂に訊くと」


 最悪の状況だった。

 もちろん、ヴァルモダは絶対に言わないつもりだが、それはヴァルモダの意思によるもの。

 意思を無くされてしまってはヴァルモダにもどうしようもない。無敵の尋問技と言ったところだ。


 十秒目を合わせてはいけない。

 その時点でヴァルモダの完全敗北は確定してしまう。命を捨ててでも守りたい大切な人の情報を自分の手で渡してしまう。

 それだけは我慢ならなかった。


 だから慌ててヴァルモダはエルダックから視線をそらし、地面に顔を埋めることによってエルダックの目を見ないようにした。


「今まで何人ものヤツがわしの力から逃れようと、色々な手を尽くしてきた。だが、誰一人としてわしの力から逃れられた人はいないのだ。何故か分かるか?」


「うぐっ、うぐぐっ」


「そんなこと、不可能だからだ」


 勝手に首がエルダックの方へと向いてしまう。

 ヴァルモダは必死に抗って地面に顔をこすりつけるが、そんな意思とは逆に、ヴァルモダの顔は徐々にエルダックの方へと向いていく。

 なにかに操られている――ヴァルモダの意思など関係なかった。


 目を閉じる――無意味だった。意思とは真逆にまぶたをピクリとも動かせない。


「そのカードを貼り付けられた者は例外無く、わしと目を合わせるための行動を取るようになっている。つまり、お主がカードを貼り付けられた時点で、勝負は決していたのだ」


「ふぬん、ふぬぬぬぬうぅん」


 全力を込めても全く身体が言うことを聞かない。

 ならば、マナの事を吐いてしまうその前にこの世を去れば良いだろう。そう考えたヴァルモダは舌を噛み切ろうとする。

 ダメだった。そんなこと、エルダックも想定済だったらしい。

 噛もうと舌を出すと、今度は口が閉まらなくなった。つまりは自殺行為のようなものが出来なくされているのだ。


(いやだ、いやだいやだいやだ、絶対にいやだ。死ぬ、死んでやる。魔王様を売るくらいなら今この場で死んでやる!)


 地面へ頭を叩きつける――出来なかった。地面にぶつかる寸前で止まってしまった。

 限界を超えて自分の顔面を思い切り殴りつけようとする――出来なかった。寸前で止めてしまう。


 魔法は――自分に向けて打とうとしたら発動できない。

 自分に危害を加えることが出来ない。


「ごめんなさい、許してください。なんでもしますから、俺の事は好きにしてくれていいですから……だから、だから、魔王様のことだけはどうか……許してください。お願いします」


「魔族のお願いを聞く冒険者がどこに居る?」


 現実は無慈悲だった。


「十秒、経過だ」


 気づいたときには既にエルダックと目を合わせ、十秒が経過してしまっていた。

 ヴァルモダの目からは一筋の涙がこぼれ落ちる。そしてヴァルモダの思考は霧がかったようにぼーっとし、思考能力が低下する。

 意識はちゃんとある。だが、考えることが出来ない、ちょっと考えることでも億劫に感じてしまう。

 変な浮遊感すらも感じてしまう。そんな状態。


「先般の問いに答えろ。魔王マナ・デストラーラは今、どこに居る」


「魔王様は恐らく、魔王領に存在する魔王城にてお休みだ。魔王領は王都近くの森を北に進んだ先にあり、その中の結界の中に魔王城は存在する」


「貴重な情報、ありがとうヴァルモダ少年」


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 答えてしまってからハッとした。

 自分は何を口走ってしまったのか。それを今やっとヴァルモダは理解したのだ。

 命を捨ててでも守りたいほど大切に思っている魔王様の情報を敵に明け渡してしまったのだ。それ即ち、魔王様への裏切り行為にほかならない。


 何度も何度も額を地面に打ち付ける。

 もう切り札(カード)の効果は解除された。もうヴァルモダの自傷行為を止める者など存在しない。

 地面にヴァルモダの額から流れた血が染み込んでいき、赤く染まっていく。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 泣いても喚いても時間は元には戻らない。

 ヴァルモダがマナの情報を吐いてしまったと言う事実は今更覆すことなど不可能なのだ。


 今のヴァルモダの姿は騎士などではなかった。

 ただただ、みっともなく泣きわめき、謝罪を口にするだけのロボットと化してしまった。ヴァルモダの心は――壊れてしまった。


「さぁ、最期の刻だ。なにか、言い残すことはあるか?」


「――ごめんなさい」


「そうか……それは済まなかったな。だが、わしらは決して相容れることは出来ぬ存在なのだ」


「――ごめ、ごめんな、さい。ごめんなさい」


「さらばだ、勇敢な魔族よ」


 エルダックのハンマーに雷が宿る。

 その雷は今までのエルダックのどの攻撃よりもギラギラと光っていて――


 ついに振り下ろされた。

 叩きつけられた箇所には大きな焦げ跡が出来上がり、近くの草花も影響を受けて真っ黒に焦げてしまった。

 トドメの一撃――その一撃は


「む?」


 ヴァルモダには当たらなかった。

 エルダックがハンマーを退けたその場所にはヴァルモダの姿はどこにもなかったのだ。

 消し炭にしたわけではない。そこに在るはずなのだ、ヴァルモダという魔族の焼き焦げた死体が。


「まぁ、いい。必要な情報は手に入った。魔族狩りは魔王を封印した後でも出来る」


 そう小さくつぶやくと、手に入れた情報を賢者に共有するため、テレファンを手に取るのだった。

 これは余談ですが、エルダックが切り札(カード)の発動条件をヴァルモダに開示した理由は、相手が発動条件を知っていないと効果を発動できないという点にあります。

 一応、カードを貼り付けることが出来ればエルダックに目を合わせることは出来るのですが、ただ意味もなく目を合わせさせるだけになります。


 嘘を暴くには発動条件を開示する必要があったんです。


 にしても、ヴァルモダが可哀想だ( ^_^ )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。