5-29『魔王を護る騎士』
「切り札か。ますますただの魔族には思えない力だな」
「俺のこの力に臆したんなら、帰ってくれてもいいんだぞ」
「最初に言ったであろう? わしは賢者だ。魔族を見て見逃すことなど出来んと」
「なら、俺があんたを強制送還してやるよぉ!」
ヴァルモダの切り札『雷廷冥皇陣』はいわば究極の防御魔法である。
近づくものは稲妻が自動的に迎撃する。周囲の気配も完璧に察知することが出来る。
つまり、今のヴァルモダを欺くことが出来る人は誰も居ない。そう、これはヴァルモダがマナを守るために編み出した究極の護衛技なのだ。
切り札にはその人の精神性と得意魔法が大きく反映される。
この切り札にはヴァルモダのそういった感情が多分に含まれているため、この様な防御技となった。
魔王マナ・デストラーラの最強の盾となったのだ。
「『雷瞬』っ」
雷を纏い、稲妻の如きスピードで走り出すヴァルモダ。
それは常人では決して目で追うことすら叶わないほどの超スピード。もしエルダックがBランクやAランクであったなら簡単に殺すことも出来たやもしれない。
だが、エルダックは賢者である。
「『雷蹴』」
「『打雷』」
ヴァルモダの蹴りとエルダックのハンマーがぶつかり合う。
と、同時に『雷廷冥皇陣』の効果範囲内にエルダックが侵入したため、稲妻がエルダックへ襲いかかる。
「むうん」
だが、そこは強引にハンマーを振るい、ヴァルモダごと何もかも振り払うことによって稲妻をもかき消してしまった。
飛ばされている最中、ヴァルモダは徐に手を握りしめて、天高く突き上げる。
「『輝遊雷鳴』」
「小賢しい! 『雷爆』」
エルダックの頭上に出現した雷雲。
ハンマーを地面に打ち鳴らし、雷を纏わせて思い切り振り上げると、ハンマーから稲妻が飛び出し、雷雲へ一直線。
直撃と同時にまばゆい光が周囲を包み込み、直後大爆発を引き起こした。
その一撃によって雷雲は跡形もなく消し去られてしまった。
しかし、ヴァルモダの攻撃はまだ終わらない。着地した彼は再び猛スピードでエルダックへ急接近。その手に雷を集約させる。
「それは一度やっただろう。わしには届かん」
「やってみないと分からないだろう!」
エルダックには見えている。
ヴァルモダが次にどうやって自分へ接近してくるのか。魔力の流れを読めば簡単に想像がつくものだった。
「キサマは所詮Sランク以上にはなれん!」
「なる――なって見せる。魔王様を一番近くで守り続けるために。魔王様の隣に立つ魔族は俺だ!」
振るわれるエルダックのハンマー。
この一撃は間違いなくヴァルモダをカウンターで打ち抜き、一撃で戦闘不能にするために振るわれたものだ。
いわば殺気の籠もった一撃とも言えよう。
エルダックはヴァルモダの魔力を読み、その先の動きを予測する。だが、その一点に置いてはエルダックでさせもヴァルモダの右に出ることは出来ない――
「うらぁっ」
「うむっ!?」
ヴァルモダは振るわれたハンマーに手をつき、体を上に押し上げてエルダックの頭上で一回転。
なんとエルダックの背後へと回り込んでしまったのだ。
『雷廷冥皇陣』を発動しているヴァルモダの意表を着くことなど決して出来ない。そう、たとえ賢者であってもそれは例外ではない。
カウンターをと考えた時点でこうなることが決まっていたのだ。
「特大の雷をお見舞いしてやるぜぇ! 『雷焦』」
雷を纏わせた両の手のひらをエルダックへ押し付け、あらゆる物を焼き焦がしてしまうほどの稲妻を食らわせる。
だが、エルダックの魔法耐性は普通のそれではなく、焼き焦がすことは出来なかった。せいぜいが服を焼き、その下の肌を若干焼いた位のダメージ量。
それでも、ヴァルモダは初めてエルダックにダメージを与えることに成功した。
「いい一撃だが、弱いな。ふぬん!」
「がはっ」
エルダックの振り向きざまの腕による振り払いで弾き飛ばされるヴァルモダ。
魔法も纏っていないというのに、ヴァルモダが一瞬意識を飛ばしそうになってしまった。まるで鉄の棒で頭を思いっきりぶん殴られたかのような衝撃。
頭が潰れるんじゃないかとすら思ってしまったほどだ。
(やっべぇ。雷の出力が桁違いだ。一瞬ハンマーに触れただけでこのダメージかよ)
手のひらに残る焼けただれた皮膚はハンマーを飛び台代わりに使った代償というものだ。
格の違いというものを感じ、嫌になってきてしまうがそれでもヴァルモダは笑顔を崩さない。そして自分はマナを守れるんだと信じ続ける。
信じ込ませる――
「『雷鳴狂波』」
「んなっ」
パァン。
ヴァルモダが拍手を打ち鳴らしたその瞬間、エルダックの身体に電撃走る。
手のひらの皮膚が焼けただれ、今も尚激痛が走っているとは思えないほどの張り切った拍手は静かな草原によく響き渡った。
初めてエルダックが軽くよろめいた。
その瞬間をヴァルモダは狙う――
「ご、はぁっ」
「老いぼれを、舐めるなよ童」
ヴァルモダの拳が炸裂するよりも先にエルダックのハンマーが炸裂した。
防御をすることすら出来なかったヴァルモダはそのままピンポン玉の様に地面を跳ね、転がることしか出来ず、地面に大量の血を吐き出す。
苦しみ喘ぐ。それしかヴァルモダにはできなくなった。
「はぁ……はぁ……」
視界が霞んで見える。
眼の前に居るエルダックがまるで二人に見える。人間だったら今の一撃で致命傷となっていただろう。
ヴァルモダはただ、種族として、魔族としての生命力の高さに助けられたに過ぎない。
(動け動け動け、何でもいいからさっさと動け、次の攻撃をしろ。攻撃の手を止めるな、動け、動けっていうんだよ。何で動かねぇんだよ!)
雷撃による広範囲の大火傷、複数個所の骨折。
むしろこの状況でどうして意識を保てているのかが不思議でならないほどだ。
死にかけの虫の様に手足を動かしてどうにか動こうとしているが、ただ藻掻くだけで立ち上がることさえ叶わない。
(いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだ――こんなところで終わるのだけは絶対に嫌だ!)
「何をする気だ!」
「手足に力が入らなくても、魔法はまだ扱える! 『雷爆』」
手に雷を集約させ、思い切り地面へと叩きつける。
その次の瞬間、地面が大爆発を巻き起こし、ヴァルモダの身体を爆風によって吹き飛ばしてしまった。
そう、手足が使えないのならと爆風を使ったのだ。だが、普通の考えではそんな事をしてしまえば自殺行為となってしまうため、普通は出来ない。
今のヴァルモダの思考回路は普通じゃなかった。
イかれてる。そう表現するのが一番正しいだろう。
(死ぬのは怖くない。戦って死ぬのだって魔王様を守るために戦って死ぬのなら本望だ。だけど、魔王様が傷つけられるのだけは我慢ならない。俺が、命をかけてお守りします!)
「向かってくるか。ならば仕方がない。あまり痛めつけるのは趣味じゃないのだが、この一撃でキサマを地に沈めてやろう。『雷震』」
直後、エルダックの背後に雷で象られた化身が出現。
エルダックが構えるハンマーよりも巨大な雷で象られたハンマーを担いでおり、その形相は悪魔そのものと言えよう。
並の人が見たら一瞬で失神してしまうであろう怪物――恐怖がそこに存在していた。
でも、ヴァルモダの頭のネジは完全に外れてしまっていた。
「死ぬのは怖くねぇ! 『迅雷拳』」
肉体の限界を超えた更にその先の一撃。
決着は一瞬だった。
一瞬早くヴァルモダの拳がエルダックの胸部に炸裂。高圧電流を浴びたことによって一瞬エルダックの身体は硬直した。
だがその直後、ヴァルモダの頭上から巨大なハンマーが炸裂した。化身が持っていた巨大なハンマーだ。
大地が揺れ、大気すらもざわついた。
叩き潰されたヴァルモダはただ地面に伏すことしか出来なかった。
ヴァルモダVSエルダック終了。
まぁ、ヴァルモダが賢者に勝てるわけ無いんですよね。
ちなみに、エルダックがヴァルモダの様子を見ているからこそこれほど拮抗しているように見えるだけで、本気を出したらヴァルモダはもっと早く倒されています。
よくよく読んでみたら、ヴァルモダは超級魔法を使っているのに対し、エルダックは雷を武器に纏わせるというユイもやっているような基礎的な技術か、上級魔法をちょろっとしか使っていないんですよね。
つまり、本気を出していないエルダックにヴァルモダは圧倒されていたわけです。
力の差は歴然ですよね。
でもヴァルモダは諦めませんでした。
果たしてヴァルモダはどうなってしまうのでしょうか?




