5-28『激震! ヴァルモダVSエルダック』
二度閃光走る。
今度のものはエルダックのものではなく、ヴァルモダが発したものだった。
――『激雷』
エルダックと同じ様に、これは牽制の一撃なわけだが、牽制と呼ぶにはあまりにも強すぎる一撃は簡単に大地をも割ることが出来るほどの衝撃を放つ。
だが、その一撃はエルダックのハンマーの持ち手によって簡単に受け止められてしまった。
「ふん、いいパンチだ」
「爺さんが筋肉ダルマだったら、そのハンマーも筋肉ダルマなのかぁ?」
エルダックがハンマーを振り払うのと同時にヴァルモダは飛び退き、エルダックから距離を取る。
ヴァルモダには自信があった。あのハンマーの持ち手は木で作られているから、自分のパンチならば簡単にへし折ることが出来ると。
だが、流石はあのハンマーヘッドを支えている持ち手なだけあり、ヴァルモダのパンチでもびくともしなかった。
渾身の一撃を軽々と受け止められてしまったことに自信をなくしそうになってしまうが、それでもヴァルモダは立つ。
自身の主を守るために――
「ごはっ」
何が起こったのか全く分からなかった。
今、ヴァルモダは確実に振り払いを回避した。かすったような感覚すら全く無かった。
だと言うのに、今ヴァルモダは膝をついて口から血を吐き出している。これは異常事態だ。
(まさか、ハンマーを振った時の風圧? それだけでこのダメージかよ、ふざけんなよ)
「のう、やけに苦しそうだなぁ。わしが楽にしてやろう」
「はぁ、はぁ、こんなに簡単にやられちゃ、主に合わせる顔がねぇんでね!」
倒れるヴァルモダへ振り下ろされるハンマー。
だが、それをヴァルモダは『雷瞬』で回避。エルダックへ鋭い眼光をぶつける。
ただ振り下ろされただけ、それだと言うのにハンマーが激突した地面にはクレーターが出来上がっていた。
エルダックは身体強化を使っているわけじゃない。
ただ、そこにハンマーを振り下ろしただけなのだ。
圧倒的な力の差、あまりにも歴然だった。
「合わせる顔など無くてもいいのではないか? キサマはこれからわしに討伐されるんだからな」
「果たして、殺されるのはどっちかな? 俺、これでも意外とつえぇぇぞ」
そう虚勢を張るだけで精一杯だった。そうでもしていないと、あの圧倒的な圧によって押しつぶされてしまいそうになるから。
無理に強がって、エルダックに勝てるんだと自分を鼓舞することでなんとかそこに立っていた。
ヴァルモダの実力は所詮、カルマが評価した通り、Aランク上位からSランク下位程度の実力しか無い。どう頑張っても賢者には届きえない。
だが、マナを守る。その一つの想いだけがヴァルモダを強くする。
「轟け、『雷豪』!」
手のひらから紡ぎ出された稲妻の糸が絡み合い、雷球を作り出す。
それは勢いよくエルダックへ向けて射出された。
「ほう、これだけの力の差を見せても尚折れないか。キサマがもし人間だったのなら、弟子にしたかったものだな」
「お生憎だが、俺には一生仕えるって決めてる方が居るんでね。こっちからお断りだ」
「それは、残念だ……『雷華の導き』」
徐にエルダックはハンマーを振り上げ、雷を纏わせる。
その稲妻はヴァルモダの稲妻が子どものお遊びかのように見えてしまうほどに破壊的なもので――
地面へ振り下ろされた。
その一撃は大地を割り、割れた大地から稲妻が迸る。
矮小な『雷豪』など瞬きの間にかき消され、ヴァルモダへ迫る。
(はぁ、はぁ、俺は、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!)
攻撃こそ最大の防御、ヴァルモダには身を守る魔法など存在していなかった。
「流石にこいつはかき消せまい! 『壊雷』」
大地割りには大地割りで対抗。
地面を叩き割り、ひび割れを広げて稲妻を吹き上がらせる。
「が、ぐっ」
かなりダメージが大きい。その状態で超級魔法など使おうとしているため、反動が大きいが、それでもヴァルモダは止めることが出来ない。
止めた瞬間、ヴァルモダの敗北は確定してしまうことだろうから。
「轟けぇぇぇぇぇぇっ!!」
放つエネルギー波。直後、雷を纏った拳を振るい、巨大な雷の拳をエルダックへ向けて打ち放つ。
ヴァルモダが現状使うことが出来る最強の攻撃魔法。
これでエルダックにダメージを与えることが出来なければ、ヴァルモダに打つ手はないが――
「ほう……一介の魔族が超級魔法を使うとは……言っていた話と違うのではないか? のう、魔族よ」
(嘘だろこの爺さん、俺の渾身の『壊雷』を食らったっていうのにぴんぴんしてやがる)
鎧も焦げ一つ付いていない。ヴァルモダの雷はエルダックへ届いていない。
賢者とはこれほどのものなのかとヴァルモダは打ちのめされた。
ヴァルモダは自分がもう少し強く、賢者にだってある程度抵抗できるほどの力はあるのだと考えていた。
だが、現実はそう甘くはなかった。
ヴァルモダの攻撃は一切通用していない。
逆に、ヴァルモダはこの一瞬の内に大きなダメージを受けてしまった。これが現実だ。
賢者エルダック・ヴォラキュリアとヴァルモダの間には超えられない壁がある。
どれだけヴァルモダが頑張ったとて、その高い高い壁を見上げているに過ぎない。
「わしは一介の魔族が超級魔法を使っているところなど、見たことがないのだが……キサマは本当に一介の魔族なのか?」
(絶望的だ。でも、だからと言って諦める理由などどこにもない。俺は魔王軍、魔王様の直属の部下である暗部だ。魔王様に仇なす者は決して許さない)
エルダックは様子を見ているのだ。
もしかするとヴァルモダはなにか奥の手を隠し持っていて、エルダックを一瞬で危機に陥れることが出来るのではないかと。
だから、こうして色々させてくれている今がヴァルモダのチャンスだ。
「言っているだろ? 俺は魔族それ以上でも、それ以下でもない。でもな、俺は魔王様のことを誰よりも慕っている。それだけは誰にも覆しようのない事実だ。切り札」
数多の中へ指を勢いよく突っ込むと、その中から一枚のカードを引っ張り出してくる。
正直、これがエルダックに通用しなければヴァルモダに打つ手は無い。本当に本当の最終手段と言うやつだ。
カードを持つ手が震える。ヴァルモダもこんな経験は初めてだ。
自分の力が全否定されかけているのだ。今までのヴァルモダの努力がこんなにも何もなかったかのように退けられている。
ヴァルモダの心は半分折れかかっている。
でも、それでもヴァルモダは笑ってみせた。
マナの教えだ。
――ピンチの時こそ、笑って余裕を見せろ。
「馬鹿野郎。てめぇを殺すことなんざ、俺にとっては造作もないことだ。俺はいずれ魔王軍幹部の座にまで上り詰める男だからな!」
「ふん、そうなればキサマは今以上に人類の脅威となることだろう。今、キサマを討伐してやることにしようか」
「はんっ、俺が賢者如きに遅れを取るわけねぇだろうが。俺は泣く子も黙るヴァルモダ様だぞ。魔王様以外は俺の前に来たら膝をつくしか無い。あんたも同じだ爺さんよぉ!」
「ならば、その力、わしに見せてみるか?」
「上等だこの野郎! 『雷廷冥皇陣』」
その瞬間、ヴァルモダの足下には魔法陣が出現した。




