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5-27『最悪の邂逅』

 勇者パーティーがダンジョン探索を開始する数刻前、とある僻地にてとある男たちが最悪の邂逅を果たしていた。

 両者共に息を呑み、そして睨み合う。

 相手の出方を伺うように、いつでも戦闘に入れるよう、魔力を練る。


 片方の男は魔王軍暗部が一人、雷使いのヴァルモダ。

 つい先刻、マナの寝顔を凝視していたところをマナ本人に見つかり、城を追い出された挙句、暫く帰ってくるなと指令と言う名の締め出しを食らってしまい、途方に暮れながら征く当てもなくただただ彷徨っていたところである。

 だが、今、彼はマナに締め出しを食らうなど可愛く思えてしまうほどの大ピンチに陥ってしまっていた。


 これほどまでにヴァルモダが今まで緊張をしたことはあっただろうかと。

 いつもふざけた様子のヴァルモダも流石に今だけは緊張した面持ちで額から冷や汗を垂れ流すのみだった。

 まるでヘビに睨まれたカエルのような気分だった。


(なんで……なんで……)


 そんなヴァルモダの眼の前に居る男は――


(なんでこんなところに賢者が居るんだよっ)


 名をエルダック・ヴォラキュリア。

 賢者が一人であり、事実上、六人居る賢者たちをまとめ上げることが出来る程の実力を持つ、初老の男だった。

 その風格はヴァルモダ程の命知らずですら身の危険を感じてしまうほどの圧倒的強者感。


 ヴァルモダをすっぽりと覆い尽くしてしまえるほどの筋肉に覆われた巨漢。その豪腕から振り下ろされる巨大なハンマーに叩き潰されてしまえば一溜まりもないだろう。


「まさか、こんなところで出会えるとはなぁ、魔族よ」


「は、はは、爺さんこそ何用でここに来たんだよ」


「ここはわしの担当区域だ。わざわざこの地に足を踏み入れたのはキサマの方だろう」


(嘘だろっ!?)


 心神喪失状態で歩いてきた場所がエルダックの眼の前とは運がないどころの話ではない。

 地獄に自分で足を踏み入れてしまったということだ。


(逃げるか? いや、そんな事ができる相手なのか? 奴は賢者だ。並大抵の奴相手だったら俺の速度で逃げられるかもしれないが、賢者相手にどれほど俺の力が通用するのか……)


 賢者は全盛期の魔王とも互角に戦えると噂されるほどの実力の持ち主たちだ。

 そんな化け物相手にただの魔王軍暗部如きが敵う道理はどこにもない。逃げようとしても、逃がしてくれるかも怪しい。

 ヴァルモダは詰んでいた。エルダックと遭遇した時点で、運命は決まってしまったのだ。


「まぁ、いい。少し困っていたところだ」


「なんだ?」


「意気込んだのは良いが、方法が分からなくてな。目的への手段は手に入れた、だが、そこへたどり着くための方法がわからん。行き詰まっていたところだが……キサマが目の前に現れた……これはわしらにやれと神が告げているのだろう」


「何がいいたい。俺もちょっと忙しいんだ。何も無いんなら、このまま帰してくれると、俺としては嬉しいんだが――」


「魔族を見逃す冒険者がどこに居る?」


「だよな」


 そう言う割にはエルダックは直ぐにヴァルモダへ襲いかかろうとはしない。

 だからこそヴァルモダも気味が悪くて仕方がないのだ。眼の前に居る化け物が何を考えているのか、何を目的としているのかが全く分からない。

 これならまだ出会い頭に巨大ハンマーを振り下ろされたほうがまだマシだっただろう。


「キサマは魔王マナ・デストラーラがどこに居るかは知っているのか?」


「……っ!?」


 まさか勇者以外から魔王の名前がでてくるとは思っていなかったため、ヴァルモダは肩を震わせた。

 それをエルダックは見逃すはずもなく、手に持ったハンマーを地面に打ち鳴らした。


「知っているんだな……」


「……知らねぇよ」


「いいや、キサマは知っているはずだ。知らぬのならば、その様な反応はしないはずであろう」


「爺さん、ちったぁ俺のことを買いかぶりすぎだぜ? 俺はただの一介の魔族だ。魔族なんてこの世界に五万と存在する。その中で、魔王様の居場所を知っているのはどのくらい居ると思うんだ? もしかして、人間というのは下位の騎士でさえ国王が今どこにいて何をしているのか完璧に把握しているっていうのか? そんな馬鹿な話あるかっていうことだ……俺はただの魔族……魔王様の居場所など知らなくて当然だろう」


「いいや、キサマは知っているはずだ。わしはキサマに出会う前にも何人もの魔族と相対し、そして同じ質問を投げかけた。いずれも同じ反応だったぞ。知らぬと、そんなことよりも殺し合いをしようと……キサマら魔族が好戦的であることは知っていたが、この様にどいつもこいつも戦いにしか興味のない連中ばかりだとは思わなんだ……そう、相手の力量も測れず、ただ闇雲に突撃してくる奴らばかりだったのだ」


 エルダックの言葉にヴァルモダは目を細めた。


「なにが、言いたい」


「キサマはあまりにも理性的過ぎる。わしの力量を推し量り、この場ではどうするのが最善か頭で思考している……他の魔族には無かった特徴だ」


(野郎ッ!!)


「キサマ、ただの魔族ではないようだな!」


 瞬間、稲妻がほとばしった。

 巨大なハンマーが目にも止まらぬ速度で振り下ろされ、稲妻がヴァルモダを襲う――だが、それをいち早く感知したヴァルモダはすぐさま背後にある木に飛び乗り、退避した。


 ヴァルモダはゾッとした。


 元々ヴァルモダが立っていた場所は黒く焦げ、元々あった緑は見る影もない。

 回避することをしなければ、ああなっていたのはヴァルモダだったのだ。


「まぁ、知らぬ存ぜぬで通すというのなら、それもよし。わしはただ、キサマの魂に直接訊くだけのことよ」


(言っても言わなくてもどうせ殺されるんだ。ならば、俺は最期の最期まで魔王様をお守りしたい)


 ヴァルモダは深呼吸し、そして覚悟を決めてエルダックへ言い放った。


「男ヴァルモダ、一世一代の大勝負。爺さんがどれほど強かろうが、魔王様を守る時の俺が一番強いんだ! あんたみたいな老いぼれなんざ、怖くねぇ! 賢者だろうがなんだろうが知らねぇけどな。魔王様に危害を加えようってんなら、この俺が始末してやんよ」


「そうか……その心意気や良し。ならば、その力を示してみせろ。魔王を護る騎士ヴァルモダよ。このわし、賢者エルダック・ヴォラキュリアにどれだけ通用するか、試してみるがいい」

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