5-26『ダンジョンクリア』
水が完全に引き、『エアーズ』を解除する。
抱えていたユイを下ろし、ほっとため息を付いた。ずっと緊張していたため、肉体的にというよりも精神的に疲れてしまった。
そこへ柱も完全にルリハとメルバードが駆け寄ってきた。二人が乗っていたはずの柱は水が引くと同時に引っ込んだらしい。
「二人共、大丈夫だった!?」
「ボクらも援護で魔法を使いましたけど、全然お二人の姿が水上からだと見えなかったんですよ」
「あぁ、ありがとう。助かったよ」
正直、二人の魔法が無ければ俺たちは為すすべ無かったかもしれない。流石は水中の王者と呼ばれる魔物なだけある。
絶対にCランクに居ちゃいけない魔物だろ。
そこにカリュブディスの亡骸が転がっている。
その巨体は家をも簡単に飲み込んでしまうことだろう。
あれを解剖して食卓にでも流せば食糧不足はかなり改善することだろう。だが、あれを食卓に流すわけにはいかない。
あれだけの巨体、あれ全てが魔素に汚染されているのだ。
もし一ミリでも口にしてしまえばたちどころに魔力回路が破壊され、魔法が暴走して死に至ることだろう。
あんなもん市場に流したら俺は犯罪者になる。
仕方がないが、放置してダンジョンに自然分解吸収させることにしよう。
「それにしても、一瞬、ユイから凄い魔力を感じたけど、あれはなんだったの?」
「え、そうなの?」
「ユイ、気づいてなかったの?」
「うん、全然……あ、でも、確かに思い返してみれば最後の一撃を放つ時、空気が上手く操れなくて苦しくなっていたはずなのに、急に苦しさが無くなって、力が湧いてきたような気がする……」
ユイは自覚していなかったのか。
多分、俺と同じでユイ本人も必死だったんだろう。そして、その必死の中で無我夢中で魔力を練った結果、思いもよらない結果に繋がったんだろうな。
でも、ユイの魔力回路はまだ未熟だ。超級魔法と同じで段々その力に慣れさせていかないと、魔力回路が暴走する可能性がある。
慌てて魔力解放を使おうとしないよう、まだユイにはその兆しを教えないほうが良いかもしれない。
魔法をもっと使い慣れていくことで、魔力解放に耐えられるような魔力回路というのが出来上がっていく。
だが、これをユイがものにすることが出来れば、賢者に誓い実力を偉えることは間違いない。
Sランク冒険者ですらその力を扱える者は少ない。
やはりユイは勇者だな。これだけの才能があるからこそ勇者としての勤めを果たすことが出来るんだろうな。
「とりあえず、これで俺たちはダンジョンガーディアンを撃破した。俺たち勇者パーティーは初めてダンジョン制覇を果たしたんだ」
「そうです! まずはそれを喜びましょう!」
「うげぇ……改めてみると、とんだ怪物ね……ユイ、あなた強くなってどんどん化け物になっていってるんじゃないの?」
「う、それは酷いよ、ルリハちゃん。私はちゃんと人間です!」
「いや、人間があんな水を割ったりするわけ無いでしょ」
「うぅぅぅぅぅぅぅ」
ルリハの苦笑にユイは顔を隠して蹲ってしまった。
ルリハの言うことは強ち間違いではないな。あの賢者たちにユイはどんどんと近づいていっているんだから。
「あ、魔法陣が出てきてますよ! あそこから地上に帰れるんじゃないですか?」
「そうだな。あれに飛び込めば真にダンジョン踏破完了だ」
今回のダンジョン探索で確信した。
勇者パーティーは確実に強くなっている。ユイだけじゃない。ルリハやメルバードもちゃんと強くなっている。
多分、今のみんなだったらマナと戦ってもいい勝負以上の戦いが出来るんじゃないかと思う。
当初の勇者パーティーを強くしてマナと戦わせるという目標が今なら達成できるというわけだ。
偶然を装ってユイたちを魔王領に案内するか? いや、でも……。
正直、俺は迷っている。
このままマナを倒すべきなのかどうなのか……。
マナを見ていると、マナ自身は戦いを望んでいないように思える。しかも、魔痕まで残るような攻撃を魔王領にぶち込まれたというのに、人間のことを好意的に思っているように見受けられる。
本当に魔王は人類の敵なのか? 本当に倒すべき敵なのか?
もしかして、人類と魔族が敵対するようになったのはなにか裏があるんじゃないかって、最近考えるようになってしまった。
ついこの間もまたマナは人間の街に遊びに行ったらしく、その報告の手紙が届いたところだ。
その文面からもとても楽しそうというのが伝わってきて、本当にマナは人間の街が隙なんだというのが分かって……。
本当に、俺はどうしたら良いのかわからなくなってきた。
マナと関わってしまったせいだ。
ユイとマナの中を取り持とうなんて考えなければ俺はこんなに悩まなくても良かったのか?
最近、色々思考がぐちゃぐちゃだ。
マナを倒すことを考えると、オルターンで見せてくれたマナの楽しそうな表情が頭に浮かぶ。
それに、魔人が最近出没しているというのも気になる。他の賢者たちはマナの仕業だと考えているみたいだけど、それは違う。
マナは魔人を生み出すなど、そんな非人道的なことはしない。
もっと別の理由があるはずだ。
俺はいったいどうしたら……。
「ハルト、来ないの? 脱出するよ」
「え、あぁ、今行く」
とりあえず、ユイとマナを引き合わせるというのは保留にしよう。
こうして俺たち勇者パーティーは初めてのダンジョン踏破を成し遂げた。
だが、俺はこの時、気づいていなかった。
もう、考えている余裕なんて無かったということに。
書いてる時、眠くて眠くて……。
文章が変になってたらすみません。




