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5-24『舐めるな』

「ぐおおおおおおおおおおおん――」


「っ、『風渦』」


 カリュブディスは身をうねらせると、その硬い鱗をまるで矢じりの様に大量に飛ばしてくる。

 水中なのに、その威力が衰えることはなく、俺たちへと一直線――だが、俺たちに直撃する前にユイが風で渦を作り出し、水流でその威力を相殺してみせた。


 水底に鱗が突き刺さっている。それはまるで針山地獄のような光景。

 あれが俺たちを襲っていたら簡単に蜂の巣にされていたことだろう。


「『ウィンドカッター』」


 お返しとばかりにユイも飛び道具で対抗。

 だが、初級の魔法など、カリュブディスの硬い外皮の前では無力だったらしい。カリュブディスに直撃したが、霧散してしまった。

 あの巨体だから的はデカい。だけど、その的が以上なくらいに硬いのだ。


「――なら、『風突』」


 突きの構えを取ると、剣に風の渦のようなものを纏わせる。

 それが一気に放たれた――ユイが剣を突き出すと、その渦はまるで巨大な槍のように伸び、カリュブディスの巨体を狙う。

 大量の風の斬撃を集約させ、風の槍のようにして打ち出す、中級の風属性魔法だ。武器を持って槍を突き刺すイメージが強ければ強いほど威力が増す。


 ――ドスンッ


「はぁ……はぁ……浅いですね」


 さっきユイが放った『ウィンドカッター』よりも確実に威力は高かった。

 だが、それでもカリュブディスの鱗に少し傷をつけただけだった。しかし、そんなカリュブディスに更なる攻撃が襲った。


「『ホーリーレイン』」


 大量の光線が地上から降り注ぎ、水の中で乱反射してカリュブディスを襲う。

 光属性の初級魔法『ホーリーレイン』。使用者はルリハだ。

 火属性魔法では水の中に居る相手に有効打を与えることが出来ないから、代わりに光属性で援護してくれている。


 正直、あれはカリュブディスに大したダメージにはなっていないことだろう。

 でも、魔法が直撃していることで少しではあるが、カリュブディスの動きが鈍っている。


「もう一発――『風突』」


 炸裂するもう一発の槍。

 突の威力は斬よりも一点集中な分、硬いあいつの外装を突破しやすい。


 直撃。すると、ついにカリュブディスはよろめいてみせた。

 見てみると、小さいが、確実に鱗にヒビが入っていた。同じところを攻撃したことによってダメージが蓄積されたからというのもあるが、一発目よりもユイの『風突』の精度が上がっている。

 一発目を撃ったことによって二発目のイメージというものがより強いものになったということか。


 あそこに更に攻撃を加えれば鱗を破壊して柔らかい身が見えてくるはずだ。


「ユイ、もう一発!」


「はいっ、行きます――」


 もう一発構えるユイ。

 だが、仮にもランク詐欺と呼ばれているカリュブディスだ。そう簡単に終わるはずもなかった。


 カリュブディスが大口を開け、叫び狂った。

 まるで爆音。耳をつんざくような、この世のものとは思えないほどの声。

 一瞬、何も聞こえなくなった。世界が無音になったと錯覚した。


「聴覚が……平衡感覚が……」


 聴覚というのは平衡感覚を司っている感覚でもあったりする。

 そのため、これが壊れてしまうと、平衡感覚が壊れてしまう。


 ――まともに泳げない。

 今の俺はいったいどの方向を向いているのか、上なのか、下なのか、全くわからない。

 分かることと言えば、俺の真横に居たはずのユイが力なく水底へ落ちていきそうになっているということ。

 平衡感覚が狂ったせいでまともに風も維持できなくなってしまったようで、ユイの周りにあった風の幕というものも見当たらない。


 このままだったらユイは溺死する――


「がふっ」


 俺も俺で平衡感覚がおかしくなっているんだが、なんとか気合で『エアーズ』を維持する。

 これがカリュブディスのあがきって言うことか。確かに普通の奴らだったらこんな事をされたら為すすべ無く溺れ死ぬことしかできなくなるだろうな。


 舐めんな。

 こちとら世界最強の一角である賢者の一人、カルマ・エルドライトだぞ。

 お前なんかとは比べ物にならないほどに強い相手と戦ってきたんだ。今更お前に遅れを取るような真似をすると思うなよ。


「俺を、食おうっていうんだな。なら、食われることも覚悟しろよ」


 俺に迫ってきたカリュブディスへ『喝』をぶつける。

 こいつに対しての効果は薄いが、それでも賢者の圧だ。ちょっと位は怯んでくれないとこっちが困ってしまう。

 カリュブディスの動きが一瞬止まったのを確認し、俺は慌ててユイへ手を伸ばす。


 落ちてゆくユイの口に手を当て、『エアーズ』を発動。ゆっくりゆっくりとユイの口の中に空気を送り込み、人工呼吸をする。


「ハルト君」


「大丈夫か? 動けるか?」


「はい、ご心配をおかけしました……」


 一応大丈夫そうだ。

 空気を入れると同時に肺に入ってきていた水は空気で掻き出した。これでとりあえずは大丈夫だろう。

 再びユイは風をまとったため、俺はユイに使った『エアーズ』を解除。ユイが風をまとっている間は自分で呼吸できるはずだ。


 合わせてユイに『身体強化(ブースト)』を付与。


「お前がどれだけ強かろうとな、こっちは勇者パーティーなんだよ。舐めんな」


「ちょっと、音が聞こえるようになってきました。平衡感覚も戻りつつあります」


「あぁ、俺もだ。ユイ、やれるな?」


「はい、まだやれます」

 次回カリュブディス戦終了?

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