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5-23『襲来』

5-23『襲来』あとがき有り

 階段を降りるとそこは真四角で無骨な石造りの部屋だった。

 水辺という水辺は存在しておらず、ただただ神殿の内部のような造り。この造りならばロックゴーレム的な奴がダンジョンガーディアンだって言われた方がしっくり来るというもの。


「あれ、ガーディアンはカリュブディスじゃないんですかね?」


「――っぽいけど……怪しいわね」


「はい、カリュブディスじゃないとしてもダンジョンガーディアンの姿が見当たりません」


 そう、本来ダンジョンガーディアンというのはボス部屋に鎮座しているものなのだが、どこにもその姿が見当たらない。

 先に来ていた冒険者が撃破したのか? なら、最奥に帰還の魔法陣があるはずだ。

 それもないとなると、あるいは――


「みんな!」


 ユイの声が響く。

 突如として部屋中に息が詰まるほどの魔素が溢れ出した。その直後、天井の四辺から大量の水が流れ出し、部屋中を大量の水で満たし始める。

 同時に地面のいくつかの石タイルが淡く輝き始め、それがまるで柱のようにせり上がっていく。


 瞬間的に理解した。

 これからこの部屋は水で埋め尽くされる。そしてこのタイルがせり上がって出来上がった柱は恐らく俺たち用の足場だ。


 つまり、ヤツが来るっ!


「カリュブディス!」


 弾かれるように天井を見上げた。ヤツが現れた。

 天井に突如出現した巨体は溜まってきていた水の中に勢いよく着水。天井にまで高く上がるほどの大津波が形成され、柱の上に退避していた俺たちは為すすべ無く水中へと引きずり込まれてしまった。


 ――マズイ。水中はカリュブディスの独壇場。ヤツのテリトリーだ。


 早く『エアーズ』を使わなければ。


「んがっ」


 魔法を使おうとした矢先、巨大な影が猛スピードで迫ってきているのが見え、俺は慌てて『守護(プロテクション)』を発動。

 突進してきたカリュブディスの巨体を受け止める。


「ふぐぅっ」


 何というパワーだ。流石は水巨獣と言ったところだろう。

 こいつ、知性がある。さっき俺とメルバードに逃げられたのは俺のせいだって理解しているんだ。だから、最初に俺に狙いを定めてきた。

 でも、俺に最初に狙いを付けてきたのはありがたい。他のみんなが水上に避難する時間を作ることが出来る。


 ――『エアーズ』

 先ず水中での活動を可能にする。それと同時に『身体強化(ブースト)』も重ね掛けした。


「おい、お前。お前は水中だったら最強だなんて思ってたりしないか? 俺たち冒険者をナメるんじゃねぇぞ『豪(イン)――」


「『風牙(ふうが)の剣(つるぎ)』」


 俺が拳を放つ前に真上から鉄球の様な気泡の塊がカリュブディスへ落下し、そのまま水底へとカリュブディスを落としてしまった。

 魔力を集め始めていた俺の拳は一体どこへぶつければ良いのだろうか。行き場の失った『豪拳(インパクト)』を眺め、解除する。


 もちろん気泡の塊というのはユイだ。

 ユイは風をまとって戦うという性質上、ユイの周りには空気の層――気泡が出来上がる。

 偶然ではあるが、そのお陰でユイは水中でも呼吸が可能となっているようだ。


「ハルト君、大丈夫ですか!?」


「あぁ、大丈夫。助けてくれてありがとう」


「いえ、仲間を助けるのは当然ですから」


 眩しい――一瞬、俺の活躍の場をかっさらわれたとか思ってしまったのが恥ずかしく思えてしまうほどの眩しい笑顔。

 俺は醜いゴミです。どうかその聖なる剣で俺の首をぶった切ってください。


「えっっと……手を広げてどうしたんですか?」


「……そんなことより、カリュブディスはまた来るぞ」


「え、えぇ……まぁ、良いですが……」


 俺の浅ましい考えはユイに知られてはならない。

 本来は地上にあがるのが好ましいが、そんな隙を与えてくれるとは思えない。地上に上がろうと背を向けた瞬間、ぱくりといかれてしまうことだろう。

 水底が薄暗くて見えない。カリュブディスがどの様に泳いでいるのかもわからない。


 今の気分はアリの巣地獄にハマった獲物の気分だ。


「ユイっ」


「え、ひゃあっ」


 突如として真横に出現した巨大な大口。その中へ向かって凄まじい勢いの水流が出来上がる。大渦の中に飲み込まれているのだ。

 そして、この渦の終着地点はヤツの腹の中。

 こんなところでカリュブディスに食われて一生を終えるなんて嫌だぞ、俺は。


「俺を簡単に飲み込めると思ったら大間違いだぞデカブツ野郎!」


 今度は遠慮しない。全員臨戦態勢で構えているだろう。

 だから、今度の一撃は手加減皆無。これが原因で大津波が発生しようが構わない。


「テメェは大人しくこの一撃でも受けてへばってろ! 『破壊の一撃(デストロイヤー)』」


 態と水流に飲み込まれ、一気にカリュブディスへ接近。

 そこで俺の拳が炸裂した。

 回避する間も無く、俺の拳が直撃したカリュブディスの鱗は確かに砕け、柔らかい肉を露出させるに至った。

 だが、どうにも手応えが薄い。


「――っ、この水はまさか魔封じの水っ」


「ホントですか!?」


 この濃い瘴気によって気がつくのが遅れてしまった。

 部屋に満たされたこの水はただの水ではなく、入った人間の魔力出力を弱くする効果がある魔封じの水だ。

 本来はこの水にも魔素が含まれていて、直ぐに気付けるんだが、カリュブディスの瘴気が濃すぎて気がつくことが出来なかった。


 でも、今の一撃で拳への負担というのは小さく感じた。メルバードから貰った指輪の影響がでているのだろう。

 本当にありがたい限りだ。


「ハルト君、びっくりしました。心臓に悪いですよ」


「悪い。でも、今はこれが最善だと思ったんだ」


「いえ、わかっているので大丈夫です。それよりも、想像以上に硬いみたいですね」


「あぁ、まるで鉄板でもぶん殴ったかのような感覚だ。その上、魔力出力を小さくされた状態で倒さなければいけない。なかなか厄介だな」


「魔封じの水ですか……ですが、安心してください。私は影響を受けていません!」


「どういうことだ?」


「だって、私は風をまとっていますから。水が体に触れていないんです」


「なるほど、でかした!」


「へへへ」


 それなら魔力出力を落とさずに攻撃することが出来る。

 つまり、ユイのサポートが俺の役目ということだな。


 やっと俺の役割というものが見えてきた。

 というわけでついにカリュブディス戦が本格的に始まったわけですが、魔人戦程は長くならない予定です。


 というか、これが初めてのまともなダンジョンガーディアン戦ですね。


 まぁ、カリュブディスもイレギュラーボスなので、これがまともかと言われたら自信を持てないのですが、作者の僕がまともだと言ったらそれはまともなんですよ。


 ちなみにカリュブディスはこの五章の中では中ボスです。

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