5-17『逃げた先は――』
ドシーン。
俺たちは落ちた。穴を通り抜け、その先に逃げようとしたところ、突然水が無くなり、重力に従って地面に叩きつけられてしまった。
「はぁ……はぁ……ここは……それに俺たち落ちて来たよな? なんで水が――いや、ダンジョンだし、空間が歪みに歪んでいるせいか」
空間が歪んでいるから水が何もない場所でせき止められているということもなくはないだろう。
天井を見上げてみると、確かにそこには俺たちが落ちてきたと思われる水が詰まった穴が見えた。
だが、そこから水滴一つ落ちてくる様子が無い。本当にダンジョン内では不思議なことが起こるものだ。
でも、これで一安心だ。
ダンジョンの入り口以外でダンジョン内の空間が歪んでいる場所と言えば一つしかない。
「は、ハルト……ここは?」
「ここは恐らく六層よりももっと下に位置するセーフティーエリアだ。結構長い穴を通ってきたから六層の下に位置するセーフティーエリアではないだろう。おそらくは九層の下のセーフティーエリア。このダンジョン最後のセーフティーエリアだ。この先がおそらくボス部屋になっている」
このダンジョンは全十階層。その中で、三層、六層、九層の三か所の下にセーフティーエリアが存在している。
となれば、考えられるのは九層の下のセーフティーエリアしかないだろう。
「とりあえず、ここなら安心だ。魔物に襲われる心配もない。カリュブディスが追ってくることもない」
「――え、カリュブディスって階層をまたいで追って来るんですか!?」
「あいつはダンジョン内の水辺だったら自由に移動できる。逃げるために下の階層に行ったらカリュブディスが追っかけてきてそのまま殺されたっていうのは有名な話だが」
「こわっ」
だから本当にあいつがいるダンジョンは凶悪なんだよ。
しかも、Cランクだからと言って必ず毎回居るというわけじゃない。今回カリュブディスが居たのは俺たちの運が悪かったというだけの話だ。
ひとまず水中に引きずり込まれた状態でカリュブディスから逃げ延びた幸運に感謝しよう。正直、あんなところに階層の穴が開いてなければ俺たちは逃げられたか怪しいレベルだったしな。
「とりあえず今日はもう疲れた。あのまま六階層を突破出来たらセーフティーエリアで休む予定だったし、とりあえず今日は俺たちはここで休むことにしよう」
「ユイさんたち大丈夫でしょうか……」
「ユイもルリハも強いし大丈夫だろう。それに、カリュブディスは俺とお前を食い殺すのに必死だったっぽいし二人は大丈夫だ」
とりあえず、俺とメルバードの安否については手紙でユイたちへ報告し、互いにそれぞれセーフティーエリアで今日は休むことにしよう。
こういう時、念じるだけで相手に届けることが出来る手紙というものは便利なものである。
遠くに居ても意思疎通できるというのは素晴らしいものだ。
「すみません。ボクのせいでハルトまでこんなことになってしまって……こんなことならボク一人で巻き込まれて死ねば――」
「よかった、なんて口が裂けても言うなよ。お前を大切に思っている奴だって居るんだ。ユイとかルリハとかはお前を大切な仲間だって思っている。あいつらが聞いたら悲しむぞ」
「――は」
「あ?」
「ハルトは、どう思ってるんですか?」
「俺ももちろん大切な仲間だと思っている。だから二度と自分だけ死ねばよかったとか、思っても口にするなよ」
「はい……」
こいつ、妙にしおらしいな。
確かに、こうなったのはメルバードがしくじったせいというのは否定しきれないが、冒険者である以上、こうなる可能性はあったんだし、そこまで責任を感じる必要は無い。
それに、ここ最近、こいつと関わって分かったことだが、自己評価というのが異様に低いように思える。他人に褒められて過剰に喜ぶというのもその表れだ。
自己評価以上に褒められているから過剰に喜んでいるんだ。そして、ミスをしたら過剰にへこむ。
俺はいつも通り、俺を煽ってくるようなメスガキなメルバードの方が接しやすいんだけどなぁ。メルバードの見た目が妙に幼いせいでしおらしいと余計に少女と話している感が強くなってどう接したらいいのかわからなくなる。
「はぁ……とりあえず脱げ」
「――え、ど、どういう、え、そう言うことですか!? 助けたんだからお礼に体を差し出せって!?」
「はぁ? お前何言ってんだよ」
「た、確かに人間は生命の危機に陥ったら性欲が強くなるって言いますもんね。こ、この状況に陥ったのはボクの責任ですから仕方がないです。ボクが嫌だって言っても抵抗してもその力強い腕で押さえつけて「騒ぐな」って口をふさがれるんですね。――そしてボクが抵抗できない状態のままゆっくりとボクの未成熟な体を弄り、楽しむ気なんですね。わかります、は、ハルトも男の人ですから、そうなってしまうのは仕方がないです。そして、ひとしきりボクの身体を楽しんだ後は、その猛々しい逸物でボクの身体をめちゃくちゃに――ボクは必死に抵抗するんですが、ボクのか弱い肉体では抵抗することも叶わず、ボクはハルトの性処理道具にされ、ここで一生を過ごすことになるんです……いやぁ、ケダモノ!」
「…………お前、妄想たくましいな」
こいつ、初心なくせしてだいぶむっつりらしい。
肩を抱いてくねくねしながら言っているところを見るにまんざらでもなさそうに見えてしまうのだが、あいにく俺はそんなことをするために服を脱げと言ったわけではない。
「はぁ……水の中に入って服濡れただろ。そのままだと風邪ひくから服脱いで乾かせっていうことだ馬鹿」
「――え、あ、そういうことですか。ボクはてっきりハルトに手籠めにされるのかと」
「お望みならそうしてやるが?」
「いやん、ケダモノ!」
なんだか元気が戻ったようで安心したようなうざったい様なで複雑な気分だが、この調子なら心配はいらないだろう。
「はぁ……馬鹿言ってねぇで早く脱いで乾かせ。見ないようにするから」
「わ、わかりま――って、なんでハルトも脱いでるんですか!?」
「いや、俺も濡れたし、ついでに乾かそうかと」
「で、でも、ここにはボクも居るんですよ!?」
「スペースがここしかないんだから仕方ないだろ。うだうだ言ってないで早く服乾かせ。焚火も用意してやるから」
どうしてこうなったんだろうな。
とりあえず無事に逃げきれて安心できたが、メルバードと二人きりというのはある意味で落ち着けなさそうだ。
それに、俺もちょっと正気ではない。
乾かさないといけないという冒険者判断で指示を出したが、正直年頃の女子と裸で二人っきりという状況にドキドキしてしまっている俺も居る。
とにかく冷静に、気を落ち着かせて服が乾くまで待たないと。
持ってくれよ、俺の心臓、俺の理性。




