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5-12『女たらしクソ野郎』

 食事を俺たちは更にその先の階層、四層へと向かう。

 一先ず、今日のところは六層の先にあるセーフティーエリアまで一気に進んでしまうつもりだ。そこでとりあえず野営をする。

 流石にCランクダンジョンを一日で踏破できると思うほど驕っちゃいない。


「凄いです。見てくださいこの一面の海! ボク初めて海って見ました!」


 メルバードのはしゃぐ声がダンジョン内? に響く。

 いや、これはダンジョン『内』って言って良いのかがわからんが、今俺たちの視界に映っている光景はどこまでも真っ青な雲一つ無い快晴の空、白い砂浜、青い海。まさにビーチといった雰囲気の場所だ。

 普通に海水浴とかが出来てしまいそうだ。これがダンジョンだと言われなければ決して気がつくことが出来ない。


 でも確かに感じる魔素の気配。

 間違いなく魔素によって空間が歪められて出来上がった空間と言えるだろう。


 そしてこういった海の世界で警戒しなければいけないのはもちろん、水中に潜む魔物だ。

 俺たち人間は水中で高速移動出来るようには作られていない。だから、水中で魔物に見つかってしまったら一巻の終わりと言っても過言ではない。


「凄いです。こんなにも水が大量にあるんですね!」


「ちょ、おいメルバード海に近づきすぎだ」


 好奇心旺盛なメルバードは砂浜の道から逸れ、海に近づいていく。

 確かにここは海だが、ダンジョン内であるということを忘れてはならない。一瞬の判断が生死を分けることだってある。


「メルバード、伏せろ!」


「ふえっ!?」


 反応が遅れてしまったメルバード。俺はメルバードの手首を掴んでユイたちのほうへと投げ飛ばすと、その先に居る奴へと突っ込んでいく。

 まるで冒険者が海に近づく事を待っていたかのように、メルバードが海に近づいたタイミングで海から飛び出してきたのはグレイフィッシュ。


 歯は無いが、人間くらいだったら軽く丸呑みすることが出来るほどの巨体を持っている海のトラップモンスター。

 こいつは戦闘力が無いため、戦うことはせず、不意打ちでこうして人間を襲って食らう。

 体液には人を麻痺させる効果があるから、飲み込まれたら自力で脱出することは不可能だ。


「海の魔物だったら、これが効くよな! 『激雷』」


 雷を纏わせた拳をグレイフィッシュの顔面に叩きつけた。

 だが、流石の防御力。『激雷』の攻撃力では一撃での討伐に至らなかったらしい。だが、それでも海の魔物ということもあって雷によって丁度良く気絶してくれた。

 ドシンと音を立て、その場に倒れるグレイフィッシュ。


 今のはちょっと焦った。

 グレイフィッシュに飲み込まれなんてしたら救出したとしても体液の解毒の為に一度街へ帰らなければいけなくなる。流石にそのままにはしておけないからな。


 倒れたグレイフィッシュを眺める。

 正直、このグレイフィッシュは生臭くて食えたもんじゃない。というのも雑食なせいだろう。

 こいつは食えるもんなら何だって食う。そのせいで体に魔素も溜まりやすく、身は食べても大丈夫だが魔素の影響で渋くなっている。


 昔、好奇心でこいつを喰った時は今でも後悔している位だ。


「それじゃあ、私がとどめを刺します」


「いや、別にいいだろ。もう気絶してるし、俺たちの目的は魔物の討伐じゃなく、このダンジョンを踏破することだからな」


「そうですか?」


 剣を抜こうとしていたユイを静止する。

 倒さないと脅威だっていうんならまだしも、あれなら俺たちが討伐しなくても魔物の共食いにやられるか、他の冒険者に狩られるだろう。余計な体力を使うものじゃない。


「あんまり勝手に動くな……カバーできなくなる」


「すみません……」


「ったく……」


 始めてみた海に興味が湧くのは分かるが、ここがダンジョンだということは忘れてはならない。それを思い知らされる洗礼だった。

 でも、そんなに海に興味があるんなら、今度みんなで一緒に海に行っても良いかもしれない。今の時期だったら水浴びをしてもあんまり寒くはないだろうし。


 ちらりとメルバードへ視線を送ってみると、なにやら俺が掴んだ手首を頻りにさすっている様子だった。

 もしかして痛かっただろうか? 確かにあの時は咄嗟だったから力加減が上手く出来ていた自信は無いし、結構乱暴に投げてしまったから体を痛めてしまっていたとしてもおかしくない。


「メルバード、大丈夫か? さっき乱暴に投げたから、どっか痛めてないか?」


「へ? いや、どこも痛めてません」


「それなら良いが……手首をさすってどうしたんだ? やっぱり痛めたんじゃないか?」


「へ? あ、あぁぁぁぁぁっ、いや、その、えと、違うんです。これは違うんですよ。別に痛めたわけじゃなくて――」


「いや、隠す必要はない。これから更に深くまで行くんだからな。体のケアは大切なことだ。痛いところがあったら見せてくれ。応急処置だが『治癒(ヒール)』を施してやる」


「いいい、いえ、本当に、本当に痛いところはないんですよ!」


「俺とお前は遠慮するような仲じゃないだろ? そんなに隠すんなら後で罵倒されること覚悟でお前の体をくまなく調べてやるぞ」


「そんなことしたら本気で爆破しますよ!?」


 どうしてそんなにも隠そうとするのだろうか。

 冒険者にとって少しの傷でもで命取りになる可能性がある。応急処置くらいならしておきたいところなんだが、なんでこいつはそんなに意地を張って――


「け、怪我をしたとかじゃなく、その……ハルトも男の人なんだな、と――何恥ずかしいこと言わせてるんですか!?」


「いや、まぁ、俺は男だが」


「そうじゃなくて、その、女の子とは違うというか、力強く筋肉質な手だったのでびっくりしてしまって」


「え、あぁ、悪い。無遠慮に触れてしまったな。申し訳ない」


「別に謝られることではないんですが、助けてもらいましたし。でも、その……ボク、男性と関わったことってほとんど無くて……それこそハルトが唯一レベルなんですが、その耐性が無くて」


「そうなのか? その割にいつも俺に無遠慮でからかってくるだろ」


「あれは、その……そうでもしないと恥ずかしくなってしまいそうでしたから」


「……お前、意外と可愛い所あるんだな」


「うるさいですよハルト! その口を今すぐ縫い合わせてあげますからこっちに来てください!」


 つまり、いつもの俺への態度は照れ隠しだったと……意外と初なんだな。

 とはいえ、俺も俺で人のことを言えるほど女性と関わったことというのは無いわけだが、一先ずメルバードが怪我をしてしまったわけではないようで安心した。


 なんだかルリハとユイの二名にジト目を向けられているような気がするが、ここは気の所為だと思っておこう。

 別に俺は二人にジト目を向けられなければいけないことはしていないからな!

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