5-11『メルバードの夢』
「お前、自分が何を言っているか分かってんのか?」
古代魔道具――それは人類の叡智の結晶と言えるこの世で最高位の魔道具のことだ。
名前から分かるように大昔に作られたもので、その殆どの行方が今もわかっていない状態。どのくらいの数がこの世界に眠っているのかも不明だ。
効力も今の魔道具と比べたら圧倒的で、中にはこの世の概念すらも覆しかねないほどのものもあるとか無いとか。
俺も生で古代魔道具を何度も見たことがあるわけじゃない。一般人なら尚更、そうそうお目にかかることが出来るものではないだろう。
そんな大層なものを、今こいつは作りたいと言い出したのだ。
無謀にも程がある。
「今の時代、古代魔道具並の魔道具を作り上げる技術は失われてるんだぞ。お前、どうやって作る気だよ」
「それはまだノープランです」
「ノープランってお前なぁ……」
「でも、出来ないことだって考えたらそこで終わってしまいますから。ボクは魔道具制作でトップを取りたいんです。そしていずれは賢者になってみせます」
「……それはそれは」
これまたとんでもないことを言い出したな。
確かに古代魔道具を作り上げたりなんかしたら賢者くらいにはなれるだろうが、メルバードが今言っているのはあの空に浮いている雲を手で掴みたいと言っているようなものだ。
正直、俺の目から見ても夢物語にしか思えない理想。
多くの現代天才魔道具技師が古代魔道具と同等の魔道具を作り上げようとして失敗に終わってきた。
無責任にお前だったら出来ると言えるような領域ではない。
「でも、ボクにはアドバンテージというものがあります」
「それは?」
「ユイさんの剣です!」
「私の?」
「そう、ユイさんの神剣『リリウム』は武器というカテゴリーではありますが、分類上は古代魔道具とされるものです。昔の人が魔王マナ・デストラーラを討伐するために作り上げた叡智の結晶とも呼べる代物なんです。ですから、その剣には古代の人たちの血と汗と涙がたっぷりと詰まっています。技術ももちろん詰まっています。これを間近で見ることが出来るっていうのは勇者パーティーに属している僕の特権って言えるんじゃないでしょうか!?」
「……逞しいな、お前」
「それが取り柄ですから」
決して壊れない、誰も攻撃することが出来ないマナの魂を切り裂くことが出来る剣。確かに現代人では絶対に作り上げることが出来ない古代魔道具だ。
しかも、使い手を選ぶというのが異能感を高めている。
間違いなくあの剣には魂が、職人たちの魂が宿っているんだ。
「絶対に作ってみせますよ。ボクがこの手で、神をも殺すことが出来るような究極の古代魔道具を!」
「これは随分と大きく出たものだ」
現存する古代魔道具ですら神殺しが可能なものはそうはないだろう。
まぁ、それをメルバードが作って見せるっていうんなら見てみたいものだな。
「ボクはボクの力を全世界に知らしめるんです。お姉ちゃんじゃなくボクを見ろって、ボクの力を見ろって。なんだか、勇者パーティーを利用する形になってしまって申し訳ないんですが、ボクの旅の最終目標はそこなんです。ボクの人生のゴールはそこなんですよ」
「そうか……ま、勇者パーティーを利用することに申し訳なく感じてんなら、ユイたちは気にしないだろうし、お前も気にしなくていいと思うぞ。だが、お前の人生のゴールはそこでいいのか?」
「……? どういうことですか」
「いや、折角でっかくでたんだからもっと上を目指さないのかっていうことだ。そこで満足していたら成長はそこで止まってしまうからな」
何人もそういう人は見てきたし、俺もそのタイプだ。
賢者になった時点で俺の冒険者としての成長は止まってしまったんだ。
「これは一本取られましたね」
苦笑するメルバード。
こいつ、普通にしていたら美少女なんだけどなぁ。一旦悪ガキモードが入るとどうしてああまで面倒になるんだろうか。
しかも俺限定だ。
軽くため息を着き、そこでメルバードとの会話を打ち切る。
メルバード・ユーシェンか……。
ユーシェン。初めて名前を聞いたときから気づいていたことだが、メルバードはフーズさんの妹なんだろう。
姉が賢者……俺は長男だったし、俺が賢者だったからその気苦労は分からないが、メルバードの口調的に劣等感を覚えていたんだろう。
賢者であるということもあり、世間はフーズさんの方を見る。そうなると、フーズさんの妹ということでメルバードも期待されるうわけなんだが、メルバードがしてほしい期待っていうのはそうじゃないはずだ。
一度、メルバードが魔道具を作っている現場を見たことがあるんだが、本当に楽しそうなんだ。
メルバードが見てほしい自分の姿というのは魔道具技師のメルバード・ユーシェンだ。決してフーズ・ユーシェンの妹のメルバード・ユーシェンではない。
そのために努力する人、俺は嫌いじゃない。
「お待たせしました。お食事が完成しましたので、お昼にしましょう!」
そこでユイの料理も完成したらしい。
想像通り、スープとグレートボアのステーキ。
ユイの料理は今までダンジョン探索で何度も食べたことがあり、どれも外れたことはないから味の心配はしていない。
ステーキからは香ばしい食欲を刺激する香りが立ち上っており、スープからは魅惑の白い煙が上がっている。
ダンジョン内は基本、気温が低いせいか、長時間ダンジョンに潜っていると低体温症になる人も少なくなく、その免疫が下がった状態で魔素に当てられると魔素酔いや魔素中毒になる人もいる。
ダンジョン内で温かい物を食べられるのは本当にありがたい。
一先ず今はダンジョン探索の事を忘れ、体を休ませつつ、ユイの絶品料理に舌鼓を打った。




