5-8『第二層へ』
「ユイ、今爆発に巻き込まれていたけど大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ。この通り!」
むんっと力こぶを見せ、元気をアピールするユイ。
「二人が帰ってくるまで、私とメルちゃんで練習したんです。この技を使う度に爆発で大きな傷を受けていたら本末転倒ですから。最悪、私が死にますよ」
あははと笑うユイだが、全く笑い事ではない。俺とルリハは心臓が口からこぼれ出そうになっていたほどだ。
「自分に風の鎧を爆発のタイミングに合わせて纏わせることによって爆風を相殺したんです! 見てください、私にはもちろん、私の鎧にも傷一つ着いていません!」
「ほんとね……でも、この爆風を完全に防げるほどの鎧って言ったら、かなりの魔力を消費するんじゃないかしら?」
「そうなんだよ……だから、これは何回も出来ることじゃない、奥の手!」
奥の手をこんな浅い層で使っても良いのかよというツッコミは野暮だろうか。
でも、ユイは俺と引けを取らないほどに魔力出力が苦手だったと記憶しているんだが……いや、違うか。
魔力出力が苦手だからこそ風の鎧に魔力消費が大きくなってしまっているのか……。
でも、大雑把な魔力出力のお陰で過剰に身を守ることが出来、爆風を完全に防げている。これが良いことなのか悪いことなのか……。
魔力操作を完璧に出来るに越したことはないが、完璧に出来るようになったことによって難しくなることだってある。
「むむむぅ……私が考えた技なのに、ユイさんばかり褒められていてモヤッとします」
「そんな事無いぞ。お前が考えなければ誰もリリウムを爆発剣に変えるっていう発想はでなかったんだから、お手柄だ」
「え、えへへ、そ、そうですかぁ〜?」
「それに、お前の魔道具にもいつも助けられてる」
「も、もう、事実でも照れるじゃないですかぁ。ハルトの癖に私のことよく分かってますね♪」
適当におだてておけばこいつは大人しくなる。
まぁ、メルバードも強くなっていることは間違いないからな。全てが出任せというわけではない。
「ハルトもメルの扱い上手くなったね」
「はい、二人共仲が良さそうですね」
「いや、仲が良さそうっていうか……いつか背中を刺されそうな感じ」
「それってどんな感じなの?」
「端的に言うと……女たらし?」
「まぁっ!」
「んなわけあるかぁっ!」
失礼なことを言わないでもらいたい。
俺は過去にも一度たりとも女子をたらしこんだことはないぞ。
そんなやり取りをしつつ、更に俺たちは先へ進んでいく。
前回はたどり着くことすら叶わなかった第二階層。その階段がようやく見えてきた。
この階層は茂みが多いから、身を隠しつつ行動しやすいため、体力を温存してここに来ることが出来た。
長期間のダンジョン探索を考えていた場合、体力の温存は非常に大事である。
特に、Eランクダンジョンならまだしも、Dランク以上のダンジョンを攻略しようと考えた場合、大概は日をまたぐことになる。
あんまりずっと戦い続けていたら、最深部にたどり着く前に魔力切れを起こして魔物の餌となるだけだ。
「この下に行ったらもっと強い魔物がいっぱい居るはずです。ランクアップしたからと言って驕らずに、気を引き締めて行きましょう」
その一声に全員で頷き、階段を下りてゆく。
元々ここはCランクダンジョンで、魔素はそれなりに濃いダンジョンではあるが、やはり降りていけば行くほどに魔素が濃くなっていくようで、階段を降りるたびに魔素の腐海へと降りていくような感覚がある。
この魔素が魔物にとってのエネルギーの源だ。これが濃ければ濃いほど、そのエリアの魔物は強くなる。
慎重に一歩一歩階段を下り進め、ついに最下段へ到着。
第二層へと侵入した俺たちの視界に広がっていたのは一面に生い茂る木々、深い深い森と言った様子のエリアだった。
「さっきの草原エリアもすごかったですが、ダンジョンの中にはこんなにも気が生い茂っているエリアもあるんですね。なんだか私、森の雰囲気好きなんですよ――」
「触るなっ」
言って、ユイが近くにあった木に手を触れようとしたため、俺は咄嗟にユイの手を取って阻止した。
危なかった。
「ダンジョンの木々は所詮ダンジョンの産物だ。地上の木とは違って魔素をエネルギーとして成長している。いわば、魔物と一緒だ。生ある人間が手を触れたら生気を吸い取られるぞ」
いわゆる木の魔物、トレントとはちょっと違う存在なんだが、ダンジョンの木――とりあえず魔樹とでも呼んでおこうか――は触れた人の生気を吸い取る厄介な木だ。
しかも切っても切っても魔素がある限り復活し続けてしまう。
だから倒そうにも倒せないんだ。
「よくそんなことを知ってるわね」
「あ~……昔文献で読んだんだ」
「ふ~ん」
咄嗟の事でついカルマとしての知識を披露してしまったが、ハルトとしての俺はつい昨日Bランクに昇格したばかりで、それまではDランクだったんだということを忘れかけてしまっていた。
ルリハにはカルマじゃないかと疑われているから、これ以上ぼろを出すと危ない。
「そ、そーだメルバード。索敵系の魔道具って持ってたりしないか?」
「ん? 一応ありますが」
「じゃあ、ここからはそれを使おう! ここは森だからな、もしかするとどれかの木にトレントが擬態しているかもしれない! お前の出番だメルバード」
「つ、ついに私の出番が!?」
目をキラキラと光らせるメルバードを見て内心ほくそ笑む。
「そうだ、お前しか頼れる奴は居ない」
「よ、よーし、頑張っちゃいますよぉっ!」
一応俺もトレントの擬態を見破ることは出来るんだが、ここはメルバードをおだてて場をかき乱してもらうことにしよう。
とりあえず俺が謎に知識豊富ということを有耶無耶にするんだ。




