5-5『降って湧いたようなご都合魔道具』
某所、教会にて賢者たちがまたもや集まっていた。といっても、いつも通り、ゼルドガルとネムナは招集に応じることはせず、二人は欠席。
エルダックが呆れるという結果になっていた。
「それにしても、招集の頻度高くありませんか? ちょっと前にも会議をやったような」
「そうだな! いつもと比べて頻度が高い! まだ二か月くらいしか経っていないぞっ!」
賢者たちが集まるというのは早々あるものではない。
そのため、この高スパンで賢者たちが招集されているというのは異常事態と言える。そのため、フーズもサックドも困惑しているのだ。
そんな二人の問いにエルダックは腕を組み、ただただ岩のごとくその場に存在しているだけだった。
ゼルドガルがやる気を出さない今、実質エルダックが賢者のトップで、リーダー的存在を努めているため、エルダックがみんなを招集している。
そして、賢者を招集したということはなにか重要な話があるということなのだろうと察しが着くが、全然話し出さないことからサックドはやきもきしていた。
「おい、エル爺さんよぉ。早く俺たちを呼んだ理由教えてくれ! 俺たちも暇じゃないんだっ!」
「……今回、お前たちを招集したのはわしではない」
「なに!?」
突然のエルダックの告白に困惑するサックド。フーズもどういう事かと目を白黒させた。
「わしはただ、招集しろと頼まれたから招集したまでだ。今回の話の内容に関してはわしもまだ知らされていない」
「なんだそれは! エル爺が来いといったから俺は来ただけだ! エル爺が用がないなら俺は戻らせてもらう!」
「ちょ、サックドくん」
フーズの静止も効かず、サックドはただ一人帰ろうとする。
だが、そこでもう一人、教会の入口から人が入ってきた。
「やっと来たようだ……」
「なに!?」
その男はバーヌースに身を包み、ゆっくりゆっくりと気だるげな歩調で三人へと近づいていく。
そのフードの中からは長めの黒髪がちらついていた。
姿を至近距離で見たサックドは直ぐにこの人物が何者なのかを察していた。ゼルドガルやネムナほどとは行かないが、それに準ずる程の問題児。
「うぃ〜〜おつかれちゃーん。相変わらずここは辛気臭い場所だねぇ」
フードを取り払ったその男は周囲を見渡しつつ、そう言った。
「ケルドっ。お前、帰ってきたのか」
「そうそう……長旅で疲れたよぉ。今回の探索は結構大変だった」
「何が大変だ。お前の切り札を使えば探索なんて朝飯前だろう!」
「君、相変わらず暑苦しいねぇ。僕とは温度が違うんだから、あんまり近づかないでもらってもいいかなぁ。風邪ひいちゃうよ」
「なんだと!」
のらりくらりとした態度でサックドの怒りを煽るケルド。
そう、この男こそが賢者、ケルド・ハムバーズその人だ。気だるげでやる気はなさそうだが、一応ゼルドガルよりはちゃんと賢者の仕事をしている男だ。
だが、賢者の仕事よりも遺跡探索などを優先するところがあり、前回の欠席もこれが理由だ。
一応、彼が探索した後は有用な物が見つかる可能性もあるため、公共行事という事で賢者集会の欠席に関してはエルダックに黙認されている。
だが、真面目人間であるサックドにはそれが気に入らないのだ。
「あぁ、そうそう……今回君たちを招集したのって、僕なんだよね。知ってた? あ、知らないか。さっき、エル爺が招集したわけじゃないって言うことを聞いて動揺していたみたいだしね」
「良いから要件を話せ。そして、早くこの場から消えると良い!」
「僕もこういうのだるいからね。早く終わらせるつもりだからちょっと待ってよ。僕だって、僕なりのペースっていうもんがあるんだからさ」
「ケルド君、もしかして何か凄い古代魔道具でも見つけたのかしら?」
「おぉ、凄いねフーズ姉。ケルドポイント、一万点あげちゃうよ。そう、その通り。みんな驚くと思うよぉ。少なくとも、僕は今まで色々な遺跡を探索してきたけど、こんなもの見たことがない」
「何いってんだ。俺たちは賢者だぞ。魔道具や古代魔道具なんて飽きるほど見ている。今更驚くものは何も無い!」
「――そっ」
サックドの発言に面白くないとばかりに不服そうな表情を向けると、ケルドは手を伸ばし、『ストレージ』の中に手を突っ込んだ。
そしてその中から取り出されるのは一つの石ころの様に見える物体。
普通にそこら辺に転がっていたら石ころと見分けがつかないレベルの物体である。
それを見てサックドは鼻を鳴らした。
「おいおいおい、それが古代魔道具だなんて冗談キツイぞ、ケルド。そんな石ころのどこが魔道具に見えるんだ? 君、遺跡探索のしすぎで頭がおかしくなったんじゃないか? 良ければ良い診療所を紹介しよう!」
「その心配は要らないよ。つい先日、健康診断で再検査を食らったばかりだ」
「ダメじゃねぇか……」
「寝不足と眠気防止薬の摂取しすぎって言われたよ。いやぁ、遺跡探索をしていると眠りたくなくなるんだよね。とりあえず、遺跡探索は眠らずに一気にやりたい」
「ケルド、そのうち死ぬぞ」
「エル爺よりは長生きするつもりなんで、安心してください」
どこを安心して良いのだろうか。この場にいるメンツは心中そう口にした。
「この石ころは間違いなく魔道具なんだよ。ほら、わずかながら魔力を感じるでしょぉ?」
「おい、押し付けるな。押し付けなくても魔力は感じれる!」
サックドの頬にグイグイと魔道具を押し付けるケルド。ちょっとした嫌がらせだ。
確かにこの石からは微弱な魔力が漏れ出ている。だが、それも意識しなければ感じられないほどに微弱で、とてもとても使える魔道具には思えないほどのものだ。
そもそも、この魔道具の使い方は見当もつかない。
「こいつは『封魔石』っていう古代魔道具っすね。僕も実物を見るのは初めてだったんで、見つけた時は興奮しましたよ。魔力が微弱すぎて僕のセンサーには引っかかっているのに、見つからないっていう砂漠で落ちている一本の針を探すような、過酷な探索でした」
「それでか。お前が遺跡探索で苦労するなんておかしいと思っていたんだ」
「そうそう……でね、これが一番大事な話なんだけどさぁ……今魔王ちゃんって勇者ちゃんの持つ神剣『リリウム』でしか倒せないって言われてるじゃん? 他の方法で殺したとしても魂までは殺せないって」
そう、それが理由で賢者たちは魔王討伐をすることが出来ない。
自分たちが討伐したとして、それは後の世の脅威となってしまうからだ。
未来永劫の平和を手に入れるためにはどうしても魔王の完全討伐が必須だと、誰もが考えている。
ユイ・フィートベルら、勇者パーティーに全てを任せるしか無いというのが現状だ。
だが、そんな事は再確認するまでもない。
だからこそ、ケルドの発言はこの場にいる全員が驚愕した。
「僕らで魔王ちゃん退治、しちゃおっか――」
「何を考えている、ケルド! 俺たちが魔王を討伐したところで意味がないということはお前もよく知っていることだろう。今お前自身が言っていただろう!」
サックドがケルドに掴みかかった。
「そうそう、それが常識だね。でもね、こいつがあれば全てが覆るんだよ」
「……どういうことだ。説明しろ、ケルド」
「はいよぉ。実はこの『封魔石』……魔の者を封印する力があるんだ。もちろん、無条件でと言うわけにはいかない。だけど、条件を満たすことが出来れば、魔物でも何でも、この魔道具一つにつき、一体まで封印できる。今ほど魔法が一般的ではない昔に魔物に対向するための人類の知恵と言うべき逸品だよね〜」
「ケルド、今の話、マジか?」
「大マジだよ。これを見つけた時、興奮した僕の気持ち、分かってくれたかな?」
「あぁ……お前、とんでもないものを見つけやがって」
つまり、無条件でないにしろ、条件を満たすことが出来ればあの魔王マナ・デストラーラさえもこの『封魔石』の中に封印できるということだ。
封印するということはマナを殺すというわけではないため、後の世に転生するということも無ければ、扱うの自体は勇者じゃなくても誰でも使うことが出来る。
とすれば――
「僕らでも魔王ちゃんを……倒せる――っていうことだねぇ」
その言葉にこの場にいる全員が息を呑んだ。
突然降って湧いたように出てきた勇者以外が魔王を倒せる可能性があるという魔道具。
魔王討伐を急いでいた賢者たちにとっては好機と言わざるを得ない。
「……これより全員に命令する。魔王を討伐し、古代魔道具『封魔石』で封印する!」
「「了解」」
そうしてついに賢者による魔王討伐作戦が開始されてしまった。




