5-4『魔王と魔人』
「魔王討伐……ですか? それなら今もやっている最中なんですが」
「あぁ、お前たちには魔王討伐の為に奮闘してもらっている。だが、賢者から通知が来てな。早く魔王を討伐しろと」
どうして急に?
賢者だって魔王を簡単に見つけられるようなものではないっていうことくらい分かっているだろう。
人間で魔王城の場所を知っているのは俺だけだから、俺が口を割らない限りはなかなか見つからない。それなのに、急げと言われてもな。
ちなみに俺は口を割る気はない。ユイたちが自力でたどり着くなら良いが、俺はマナの場所を告げ口することは絶対にしない。
「もちろん俺もそう簡単に魔王を見つけられるわけがないだろうとは言ったんだがな。最近の連続魔人出没が魔王の仕業だと彼らは考えているようでな。早く魔王を討伐しろと圧をかけてきているんだ。困ったものだ」
魔人が魔王の仕業?
そんなわけがないだろ。マナも俺と一緒にオルターンを守るために戦ってくれたんだ。
そんな彼女が魔人を作り出しているなんて事、あり得るわけがない。魔王と魔人も敵対関係にあるんだ。
だが、その弁護が出来ないことがむず痒い。
俺とマナに繋がりがあるということを悟られちゃダメなんだ。そのためにはマナの弁護も絶対にできない。マナのことについては知らぬ存ぜぬで全て通すしか無い。
頑張っているユイたちにこんな話をするというのは心苦しいのだろう。
ギルドマスターは葉巻を咥え、火をつけると現実逃避をするように勢いよく煙を吐き出した。
「はぁ……先日、アルマトロンが壊滅したそうだ」
「はい!?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
ギルドマスターの爆弾発言にユイとルリハの二人が驚愕の声を上げた。
アルマトロンなら俺も知っている。
確かエル爺が管轄しているエリアにある街のはずだ。そこまで大きい街というわけではないが、それなりに強い冒険者が集まっていて、相当な防衛力を誇っている。
その理由の一端にはマーヌという老人の切り札が関係している。
マーヌ婆の切り札、『世界之秩序』は未来を見ることが出来る。
だから、冒険者たちを纏める力もあり、そうそう壊滅するような場所じゃないと認識していたんだが……。
「賢者エルダック・ヴォラキュリアが到着したその時には、すでにアルマトロンは更地になっていた。見るに堪えない凄惨な光景がそこには広がっていたそうだ」
「そんな……」
「でも、それが魔人の話とどう関係が……まさか!?」
「そのまさかだ。アルマトロンは魔人よって滅ぼされた。だからこそ、あの方は魔王の討伐を急いでいるのだろう。だが、こればっかりはどうしようもないこともある。現状、君等に任せるしか出来ないというのなら、大人しく待ってろと、言ってやりたいところだ」
まぁ、ギルドマスターの立場からするとそんな言葉は賢者に言えないため、歯がゆいと言ったところなんだろう。
だが、実際そうだ。
急いだところで俺たちが魔王にたどり着けなければどう仕様もない。なにせ、魔王を討伐できるのはユイの持っている『リリウム』だけなんだからな。
「――と、話が逸れて悪かったな。ま、賢者からはこう言われているが、君等は気にせず、自分のペースでこれからも頼む。なんたって、君等が俺たちの希望だ。焦って死なれては困るからな」
そう言うと、ギルドマスターはサインしたランクアップ申請用紙を俺たちに渡してくる。
後は俺たちのサイン記入欄にサインしたらランクアップ申請完了となる。晴れて俺たちはランクが上がるというわけだ。
「……絶対に探し出してみせます。私たち、勇者パーティーの名にかけて、必ず魔王を見つけ出します」
「あぁ……期待してる」
かくして俺たちのランクアップは完了した。
今日からはAランク三人、Bランク一人の高ランクパーティーとなったわけだ。これで俺もこのパーティーの中に居ても恥ずかしくはない。胸を張ってこのパーティーの一員になれる。
だが、ユイはただ一人、ギルドを出た後も暗い表情を見せて俯いていた。
「ユイ、大丈夫?」
「ルリハちゃん……うん、大丈夫」
「でも、顔色が悪い。魔人のこと?」
「…………うん。気にしなくて良いって言われても、あんな事を聞かされると、ね」
それはそうだ。
ユイは人一倍真面目で、それでもって他人思いの少女。自分の仕事が遅れているせいだと一度考えてしまうと、根本的な問題を解決できるまでは抱え込んでしまう質なのだろう。
本当に難儀な正確だとは思うが、だからこそ勇者に向いているのかもしれない。
でも、ずっとずっと考え込んでいては辛くなるだけだ。
「ギルドマスターは賢者さんがマナちゃんが魔人をけしかけていると考えているって言っていたけど、本当にそうなのかなって」
ユイは天を仰ぎ、手を伸ばす。
「どうも、私たちが一度会ったあのマナちゃんが魔人を作って残酷に人を殺そうとするとは思えないんだよね。しかも、魔人の核なんていう恐ろしいものを作って人間に取り込ませるっていう残酷なこと、するかなぁ?」
「分からないわよ。だって、相手は魔王なんだもの。人間の尺度では決して図ることが出来ない存在。私たちが彼女らを分かろうとするのは烏滸がましいというものよ……」
「でも、それでも……私はどうしても、マナちゃんがそんな事をするようには思えなくて……どっちかというと、部下がそういう事をしようとしていたら止めるような人じゃないかな……って」
「何がユイをそこまで言わせているのかしらね」
「だって、私、マナちゃんと文通してるし。マナちゃんの事は最近分かってきたような気がするし」
「そうだった……この勇者、魔王と文通してるんだったわね」
そうだ。
俺の考えでもマナは絶対にそんなことはしない。
魔族の中にはやりかねないやつも居ることは否定しないが、絶対にマナは止めようとするだろう。戦うにしてもそんな残酷な事は絶対にしないと断言しても良い。
オルターンでのマナを見て俺はそう判断した。
彼女は人間の女の子と比べても変わりないくらいの普通の女の子をしていた。ただ、生まれたのが魔族と言う肉体だったという、ただそれだけのことだ。
ユイも文通していてそれは感じていたんだろうな。
他の人には伝わらないかも知れないが、マナの事を知っている俺たちだけでも、マナの事は信じてあげたい。
「ま、私にはユイのその感性は分からないけど……少なくとも『虚構之迷宮』で戦った時の彼女はそんな事はしなさそう、というのが私の感想ね」
「じゃあ――」
「えぇ、とりあえず、そのユイの考え方には従うことにするわ。でも、私はユイほど甘くないから、少しでも怪しい証拠が出てきたら容赦はしないわ」
「うん、ありがとう……」
「ボクも信じます! あの魔王の目、あれは悪人には見えませんでしたから!」
「メルちゃんも…………」
ぎゅうううううううっと力強く二人のことを抱きしめるユイ。
美しい友情というのはこの事を言うんだろうな。
「ハルトは? どうするの」
「俺? 俺はもちろんユイを信じる」
「ハルト君もありがとう……私、パーティーメンバーがみんなで本当に良かったぁ」
目尻から涙をこぼし、幸せそうにハニカミながら噛みしめるように言うのだった。




