5-3『雲行きが怪しくなってきたな』
手紙を読み、やや早足でギルドへやってきた所、屋内を見回してみると、受付カウンター付近のテーブル席にユイたちの姿が見えた。
俺が来るまでの暇つぶしにみんなでドリンクを飲みながら待っていたらしい。
そういや、このパーティーって美少女三人だから、すごく絵になるんだよな。俺が入っていかなければとてもキラキラしている空間だ。
だけど、呼び出されている以上、俺もあの中に加わらないわけにはいかない。
きれいな空間を俺と言う穢れが汚してしまう事を憂いつつ、三人に近づいていった。
真っ先に気がついたのは入口から入ってきた俺がよく見える席を陣取っていたメルバード。
「あ、ハルト。遅いですよ〜。もうとっくに受付は済んでいるんですから、あとはハルト待ちだったんですよ」
「悪い。ちょっと手間取ってな」
あの店主、こっちが下手に出ているからって調子に乗りやがって。これだけ延滞した俺が悪いのは分かっているが、随分と延滞金をぼったくられた。
一応、賢者時代に貯めた金はまだ残っているから大丈夫ではあるが、ボッタクリに対してごねていたらいつの間にかこんなに遅くなってしまっていた。
「ハルト、延滞金いくら位だった? 誘った私に責任があるし、私が出す」
「いや、これくらい良いよ。貸し出し料を折半してくれたんだからそれで良い」
馬車を借りる時に一応ルリハも金を出してくれたから、ルリハからはこれ以上取る気はない。
それにかなりぼったくられてしまったから、この金額をルリハに請求するというのはかなり心苦しいと言うか、もともと賢者だったから払えたというのもあるため、ルリハに請求するつもりは一切ない。
「でも……」
「ルリハさん、ハルトがこう言っていますし、ここは甘えておきましょうよ。それはそうと、ハルト待ちだったんですから、ボクたちのドリンク代、ハルトがお願いします」
「お前はちょっと位、遠慮しろ」
軽くため息を着きつつ、俺は『ストレージ』から財布を取り出し、飲食カウンターへと向かっていく。
――と、背後から掴まれてしまったため、俺は歩みを止めざるを得なかった。
俺を引き止めたのはメルバードだ。
「じょ、冗談です冗談です。真に受けなくてもいいじゃないですか〜」
「いや、これくらい俺が払うよ。待たせたのは間違いないしな」
「これで払わせたらボクが悪者みたいじゃないですか! 大丈夫です、流石にドリンク代を払えないほどに素寒貧じゃありませんから!」
「そうか?」
別にこれくらい良いんだけどな。
あの店主にぼったくられた金額に比べたらこんなもの誤差の範囲内でしか無い。
「そ、それではハルト君も来たことですし、ギルド長室に行きましょうか」
「は? なんで……?」
別にそこのカウンターでランクアップ申請をしたらランクアップ出来るんじゃないか?
しかも、今回はランクアップ試験は既に突破済だから普通にランクアップさせてくれると思うんだが。
「なんでも、今回のは特例でランクを上げているだけなので、ギルドマスターの立ち会いが必要みたいなんですよね」
「あー、そう言えば特例とかなんとか言ってたっけ」
本来、ランクアップ試験は試験官と試合をし、試験官に認められたもののみが突破することが出来るというものなのだが、特例でエイフィルを撃破したら試験を突破したことにしてくれるという話だった。
俺はBランクへ昇格するだけなので、試験は必要ないのだが、ユイたちの様にAランクへ昇格する際には必要となる。
そして、今回は試験官と試合をしていないため、試験突破の際に試験官からもらえる認定書を貰っていない。
つまり、通常のランクアップでは条件を満たしていないわけだ。
「というわけで、ギルド長室に行きますよ」
正直気乗りはしないが、行かなければ話が進まないため、俺は意気揚々と進んでいく三人の後ろをトボトボとついて行った。
☆☆☆☆☆
ギルド長室へ入ると、まず真っ先に目に入ったのは書類の山。
あの裏側にギルドマスターが居るのだろうが、ギルドマスターの姿が見えない程の壁を形成するほどに書類が積まれていた。
なんで、どこのギルドマスターもあんなに書類が積まれるんだろうか。俺がギルドマスターをやっていた時はデスク上の書類はほんの少しだった。
だって、普通にやっていたら次の書類が来る前に前の書類は片付け終わるでしょ。
「誰だ」
「勇者パーティーです。ランクアップの件で参りました」
「おぉ、勇者パーティーか。ちょっと待ってくれ。この書類を終わらせたら直ぐに行く。適当に座っててくれ」
「はい、では失礼します」
俺たちは促されるがままに椅子に座ると、直ぐに使用人がお茶を配ってくれた。
それにしても、ここのギルドマスターと直接話すってなると嫌な予感しかしないのは俺だけだろうか。
ギルドマスターと話していい思い出は一つも無い。
だから最低限の手続きだけ済ませて帰ってしまおう。俺たちはここでギルドマスターと長々喋るよりもやらなければいけないことがあるはずだ。
「待たせたな」
そう言うと、ゆっくり書類の山の向こうから姿を表したギルドマスターは俺たちとは対面となる位置の椅子に腰を掛け、書類をテーブルに置いた。
「まずはこれを行っておこう。ご苦労だった。まさか魔人の仕業だったとは。お前たちが全員無事で安心した。やはり勇者パーティーを君等に任せた王の判断は正しかったと再認識したぞ。よくやった」
「ありがたき御言葉……これからも精進していきます」
「あぁ、頑張ってくれ。ちょうど賢者の奴らからも魔王討伐を急ぐように言われているからな」
なんか、雲行きが怪しくなってきたな。




