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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
番外編「スレ違う人々」
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番外編 スレ違う人々(2)

 ……あーめんどくせえ……


 ソウジは陰鬱な気持ちを抱きながら、城の薄暗い廊下を歩く。


 今日もまた、ダンウォードの腐れジジイとの特訓のため、1階の広場まで行かなければならない。


 ……あのジジイ、最初は「休憩も特訓の内」とかほざいてたくせに、最近はまったく休む(ひま)もくれやしねえ。

 元の世界に帰りたいだけだってのに、何でこんな事に付き合わされなきゃならないんだか……


 (いら)立ちの感情を抱くと、すかさず背中にチリチリとしたものが奔る。


 原因は知っている。背中に背負っている斧だ。

 こちらの怒りの感情を(あお)っているのだろう。頭を振って冷静になる。


 ちょっとした感情すら抱けない。本当に面倒な……


 と、その時。


 バキッ。


「…………げっ!?」


 背中の斧の柄が、壁に掛けられていた3メートル近い巨大な絵の額縁(がくぶち)に引っかかり、壁に留めていた釘ごと壊してしまった。


「やべえ!」


 完全に注意力の散漫(さんまん)。ソウジはゆっくりとこちらへ傾く絵を支えるべく、とっさに両手を伸ばし――


 バリィ!!


「…………ああ」


 思わず天を仰いだ。絵を支えようとした手が絵を突き破り、無残な大穴を開けてしまった。


 絵からはがれた重い額縁がソウジを避けるように倒れ込み、廊下の壁の一部に引っかかっていた。


 やべえ。

 やべえ。


 ソウジの背中に冷や汗がじわりと広がる。


 これ絶対高いやつだよな? こんなデカい油絵が安物のわけねえよな? 

 やべえ弁償とか? 俺ここじゃ文無しなんだが……


 ソウジは青い顔で、改めて絵を見てみる。


 両目を隠した女性の体に、ゴムのように伸びた人の手が布のように幾重(いくえ)にも巻き付かれた異様な絵であった。


 女性の体のラインが浮き出ているため、一見エロティックに見えるだろう。だがその絵からは、幾多(いくた)の手が中心の女性からありとあらゆるものを奪ってやろうというような、おぞましいほどの悪意と下卑(げひ)を感じるのだ。


 ……悪趣味だな。素直にそう思った。


「誰がこんな絵を……?」


 この絵の持ち主。順当に考えればこの城の持ち主だった『伯爵』のものだろう。


 ……しかし、本当に伯爵のものだろうか? 


 どこからのツテだろうか、最近商人らしき人が何人も頻繁にこの城を訪れており、シュルツさんが荷物を厳しく調べてしていたのを見た。


 この絵も誰かが買ったものの可能性がある。


 ……絵の内容からしてマーリカあたりが好きそうだが、どうだろうか。


 とりあえずそのままにもしておけないので、ソウジは絵と額縁を引きずり、ドアが壊れ荒れ放題のまま放置された部屋の中に運び入れた。


 ……やっぱり誰かに報告しなきゃ駄目だよなあ。


 シュルツさん辺りに言えばいいんだろうか? でもこれからダンウォードのジジイの所に行かないとなあ。


 あのジジイ、ちょっとでも遅れると「貴様サボりおったな!? では特訓メニューに素振り2時間を追加してくれるわ! ありがたかろう!? グハハ!!」とかほざくからなあ。シュルツさんの所寄って遅れたっつっても話聞かねえだろうし……報告は後でいいか……


ソウジは大きくため息を吐き、重い足取りでダンウォードの待つ特訓部屋へと向かう。


 そして、出会った。


「……あっ!」


 山盛りの洗濯物を抱え、慌ただしく駆けまわるユウムに。



◆◆◆



「……俺の部屋の掃除の次は洗濯か? ずいぶん忙しいな」


 呆れるような表情のソウジに、ユウムはバツの悪そうな笑みを浮かべる。


「いやあ、なんかあれやこれやお仕事頼まれてしまいまして。朝っぱらから大忙し! かき入れ時ですよ!?」


「定食屋かよ。忙しさで半分混乱してるだろお前……まあ、俺からは頑張ってとしか言えないから頑張ってくれ」


「そりゃもちろん……ってあああ! ちょっと待ってくださいソウジさん!!」


 洗濯かごからはみ出るほど山のような洗濯物をユウムは床に下ろす。一枚たりとも床に落とさずにかごを下ろせたのは流石といえる。


「どうした?」

「あ、あああの、ちょっとお時間いただけないかな~、と……」


 ユウムにとって、これは服の下に隠したエロ本を返却するチャンスであった。

 流石にこんなヤバイ本を持ち歩きながら仕事なんてできるはずもない。さっさと返して仕事に戻らなければ。


 しかしソウジは、そんな彼女の心なぞ知らず、疑問を口にする。


「……なんで?」

「い、いや、た大したことじゃあないんです、けど……」


 もじもじと、ユウムは顔を赤くしながらちらりとソウジを見る。

 そんな彼女に対し、ソウジは。


「……大したことじゃないならすまん。パワハラクソジジイの所行かなきゃならんから。じゃ」


「ま、待ってくださああああい!!」


 スタスタその場を去ろうとするソウジの上着を、ユウムは両手で掴んでズルズル引きずられる。

 1メートルほど引きずられたことで、ついにソウジが観念する。


「特訓メニューの追加決定だな……」


 (つぶ)き、足を止めてユウムに向き直る。


「わかったよ。とりあえず話を聞くから……」


 パアっ、と大輪の花が咲くような笑顔をこぼすユウム。


「ありがとうございますっ! あ、で、でもここじゃちょっと……誰か来ると困りますし……」


「なんで?」


「う……と、ともかく! どこか人気のない所へ! そこでお話しますから!!」


「……? まあいいけどよ。人の来ない場所ならいくつか心当たりあるから」


「ではそちらへ! ソウジさんもお忙しいでしょうしサクサク行きましょう!」


「……わかったから近くであんまり大声出さないでくれ……」


 連れだって歩くソウジとユウム。

 そんな二人の姿をこっそりと見つめる者が一人。


「ムゥ……これは見逃せんな……!」

 歴戦の経験を持つ飛空団団長にして10代少女並みの恋愛脳を持つ女性、レイザであった。

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