番外編 スレ違う人々(1)
※主人公のソウジが旅立つ前のお話です。内容はコメディーです。
※三人称視点で作成しております。
ソウジが召喚されてから8日目。
ユウムはいつものようにソウジを起こし(追い出すという表現のほうが正しいが)、上機嫌で簡単な部屋の掃除をこなしていく。
少しでもソウジさんのお役に立たないと……!
生贄として捕らえられ、この城に連れてこられた彼女にとって、ソウジを始めとした〈ナインズ〉は救世主といっても過言ではない存在だった。
城が解放されてからは、戦闘技術も魔法も秀でていない彼女に与えられた仕事はメイド……ようするに雑用だ。
けれど彼女は自分の仕事を誇らしく感じていた。
例え雑用でも、わたしの仕事が彼らを支える柱の一つとなっている……こんなにやりがいのある仕事はない!
特に彼……転生者のソウジは、他のナインズとは違い、元々は戦いとは無縁の場所で生活をしていた人だ。
突然召還され、状況に戸惑い不安を抱えている彼の姿は、なんとなく共感できるところがあって……応援したくなる。
だからいつも以上に、念入りに、気合いを入れて、キレイな状態にしたくなる……!
ユウムは手早くシーツを取り替え、毛布を思いっきり振ってホコリを飛ばし、シワを伸ばしてベッドを整える。次に室内の壁や棚の上部のホコリを拭き取る。最後に床下のゴミやホコリをサッと掃けば終わりだ。
ソウジさんの部屋は窓もなく、暗くて質素な部屋だ。だからこそわたしが徹底的にキレイにして、いつ帰ってきても気持ちよく眠れるようにしないと……!
フンフン、と鼻息荒く清掃を行うユウム。
ふと、部屋の片隅にある小さな戸棚に目をつけた。
(そういえば、あの引き出しの中、掃除してないかも……)
普段しまわれていた引き出しとはいえ、長年放置されてホコリまみれだったこの部屋だ。きっと引き出しの中にもホコリが入り込んでいるはず。
ユウムは有り余る情熱のまま、布巾を片手に勢いよく引き出しを開ける。
だが。
その瞬間、彼女はまるで石化魔法でも食らったかのように硬直した。
「…………え??」
引き出しには、本が一冊入っていた。
大きさの割りに薄く、表紙には薄着の女性……というより、胸をほぼ完全にさらけ出している女性の絵。
そうそれは――まぎれもなく――エロ本であった。
「ええええっ!?」
台所のドアを開けたらゴキブリがいて、しかも突然こちらへ全力疾走してきたかのような驚きぶりで、ユウムは思わず床に尻餅をついた。
その拍子にエロ本が床に落ち、ぺらぺらと数ページがめくられる。
「あ……」
ユウムの目に、紙面一面に行為まっただなかの女性の絵が飛び込んできた!
「ぶ、わひゃああああ!?」
半分混乱しながら、ユウムは急いでエロ本を掴み、全力で閉じた。
「ふぅ~……ふぅぅ~……」
顔を赤く染め、ユウムは肩で息をしながら、無理矢理自分の精神を落ち着かせた。
(これは……)
(ソウジさんのもの、ですよね……?)
深呼吸し、ゆっくりと手をどけてみる。
「っ!」
半裸の女性の絵と目が合い、思わずシュバッ! と身構えるユウム。
……大丈夫。ちょっとオッパイが出てるだけだ。何も問題はない。何も。
ふう、とため息を吐き、肩を落とした。
(……こんなの隠し持ってたんだ……ちょっと幻滅したかも……)
(でも男の人ならこういうの持ってて当たり前、ってお母さんも叔母さんもお母さんの友達も従姉妹のお姉ちゃんも言ってたしなあ……)
(……これ、確か写真、とかいうやつだっけ? 異世界の道具を使って作る絵みたいなやつ……すごいなあ。どうやってこんなリアルな絵ができるんだろ?)
(転生者は、必ず元の世界から一番お気に入りのものを一つこの世界に持ってくるって聞いたことがあるけど……もしかして、これがソウジさんのお気に入り? エロ本一つ持って世界線またいで来たってこと? うわあ……)
(このエロ本で魔法とか使うとか……? うわあ、エロ本で攻撃されるとかなんかすごい嫌だなあ……うわあ……)
ユウムはなんとなく、ページをぺらぺらとめくってみる。
(…………)
(ええ……? なにこれ、何やってんのこれ……気持ち悪……)
(…………)
(……わー、うわあ……ええ、そんなことしていいの? やば……)
長く尖った耳をピクピクと動かしながら、ユウムは次々にエロ本のページをめくる。興奮すると耳が動くのは彼女の部族によく見られる特徴である。
ユウムはエロ本という未知との遭遇に、明らかに興味津々といった様子だった。
――だから、背後から近づく者の気配すら感じ取れなかった。
「……何してんだ?」
「ひゃい?!」
驚きのあまり、ユウムは座ったまま数センチ飛び上がるという器用さを発揮する。
彼女の背後には……先ほど部屋を出て行ったはずのソウジがいた。
「そ、そっそそ、ソウジさん!? なんでここに!?」
「いや、忘れ物……タオルないと鬱陶しいからさ。汗が」
ソウジはユウムが毎朝届ける洗い立てのタオルを取り、マフラーの代わりに首に軽く巻いた。
「そ、そうだったんですか。申し訳ありません、ソウジさんが出る前にわたしが気づいていればよかったんですが」
「いや、ていうかお前が毎朝追い出すような事しなきゃ、余裕持って身支度整えられるし忘れ物もしなくなるはずなんだが」
「ダンウォード様との特訓ですよね!? いつも何を持って行っているんです!? 教えていただければ忘れてもわたしがすぐに! たちどころにお持ちいたしますよ!?」
「話聞けって! いやむしろ聞く気すらねえのか? タチ悪ぃな全く……」
ソウジはポリポリと首の後ろをかき、また先ほどの質問をぶつける。
「……で、何やってたんだよ?」
「へっ!? い、いやあなあんにもしてないですよお??」
ユウムは素早く持っていたエロ本を自分の背後へ隠す。
「いや、さっき床に座ってなんかしてたろ? というか……なにを後ろに持ってるんだ?」
「なななななな何も持ってませんよ!? 何ですかいきなり失礼なっ!?」
「質問しただけで失礼って……てか、明からに何か後ろに持ってるだろ? 何隠してんだよ?」
ソウジが不審げにツカツカとユウムへ、ユウムが隠すエロ本へと近づく。
これはマズい!!
「ソウジさああああん!!」
ユウムがとっさに大声を上げ、ソウジはぎくりと動きを止める。
「こんな所で油を売っている場合ですか!? あなたにはやるべき事があるはずっ!!」
「え? ええ?! い、いやまあそうだが……?」
「ならこんな所にいつまでも留まってないで動くべき! Move! Move! Move!」
「お、おいちょっと……!?」
「ゴーストレート! ゴーアヘッド! そしてゴーホームグラウンド! 自分のいるべき場所へ帰りなさい!! 今すぐに!!」
「えええ!? わ、わかった! わかったよわけわかんねえけど!!」
ユウムは後ろ手でエロ本を隠しながら、空いた左手で強引にソウジを部屋から追い出した。
「ふ~……」
ユウムはため息を吐き、そこではたと気が付いた。
……いや、なんでわたしソウジさんにこの本隠してんの?
これ元々ソウジさんのだから隠す必要も……いやこれそもそも隠されてたやつだし、やっぱり人に見られたって知ったらソウジさんも傷つくと思うし……あと、わたしがこれ読んでたって知られるのすごい嫌だし……
……とにかく、ソウジさんは力ずくで追い払った。
あとはこのヤバイ本を元の場所へ封印するだけ。
そう思った時……最悪な人に出会う。
「ユウム、いつまで部屋の掃除しているの?」
「へっ!? あ、め、メイド長!?」
30代後半の、エグイほどのベテラン感をゴリンゴリンに醸し出すメイド長(女性)が、仁王立ちで金剛力士の如き面構えでユウムを見咎める。
「仕事は掃除だけじゃないのよ!? 部屋一つに時間かけてる暇はないの!! わかってるううゥ!?(金剛力士)」
「すすすすすみません!! な、なんか紆余曲折かくかくしかじかございまして!?」
「やかまっしい!! (金剛力士) もう掃除はいいから、次は洗濯! ゴーストレート! ゴーアヘッド! そしてゴーホームグラウンドよ!!」
「え……あ、いや、でも、その……」
「ゴオオオオホオォォォムグrrrrrルァうゥゥンドゥゥ!! (金剛)」
「ひいい!? は、はいいいっ!!」
金剛力士にハッパをかけられ、ユウムは洗濯場へと急いだ。
慌てて向かったため、エロ本を元の引き出しへ戻し損ねてしまい、ユウムは服の内側にエロ本を隠しながら、いたたまれない気持ちで仕事をし続けたのだった。
全部書いて投稿しようとおもったのですが、遅筆ゆえに全部書けずに半端な状態で投稿することに。
来週で全部終わらせられるよう頑張ります……




