番外編 スレ違う人々(3)
ソウジとユウムが訪れたのは城の最上階である8階。最上階の端に設えられた小さなテラスであった。
「ふああ……いい景色ですね、ここ……」
ユウムの眼前には、海原と青空が地平線の彼方まで広がっていた。
「前、空いた時間に城を探索してて見つけたんだよ。つか、高さ的に城って塔だよな、ここ」
「城と塔の違いって高さで区別されるんですか?」
「……いや、わかんないけど」
「適当言わないでくださいよ! お洋服や下着も適当にほっぽるし! 適当すぎるんですよソウジさんは!」
「ええ……いや、そうか。すまん……」
ソウジが頭を下げると、ユウムはクスクスと笑う。
「……なんだよ」
「素直ですよね~。見た目怖そうなのにそういう所ありますよね、ソウジさん。見た目で損してると思いますよ? ホントに」
「いや……そうか? よくわからんが……」
小首を傾げるソウジ。
ユウムはそんな彼の姿を見て、さらに楽しげに笑う。
……そしてそんな二人の姿を見てさらに楽しむのが、遠くで二人を覗き見ているレイザだ。
(ふふ……いいロケーションじゃないか。ムードもあるし、良い感じの雰囲気……フフフ、見たところユウムがソウジに想いを寄せている様子。来るか、告白チャンスが……!)
一人で盛り上がるレイザ。
だがその時、彼女の背後から大きな人影が現れた。
「……なんじゃあいつ、こんな所でサボっとったのか。さんざん探させおって……」
「げえッ!? ダンウォード殿っ!!」
「なんぞムカつくリアクションじゃが……まあよいわ。今はあの小僧の性根をたたき直すのが先よ」
ガシャン、ガシャンと足音を立て二人の元へ行こうとするダンウォードを、レイザは必死になって止める。
「何のマネじゃ?」
「ここを通りたくば! この私を倒してから行くがいい!!」
「……手加減はせんが」
「あああ嘘です嘘ごめんなさい! で、ですが今しばらくお待ちいただきたい!! 春なのです! 今まさに青い春が芽吹こうとしている時なのです!!」
「言ってる意味がわからんのじゃが……」
ダンウォードが困惑すると、レイザはニヤリと笑みを浮かべる。
「なるほど事態が飲み込めないと? では説明よりも実際見てもらった方が早いでしょう! さあ、ここであの二人の行く末を見守ろうではありませんか!?」
「いやワシそんなに暇じゃあないんじゃが」
「シッ! あまり大声を出さないで! 二人に気づかれてしまいます!」
「るさいのはお前じゃい」
「おおっと!? 何やらユウムに動きが!? 来た! 来ましたよダンウォード殿!?」
「ワシもう帰っていいか?」
◆◆◆
ユウムは緊張した面持ちで、ソウジに話しかけた。
「あの……ソウジさん! 実は、だ、大事なお話がありまして……!」
扱っているブツがブツなので、ユウムの顔は赤い。
「ああ、なんだ?」
「ソウジさんの……隠しているものについて、なのですが……」
「なっ……!?」
ソウジは愕然とした。
隠しているもの……俺が破いちまったあのデカい絵のことか!? いつの間に見られてたんだ!?
「ご存じ、ですよね……?」
元々隠すつもりはなかったが、バレちまったんなら仕方ない。
ソウジは男らしく、堂々と認める。
「ああ、分かってる」
「やっぱりあれ、ソウジさんの――」
「ああ認める。やったのは俺だよ」
(やっぱりあのエロ本を隠してたのはソウジさん……でもすごい。恥ずかしがるどころかこんなに堂々としてるなんて……!)
(ユウムの奴、なんだこの驚いた顔は……そんなにあの絵が傷ついたのがショックだったのか? そんなに大事な絵だったのか……)
お互いがお互いにズレた感想を抱きつつ、話は進む。
「やっぱりそうだったんですね…………あ、で、でも大丈夫ですよ!? わたし、その、気にしてませし……仕方ない、ですよね、そういうの……」
「……いや。言い訳はしない。開き直るつもりもない……ただ、謝らせてくれ。本当にすまなかった」
(ソウジさん……部屋を勝手に漁って見られたくないエロ本を見つけてしまったわたしに対して、むしろ謝ってくれるなんて……大きい。人としての器が大きいのかも……)
(どんな理由があろうと、俺が起こしたミスに変わりない。まずは謝るのがスジ、だよな)
やはりズレたまま、話は続く。
「なあ、アレ、誰のものなんだ?」
「え?」
「誰の所有物なんだ?」
「それはソウジさんの……」
(ん? 俺?)
「いやそうじゃない。やったのは俺だ。所有者は誰だって話で」
(え? 所有者? エロ本を今持ってるのは誰か、ってこと?)
「……わたしです」
「えっ!?」
「ええっ!?」
ソウジとユウムはお互いに驚愕する。
(こいつがあのドロドロの悪趣味な絵を買ったってのか!? 人は見かけによらないな……)
(エロ本持ち歩いてたってことを驚かれてる!? た、確かに言われてみればドン引きするかもしれないけど……わ、わたしにも事情があってのことだし……!)
ズレ込んだまま、二人の間に気まずい空気が流れる。
「……わ、悪い」
「……い、いいんです。まあ、驚かれるのも無理はないので……」
「それで、その、いくらしたんだ?」
「は?」
瞬間、何かを悟ったユウムの顔が真っ赤に染まる。
「な! ななな何言ってるんです!? “いくらシたか”って!? し、シてませんよ失礼なっ!!」
「え? え? いや俺は値段――」
「セクハラですよ!? 今のは完全に!!」
「セクハラなの!?」
「当然じゃないですか! い、いくらわたしでも怒りますよ!?」
「そ、そうか、知らなかったんだすまん!」
(物の値段を聞くのはセクハラなのか……すげえな異世界。ものの考え方も異次元だわ)
耳まで真っ赤に染めて怒るユウムに対し、ソウジは慎重に質問を言い換える。
「そうだな……俺は詳しい方じゃないが、すごい絵だってのはわかるつもりだ」
「……たしかにすごいですよね。最初見た時はビックリしました。すごくリアルでしたし」
「色々絡みついてて、なんていうか……すげえな、と」
「いろんな人とたくさん絡んでましたね。知らない世界を垣間見たって感じです……」
(芸術作品に対するユウムなりの解釈なのか? 本当に好きだったんだな、あの絵)
(……うう、さっきからエロ本の内容の話ばっかり……セクハラ?)
二人の間に、さらに気まずい空気が漂う。
「俺はそういうの詳しくないが……まあデカいし、(価値が)すごいんだろうな、と」
ソウジの発言から、ユウムはエロ本の内容を思い返した。
エッチな事をしている女性の胸は……確かにデカかった。
「……やっぱり、大きいほうが好きなんですか?」
「え?」
「い、いや、男の人って(胸が)大きい方が好きって聞いたこと、ありまして……」
ソウジは少しだけ考え、ユウムの質問に答える。
「……いや、他の人は知らんが、俺は別にそうでもないぞ」
「えっ?」
「俺はあんなデカいの(絵)よりも、コンパクトなやつの方がいいかな……」
「えええっ!?」
デカすぎても飾る場所ねえしなあ。
そう考えるソウジをよそに、ユウムの顔がどんどん赤くなる。
「こ、こ、コンパクト……って……」
「……そうだな。まあ、手のひらサイズくらいで丁度いいんじゃないか?」
飾る部屋がクソ狭いしなあ。
そう考えるソウジをよそに、ユウムは顔から湯気でもでそうなほど顔を赤くした。
「て、て、手のひらって!! 何考えてるんですかあなた!!」
「は? いや、だからサイズの話を――」
「ハレンチですよ!! いやらしい!!」
「ハレンチなの!?」
(絵の値段を聞けばセクハラ、大きさのことを言えばハレンチ……異世界は感性が独特だな……)
(ち、ち、小さいのが好きって……ハッ!?)
ユウムは気づいてしまった。
自分の胸のサイズが、コンパクトであることに。
(ま、まさか、わたし……誘われている!?)
「~~~~~っ!?」
ユウムは自分の胸を腕でブロックしながら、反射的にソウジから距離を取った。
「あ、や、わ、わたしは、え? なんで? どうして……ソウジさんは……?」
「ユウム?」
「いや別に!? そ、ソウジさんのことが嫌いってわけじゃ……って違くて! そういう意味でも違くて……!」
「お、おいどうした?」
ユウムは2~3度深呼吸し、呼吸と心を落ち着かせる。
そして意を決し、ソウジへと問いただす。
「その……ソウジさんは…………好き……なんですか?」
「ん?」
「そ、そのう……わたしの、こと……!?」
「――こんな所で何をしている?」
突然割り込んできた冷たい声。
二人が振り返った先に、イルフォンスが呆れたような顔を浮かべていた。




