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光の翼  作者: シリウス
第3章 戦乱の翼

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仮初の勝利

 風刃は最初の一撃を難なくかわされた。


 だが、テディベアを抱えた金髪の女とゼノムは空中に逃げたため、追撃の手段には困らない。


「疾風連牙衝!」


 風刃が繰り返し木刀を振るい、速度に優れた風の弾丸を連射した。


「やっぱり、お子ちゃま。こんなので勝てるつもりだったの?」


「パワーとスピードは悪くないけど、技が単純過ぎるね。」


 風の弾丸が全身に向かって来ても、金髪の女とゼノムに焦りはない。


 両手両足を忙しなく動かし、数え切れない程の風の弾丸全てを弾き飛ばした。


「さっそく思い知った?そんな腕じゃ、ルドルスは倒せても―うぁっ…!!」


 金髪の女は得意げに笑っていたが、一瞬で背後に回った風刃に全く反応できず、横一文字の斬撃をまともに浴びて墜落する。


「隙あ…ぐっ!!」


 ゼノムがレイピアで突きを仕掛けたが、それよりも風刃の袈裟斬りを食らい、地に落ちる方が速かった。


「単純な技の1つや2つあしらったくらいで勝った気になるようじゃ、底が知れたな。てめぇらもサンドバッグが似合いだぜ。」


 余裕をひけらかす挑発とは裏腹に、着地した風刃の構えは用心深く、隙がなかった。


 視線も、金髪の女とゼノムの僅かな動きも見過ごさないと言わんばかりに鋭い。


「くっ…!」


 金髪の女が、右手の指から無数の真っ赤な糸を繰り出した。


 風刃はその全てをかわし、あるいは木刀で叩き落として事無きを得る。


 しかし、数え切れない程に飛ばされた糸は、紅炎達にも向かっていた。


「みんな、避けて!あの糸、操魄術が掛かってる!」


 ユナは叫びながら素早く糸の群れを潜り抜け、大輝君もそれに続いた。


 一方、他の面々は気にも留めない様子で立ち尽くしており、たちまち簀巻きにされる。


「…ん~。俺ら、もう術を食らったのかな?」


 だが誰一人として、操られる様子はなかった。


「てンで変わッた感じはねエな。このアマ、大した腕じゃねエようだ。」


 身体にまとわりついた強靭な糸を、皆があっさりと断ち切る。


 金髪の女は苛立ちを露わに再び糸を放とうとしたが、その前に風刃の唐竹割りをまともに頭に食らった。


「でかい口叩いた割に、操り人形がいねぇと戦えねぇのか?所詮、人形オタクは人形オタクだな。」


 うつ伏せに倒れて身体を震わせる金髪の女に、呆れ切った顔でぼやく風刃。


 背後からはゼノムが気配を殺して忍び寄っていたが、レイピアが届く間合いに入られる前に風の弾丸をぶつけ、吹き飛ばした。


「う、ぐっ…!」


「距離も取れなきゃ身も隠せねぇのに、不意打ちなんざ決まる訳ねぇだろ。観念して真っ向正面から来たらどうだ。…結果が変わる訳じゃねぇけどな。」


 金髪の女が頭を、ゼノムが胸を押さえながら、よろよろと立ち上がる。






「響滅槍(きょうめつそう)!」


 槍の刃が、瞬く間に幾度も襲い掛かって来た。


 威力と速度を兼ね備えているだけでなく、狙いも鋭い。


 頭、首、喉、みぞおち、向う脛、足の甲。


 一見闇雲にも思える連続突きはその実、無駄もブレもなく僕の急所に迫っている。


 だが、避けられないものでもない。


「後ろがガラ空きだぞ。」


 槍使いの男の背後に回り、風を付与した模造刀での横一文字斬りを見舞った。


「ぐっ…。」


 槍使いは素早く振り向いて後方へ跳び、すんでのところで直撃を免れた。


 だが、胸部の端から端へ届く傷を負っている。


 お返しと言わんばかりにすぐさま見せた踏み込みはまだまだ力強かったものの、槍捌きは僅かに、しかし確実に鈍っていた。






「ほえ~。2人して、むちゃくちゃ腕上げたな~。」


「この3日間修行して、正解でしたね。改めて鍛えていなければ、あれ程の余裕はなかったでしょう。何なら風刃さんが相手取っている2人組の片方だけでも、私達全員でかからないと危なかったかもしれません。」


「…3日?あの2人って、たった3日であんな腕になったんですか!?」


「ええ。こちらに来る前…人間界で積んだ修行と合わせると、10日ほどですが。」


 穏やかに微笑む麗奈に、大輝君は目を丸くするばかりだった。


「うわー、信じられないな…あのヤリ使いなんか、姉貴でも危なさそうなのに…。」


「…危ない…どころじゃ…ない…槍使いは…私じゃ…まだ…無理…。」


「まだムリ!?あいつ、そこまで強いのか!?」


「…うん…なのに…あんなに…余裕なんて…本当…10年以上…鍛えてる…身としては…じぇらしー…ですな…ん?」


 舞が、頭を抱えながらスマートフォンを必死に操作するユナに気付く。


「…ユナちゃん…?…どうしたの…?」


「ジャボン秘録だけ、全然起動しないの!ルドルスとあの3人って、何か結構危ないクチだった気がするから、確認したいんだけど…!」


「ジャボン秘録って、あのストーカーアプリだっけ?」


「ああ、はい。ストーカーアプリです。」


「再起動とかしたか?携帯やらパソコンやらの訳分からねエ異常ッて、案外それだけで直ったりするンだゼ。」


「何度もやってみたんだけど、ダメで…。」


「じゃあ、アプリのメンテ中とかなんでねえの?」


「それも違うはず…メンテナンスの時はいつも予告があるのに、今回はそれもなかったし…。」


「…もしかすると…ジャボンの方々に、何かあったのでしょうか…?」


「…イヤな話ですけど、当たってるかもですね。」


「…うん…どうせなら…宝くじでも…当ててほしいけどね…。」


「放っておいて下さい!」


 暗くなりつつもしれっと余計な台詞を付け加える舞に、麗奈が苦笑いしたまま叫んだ。


「ユナ。ジャボンって、ボク達が寄っても大丈夫?」


「え?うん。里を荒らすような人じゃなければ、来る者拒まずだけど…。」


「それじゃここが片づいたら、ジャボンの様子を見に行こう!もしものことがあったら、ボク達も困るしさ!」


「賛成~。…って、もう出発の準備してもいいっぽいな。」






「龍爪斬!」


 風を帯びた模造刀での連続切りが、槍使いの全身を捉える。


 念入りに当てた両腕は深々と抉り、ついでのつもりで当てた肩や太ももからも、少量の血を流させた。


「ぐ…。」


「—降参しろ。」


 膝を突いた槍使いの額に、模造刀の切っ先を突きつけた。


「これ以上ダラダラやり合ったって、めんどいだけだ。ラムバルガって町の警察に自首しに行け。」


 直後に聴こえたのは槍使いの返事ではなく、何かが勢いよく墜落した音だった。


 見ると、金髪の女とゼノムが傷だらけで倒れている。


「おお、終わったか。どうだった、そいつら。」


「どうもこうもねぇよ。論外の更に外だ。」


 女とゼノムを叩き落とした風刃は、不満気な顔で腕組みをしていた。


「2匹合わせても杖野郎よりヘボ過ぎるもんだから、驚いたぜ。こんなのあと何時間か鍛えりゃ、ユナの奴が小指1本で同時にバラバラにできるレベルだぞ。」


「はは、そうか。ま、あれも意外と良い筋してるし、そいつらには酷な比較対象だろうけどな。」


「う…く…っ…こんな…はずじゃ…。」


「はは…は…真剣で、木刀に負けるなんて…醜いね、ボクも…。」


「勝ち負け以前の問題だろうが。誘拐犯の仲間って時点で、ダサさの極みだぜ。」


 苦しみもがく金髪の女と、自嘲の笑みを浮かべるゼノムに、風刃が吐き捨てた。


「…で、お前はどうする?まだ無駄に痛い目に遭いたいか?」


「…オレは戦士だ。戦場で降参なんてできない。」


 槍使いは歯を食いしばり、得物を杖代わりにしながら立ち上がった。


「…御立派な奴。だったら望み通り叩きのめして―」


 摸造刀を掲げたところ、僕と槍使いとのごく狭い隙間に真っ黒な雷が落ち、地面を焦がした。


「…ククク…。」


 その雷を撃ったのは、ルドルスだった。


 おぼつかない足取りで、槍使いの隣に立つ。


「ちっ…そういや、両手両足潰し損ねてたな…。」


「…どうかしたか、ルドルス。」


「クク…ちょっとした知らせがあってな。」


 ルドルスは風刃の突きを受けた左肩の傷を見て、はっきりと不快感に満ちた表情になった。


 だが、僕達に焦点を移すと急に薄笑いを浮かべ、小さな拍手までおまけする。


「いやはや。まさかこんな恥をかかせられるとは思ってもみなかったぜ。弁解の余地なく、オレの大失態だ。」


 言葉と態度が噛み合っていない上、「失態」とは言っても「負け」とは言わないのが引っかかる。


 顔つきからして、風刃も同じ考えらしい。


「…だが…残念だったな。テメエらの逆転負けが確定したぜ!」


「…この期に及んで、まだ何か仕組んでやがったのか!」


「ククク…そいつは少し違うな。仕組んだには、仕組んだが…機能したのは、はっきり言って偶然だ。」


「どういう事だ!」


「騒ぐなよ。大して難しい話じゃねえ。」


 声を荒げた僕に、ルドルスはまるで今の天気を答えるかのように、気軽に言う。


「頭領(カシラ)が、自分から動く気になった。それだけの事さ。」


「「何―」」


 兄弟揃って言葉を失った直後、黄金の女神像から天へ向けて、極太の爆炎が立ち上った。

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