復讐の刃2
「がああああ…!!」
勢い良く空に投げ出されたルドルスを追い、翼を広げて飛ぶ風刃。
たちまちルドルスに追い付くと奴の腹を踏み付け、仰向けで墜落させた。
「ぐ…がふっ!」
ルドルスは体勢を整える暇もなく、風刃に顔を踏み付けられる。
「何だ、その様は?まさか、このままぶっ倒れてれば許してもらえるとか思っちゃいねぇだろうな?」
「ぎ…ぎぎ…!!」
道端のゴミのように踏み躙られていながら、ルドルスは反撃できない。
「―何とか言ってみろ、クズ野郎!!」
風刃は思い切りルドルスの背中を蹴り上げ、また空中に投げ出した。
「ぐぐ…!!付け上がるのも大概にしやがれ、このクソガキが!!」
絶叫したルドルスが、追撃を狙う風刃にくすんだ紫色の杖を向け、魄力を込める。
先端の宝玉が黒味がかった赤色に染まったと思うと、巨大な炎の球が現れた。
「うわっ、熱っ…!」
「くッ、この距離で…!」
さながら小さな太陽とでも言うべき大きさと熱さに、氷華君や駆君をはじめ、皆が肌を焼くような痛みを感じる。
込められている魄力も相当のものだ。空中ならともかく地上での爆発を許せば、中心地となるスクムルトはおろか、村を取り囲むレラーズ樹海も10分の1ほどは簡単に消し飛ばされるだろう。
「テメエ如きに使わせられるとはとんだ恥だが、ザコの分際でそこまで図に乗ってやがるのを黙らせねえわけにもいかねえ…!!オレの一番の大技が大道芸かどうか、チリ一つ残さず消えてから決めやがれ!!」
「ほう。こいつはなかなかじゃねぇか。食らったら無事じゃ済まねぇな。」
真剣な顔で、他人事のように言う風刃。
「食らったら、な。」
木刀を軽く振るって弱めの風を起こすと、巨大な炎の球をいとも容易く弾き返した。
「何だと!?…ちっ!」
ルドルスは叩き返された炎の球に杖を向けた。
次いで杖を高く掲げると、炎の球はルドルスにぶつかる直前で遥か上空へと飛んで行き、豆粒並みに小さく見えるようになったところで昼間ながらに見映えする大爆発を起こして消える。
時間にして数秒だったが、ルドルスが風刃に胸部を深々と殴られるには、十分過ぎる隙となった。
「が―」
ルドルスが苦悶の表情を浮かべて呻き声を上げても、風刃の攻勢は緩まない。
強烈な風を宿した拳を、上半身に何発も浴びせ。
顔への一撃で吹き飛ばすと、飛ばした方向に先回りして蹴り落とし。
ルドルスが墜落する寸前に風を宿した木刀での切り上げで、また空中に打ち上げる。
「ぐ…バカな…!こんな、バカな…!」
「悔しいか?…だろうな。昔はあっさりのせた相手に、ここまでコケにされたんじゃな。」
怨敵を圧倒していても、風刃の顔には余裕や優越感の笑みは浮かんでいない。
むしろ、言葉もなく歯ぎしりするばかりのルドルスを見て、一層表情を険しくした。
「だがな―」
木刀に、より強力な風をまとわせる。
「いきなり湧いて出て来た連中にボコボコにされた挙句、目の前で親をさらわれた屈辱は、こんなもんじゃなかったぞ!!」
怒りをぶちまけ、姿を消したと思う程の速さで縦横無尽に飛び回り、ルドルスを連続で斬り付ける。
「ぐっ、がっ、あぐっ…!!」
手傷が増えて動きの鈍ったルドルスは、全ての斬撃をまともに食らう。
最後は頭への一撃を受けて叩き落とされ、うつ伏せに倒れた。
「くっ…ごはっ!!」
立ち上がろうとしたところ、降下して来た風刃に思い切り背中を踏み付けられる。
「…ふん。所詮てめぇはあのジジイのコバンザメだな。1対1でやれば、てんで話になりやしねぇ。」
咳き込んで血を吐くルドルスから降りながら、風刃が淡々と毒づく。
「本当に粉微塵にしてやりたくて仕方ねぇが、害虫駆除して犯罪者なんて真っ平御免だからな。泣く泣く半殺しで済ませてやるぜ。」
ここに来て初めて、風刃の瞳に嘲けりの笑みが宿った。
「…良かったな。敵を殺せねぇビビリが相手でよ。」
「ぐぐ、テメエ…!!ゴミの分際が、このオレを!!」
うつ伏せのまま、風刃の心臓を目掛けて杖で突きを仕掛けるルドルス。
だが、風を宿した木刀での突きで左肩を貫かれる方が速かった。
「ぐああああああ…!!」
ルドルスは痛みのあまり突きが不発に終わり、そしてついに崩れ落ちた。
「…こんなに動けるんじゃ、半殺しになってねぇな。やっぱり両手両足ぶっ壊さねぇと駄目か―」
駄目押しをしようとしていた風刃が、急にその場から飛び退く。
もう少し遅れれば、音も立てずに突進して来た槍の一撃で突き殺されていたところだった。
「…気付かれたか。当てられると思ったんだがな。」
槍を繰り出した黒髪の男が、淡々と呟く。
「まったく、言わんこっちゃない。忠告を聞かない身内には、困ったもんだね。」
左手にレイピアを握ったゼノムと、白いテディベアを抱えた金髪の女も加わった。
「ちっ、邪魔な連中め…今になって助け船か。」
「助け?誤解はよせ。相手との力の差も分からずに喧嘩売って返り討ちに遭う間抜けなんか、生きようと死のうとどうでもいい。」
「君、ルドルスを粉々にしたいって言ってただろう?だったら、代わりにボクらが始末しようか?折角の機会だしね。」
「…ふん。随分と良い仲間共だな。」
「仲間じゃない。同志。」
冷たい笑みで皮肉った風刃に、テディベアを抱えた女が反論する。
「敵に負けるバカなんか組織には必要ないって、その男がいつも言ってる。だから私たちも、その男を助ける義務はない。…まあ、義務があったって助けないけど。元々、その男は気に入らないもの。リーダーに許してもらえるなら、とっくに私が殺してるくらいに。」
「…だったら、何で今になって横槍入れて来やがる。」
「はは、単純さ。降りかかる火の粉だから、払う。それだけだよ。」
「この男を叩きのめしたくらいで得意になってるようなお子ちゃまじゃ、火の粉って程じゃなさそうだけどね。」
余裕に口角を上げる女に、風刃の両目が不快そうに細められる。
「陰気臭い人形オタクが、ほざくじゃねぇか。だったらてめぇは、杖野郎よりはマシなんだろうな?」
「…試してみる?」
「…上等だ。」
女が不穏に右手を揺らめかせれば、風刃は木刀を正眼に構える。
「ふあーあ。見てるだけなのも飽きたし、そろそろ運動するかなー。」
僕はそこに、わざとらしく欠伸をしながら歩いて乱入した。
「おい、割り込むな―」
「そこの槍使い、結構強そうだな。かかって来い。相手になってやるよ。」
「てめぇ、話聞け!」
鞘から抜いた模造刀を向けて煽ると、槍を持った男ではなく、風刃が噛み付いて来た。
「そう言うお前は、少し頭冷やせ。他の2匹はともかく、あの槍持ちは1対1じゃないと危ないぞ。」
「じゃ、俺に槍野郎を潰させろ!あっちの雑魚2匹譲ってやるから!」
「ふざけるな!あの杖使いを独り占めしといて、まだ美味しい思いする気か!」
「何!?」
「本当ならこっちだって、杖使いをボコボコにしたかったんだぞ!でもお前の方があいつにもっと恨みがあるだろうから、仕方なく堪えてやったんだ!」
「おお、それはどうもありがとうございましたねえ!別に1対1でやらせろとか、一度も言ってなかったんだけどな!」
「この餓鬼、言わせておけば―」
口喧嘩が激しくなりそうだったところ、僕には槍を持った男が、風刃にはテディベアを抱いた女とゼノムが襲い掛かる。
僕は男の素早く鋭い槍捌きを、風刃は女が右手から放った真っ赤な糸―魄力が込められており鋭利な刃物のような切れ味を持っているのが分かる―の群れと、ゼノムのレイピアでの流麗な突きを、いずれも危なげなくかわした。
「なるほど、言うだけの腕はあるらしいな。…いいだろう。こっちこそ、相手になってやる。」
槍を持った男が唇の端に不敵な笑みを浮かべると、風刃が舌打ちした。
「…仕方ねぇ。ここはハズレ共で我慢してやるか。」
「はは、言ってくれるね。」
「今のうちに好きに言わせておけば。すぐにハズレに殺されて、死んだ後まで恥をかくんだから。」
「ベラベラとお喋りな野郎だ…あっさり黙らせてやるぜ!」
翼を広げて猛然と直進し、女とゼノムに斬りかかる。
ほぼ同時に地を蹴って低空飛行した僕も、槍持ちの男に唐竹割りを仕掛けていた。




