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光の翼  作者: シリウス
第3章 戦乱の翼

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因縁の再会

「マイさん、これ食べて!」


 ユナが舞の口元に、木の実を近づける。


 鬼灯の様な形で、色は真っ赤だ。


「…これは…?」


「樹王の実だよ!結構酷いケガだから、薬よりこっちの方が良いと思う!」


「…分かった…もらいます…。」


 舞が少し大きく開けた口に、ユナはそっと樹王の実を入れた。


「…ちょい、ユナ嬢。それ、味見した?」


「え?してないよ?」


 不安を露わに問う紅炎に、ユナがしれっと答えてすぐ。


「まずーっ!!」


 舞が盛大に噴き出し、転げ回り始めた。


「姉ちゃん⁉」


 寝転がった態勢とはいえ、両手両足を潰されたとは信じられない程元気に大騒ぎする舞に、大輝君が駆け寄る。


「ぺっ、ぺっ…!誰か…誰か飲み物持ってない!?」


「は、はい!緑茶どうぞ!」


 ユナが慌てて緑茶入りのペットボトルを差し出すと、舞はひったくるようにして受け取り、あっという間に飲み干した。


「はあ、はあ…何、これ…⁉樹王の実って、そのまま食べたらこんなにまずいの…⁉」


「ごめんなさい、ごめんなさい!樹王の実は味に当たり外れがあるっていうのは聞いてたけど、外れだとここまで酷いなんて知らなくて…!」


 気づいているのかいないのか、いつの間にやらごく自然に正座した舞に、ユナがひたすら平謝りする。


「いや、すげえ苦しみようだったな…フウ坊の時と同じか、それより酷いか分からねえけど…。」


「風くんよりは、マシだったんじゃないですか?あの時は一口で気絶しちゃったんだし…。」


「そうなんだ…でも、気絶しちゃう方がいっそ楽でよかったかも…!ぴーまん食べる方がまだましなんて、生まれて初めて思ったよ…!」


「いい歳こいて、ピーマン駄目なのかよ…。」


「放っといて!苦手な物は苦手なんです!」


「ははは…ん?あ、姉ちゃん!ケガが…!」


「え…?…あっ…⁉」


 大輝君に目を丸くされて自分の身体を見やった舞は、ようやく怪我が跡形なく消えている事に気付いた様子だった。


 恐る恐る立ち上がっても、腕や脚を触っても、苦しそうな声は全く漏らさない。


「…うそ…!…どこも…全然…痛くない…!」


「うわぁ…相変わらず、効果テキメンだね…。」


「ほう、しぶとく回復したか。これで仲良し姉弟が無事に感動の再会を果たした訳だ。神サマのご慈悲に感謝だな。」


「しらじらしいこと言うな、ルドルス!どうせ今から、姉貴もおれも殺すつもりなんだろ!」


 大輝君に怒鳴られたルドルスが、わざとらしい口笛を吹く。


「全身マヌケの塊かと思ったら、少しは頭も回るらしいな。ククク…その通り。こうやってテメエらを収まるところに収まらせた後で、両方始末するつもりだったぜ。最初はな。」


「今は違う、とでも言うのですか?」


「そう。今は違う。ミズカワマイが想像以上にカスだったもんで、飽きちまったんだよ。歩いて喋るだけが能のサンドバッグなんざ、いくらぶちのめしても退屈なだけだ。」


「…むう…!」


 舞が歯軋りし、握り拳を震わせる。


「って訳で、死のうが生きようがダサさの極みなテメエら姉弟にもう興味はねえ。無駄な抵抗続けてこの場で殺されるも、無様に逃げて屈辱抱えたまま惨めに生き延びるも、好きにしろ。どこの誰だか知らねえが、新しい客を相手してやらなきゃならねえんでな。」


 舞と大輝君は言わずもがな、風刃の顔も険しくなった。


「…誰か知らねぇだと…てめぇ、自分がさらった相手の近くにいた奴も覚えてやがらねぇのか…!」


「そう言われても、テメエみたくクチバシの出てるヤツが居合わせた現場なんざ、記憶にねえなあ。人質を取るってのはそこそこデカいイベントだから、大体は覚えてるもんなんだがよ。」


 薄ら笑いを浮かべて白々しく悩む振りをするルドルスに、風刃が木刀をより強く握り締める。


「まあ強いて言えば、テメエは4年前に人間界でさらった中年夫婦のガキにそっくりだとは思うぜ。…だが、人違いだよな?そのガキにクチバシなんざなかったしよ。もちろん姿形なんざちょっとやそっと変わってもおかしくねえが、人間界で出くわした誘拐犯と被害者が4年も経って、しかも魔界で再会なんて偶然、ある訳ねえもんな?」


 その途端、風刃は姿を消したと思う程の速さでルドルスに接近し、木刀を叩き付けた。


 だがルドルスは杖で木刀を防ぎ、余裕の笑みを浮かべている。


「どこまでもふざけた野郎が!!てめぇ、粉微塵程度で済まされると思うなよ!!」


「ハハハハハ!そうほざくテメエは相変わらず威勢ばかり立派だな、ソウクウフウジンよ!」


 思いがけず名前を呼ばれ、風刃の動きが一瞬止まる。


 その隙にルドルスは杖で木刀を軽く押し、後ろに向かって小さく跳んだ。


「何で俺の名前を知ってやがる!?」


「ククク。気になるか?そいつはな―」


「オレたチが調べたんダよ。」


 近くの家の裏から、濁った声が響く。


 姿を現したのは、一様に真っ赤なジャケットと真っ黒なパンツを身に着けた、6体の邪鬼イヴィルオーガだった。


「てめぇら…!」


「4日ブりダナ、ガき…!ミズカワマイを捕まえルのを邪魔シた罪、てメえの命で償ワせてやルゾ!」


「おいおい、シクロス。勝手に出て来るんじゃねえよ。テメエらはこのボロ村を始末するって事で、納得したんじゃなかったか?」


「つマらネエこと言うな、ルドルス!ほンの1匹の小バエを村より先に潰スくラい、別にイいだろ!」


 言葉とは裏腹に邪悪な笑顔のままのルドルスに、シクロスと呼ばれた黄色い邪鬼イヴィルオーガは憤怒と殺意に満ちた顔で拳銃を構える。


 他の5体の邪鬼イヴィルオーガも拳銃を取り出したが、風刃は少しも動じなかった。


「…一応確かめるが、今の『小バエを潰す』ってのは、てめぇらが俺を殺すって話か?」


「当タり前だろ!他にどンナ意味だと思―」


「笑わせんな!!」


 風刃が辺り一帯を震わせるほどの大声と共に魄力を開放すると、シクロスら6体の邪鬼イヴィルオーガは叫び声を上げる暇もなく吹き飛ばされ、レラーズ樹海の中へと消えて行った。


 勢いを見るに、樹海の外まで放り出されただろう。


「ほう。シクロス共を魄圧はくあつだけで始末したか。レラーズ樹海の奇怪な植物共と同じくらいには強化しておいたんだがな。ククク…結構、結構。今のテメエなら、それなりのオモチャになりそうだぜ。最低でも、ミズカワマイよりは少しはマシそうだ。」


「余裕かましてんじゃねぇ、クズ野郎が!次はてめぇが吹っ飛ぶ番だ!面白半分で人を怒らせれば録な目に遭わねぇって事、いい加減に思い知らせてやる!」


「はいはい。できるモンならやってみろよ。また口だけ達者のダセえ笑いモンで終わる運命だけどな。」


「…あまり煽らない方が良いと思うよ、ルドルス。彼、君じゃ危ないかもだ。」


 レイピアを備えた茶髪の男が穏やかな口調で、だがはっきりと曇った表情で告げる。


「ハッ。昼間から寝ぼけんなよ、ゼノム。こんなカス相手で、オレが劣ってる訳がねえだろうが。」


 茶髪の男―ゼノムの警告も、ルドルスは全く気に留めない。


 ゼノムと視線を合わせる事もなく、風刃を嘲る。


「テメエも、少しは目を覚ませよ。シクロス共をあっさり片付けたからって天狗になってるようじゃ、オレとやればミズカワマイと同じオチになるだけだぞ。ヤツやテメエみてえに中途半端に強い野郎が、戦場で一番無様を見るんだぜ。紛れもない強者のようには勝ちを掴めず、かといって全くのザコのようにはあっさり死なせてもらえず、ってな。」


「ほざけ!」


 風刃が最初より更に勢いを増して、ルドルスに斬りかかった。


 斬撃自体は防がれたが、ルドルスは一瞬だけ焦った表情を浮かべた上、木刀を受け止めた杖もごく僅かに震えている。


「…なるほど。悪くねえな。シクロス共の調べじゃ、修行の時はミズカワマイと互角か、少しだけ上って感じだったらしいが…仲間相手で無意識に手加減でもしてたか?」


「てめぇの知った事じゃねぇ!それより、うちの親をどこにやった!」


「さあ、どこなんだろうな?こっちが聞きてえよ。」


「しらばっくれるな!!とっとと吐きやがれ!!」


「しらばっくれようがねえんだよ。テメエの父親はうちの頭領カシラが連れ回してるし、母親はそっちの陰気臭い黒ずくめの女と、その弟に奪還されたからな。」


 ルドルスに指差された舞と大輝君を、皆が驚愕の表情で見やる。


 風刃も例に漏れず2人に視線を奪われたために、またもルドルスに距離を取られたが、今度はそちらを気にする様子もなかった。


「…安心して…鈴音すずね様は…父さんと…腕利きの…門下生達に…がーどして…もらってるから…ディザーにでも…会わない限り…。」


「ハハハハハ!さっきの今で、まだそんな寝言がほざけるか!とことんめでたい脳味噌だな!」


 まるでコントでも見たかのように、大笑いするルドルス。


 だがその笑いはすぐに、冷然とした嘲りの色を帯びた。


「自惚れんな、ミズカワマイ。ミズカワセイゴと門下生共が群れたところで、豆鉄砲が集まった程度の脅威に過ぎねえ。そんなモン、オレ1人でどうにでもなる。」


「強がるな!本当にそうなら、とっくに鈴音様をつかまえに行ってるだろ!」


「ハハハ、さすがは姉弟。頭の悪さもそっくりだな。今更あんな女を捕まえても引っ張り回すのが面倒なだけで、何の利用価値も面白味もねえ。だから放っておいてるだけの事さ。」


 ルドルスは大輝君の反論を笑い飛ばしたが、すぐに不快感の滲む真顔に変わった。


「…だが。いくら要らねえモンでも、自分で納得して捨てるのと、いきなり湧いて出て来たヤツにぶんどられるのとじゃ、訳が違う。テメエら如きの不意打ちで人質を奪還されるなんざ、許せねえ失態だったからな。そこはきっちり落とし前付けさせてもらったぜ。テメエらが一番嫌がる事でな。」


「ほーん。ただの嫌がらせのためだけに弟くんをとっ捕まえて操り人形にした挙句、舞にぶつけたって訳か?…ずいぶん良い根性してんじゃねえか…!」


「今となっちゃ、それだけでもねえさ。言っただろ。人間界で出くわした誘拐犯と被害者が4年も経って魔界で再会なんて『偶然』がある訳ねえ、ってよ。」


 声と口調に荒さが出始めた紅炎に、ルドルスは再び下卑た笑みを復活させて応じる。


「ソウクウフウジン…シクロス共から『水色髪のガキに風か何かでやられた』ってのを聞いて、すぐにテメエのツラが浮かんだよ。世界広しといえども水色髪の風使いってのは、人間界にも魔界にもソウクウの一族しかいねえからな。もしそれが当たりなら全くの無縁なヤツでもねえし、そのうち歓迎会でもしてやろうと思ったもんさ。」


「水色髪の風使いが、うちしかいない…?何でだ!?」


「おっと。そいつは本題からズレる話だから、割愛するぜ。」


 僕が叫んで尋ねたが、ルドルスは全く取り合わない。


「—それからシクロス共に調べさせたら、テメエがミズカワマイとつるんだのもすぐ分かったよ。となれば、捕まえておいたミズカワタイキを利用しない手はねえだろ?」


「…大輝さんの居場所は、ティグラーブさんもなかなかつかめなかった…急に分かったのも、あなたの差し金ですか。」


「ご名答。捕まえてからほぼずっと地下に押し込めて殴り蹴りしてたが、それも何日か前に飽きちまったからな。テメエらとつるんでる元情報屋に、ミズカワタイキがここで見つかったってタレコミをよこしたのさ。ヤツの知人を操ってな。こんな不自然な急展開を深掘りしなかったとは、名うての元情報屋も大した事ねえなあ。ククククク…。」


 心底愉快そうなルドルスの笑い声が、僕達には不愉快でしかなかった。


「理解できたか、ヘボ野郎共。テメエらは揃いも揃って、腕も無力なら頭も無力なゴミの集まりって事だ。一生…いや。くたばった後まで、無様なオモチャにしかなれねえ運命なんだよ!」


「…そのうるせぇ口、永久に開けなくしてやる!!」


 風刃が木刀を素早く振るい、威力はやや低いが速度に優れる風の弾丸を3発放つ。


 ルドルスはそのうちの2発を、難なく杖で弾き飛ばした。


「ハッ、マヌケが。そんなショボい技が通じるとでも思っ―」


 だが3発目を弾いた直後、ルドルスは風刃の拳を腹に深々と食らっていた。

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