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参 4月15日 月曜 曇り

 裁判を開くのに火曜とか木曜とかの決まった曜日はないらしい。

 お役所と同じく休日を除いた昼間に開かれるのは一緒なのに、あたしの裁判はいつも月曜の朝9時からと決まっている。

 証言台での一連の流れが終わったら、裁判官をやる人が次の開廷日(かいていび)を告げるから、ほかの偉い人たちと平等にあたしもそれを知ってしまう。裁判で公平と平等なのはそれだけ。いつも終わるときの楽しみにそれを聞いている。

 そんなのに公平と平等を見つけるくらいだから、ほかのことは全て理不尽だ。

 

 たとい少額とはいえ、たくさんの知り合いから返す当てのない金を借り続けるのは褒められる振る舞いと言わないけど、被告なんて呼ばれる憂き目にまで貶め(おとしめ)られるとは理不尽だ。

 逮捕され、監禁され、あたしはどこに行くにも手枷を嵌めた(てかせをはめた)身の上になる。ここだって、ドアを開け満場の視線を浴びながらいつもの椅子に座るまではブレスレットより少し大きくキラキラした手錠を掛けられた姿を皆んなに見世物にされる。

 鍵を開け、金属の輪っかを外すガチャガチャした音が止んだら、開廷が叫ばれる。あんなに頭のいい人たちなのに腹式呼吸(ふくしきこきゅう)腹式呼吸(ふくしきこきゅう)でやる作法は皆んな守って、ほんとうに叫んでいるのだ。これがあの人たちの平等。このあとは、順々に理不尽の羅列(りふじんのられつ)が並んでいくだけ。


 被害者と(ひがいしゃと)名乗る輩ら(なのるやから)が、本心から進んで好んで財布からお金を出したりなんかするもんか。

 それはいい。認める。被害者と(ひがいしゃと)名乗る輩ら(なのるやから)は、あたしの好きな作った言い回しだけど、そこまでは首を縦に振ってももいい。

 それでもね、あたしにだって矜持(きょうじ)はある。

 あたしがせびるのは・・・・・、

 これからの楽しい気分を壊されたくないから少し背伸びした踵の隙間にできた壱万円札3枚を渡し、あたしが恨みがましい目をつくらず楽しそうにバイバイするため3枚の壱万円札と同じありがとうの目でバイバイできる相手だけ。  

 まかり間違っても、懐に溜まった札束が重さに辟易して(へきえきして)いいカモ見つけたら唾棄してやろう(だきしてやろう)と雨でも降らせるみたいにお札たちを浴びせ渡すお金持ちなんかじゃない。

 そんな張り着いたお札たちがシクシク泣くような手合いはこっちから願い下げだもの。


 なのに・・・・・、

 被害者と(ひがいしゃと)名乗る輩ら(なのるやから)たちは、脅し、強迫、雑言の類いから自らを守るため、財布を開け中に入った一万円札すべてを被告に奪われたと言う。酷い(むごい)のに至っては、長財布のファスナー開けた途端、被告自らの手を突っ込みゴッソリ鷲づかみする悪行もあった(あくぎょうもあった)由(よし)だと。

 由(よし)って、国立(こくりつ)演芸場(えんげいじょう)のお白洲(おしらす)かよ、おい。

 もちろん、そんなワード、零(こぼ)したりしない。お白洲でない法廷は、心の叫びだって一律私語(いちりつしご)と呼ばれ排除されるから。でもでも・・・・・鷲づかみなんて言い方、おい、こら、あんた、見てもいないのに大仰を被す(おおぎょうをかぶす)んじゃないよ。この前の別件じゃぁ、ブラウスの第二ボタン外しただけでレイプされた被害者をふしだらな女に筋書き書き換えたくせしてと付け足す。

 ほんとうは、これも付け足したい。

 あんたたち、被害者、被害者ってのたまってるけど、本当の当事者はお金だからね。ちゃんとお金に聞いたのかよ。聞けば、ちゃーんと答えてくれるよ。

 

 まず、お金は男性名詞なのだ。でも、貨幣の種類によって女性化する。

 あのときは、ボク、気持ちよく財布から抜け出ました。えー、ようく覚えています。壱万円札だなんていって威張ってますけど、本当のいい顔してるのは自分の財布の中に入れるときだけ。それだって、ATMで払い出しのボタン押してディスプレイの預金残高見た後なんかは、とっくに引き算の暗算すんでるのに親の仇見てるみたいなひとだっているんだから。そんなひとが財布の中からぼくたちを引っ張り出すときの生身の形相(なまみのかお)っていったら・・・・、形容しなくてもわかるでしょう。

 でもね、あのひと、あのとき、間違いなく気持ちよくなってたはず。

 街にクリスマスソングなんか流れてたりしたのもあったけど、冷たい掌がほんのり暖かくなってくるのが分かった。自分はこれから己れの欲望(おのれのよくぼう)だけのために散財しに行くのに、「あんまり無駄遣いして呉れんなよ」なんて、壁ドンする二枚目俳優みたいな少しだけ低い声なんか出しちゃってさぁ。

 ちゃーんと、いい気分にさせてあげたじゃないの。本番がスタートする前のゼロ次会拵えて、モチベーションあげて、ホワイトクリスマスの似合う男に君を仕立て上げてあげたじゃない。

 皆んなが皆んなヒーローはやれないから、ひとには分相応ってものもあるから、壱万円札(いちまんえんさつ)一枚の殿方(とのがた)にはそれなりの、刷りが薄く地の色が多いお札何枚かを丸める方はそれなりのステージを用意してあげたじゃないの。

 それを、あなたたちったら・・・・いまになって、そんなこと言い出すなんて、どれだけ小っちゃい男たちなんでしょう。


 あのとき旅立った壱万円札(いちまんえんさつ)たちが皆んなが、そんな風に証言台に立ってくれたらいいのに。 

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