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ケツァルコアトル〜太陽になる男〜  作者: AU


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第八話 根源の剣

 



「くっ…そぉっ…まだ、まだぁっ!」




「あぁその息だハルト!どんどん来い!!」




 修行開始から約二週間。ハルトは今日もアンデルセンにボコボコに打ちのめされていた。



 ハルトの毎日のルーティーンは以下の通り。



 まず朝は七時前に起きる。

 軽く朝食をとったらすぐに基礎体力向上の筋トレ。腕立て腹筋背筋スクワット、基礎的かつ一般的な筋トレをひたすらに繰り返す。



 そして十時ごろから始まるアンデルセンと組手稽古。アンデルセンはハルトが成長するのに比例して手加減を緩めていくので、結局毎日、ハルトは中庭の芝生の上に転がされていた。



 昼食を挟んで少しばかりの休憩をしたら今度は得物を持った稽古。それは中庭から少し離れた屋内の修練場にてポチと行う。



 木刀やら刃を潰した短刀やらを持ち、環境を利用した戦闘を学ぶのだ。

 これは午前中の修行とは違ってだいぶ楽しかったとハルトは感じる。日に日に戦闘が上手くなるのがわかる上、「右手でこれをやったら左手でこれを…」と考える前に勝手に体が動くようになってきていた。




「アンデルセンも言っていましたが、ハルトは本当に飲み込みが早いと思います。始めて数日でここまで出来る人は中々少ないですよ」




 と、ポチはハルトに太鼓判を押す。



 アンデルセンはいつもの楽観的な性格からは想像できないほど修行に関してはシビアであり、中々ハルトを褒めることが無いのだ。

 その分ハルトは、ポチに傾倒していったと言えよう。



 とにかく、それが終われば夕方頃から能力の修行が始まる。



 内から湧き出る力を光に変換する訓練。人狼を撃破した時の感覚を掴むための修行。実戦で能力が使えないなんてことがあってはならないため、そこは重点的に行った。



 そしてそれは継続しつつ部分的に光を纏う、或いはそれを拡散する。そんな訓練も追加して行う。



 光の神子の力は応用の余地が多く、光を纏う、纏わせる、拡散させる、収縮させて放つ…などなど様々なことに能力を活用可能なのだ。

 この一月でそれが出来るようになれば御の字、欲を言えば更に実戦で使う選択肢を増やせればいいと二人は考えていた。



 勿論、この修行もポチが担当する。




「俺も能力はけっこー使いこなせるタイプだけどな!まぁあれだ、あれだな!そうっ、あーゆうのはマジでセンスだから!慣れていくといいぞ!」

 と、アンデルセンはいつもの調子なので二日目からはポチと一対一での修行になっていた具合だ。



 逆にポチは教えるのが上手い。

 感覚的な分野を論理的に説明出来る上、そもそも言語化能力が高いのが特徴だ。



 ハルトがそれを褒めると「ふふん」と照れていたポチだが、何故ここまで的確な指導が出来るかと言うと、それはポチの能力の難解さにある。




「実戦で必ず役に立つのでハルトには私の能力を伝えておきます。私の司る神は『時の神』。能力は時間跳躍です」




「時間…跳躍?」




「はい。私は自分自身含め触れたものの時間を指定した秒数飛ばすことが出来るのです」




「…ん、うーん?それって瞬間移動的な能力ってこと?」




「流石、ほぼ正解です。

 例えば私がA地点からB地点まで歩いて十秒だとして、A地点にいる時点で指定十秒の能力を発動したとしましょう。すると次の瞬間に私は既にB地点にいます。インターバルの“間の時間”が同じ秒数必要になりますが、実質的な瞬間移動みたいなものですね。これを他人にも適用できる訳です」




「え、ウソ。何それめちゃくちゃ強いじゃん!瞬間移動能力を俺も使えるってこと!?」




 聞いた瞬間、ハルトは興奮を隠しきれない様子でポチに詰め寄った。



 ハルトは世間から離れて生活をしていたとは言え、年頃の男児である。カッコいい能力には羨望を抱いて仕方が無かった。




「ポチぐらいのセンスが無きゃあの能力は使いこなせない」とハルトはアンデルセンから聞いていたが、それを大袈裟だと思ってしまうほどにはハルトは興奮していた。



 が、ポチの話を聞き続けると思った以上にこの能力がピーキーであることに気がつく。




「違うんですハルト。瞬間移動と言う言葉はわかりやすいから使っているだけで、実際はだいぶ違います。理論的には十年飛ばすこともこの能力では可能です。しかしそうすれば次の瞬間には十年年老いた私がどこかへ出現します。今、この状態の私が十年時を跳躍する訳ではないのです。十年後の未来の自分へ()()()()()()のみが飛ぶのです。この意味はわかりますか?ハルト」




「…未来が視える訳じゃないんだもんな…てことは……ん、けっこーやばいかもね。それ」




「流石ハルトです。そう、未来を視る能力でない限り未来のことなんてわかりません。それは短い間であっても同じで、十秒後に私がどうしてるかなんてわからないのです。

 今は敵に向かっていても何かしらの要因で引き返しているかもしれない。基本あり得ませんが十秒の間に転んでいる、もっと言えば殺されているなんてことも。そうすれば上手く能力を活用することは出来ないでしょう。しかし、この能力の厄介な点はこれだけでは無いのですよ。敵に攻撃しようとする時のことを考えてみてください」




「もっと厄介な点…攻撃しようとしてる時に……?あ、なるほどわかったぞ。だからアンデルセンはセンスがものを言う能力だって言ってたのか…」




 ハルトは、合点がいったとばかりに顎に手を置いて頷く。




「つまりあれだろ?コンマ数秒で時間を指定しないと百パーセント潜在能力は発揮できないと」




「…本当に聡明ですねハルトは。アンデルセンとは段違いです。

 例えば今私がいる位置からハルトの手前ピッタリまで歩くのにきっかり二秒なんてことはあり得ないですよね。コンマ数秒単位の時間指定が必要です。ほんのゼロコンマ数秒でも多ければハルトの位置を越えてしまいますし、少なければハルトのやや手前で出現します」




「それが戦闘中だと…致命的なズレになると」




「はい。もしハルトが敵だとしてハルトの目の前に出現出来なかったらカウンターを許してしまう。敵が猛者であればある程その誤差は致命的で、完璧な時間指定でなければならない訳です。では自分の歩速や走る速さを完璧に覚えていれば解決する話か?と言われればそれも違います。環境は常に違うのです。天候も、地質も、空気の重さも、もちろん私の体調も違う。であればただ自分のことを知っているだけではこの能力は使いこなせないでしょう」




「なるほど。思ってる数十倍、使いこなすのが難しい能力ってことね…」




 予想以上の厄介さにハルトは絶句する。

 そしてそれと同時にポチの凄さを身に沁みて理解した。



 いつ何時でもその時の環境、その時の自分の調子を完璧に把握して、更に天性の時間感覚が加わることで使いこなすことが出来る能力。

 才能だけでは絶対に本領を発揮させることは出来ない能力だ。



 血の滲むような努力があってようやく潜在能力を引き出せる力。ハルトはポチの洗練された肉体の理由を少しわかった気がした。




「えぇ、ですがこの能力を極めれば敵無しです。この一ヶ月である程度ハルトの()()を把握出来れば、戦闘では抜群のコンビネーションを発揮できるでしょう。ふふん」




「そうだな。ポチに触れてもらえさえすれば俺も時を超えることが出来るってことだもんな。そりゃ戦闘の幅が広がるわ。

 でも、…何にせよポチは凄いよな。相当の努力をしなきゃそこには到達出来ないだろ。ホントに、そう言うとこは手放しに尊敬できるぜ」




「!…きゅん。そんなに褒められると照れてしまいます。ですが、とっても嬉しいですね。この嬉しさを糧に、より強くなります。私のお父様はもっと上手くこの能力を使いこなしていたと言いますし、いつかは私もその領域までいかなくては」




「お父様、ね。やっぱり能力は引き継ぐもんなんだな。ちなみにポチのお父さんってどんな人なの?」




 能力は稀に、血の繋がりで継承されることがある。

 その例に漏れずハルトやポチは父親から能力を継承していた。



 そうでは無い場合がほとんどではあるものの、豪族、名家の支配者など、何百年もの間代々能力を受け継いでいる稀有な例もあるのだ。



 ハルトは「もしかしたらポチもそんな感じの凄い家系の出なのかもしれない」と思い軽い気持ちで質問したのだが、




「お父様ですか?お父様は…病弱な人で、私が物心付く前に亡くなられたのです。なのですみませんがよくわからないと言うのが答えです。

 現天帝様のお父様の実弟。つまり天帝様の叔父であると言うことぐらいしか…」




「ふぅんなるほど、天帝様の叔父さんね……。……あっ!じゃあやっぱりポチも天帝様の血をひく奴だったのか!!」




「?そう、ですが…」




「いやぁそんな気がしてたんだよ、あまりに見た目が似てるからさっ!」




 バシバシとポチの細い肩を叩くハルト。


 髪色や瞳の色を見た時、ハルトは最初から天帝とポチに何かしらの関わりがあるだろうと推測していたのだ。




「もう知ってると思ってましたが、そうですか。

 ふふん、でもそうなのです。一応これでもクアウトリ直系の人間なのですよ」




 ポチの天賦の才はクアウトリ家由来のもの。世界最強の存在、天帝と同じ血を引く女騎士。



 かなり強力なバックボーンがポチの血筋にあることを改めて確認したハルトだったが、それを知ると、なぜ普通の制服では無くメイド服に身を包んでいるのか気になった。




(まぁ、…うーん。それは趣味なのかな?触れないでおこう)




 頬を赤らめて照れるポチを横目に、そんなことを考えるハルト。もう少し仲良くなってからそれは聞けばいいやと一旦疑問を先送りにする。



 そして、「そういえば」と、気を紛らわすように先ほどのポチの言葉に関する質問をした。




「ちなみにさ、なんかアンデルセンからもふわっとその単語を聞いたんだけど、クアウトリの直系とか傍系とかってのはどうゆう基準なの?ポチは直系、なんでしょ?」




「む、なるほどそこですか。確かに初見ではわからないですよね。

 クアウトリ家における直系は天帝様の兄弟と天帝様の父親の兄弟、そしてその子供までの三親等を指します。それ以外は傍系です。私は現天帝様の従兄弟に当たるので直系ですね。でも仮に私が子孫を残したとしたらその子は傍系になり、クアウトリの戦闘部隊に所属することになると思います」




「クアウトリの戦闘部隊、それも聞いたな…。総隊長直属の兵士がレンジやアンデルセンだが、天帝様にも直属の戦力があるって…確か名前は、」




「『鷲の戦士隊』ですね」




「そう!それそれっ」




 ハルトはここに来る前まで、帝国軍は天帝の直属だとばかり思っていたがそれは違う。


 二世代前の天帝が、肥大化するとある敵を前に自身へ権力と兵力を集中させて世界を独裁的に支配しようとした過去から、天帝に戦力が一極集中してしまうことを防ぐために帝国軍は独立した組織として成り立っている。つまり、天帝についている戦力は『鷲の戦士隊』のみ。



 しかしながらクアウトリの血を引くものは帝国の隊長たちにも並ぶ類稀なる強さを誇っており、帝国は帝国軍の兵士たちとクアウトリの戦士たちの二枚看板で成り立っていた。



 そして直系か傍系かの判別の仕方は『根源の剣』を持っているか否か、と『時の神』を司っているか否か、とのこと。



 ポチも持っている、細身で、しかし重厚な雰囲気のある両刃の剣はクアウトリ家直系の人間に代々受け継がれていくもので、それがまずは判別要素になる。



 加えて『時の神』の力は直系にしか基本的には継承されない。

 歴史上数少ない例外はあれど、まずクアウトリの直系傍系以外の人間には出現したことが無いのだ。




「てことは、ここ帝国にいる直系は天帝様とポチだけって話か。そう考えると先代の天帝様ってのは大分チャレンジャーなんだな。天帝ってのは世襲制なんでしょ?だったら有事に備えて何人か子供を作りそうなもんだけど。あ、ごめんね失礼だったら」




「……」




「え、ホントに超失礼だったりした…?」




 ハルトのなんてことのない会話に一瞬黙り込むポチ。珍しくポチからやや暗い雰囲気を感じたハルトは、何かまずいことを言ってしまっただろうかと不安になる。




「…いえ、問題は無いです。すみません、少し考え事をしてただけです…」




「そ、そっか。まぁそんなこともあるよな…?」




 ポチは何かを誤魔化すかのように会話をすり替えた。



 自分の裸体ですら見せつけてくるような奴が隠し事?とハルトは思ったが、人には一つや二つ、知られたく無いことがあっても不思議じゃあないなとグッと好奇心を堪えた。



 若干の不穏さを孕みながらその日の修行は幕を閉じる。




(そういえば、ポチが『根源の剣』を二振り持ってる理由も聞き忘れちゃったな。まぁ十中八九、それが話したくない()()なんだろうが…)





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