第六十一話 オクトモアでの一幕②
こんなにも不定期更新なのに、読んでくれる人が増えるのは嬉しい。
よければブックマーク等お願いします。
「俺はいつでもいいぞ。お前の準備が出来たらかかって来いよ」
突如開幕したガイルさんとの模擬戦。
啖呵を切った俺の本気度を確かめるために始まったそれは、教会に隣接されている中庭のような場所で行われる。
広さは三十メートル×三十メートル程で、障害物の無い広々とした空間。
砂利と土が混じった地面には、木刀の破片や、脱ぎ捨てられた防具などが転がっており、恐らくここで義勇軍の訓練が行われているであろうことが容易に想像出来た。
そこの中央に仁王立ちするのがガイルさんだ。先程と殆ど変わらない軍服の様な格好。しかしサングラスを外し、上着は脱いで、白いTシャツに動きやすそうな靴を履いている。威圧感は先ほどよりも当然増しており、ビリビリとした圧力が暴風の様に俺を打ちつけた。
けれど、負けてられない。俺も帝国軍の制服を脱いで、動きやすい格好で対峙する。
柔軟で脚の筋肉をほぐしつつ、ガイルさんを見据えてどう動くべきか想定した。
(真正面から突っ込むか、それとも光線を放って様子を見るか…。いや、どっちもキツいか?来る時にチラッと見えたあの能力のタネがわからない以上、慎重になり過ぎて困ることは無いはず…)
そう。先程俺の身体をふわっと浮かせたあの能力。まるで無重力空間にいるんじゃ無いかってぐらい自然に浮き上がった肉体と、対象に触れていなくても作動したこと。
それらを鑑みるに、彼の能力は重力を操る。或いは風を生み出す能力だと推察出来る。
だとすれば迂闊に近寄ることは出来ない。そのまま身体を浮かされたり、跳ね返されたりして終わりだろう。
無論、このまま長いこと様子見し続けるのも的策では無いが、何かしら突破口は見出さなければ。
「なんだよ。来るのか、来ないのか。…そんじゃま、こっちからやるぜ?」
「!」
どうやって一撃を喰らわすか。そう考えていた最中。
突然、眼前のガイルさんがこちらへ指を向けて来たかと思うと、前方からの突風が思いっきり俺の身体を打ち付ける。
まるで暴風域の中に一人で突っ立っているかの如く、前方から飛来した謎の斥力に逆らえない。両脚で踏ん張ってどうにか耐え抜こうとしても、ジリジリと後ろへと追いやられる。
それどころか、斥力をピンポイントに高めているのか、上半身は完全にのけ反った状態。体が上がってしまっている以上これ以上の踏ん張りは効かず、今にも弾き飛ばされてしまいそうだった。
それほどまでに強力で、密度の高い力の奔流。一歩たりとも前進できるビジョンが見えない。
(くっ…とんでもねぇパワーだ……。っ、けど!能力のカラクリはわかったぞ…っ!
さっきの山登りの時もそうだった。この能力は、指や腕で指し示した方向に向かって斥力を発生させる能力だ!)
先ほどの山中にて俺を浮遊させた時。その際にも、ガイルさんがクイっと指を上に向けていたのを俺は覚えている。まず間違いなく、俺の推測は正しいだろう。
となれば次に考えるべきはその威力が一定かどうか。そして斥力がどの程度持続するかだ。
俺を数分間浮かせ続けていたことからも、きっと持続力は高い。そしてあの時はただ俺を浮かせていただけであり、下から突風の様なもので押し上げている感じでは無かった。即ち、威力は使用者本人の匙加減で調節出来るということ。
つまり、ガイルさんが牽制で攻撃を放っている今のうちに斥力を突破しなければならないのだ。大技を放たれてはそれこそ突破不可能。
業腹だけど、俺を見くびっている今のうちがチャンスになるはず。
ーーーと、頭では理解していても、それを突破するのは難しい。
何せ、牽制の攻撃に耐えれていないのが現状なのだ。どうにかしてこの正面の斥力から抜け出さなければ。
「……って、マジかっ!そりゃあそうだよな!」
それを許さないのがガイルさん。悠長に対処する隙は与えてくれない。
自身の力でその身体を空中に浮かせていたガイルさんは、俺の踏ん張りが緩んだ瞬間に急降下を始めた。
恐らく下から上への斥力を解除し、今度は後頭部あたりから前方斜め下に向けて斥力を発動したのであろう。
重力に加えて、斥力による推進力。正しく人間カタパルトのような形でガイルさんの拳が迫り来る。
「っ、おっおぉ!!あっぶねぇ!これは喰らったら一発で意識が飛ぶな!」
間一髪、その拳を躱す。
前方からの斥力に耐えるのを中断し、その風圧に半ば流される形で後ろに飛んだ俺の判断はどうにか功を奏した。
されど続け様に攻撃は放たれ続ける。
打ち出した拳はその方向へと斥力を生み出し、まるでミサイルの様な波動砲が凄まじい速度で襲い来るのだ。
波動砲による攻撃は距離を取ったところで無意味。では、距離を詰めて接近戦に持ち込もうとすれば、今度はガイルさん得意の近接格闘術での戦いに持ち込まれる。更に彼は、自身を宙に浮かすことで機動力も得ている状態。
最早、遠近どちらも隙が無いのが彼の特徴である。
「ちっ、やっぱりダメか!!」
隙をついたと思った光線もあっという間に弾かれる。やはり遠距離から放つ光線には突破力が欠けており、ガイルさんの斥力に弾き返されてしまった。
接近してカウンターを狙うが、戦闘経験で圧倒的に勝るガイルさんには拳が届かない。
軽くいなされ、そのまま斥力を纏った拳で吹き飛ばされて仕舞いだ。
結果として、数十秒の間、俺は避けることで精一杯。
策を練ろうにもその猶予すら与えられない。吹き荒ぶ波動砲に押しやられながらも、訓練場を駆け回るだけに留まる。
(光の弾幕は…。無理だ、すぐに波動砲で粒子を吹き飛ばされちまう。光線も、生半な威力だったら弾き返されて終わり……。かと言って斥力を貫通する程の威力にしたければ相当な溜めがいる。…くそっ、だったら…。逆に、あぁするしか無いか!?)
「どうした?一丁前に啖呵切っといてちょこまかと逃げ回るだけかよ」
逃げ惑うだけの俺に、波濤の如き攻撃は容赦無く襲い来る。
空気を押し出し、俺の体をいとも簡単に吹き飛ばし、地面を抉る。今のところ肉体に大きな損傷がないのは奇跡としか言いようがないほど、縦横無尽に空気の圧が飛来した。
なんとか俊敏性では優っている様だが、それも時間の問題だろう。相手の斥力を逆手に取って波動砲を躱したところで、そんな付け焼き刃の戦法には限界があるし、体力の消耗も激しい。
俺に取れる手段は、もう一つしか残されていなかった。
「すばしっこい奴だな。だけどな、逃げ回るだけならそのまま轢き潰す。万一、死んでも文句言うなよ?」
(ーーー来たっ!)
再び、ガイルさんが滞空する。
チラリと端で観戦していたジャックさんを見やると、すぐに俺へと視線を戻し、自身の腕や指を四方八方へ、蛇の如く不規則に動かした。
「…さぁて、何秒耐えられるかな?」
次の瞬間、地上にいた俺の周囲に変化が起きる。
周囲の砂が巻き上がると同時に、まるで竜巻の様な風の奔流が俺の周りを駆け回り始めたのだ。
およそ人間業とは思えない自然現象。しかしそれは空中に浮遊したガイルさんが発動した技であり、俺に逃げ場を与えない無情な砂嵐。
斥力をあらゆる方向に発生させることで生み出された、とてつもない破壊兵器だ。
「秩序の柱」
一瞬にして、全方位から襲い来る強烈な斥力によって身体を潰される。
上へ飛んで逃れようにも、これは正に砂と風の柱。遥か上空まで伸びた砂嵐はどこへも逃げる場所を与えない。
斥力が右へ、左へ、上へ、下へ。あらゆる方向へ俺の肉体を引っ張り、突き放つ。
風のミキサーは中心部にいる俺を粉々に粉砕せんと、信じられないほどの殺意を向けてきた。
「ぐっ…ぉおおおおおおおお!!!!」
無限に続く砂嵐の中、俺は限界まで足腰に力を入れて踏ん張りながら絶叫を上げる。
服が引き裂かれようと、皮膚が抉られようと、危うく眼球を損傷しそうになろうと、俺は最低限の光を身体から発して致命傷を防ぎ、万力で地面に這いつくばる事でどうにか耐え抜いていた。
それ以外に策が無かったのだ。遠距離で戦おうと、近距離で戦おうと、ガイルさんには有効打を与えられない。そうである以上、どうにかして隙を生むしか無いだろう。
俺がやれることは限られている。故にこそ、今はただ耐えることのみが最適解であると判断した。
(くそっ、いてぇ…っけど、耐えろ!!耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!!あんだけ言っといて、こんなんで負けてたまるかっ!!)
「なんだ。拍子抜けじゃねぇか。逃げるのをやめたかと思ったら、結局耐えるだけか。ならばより密度を上げてやるーーー。…お??」
とにかく耐え忍んだ十数秒。
俺にまだ意識があることを確認したガイルさんが更に砂嵐の密度を上げ、斥力もより勢いを持とうとしたその時、
ここに来てようやく、俺が仕込んでいた反撃の狼煙が上がる。
「……なんだ、目が眩む…。…いや、これは光の粒子だっ。さっきの光線を模ったいた光。それを微細化させて風に乗せてきやがった。しかも」
「…そうだ、ぜ……。…ようやく少し勢いが収まったか…??だったらもう一発!!」
俺は、ガイルさんの発言から光の目眩しが作用したことを確認する。
通常の戦闘時には光の粒子や光線はあっという間に弾かれてしまった。が、大業を放っている時であれば有効であるのではと推察したのだ。
嵐の轟音に遮られながら、何とか耳に入れた声で推察が確信に変わった俺は、今度は光線を砂嵐に乗せて方々へと射出する。
当たらなくとも構わない。今は何よりもガイルさんの気を逸らせればそれでいいのだ。
「…っ、考えたな。秩序の柱を展開している間は他の攻撃への対処が緩くなるのは事実だっ。
だけどなっ、戦場はそう甘くはねぇぞ!」
滞空しながらもあちらこちらに乱射された光線を避けるガイルさん。
光線がまともに狙いを捉えていないことを見るや否や、砂嵐の勢いが弱まり過ぎぬよう調節しながらも、自身の拳に力を溜め始めた。
そして、天高く伸びる砂嵐の頂点へとその身を移動させると、直下にてミキサー攻撃に耐え忍ぶ俺の姿を睥睨する。
「緩んだ砂塵の中でお前が何を企んでいようと、隙は与えねぇ!直上からぶっ潰してやる!」
ーーーそう。言葉通り、ガイルさんは砂嵐の上からそのまま俺のことを押し潰すつもりだ。
万力を込めた拳を直下に撃ち出すだけでも、その拳に乗ったエネルギーは斥力となって放出され、強大な波動砲が俺の全身を襲うだろう。
恐らく、先ほど砂嵐を形成させた時に使っていたエネルギーを今度は拳に集約させている。まともに喰らえばひとたまりも無いどころか、下手をすればそのままお釈迦になってしまうなんてこともあり得る話だ。
だが。だからこそ、俺にとっては好都合だった。
これでようやく、ガチンコの勝負が出来る。
小細工を弄する戦いじゃあ、ガイルさんを納得させるような結果にはならない。
俺の全身全霊で、ガイルさんの(恐らく)本気の攻撃を打ち破らなければ。
そう決意し、俺は今の今まで温存し続けていた光の力を脚部に纏った。
「……よっしゃあっ!!こっからが本当の勝負だ!」
「っ!?何!?そのエネルギーどこから!」
敵は瞠目する。
やはりそうだ。ガイルさんは本気じゃ無かったんだ。俺を侮っていた。だから俺が持つエネルギーの内包力も見誤った。
俺は防御に力を裂かず、ほぼ全てのエネルギーを体内に温存していたのだ。
そしてそれを、今。全力で放出する。
ロケット砲と同じ要領で地面を蹴り、砂嵐の斥力に体制を崩されることもせず、勢いのままに上空の敵を目掛けて突貫した。
「まさかお前!砂嵐の中をほぼ生身で耐え切ったのかっ!
…だったら!その全力ごと返り討ちだ馬鹿野郎!」
「望むところだよ!!うっぉおおおおおおおおお!!!!!」
破裂音を立てて俺の全身と、波動砲がぶつかる。
ガイルさんが撃ち出した波動砲は今までのものとは比べ物にならない威力。そう簡単には貫けやしないし、真正面からぶつかった以上もう逃げ道は無いだろう。
けれど、俺も膂力で負けていない。
ガイルさんが踏ん張りが効かない空中にいるのだから、地の利はこちらにあると言えよう。全力で地を蹴り上げた俺の肉体は、既に猛烈な速度に達している。その速度と、肉体全てを掛け合わせたこの技は文字通り全身全霊だ。
今まで拳に纏って撃ち出すだけだったあの技を、身体全体でやってやる。
言うなればこの技はーーー
「迸る大神の槍!!!いっけぇぇえええええええええええ!!!!!」
「ぐっ、!!ルルるぉおおおおおおおおお!!!!」
互いの雄叫びが木霊し、拳と頭蓋がぶつかる。
その直後、オクトモア訓練場の上空にて、劈くような破砕音が響いた。




