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ケツァルコアトル〜太陽になる男〜  作者: AU
第一章 北方攻略編

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第五十六話 アンデルセン、最後の闘争

 





「大帝が、爆発から生き延びてくる可能性?」





 作戦会議の終盤、「ともすれば大帝を爆発で殺しきれないかもしれない」とシャーロックが発したことで、クモナがその言葉に疑問を呈する。




 完璧な作戦だと思われた。個々の力では結集させたところで大帝の足止めが関の山だ。最も破壊性能の高いマヤウェルの能力でも殺しきれず、最も対抗手段として有効的なハルトの力でも太刀打出来ないことは誰もがわかっていた。




 されど、皆の力を結集させて敵わぬ敵であっても、その敵そのものの力。即ち大帝の『巨人の神』の特性を使えば話は別だ。

 大帝の力を利用して大帝を打破する。それ程までに完璧な作戦は無いはずだとクモナは感嘆していた。




 故にこそ、それで倒せないのであれば最早どうしようも無いと思われる。

 不確定要素こそ多く、一手もミスが許されない綱渡りの作戦だが、結末まで不確定であれば難儀が過ぎるだろう。





「万が一、だ。その可能性が無くは無いと言うこと。まぁ無いと信じたいがなぁ」





「どうやって抜け出すってんだよ。大帝の身体全部を巻き込む規模の大爆発だろ?光の粒子で動きを鈍らせる上、空気の壁もある。もっと言えば俺の影の力で拘束もするし、わんちゃん屍人の主人が支配権を取り戻す可能性だってある。となりゃ回避する余裕なんて無いと思うけど…」





「いや、お前が今答えを言ったろーが。お前の影の力を利用するんだよ。

 巨大化を解けば、影のスポットに身を潜めることが出来るかもしれねぇだろ?」





「……起爆してから、衝撃が自分の体に届く間で??そんな化け物じみたこと出来るとは思えねぇけど…」





「化け物を相手してんのに、まだ人間の尺度で考えてんのか?アイツはそれが出来る。考えたくはねぇが、それをやれる敵だぞ」





 クモナに対して厳しい視線を向けつつ、シャーロックはそう告げる。




 そう。やはり相手は大帝。世界でも五指に入る程の超強力な神格者。規格外、常識外れ。あらゆる言葉は彼のためにあると言って過言では無い。




 ともすれば、クモナの影の力を利用して爆発のダメージを最小限に抑えて生き残る可能性があることも考えられた。





「……じゃあ、俺が影の力を解けばいいんじゃねぇか?そうすりゃそんなことにはならないだろ?」





「おい、焦って短絡的になるな。影の拘束が無かったらどうなる?なりふり構わなくなった大帝なら空気の壁を押し壊すことぐらい朝飯前だ。となりゃよ、爆発は俺らにも甚大な被害をもたらすぞ。それどころか結局大帝が爆発から逃れる機会を与えかねねぇ」  




「っ、…そうだな。確かに…」





 この時点では、大帝の馬力がどの程度なのか、シャーロック以外はわからない。彼の力量、その無法さと恐ろしさ。それは作戦会議の段階ではまるで明らかでは無かった。




 しかし、大帝なら如何に力を結集させて動きを止めにかかろうと全て無に帰す可能性は考えられる上、最も大帝の力量を知っているシャーロックが危惧していると言う現状が、クモナや他の面々にとっては重要且つ無視できない要素であったのだ。





「…でもよ、じゃあどうするってんだ?全員で全力出しても勝てないなんてなったらよ、そん時はマジでどうしようも無いじゃんか」





「そうか?爆発があろうと、光の拡散があろうと、敵が誰だろうと、まだやれそうな奴がこっちにいるじゃあねぇか。打ってつけの奴がよ」





「?……まさか…。……いや、そう言うことか。…あんた結局、根っこの部分で脳筋だよな…」





「あぁ?初めから俺はそーゆう勝負の方が好きでね。ま、最後の最後はガチンコ勝負ってことだ。先に根を上げた奴が負けのな」






 ============






 爆発は、一瞬にして辺り一面を白く染め、出来うる限り遠くへと退避していたはずの帝国の面々の視界も数秒の間機能を止めた。




 遅れて一同を打ちつけたあまりにも強大な空気の壁と尋常ならざる熱波。

 爆心地近くの海水を一瞬で蒸発させる程のそれは、一同が予想していたよりも遥かに強大であり、既に手負いであったレンジやローラはその場に蹲ってダメージを最小限に抑えることで精一杯だ。




 爆発によって生じた超高温の熱エネルギーは、大帝を覆うような形で形成されていた酸素粒子の結合を解き、超高温の酸素ガスへと変貌させる。

 その流出を防ぐために更に何重もの空気の壁をシャーロックは形成していたのだが、全長五十メートルを越える大帝を一気に消滅させるほどの爆発の衝撃はそれらの壁を一気に破壊して押し進んだ。




 何層もの壁とぶつかることで多少なりとも威力は減衰するものの、全てを押し殺すことはやはり不可能。

 圧倒的なエネルギーの奔流は大地を捲り上げ、海を引き裂き、鼓膜を震わせ、そして遥か遠くまで衝撃波が波を打つ。





 (っーー!!なんって圧力だ!!全力で踏ん張ってガードしてなきゃぶっ飛ばされるぞっ!!)





 激しい爆風によって吹き飛ばされそうになるクモナ。吹き荒れる塵に目を細めながら周囲を見渡すが、砂塵と水飛沫によって他の面々の姿は最早見えない。




 大帝の足元に常に影を展開していた彼は爆心地に比較的近い場所にいる。今はとにかく、その衝撃から身を守ることで精一杯なのだ。




 実は、クモナの力によって全員を影の中へ退避させる選択肢も作戦立案の段階では提案されていた。

 されどクモナが内包するエネルギーでは現状そこまで大それたことは実現不可能であり、クモナはその責任感を少なからず感じていたのである。




 対を成すハルトより自身の力と付き合いは長く、より多くの研鑽は積んでいるものの、影の力によって収納できるものは大体成人男性数人分程度。先の戦闘にて大帝の脚を吸引し続けていたのもそれはただの影の特性。それを超高出力で展開していただけに過ぎない。




 光の力は発散。影の力は収縮。

 とは言えまだまだ発展途上の二人では歴代の継承者のような能力の行使は難しかった。





(シャーロックは…どうなった!?他のみんなは!?)





 爆心地の最も近くにて、空気の防壁を張るために待機していたシャーロックの姿を探す。




 彼は『規律の神』の能力で空気の流動的な動きを縛り、全てのコストを使い切って何層もの壁を生み出したわけだが、能力の発動条件が能力を行使したい対象に触れていなければならないと言うことからも大帝の間近にいなければならなかった。

 空気の壁を挟んだとしても、当然それは、爆発をモロに喰らうことになる。




 もっと言えば、先の大爆発を引き起こした爆弾にはハルトの光の力が多量に含まれている。屍人であるシャーロックの生存は絶望的であろう。





 そうしていつしか、爆風は落ち着きを見せる。

 劈くような轟音が静まり始めたのを確認すると、ゆっくりとクモナはその目を開けた。





「……こりゃあ……、とんでもねぇことになってんな…」





 未だ光に慣れない双眸は、爆心地から立ち昇る天を突くような黒煙を捉える。焦げた土の臭いが鼻腔を刺し、鼓膜は耳鳴りと共にチリチリと土埃が舞う音を届けた。




 素肌は明確に熱気を感じ取る。爆発から既に十数秒経っていると言うのに、熱波は風に乗ってクモナの皮膚へと到来した。

 大帝の能力によって荒海になっていたはずの大地も、今ではあちこちで炎が立ち昇る阿鼻叫喚と化している。




 加えて、大帝が立っていた場所の脚元は、まるで大きな匙で丸ごと抉り取ったかのような巨大なクレーターを形成していた。

 中心部は硝煙によってまだ視認できないものの、この空間で生き残れる人物などいないだろうとクモナは独りごちる。




 クモナでなくとも、誰も彼もがそう思うはずだ。何せこの破壊状況。遠方からその状況を眺めていたローラは、例え天帝やジャックがこの爆発を一身に受けたとしても無事では済まないと考えるのが当然。






 ーーーが、クモナとローラの目は確かに捉えた。






 黒色の硝煙の中、確かにこちらへ歩を進める人影を。





「!?………、まさか、…本当にシャーロックの言う通りになるとはな…!」





 見間違うわけが無い、その影。




 ーーー元の大きさに戻ったイヴァン大帝が、硝煙の中、悠然とこちらへ向かってきていた。





「………、見事…だ。シャーロック!これが貴様の策か…。…しかし、()()()と比べれば矮小よ。貴様が北方全土を率いて我に刃を向けてきた時、その時の奴らの方が強力であった。これではまだ……この我は殺せん」





 シャーロックが作戦会議の段階で危惧していた事案が起こってしまう。




 大帝は爆発の瞬間、自らの身体の巨大化を一気に解除し、自身の脚を吸収していたクモナの影へと身を落とすことで爆発によるダメージを最小限に押さえ込んだのだ。

 無論、大爆発は光の力を孕んでいるため影のポケットごと消滅させるのだが、それでも無いよりはマシと言うこと。




 即ち大帝は、あの爆発の瞬間。コンマ数秒にも満たない刹那の間に、余りある自身の経験則から最も生き残れる可能性が高い手段に賭けたのだ。




 とは言え、如何に屍人の身体であれどそのダメージは甚大である。最早元の容貌を見せないその姿は、正しく生ける屍。




 衣服は高熱によって焼け焦げ、全身を覆う煤は大帝の姿をより仰々しく変貌させている。頭髪は徐々に再生しているが、右側頭部及び眼球から頬にかけてまで完全に塵となって消滅しており、骨が見え隠れ。それどころか大きく欠けた頬からは奥歯や口内が見えていた。




 肉体には至る所に先程まで剣だった破片が突き刺さっている。それにより切断された右腕、肩部から縦に裂けた左腕。一際大きな鉄片の突き刺さった右腿と、衝撃で大きく抉れた右脇腹。

 屍人の肉体は血を流さないものの、逆にこの状態で一滴も流血が無いことはあまりにも不自然であり、見るものに異様な恐怖を抱かせた。





「とにかく…、まずは彼奴だ…。あの羽虫を、この手で殺さねば…」





 ーーーされど大帝は歩む。彼の目的は侵攻と支配だからだ。





 どれだけの数の敵が目の前にいようと、どれほど強大な存在が行く手を阻もうと、あらゆる全てを踏破し、撃滅し、自身が全てを統べるべく、その歩を止めることは決して無い。

 それのみが生前より彼の生きる指針であり、ブレることの無い巍然とした自我である。




 そして何よりも、今は己が娘たるマリアの息の根をこの手で止めねばならぬと、明確な殺意が双眸に宿っていた。故に止まることは無い。断じて、その歩を止めることは無い。





「我が人生の汚点。彼奴は確実にこの手で殺す。我が取り戻す地平に、我の血を分けた存在は必要ない!!」





 今や再び肉体の支配権は大帝に戻っている。それ即ち、マリアの意識は大帝を縛ることが不可能なほどに衰退していることの証左であろう。




 この機を逃す大帝では無い。ほとんどボロボロの身体で、最早肉体を巨大化させるエネルギーも残っていない状態で、己が娘にトドメを刺すために前進した。




 遠巻きにそれを眺めるローラも、レンジも、既に動く力を残していない。爆心地に近かったシャーロックやワトスンはそもそもその生存が絶望的だ。

 クモナも体力が残り僅か。立つことすらままならない状態で、ポチの剣も最後の一撃の段階で中腹部分で折れており、攻撃性能は著しく低下している。




 一言で言えば、誰も彼もが満身創痍であった。無論、限界なのは大帝も同じ。肉体は崩れ落ち、焦げつき、再生されない部分が散見される肉体。

 とは言え、そもそもの膂力と胆力で帝国側は一手足りていないと言える。




 その戦況を覆すのは……





「やっぱり、あれだな!一筋縄じゃあいかねぇってか!?シャーロックの言う通りだったぜ!」





 爆心地のやや外れ。クレーターの数十メートル外側にて待機していた兵士。




 熱波と爆発の衝撃にそのまま身を晒しながらも、神格者としての再生能力と屍人としての再生能力を駆使して肉体をすぐさま修復し、大帝の前に立ち塞がったその人物はアンデルセンだ。




 シャーロックの最後の手段。満身創痍の帝国側が如何にして爆発を生き残った大帝を倒すか。

 その答えは随一の経験能力を持つアンデルセンによる徒手空拳であった。





「帝国の兵士よ。貴様に構っている時間は無い。退くのか、退かぬのか、選ばせてやる…」





「そー言われてよぉ、あれだぜ?退くって答える男がいんのかって話だろーが!そうだ、つまりだ!俺は退かねぇよ!よーやく出番が来たって感じだ!テンション上がるぜ!!」





「そうか。ならば殺す」  





「おっしゃ!!やってみやがれ!!今の俺はあれだっ、マジに不死身だぞ!!」





 立ち塞がったアンデルセンに対し、大帝が臨戦体制に入る。

 突如として始まった二人の戦闘は初めからクライマックスのような戦いとなった。





 まず初め、先制攻撃は大帝から放たれる。





 剛腕一閃。半分近くまで縦に裂けた手負いの左腕が、まるで大砲のような威力でアンデルセンへと飛来する。

 寸前でそれを躱すアンデルセンだったが、その直後、大帝は蹴りで地表を抉り、散弾の如き礫をアンデルセンへと放った。




 以前、美食家シュウがその膂力をもって放った攻撃と同様の攻撃。さりとてそれを、満身創痍の大帝が放つのだから驚異的だ。




 対するアンデルセンは身体に孔を開けられ後方に吹き飛びながらも、まるで怯まずにすぐさま反撃に打って出る。

 アンデルセンが普段から所持している幅広の刀は、先の戦闘と爆発によって破壊されているため、大帝と同じく、彼の攻撃手段も殴打や蹴撃に限られた。




 千瘡百孔の大帝と比べ機動力で勝るアンデルセンは体制を立て直すと高く飛び上がり、そのまま重力を利用して顔面目掛けて脚を振り下ろす。





「おっ、おぉ!?硬っ、たぁ〜〜!?!?」





 が、大帝は悠然とその踵落としを防ぐと、そのままその足首をギリギリと締め上げ、終いに片手でアンデルセンの肉体を振り回して左脚を鼠蹊部から捩じ切った。




 噴出する血は無いものの、勢いよく吹き飛ばされたアンデルセン。

 大帝はアンデルセンが再生の能力を使用して強襲して来ないよう、左脚を入念に引き裂いてからそこらに放り捨てて追撃を加えんと前進する。




 片足でもどうにか抵抗しようとするアンデルセン。しかし唯一勝ち目がありそうであった俊敏さでも劣ってしまっては最早打つ手が無い。

 襲い来る大帝はアンデルセンの攻撃を軽く受け流すと、そのまま左手で顔面を緊握しあれよあれよと言う間に顔面を握りつぶした。





「ぶっぎゃっーー」





まるで潰れた虫のような声をあげるアンデルセン。





 大帝はその上で追撃の一手でアンデルセンの心臓を貫き破壊する徹底ぶり。先の戦闘でアンデルセンの再生速度を目にしていたからこそ丹念に彼の身体を破壊するのだ。





「……む。」





 さて、顔面を握りつぶし、最早用はないと言わんばかりに立ち去ろうとした大帝だが、しかしその背後から首のないアンデルセンの肉体が殴打を放ってきたため瞠目する。





(此奴、…一体どこまで…)





 屍人には光の力か、同じ屍人の攻撃で有効打を与えられる。戦闘経験から大帝はそう判断していたのだが、その枠組みに収まらないアンデルセンの再生能力に目を見開いたのだ。




 事実、アンデルセンは何食わぬ顔で頭部を再生させ再び大帝へと突進する。

 相変わらずにただ一直線な攻撃。結果として大帝にいなされ有効打は与えられず、肉体を破壊されるを繰り返すが、一向にその勢いは衰えない。




 それどころか、余裕綽々と言った表情を崩さずに大帝に相対するのだ。僅かにだが、大帝へと攻撃が当たることも散見されてきた。




 戦闘能力で遥かに劣るアンデルセンに大帝側はダメージを与えられていないのが現状であり、その状況に大帝は忸怩たる思いを抱いている。





(それに此奴…時間を稼いでいるのか?何のために?この期に及んで、まだシャーロックの策が残っているとでも…?)





「さぁさぁ大帝さんよぉ!今の俺はあれだ、屍人の攻撃も効かねぇし、光の力も効かねぇ!そうさ、不死身ってヤツだぜ!?アンタ俺を倒せんのかよ!?」





「ーーー侮るな。多少しぶとい程度の羽虫、如何様にも対処出来る」





「あぁん?んな簡単にいく訳、ねぇだろっ!!おらぁ!!」





 再び、アンデルセンの猛攻が大帝を襲う。

 右足の蹴りがもとより抉れていた脇腹を捉え、体制を崩したところへ左拳が振り下ろされた。




 それを残る左腕で防ぐ大帝。が、先ほどの意趣返しと言わんばかりに今度はアンデルセンが大帝の腕を掴み残された左腕を取ろうと画策した。




 ギリギリと腕を捩じ切る体制に入るアンデルセン。アンデルセンに対して大帝の攻撃は効果を成さないが、逆は通る。

 屍人の大帝に対して、同じく屍人のアンデルセンの攻撃は有効となるのだ。






 ーーーそうして、ものの数十秒の攻防が終わるかと思われた、その時。






「……世界創造(アルスカパリ)





 大帝の世界改変能力が発動された。





       =========





「世界創造はあれこそ無法だ。あの力を駆使すればお前を殺すことも出来るかもな」





「俺を?あれだ、どうなるんだよそんなの」





「さぁな。そこんとこだが俺にもわからん。だが俺なら、お前を殺すことは諦める」





「??答えになってねぇじゃんかシャーロック。俺を殺さねぇならどうするってんだ?」





「そうだな…。まず考えるとしたら…“封印”だな。次に餓死ってとこか。まぁお前も気をつけた方がいい。手負いの状態でも大帝は大帝だ。奴の底力は恐ろしいぞ」





         ==========





 三度繰り出された世界創造。




 今回は前二回とは比べ物にならない程に小規模な創造。

 だが、能力によって生み出された地面の亀裂は正確にアンデルセンの脚元で拡大し、周囲に生成された岩石群はアンデルセンを押し潰すかの如く亀裂へと雪崩れ込んだ。




 即ち、大帝の取った手段はアンデルセンの封殺である。




 あれほど強大な力を持つ大帝であってもやはりアンデルセンを直接攻撃で殺すことは出来なかった。

 しかし、大帝の能力を持ってすれば、殺すことは出来なくとも、封じることは出来る。




 大帝は残る僅かな力を使い世界創造を発動させ、アンデルセンを地中深くへと追放した。





「うっ、ぉおおおおおおおーー、!!!」





「奈落へ消えよ。貴様が何を企んでいようと、我には関係の無いことだ」





「テメェ!!俺を元の場所に戻しやがれーーー」





 アンデルセンの叫びは虚しく響き、岩石に押し潰される形で奈落へと落下していく。




 例えば寸前のところで腕や脚を斬り離していれば、再生の際の引力を利用して地上に戻ることも可能だっただろう。

 だが大帝はそれをさせぬよう、徹底的に敵を封殺した。岩石の雨はアンデルセンの頭上を一斉に覆い、元に戻る隙すら与えない。




 それにアンデルセンの力に地中から脱する程の突破力が無いことも見抜いている。

 仮に時間をかけて突破してきたとしても、その時には大帝のエネルギーも回復しているだろう。となれば巨大化し轢き潰す等、選択肢が増えるのだ。





(…しかし、だいぶ消耗している…。先を、急がねば…っ)





 蹣跚たる歩みを再開する大帝。ここまで消耗したのは()()()()()だと独りごちながらも、目的を完遂させるためにその歩みを止めなかった。




 曇り空から覗き始めた陽の光が、じわじわと大帝の頭上を焼く。

 大部分を欠損している肉体も、見た目としては痛々しいことこの上ない。




 されど何せ屍人の肉体だ。光の力で大部分を消し飛ばされようと、新たな肉で補填すればやり直しは可能である上、リセットも可能だ。

 通常の爆発などで今一度自身の肉体を木っ端微塵に吹き飛ばせば、そこから万全の状態へと再生出来る。





(そうだ…先の戦いから続く我の倦怠感もいずれは解決できる。今はただ、彼奴を殺さねば)





 大帝の読み通り、彼の歩みが覚束ないのはエネルギー不足によるものではない。大帝を蝕む倦怠感によるものだ。




 屍人には無尽蔵にエネルギーが備わっている。如何に肉体を削られようと能力が行使できないなどと言うことは本来あり得ない。

 例え先の爆発に光の力が内包されていたからとは言え、巨大化が不可能になるまで身体が追い詰められるかと言われれば、些かそこには疑問が残るのだ。




 これらの状況を鑑みて、大帝はシャーロックによる策略が自身を未だに蝕んでいるのだと判断した。




 そしてハルトの存在と、アナスタシアが衰退し能力が途切れたことで甦った初撃の記憶。

 十中八九、初撃の爆発により光の力が自身へと作用しており、その内部侵食が虚脱感に繋がっているのだと、正確に自身の身体の異常を看破している。





(…彼奴を殺したら、次は白髪だな)





 故にこそ大帝は、マリアの次の標的をハルトへと定めた。




 光の力は無論認知しており、その力が屍人にとって天敵であることも先の戦闘で実感している。

 まずは目先の障害を取り除くべく、大帝は拳を深く握った。





 ーーーその憶測が、見当違いであるとは気付かないまま。





「…っ、な…んだ………。おかしい…ここまでのダメージ…。多少なりと光の力が体内に残っていると考えてもおかしい…!先程よりも、我の倦怠感が、増しているだと…!?」





 足取りが更にふらつき、遂に片膝をついた大帝。




 強烈な目眩に襲われ、まるで天地がひっくり返ったかのような感覚を覚える。

 それどころか手脚は痺れ、思うように動かすことが出来なくなっていた。




 震える手脚の指と、ぐにゃりと曲がった自身の視界。そして早鐘の如く鳴り響く猛烈な頭痛。

 彼は自身の身体の異常が悪化していることに強く、胡乱な目を向けた。





(どう、考えてもおかしい……。…ここまで、蝕まれるものか…?否!虚脱感が今更になって増すことはあり得んはずだ!であれば一体……)





「この我の…我の不調は何なんだ…!?」





 気力を振り絞り、ふらつきながらもどうにか立ち上がった大帝。





 ーーー彼は眉間に皺を寄せ、増幅する身体の異変を訝しみながらも、背後に近付いてきた人の気配を察知した。





「……貴様…、一体どうやって……」





「ふっ、そいつぁあれよ、俺のスーパーパワーよ。大帝」





「なん…だと…?」





「お前の頭ん中にはな、俺の肉片が埋め込まれてんのよ。あれだ、最初の爆弾に引っ付けといたヤツがな!そんであれよ、それが爆発の後にまた元の大きさに戻ってお前の頭を侵食し始めたってわけ!」





「っ……。まさか…、光の力だけでは無く、貴様の肉片まで内包していたとは…。今もその肉片が元に戻ろうとする引力を利用し、ここへ戻ってきたと言う訳か」





「そっ!御名答だぜ。だからすっげぇ頭いてぇだろ?もう無理すんな」





 最初の爆弾の役割は三つ。

 一つは開戦の合図。もう一つは光の粒子を大帝に吸引させること。




 そして最後の一つは、アンデルセンの肉片を光の粒子と一緒に大帝に植え付けることだった。




 巨大化している大帝にはあまり意味を成さない微細な肉片も、爆発から生き延びて通常の大きさに戻った大帝には効果覿面なのだ。




 これはシャーロックが画策した最後の策。万が一大帝が爆発から生き延びた時にも、確実にトドメを指すべく用意した策だ。




 アンデルセンが先程、時間稼ぎのような立ち回りをした理由は、この肉片が大帝を完全に蝕むのにやや時間が必要だったからである。






「そうか…シャーロックめ…。全て計算の内だったと言う訳か…。流石だ。二度目の戦いは痛み分けでは無く、完全勝利を狙ったな…」





「おう!あれだ、死んでも勝つじゃ無くて、勝って生き残るって奴だなぁ!」





 そうして、大帝はシャーロックの策略に完全に嵌ったことを実感した。




 十数年前の大戦時、常に戦況を把握、支配していたのはイヴァン大帝であった。

 強大な力、膨大な戦力、悪辣な手段。それら全てに常時劣勢のシャーロックが対抗するには命を賭ける他無かったのだ。




 が、同じ敵と二度目の対戦となれば、シャーロックが遅れを取ることはあり得ない。

 最初の一撃から、最後の最後まで、全て完璧に敵の動きを予測し、その上で持ち得る手駒を完璧に使いこなしたのだ。




 その事実に、大帝はシャーロックを称賛しつつも、完膚なきまでの敗北に音が響くほどに歯噛みした。





「ーーーだが…!!!我を、侮るなと言ったはずだ!!どれほどお前が我の動きを読もうとも、それを上回るのがこの我である!!最強が故に我だ!!我であるが故の大帝と言う肩書よ!!お前のその策略全て、再び踏破してくれるっ!!!」





 それでも、それでも大帝は再び拳を握った。悲願を果たすために、己が娘をその手で殺すために。

 力を持って生まれたものの矜持を示すため、アンデルセンへと攻勢を仕掛ける。




 北方を恐怖に陥れた怪物。北方全てを敵に回した強さの権化。彼の進撃が止まることはやはり無く、その力は底を知らない。




 どれだけの肉体に傷を負おうと、どれだけ内部を侵食されようと。敵の策略が完璧に自身を封じ込めようと、天敵となる存在が敵側にいようと、何があろうと彼の自我は揺らぐことが無かった。





「うっ、おぉ…!!…へへっ、そう来なくちゃあな!!」





 アンデルセンの顔を大帝の拳が打ち付ける。

 続け様にカウンターを繰り出したアンデルセンの腹部を拳が貫き、勢いそのまま彼を地面に叩きつけた。




 だがアンデルセンも怯まない。

 腹部を貫いた大帝の拳をがっしりとホールドすると、脚を大帝の上半身に絡ませて退路を絶った。




 ミシミシと、アンデルセンの身体を貫いたままの拳に力を入れる大帝。放たれる衝撃波は再生より先に肉体の孔を広げ、大地にヒビを入れ、またしても地面にクレーターを形成する。

 大帝は今度こそ、アンデルセンを大地の底の底へと埋葬するつもりだ。




 絡みつくアンデルセンの脚をものともしないその姿、そしてその顔には、怒気とはまた別の、底知れない意地が見て取れた。





「青二歳がっ。良い加減、奈落へ沈むがいい!!」





「嫌だね!!ゼェゼェ…あれだぜ…!落ちる時は屍人同士、一緒に落ちねぇとなぁ!!」





「一人でこの我を止められると思っているのか!沈むのは貴様一人だ!!」





「っ、へへっ。そうかよ。こんだけしてやられてよ…まだ俺が一人で戦ってると思ってんだなぁお前は!!」





 一瞬の沈黙。その後に、大帝はもう一人の敵に気付いた。





「何ッ!?」





「今だ!!!やれっ!ハルトォォ!!!!」





 直後、アンデルセンを組み伏せる大帝の背後に閃光が走る。




 その閃光は煌びやかに、まるで暗闇を照らす太陽のように激しく輝き、二人に降り注いだ。




 冥府を、屍人を、暗き存在を照らす光。

 何度遮られようと、阻まれようと、周囲を照らし続ける燈。




 最後の最後に、その光をもう一度目にしたアンデルセンは、その肉体の痛々しさとは裏腹に、やけに満足げな表情を顔に浮かべた。






大神の槍(グングニル)!!!!!」






 ーーー光が、二人を直上から貫いた。







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