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ケツァルコアトル〜太陽になる男〜  作者: AU


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第四話 Eye of The Tiger

 



 北方を出てから丸々三日。とうとうハルトたち一行は帝国に到着した。



 ここ二日はゆったりと朝食を食べる時間があったのだが、今日は随分と忙しない雰囲気だったな、とハルトは思い返す。




(何かあったのかな?すげぇレンジが急ぎ足だったけど…)




 アンデルセンはまるで普段と変わらず寝ぼけ眼をこすっているが、黒髪の仏頂面、レンジは見るからにいつもよりカリカリしていた。



 とにかく、ハルトは少しだけ違和感を抱えながら俺は帝国領内に入った訳だが、世界最大の国の栄え方は他の国の比では無く、街に溢れる活気はハルトの不安を消し飛ばす。




「いや…こりゃすげぇーな。こんなにも違うもんなのか…」




「だろだろ?そっか、あれだよな、ハルトはあれだよな、初めてだもんな。帝国は」




「うん。まぁ話には聞いていたんだけど…流石に想像以上だ」




 昼前だと言うのに通りには人が跋扈している。路面に位置する商店は既に商品を所狭しと並べて客を待ち、色とりどりでカラフルな服を着た人々は皆一様に明るい表情を浮かべていた。



 気候に関しても帝国の気候はかなり温暖だ。身に纏う服の軽装さや、雪除けの無い石造りの家屋は、北方の雪国で暮らしていたハルトとってかなり新鮮な光景。



 それ以前に家屋や道路は赤、橙、水色、緑色とペインティングされ、彼方此方に植物が綺麗に茂っている。

 北方以外の都市と比べても一線を画した街の風景であることは世界を回ったことのないハルトでも瞬時に理解できた。



 綺麗に舗装されて平坦に伸びる道路はそれだけで近代的な雰囲気を感じさせ、道の広さは大きめの軍用車が通ろうと誰が不自由することが無い。



 どうあれ整然と人々の生活は回る。それが帝国と言う国家である。




「こりゃ流石に、ワクワクするな。アンデルセンは見慣れてるんだろうけど、俺みたいな田舎もんにはちょっぴり刺激が強すぎるぜ」




「なんだハルト、そんなことねぇよ?いつ見たってここの景色は明るくて最高だ!」




「あぁ、それはわかるよ。ふらっと観光してから行きたいぐらいには興味惹かれてるもんな、俺」




「お!そうか!じゃあちょっとだけ」




 元の性格が好奇心旺盛なハルトにとって、栄えた街並みは刺激的過ぎるものだ。



 路面で売っている見たことの無い彩り鮮やかなフルーツ、なんてことない普通の伝奇小説の山、髑髏やジャガーを模した仰々しい謎の織物、木彫りの不思議な彫像。



 また、国のちょうど中央に鎮座する一際大きい巨城と小高い丘に聳え立つその城を中心に円形に広がる街並み。都市そのものが美しく整えられているにも関わらず、それでいて自由に過ごしている人々の姿と建物の色使い。

 ありとあらゆる全てがハルトを魅了して離さないのである。



 が、そんなハルトの期待は御者席に座るレンジの「ダメだ。すぐさま本部へ向かう」と言うピシャリとした感情の無い声によって妨げされた。




「ちぇ、アニキ酷いぜ。少しはゆっくりする時間をくれたっていいのにさ〜」




「これは総隊長直々の命令だアンデルセン。お前、ジャックさんに殺されたいのか?」




「げっ!それはあぁ〜あれだ、カンニンならんってやつだぜ…。わりぃハルト!やっぱり観光はまた今度な!」




「お、おう。それはいいけど…」




 ジャック。この三日間で度々出てきた名前。



 恐らく帝国軍総隊長、つまりはレンジやアンデルセンの直属の上司にあたる人物であるとハルトは考える。



 レンジですら恐れている様子が言葉の端々で感じ取れる人物がジャックであるのだ。




(あのレンジですら…っつーと一体どんな人物…。どれだけ恐ろしい怪物なんだ?総隊長と言う立場なのだから血も涙もない人物では無いと思いたいけど…)




 ハルトがそんなことをぼうっと考えいる間に、ハルトたちの乗る車は重厚な城門前まで到着していた。




「お、ナオシさんがいるな。城門の前でお出迎えか!」




「ナオシ…?」




「あぁそうか、ハルトは知らないよな!ナオシさんも俺やアニキと同じく総隊長直属部隊の隊員さ。しばらく遠くで任務だって言ってたけど、帝国に帰ってきてたんだな」




 額にかけた紺色のゴーグルが特徴的な人物。レンジのようにパリッと制服を着こなす訳でも無く、かと言ってアンデルセンのように前面を開けて着崩している訳でも無い丁度中間の雰囲気。

 激情型にも見えるし、温和にも見える。そんな表情の男。



 しかしどこか気が立っているのか、焦燥に駆られているのか、ナオシは貧乏ゆすりをしながらハルトたちが車から降りるのを待つ。



「おい、遅いぞレンジ。アンデルセンだけで行ってるならともかく、お前がいてなんでこうも遅れる。お陰でジャックさんはさいっこうに機嫌が悪りぃからな。てか、お前がいないせいで俺に矛先が向くんだよ!とっとと会いに行ってくれ!俺は面倒ごとはごめんなんだ!」




「すみません、すぐに。おいアンデルセン。ハルトをすぐに隊長室に連れて行くぞ。荷下ろしは後だ」




「おっけーアニキ!任せてくれ!ほらハルト、着いて早々でわりぃけど、ジャックさんが、あ〜あれだ、面会したがってるんだってよ!ちょっと一緒に来てくれるか?」




「……えぇ、マジで?急すぎない?」




「いや〜だから俺も悪いと思ってるって!でもよぉ、これ急がないと俺らが、そう、おーめだま食らっちまうからよ…頼むよ!な!」




「……まぁ、そう言われたらしゃあない、か…?」




 ツカツカと城門をくぐり先を急ぐレンジ。ハルトはその後ろをアンデルセンに引っ張られる形でついて行く。



 ハルトは前言撤回したい気分だった。アンデルセンに諭されて帝国行きに後ろめたい気持ちは無くなったものの、着いて早々、何も知らされずに総隊長と会う怒涛の展開は予想していなかったのだ。




 (まぁ確かに、身分で言ったら俺は帝国の英雄?の息子で、賓客で、そこそこ良い待遇は受けて然るべきなのかもしれないけどさ…)




 が、レンジやアンデルセン、そしてナオシの様子からもハルトがノーと言い出せる雰囲気では無い。



 観念したハルトは城門を重々しい気持ちでくぐった。




「…ふうん。お前が光の神子か。思ったより、()()()()んだな。やっぱり」




「?似てるって誰に…」




「誰にも何も決まってるだろう。ま、無駄話はまた後でだ。とっとと行ってくれ。俺は三日ぶりに自由の風が吹いている…」




「……?」




 後ろからナオシがハルトへ声をかける。



 その言葉はハルトの懊悩を加速させた。




(似ている…それは誰に?父さんに?母さんに?恐らく軍にいた父さんに似ているってことなんだろう…。じゃあ一体父さんはどんな人物だったんだ?それに、その力を望まずに引き継いでしまった俺は、これからどうするべきなんだ?)




 わからないことばかりで頭がこんがらがりそうになりながら、ハルトは城の奥へ奥へと進むのだった。




 =============




 総隊長ジャックの執務室。赤褐色で威厳と重量感のある両開きの扉。石造りの階段をいくつか登り最上階近くまで上がってきたところにあるその扉は、まるで帝国軍総隊長であるジャックの威容をそのまま携えた、そんな代物だ。



 そんな扉をレンジは軽くノックし、「到着しました」と一言だけ中にいるであろう人物に告げた。



 すると間髪入れずにギィと軋む音を立てながら扉がこちら側へと開く。



 緊張感が増す。肌を刺すような空気。

 反して、中には窓越しに差し込む穏やかな朝の日差しが満ちていた。その光の中に見える人の影が二つ。



 一つは春風のような穏やかな雰囲気を醸し出し、静謐を字で行ったような三十歳ぐらいの灰色髪の男性。



 泰然自若で安定感のある佇まいは人々に安心感を抱かせ、それでいて整った顔つきの奥にある揺るぎない強さは信頼と安定感すら感じさせる。



 この人物は誰だろうか?そんな疑問をハルトが思い浮かべるよりも先に、ハルトの脳は解答を出す。



 まず間違いなく、この美丈夫が天帝であると。

 一国の長、もっと言えば世界を統べる人物の貫禄はこうも凄まじいのかとハルトは理解する。




 (となると…その隣が……)




「ハルト!!ハルトなんだな!!!いや、間違うはずがあるまい!その透き通るような白い髪と目の色!その目尻!スッと通った鼻も!佇まいも!何もかもがお前がハルトだと証明している!!!あぁ!会いたかった…会いたかったぞハルト!!すまなかった…!今まで辛い思いを…!!!ハルト!!!」




「うぉ!おっ!えぇ!?!?」




 天帝の隣の大男は扉を開けるや否やハルトに抱きついた。



 急に自分の二倍の体躯はあろうかと言う男にがっしりとホールドされたハルトは、突然の展開に面食らって後ろに仰け反る。



 そんなハルトを他所に、大男はハルトとの会合を涙ながらに、大いに喜んだ。




「辛かったな…両親を失って…辛い選択をしたのだな…おぉ!なんて酷なことを…!!その場に俺がいれば!俺がいればお前を助けられたのにっ!お前を救えたのに…!すまなかったハルト!!だがっ、俺はお前に会えて今っ、人生で一番幸福だ!恩師から託された子をまざまざと死なせてしまっては、合わせる顔が無いからな…!!」




「えっ!ちょっと待ってくれ!?何が何だか!いや、苦しい苦しい!何なんだっこの人!?え、ちょっ、ちょっと助けて!」




「うん、ジャック。再会を喜ぶのはそこまででいいかな?ハルト君も困惑しているようだしね」




「んっ!そうか…そうだな。急に知らんジジイに抱きつかれても困るか…。すまんな、ハルト」




 怒涛の展開に面食らっているハルトを察し、天帝と思しき人物がジャックを静止する。



 ハルトの肩をポンポンと叩き元の位置へと戻るジャック。

 ハルトが気を取り直して周りを見ると、既にアンデルセンやレンジはそこにいなかった。




(アイツら…。自分に関係ないからって命令だけを遂行してサクッと帰りやがったな!くそ、帝国について早々どうしてこんな展開に…!)




 しばらくして、ジャックが落ち着いた様子を確認したのか、天帝が優美に、品良く口火を切る。




「何から何まですまないねハルト君。急に連れてこられてこんな展開だとは思わなかっただろう。ただ、説明不足を許して欲しい。ここで会うことはね、僕よりも、このジャックが望んでたことなんだ」




「…ジャックさんが?」




「うん。彼の体裁のために一応室内で面会の場を用意したんだが功を奏したかな。

 とにかく、唯一君のお父様の遺言を聞いた僕たちから全てを説明したかったんだよ。ハルト君は、心の準備はいいかな?」




「うぇ…え。と、父さんの…。そうだ!そう、父さんは…どんな人だったんですか…。俺は、俺がこれからどうするか決めるためにも、父さんがどんな人で、光の神子ってのは何で…後は…後は…俺はどうすれば、それを聞きたかったんです!」




「そうだね。わからないことが多すぎるよね。でもまずは僕らの自己紹介を。

 僕は天帝、オメテオトル。この国の一応国王のようなものかな。それと彼がジャックだ。帝国軍の総隊長だね。そして僕たちが、君のお父様であるライトニングさんの()()()()に立ち会った二人だ」




「今際の…際…」




「君にも聞きたいことはあるけれど、これからどうするかを決めるためにも取り敢えずは僕たちから話させてもらうね。

 十八年前の、あの戦争の話を…」




 そうして、柔らかな日差しの中。微笑みを浮かべた天帝の回想が始まった。




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