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ケツァルコアトル〜太陽になる男〜  作者: AU
第一章 北方攻略編

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第四十六話 窮鼠②

 





 ジェントリー。北方大戦にて、エルギンに所属している訳でも無く、ただ大帝側についた物好きな神格者。

 理由は、ただ退屈を癒したかったからと言う身勝手なものである。




 彼の心は、能力同じく凍てついていた。




 北方の東端、離島且つ小国に生まれた彼は神格者故、幼い頃から過度に持て囃されて育つ。




「この子は勇者になる」「いや、帝国一強時代を終わらせるだろう」「さぁ?稀代の大悪党になるかもよ」。

 閉鎖的な国にて様々な声が周囲で聞こえたが、ジェントリーに取ってそれらは全てノイズでしか無かった。彼はそもそも戦闘にも、出世にも興味が無く、ただ退屈で無ければ何でも良かったのだ。




 結果として、ジェントリーは周りの期待のどれにも沿わない未来を迎える。

 大帝が台頭してきた際、彼について行くことで退屈を凌ごうと考え、正義とも、一概に悪とも言えない宙ぶらりんな立場に身を置いたのだ。




 別段殺しに抵抗は無かった。自分の命も、他人の命も、等しく無価値であったから。死ぬのもさほど怖くは無かったが、自分から進んで死地に進むことも無く、命令以上のことはしない。熱量の欠けた木偶の坊。




 彼を使う者からすれば、命令は基本何でも聞き受ける割に欲が無く、更に腕も立つと言う都合の良い存在。極度に自分勝手と言う訳でも無く、かと言って情に厚いとは言い難い性格。




 その性格も相まって彼は、神格者連合側では無く、大帝側についたのだ。

 より刺激的で、自由で、自身の渇きを癒してくれる気がしたから。やがて彼は、目を合わせたものが皆一様に冷結し再起不能になることから『冬の眼』と呼ばれるようになった。




 屍人として復活してからもその性質は何も変わっていない。

 ただ淡々とマリアの命令に従い、粛々と指令をこなす。彼女の近くにいれば退屈が紛れたから。敵が誰であろうと、どんな理想があろうと、それは彼が留意することでは無い。




 ーーーが、そんな彼もマヤウェルに対しては露骨に苛立ちを見せた。





「遠くからコソコソと…。とっとと出てこい、爆弾女」





 シペトテックとスイッチしジェントリーと戦うマヤウェル。爆発によって最早壁も地面も境界が消えた大広間にて、ジェントリーは彼女を追跡し続ける。

 しかしながら、数分の間、ジェントリーはまるでマヤウェルの姿を捕捉できていない。ジェントリーが眉間に皺を寄せている理由はそれである。




 氷点下においては爆弾の威力、殺傷力共に急上昇するため、彼女はそこら中を飛び回り身を隠しながら爆弾を放っていたのだ。




 さながら定位置を持たずに射撃を続けたワイルドハントの如く、逃避行を続けつつも隙を見ては爆弾を放つ。まさかこの大広間から離脱したのか。そう考えさせてたその瞬間にまた現れては攻撃を仕掛ける、ストロークの長いヒットアンドアウェイ。 

 気付けばあたりは爆発によるダメージによりボロボロで、今にも崩落しておかしく無い状況であった。




 常に動き回っているため、冷結により足を取られるのとも無い。冷気を発し続け、更にスケートでもするかのように氷上を滑走するジェントリーだったが、戦い慣れたマヤウェルの動きを捉えることは難儀である。





「いつまでやるつもりだかわからんが、しかしこれも、時間の問題だろ??」





 ジェントリーは憮然とした表情を浮かべながらも、追跡を程々に、今度は能力の展開にエネルギーを割き始める。




 結局のところ、マヤウェルによる爆発はジェントリーにとって致命的な攻撃とは成り得ないのだ。




 露骨に形状の異なる爆弾だけ気を張って躱せば足止めを喰らうことも無く、時折放たれるネットのように拡散する爆弾も、自身の身体を粉々に砕く程に破壊力の高い炸裂弾も、彼が避け切れぬ速度は持たなかった。




 もっと言えば、威力を高めた爆弾は起爆までの速度が遅くなる傾向にあり、爆発までの間で冷血させることが可能だ。起爆すらしない、時間稼ぎにもならない爆弾も散見された。




 となれば、後はマヤウェルの体力の消耗を待てば良いだけ。別段マリアに恩義も無く、帝国側に恨みも無いジェントリーがすぐさま目の前の敵を狩る理由は無い。戦いそのもの、この戦場そのものがジェントリーの心を癒している。

 よって彼は、ゆっくり、確実に、敵が体力を消費するのを待つことを決めたのである。




 対して、焦りを見せるのは当然マヤウェルの方だ。大帝が目覚めた以上、真っ先にそちらを対応せねばならないのに、ジェントリーは一筋縄ではいかない。

 彼が暴れ出す前に、彼が万が一にも自我を取り戻す前に、持てる戦力全てで大帝と相対し、大帝を殺さねばならない。




 彼が巨大化してしまった時、対抗する手段をこちらはほとんど持ち得ないのだ。不滅の特性を持つ屍人の肉体。日光を遮る冥界領域。そして大帝の能力、武力。現状、帝国側が切れる有効な対抗策はハルトの光の力のみであろう。

 が、今のハルトに大帝を消滅させるほどの自力があるとは、彼女は考えていない。ジャックや天帝、そのレベルの実力者でなければほとんど話にならないと彼女は考察している。




 であるにも関わらず、マヤウェルの能力ではジェントリーを突破することは七難八苦、時間のかかる作業であった。爆弾は時に冷結し、時に不発に終わり、未だ時間を稼ぐのでやっと。

 更には長きに渡った城外での戦闘、トム、ネズミとの戦い。それらを経て、マヤウェルのエネルギーは最早半分以下まで減衰していた。ストックしておいた爆弾も既に使い果たし、大帝戦も控えていることからこれ以上の消耗も控えていきたいところ。





(おーい…このままじゃまずいよ〜。早く頼むよ〜誰かお姉さんのこと助けてくれないと〜、ほんとにまずいことになっちゃうかもだぞー。下手すりゃコイツは倒さないってのも手かな…?)





 大帝と相対するより先に。確実に邪魔になるであろう存在をまず先に片付け無ければならない。故にマヤウェルはシペトテックを自由の身にする必要があった。ハルトを除き唯一索敵が可能なシペトテックを使い石の神格者を倒そうと考えたのだ。




 ただ、予想に反してジェントリーの能力の練度が高く、結果としてマヤウェルは対抗策を講じあぐねている。

 シペトテックが難儀していたのは能力相性の悪さ故でもあったが、ジェントリーの力量がそれなりのものであったことも理由の一つであった。




 アンデルセン逃走劇の際はワトスンを下し、シペトテックとの戦闘を一方的に進めた彼は、想定より遥かに高い実力を保持している。




 足の裏と地面を冷結させ、地面や壁を滑るように移動するジェントリーは、爆発を華麗に掻い潜る。それでいてマヤウェルが逃走せぬように大広間の彼方此方の空気を冷結させて、通る者を攻撃する罠を仕掛けていた。





「…さっきより、攻撃の頻度が落ちたな。どうしたんだ?派手のは最初だけで、もう終わりなのか??」





「……ん。まー、それで言うともーすぐ終わりかなぁ」





「そうか。さっきの男も、お前も、かなり強そうに見えたもんで期待したんだが、思っていたよりも呆気ないもんだな」





「そう〜?呆気ない?そんなことも無いと思うけどね〜。()()()よく頑張ったと思うよ〜」





「……??何を言っているんだ、お前?」





 終始優勢。後はマヤウェルが完全に消耗するのを待つだけ。

 そう思っていたジェントリーの顔に翳りが走る。




 まさか逃走するのか。とも考えたが、それは罠があるのでほぼ不可能だ。罠で捉えたならば速度で追いつける。




 では援軍が来ているのか。しかしそれでどうにかなることも無いだろう。そもそもこの氷点下の空間に、トラップを潜り抜けて到達出来る人間がどれだけいるか。冷結から解放されるにはそれ相応の時間が必要である。





(ハッタリだ。何にせよ不可能なはず…)





 と、そこまで考え、ジェントリーは動きを止める。

 マヤウェルの追跡を止めてまで頭に思い浮かべた一人の人物。




 先刻、城内に侵攻して来た帝国軍の兵士の中で、インチマリンの石の拘束から逃れた少女.





(…いや待てよ。あの女…随分と奇怪な能力を使っていたじゃ無いか。ともすれば、…まさかコイツが不用意に爆弾を投げ続けたのもーーー)





「あ、気付いた?でも、もう遅いと思うよ〜」





「ーーーなっッ」





 思案の末回答を導き出し、次の手段を打とうとするジェントリー。

 しかしながら彼が出した回答の答え合わせは、反撃する暇を与えずすぐに訪れた。




 ジェントリーが動きを止めていたその瞬間、既に背後にはポチの姿があったのだ。




 剣に手を添え、抜刀の体制に入っていたポチ。この数日、ローラより抜刀術を学んだポチは、時越えによる奇襲をより確実なものにする圧倒的な速度を身につけていた。




 時越えの瞬間移動プラス初速の凄まじい抜刀術。シュウのように格上の相手にも通用する、或いは警戒する程の速度。

 正しく超速。音速を越えた奇襲は、更に不可避の奇襲へと昇華していた。




 その斬撃の軌跡は光の弧を描く。防御も、回避も、冷結も間に合わない。もっと言えば、理由が何であれ()()()()()()()()人物など、全くもってポチの敵では無かった。





「ッーーーォォ、くっ…!」





 初撃で首を落とし、更に逆袈裟に刀を振り下ろす。

 ワイルドハント撃破の時と同じく、ジェントリーに復活の可能性を残さない徹底っぷり。




 物陰からひょいっと顔を覗かせたマヤウェルは、目を丸くしながらも口笛を吹いて賞賛した。





「さっすがポチ〜。やっぱり持つべきものはポチだね〜。これからもお世話よろしくだよー」





「むむ。何を言っているんですか。戦場ではもちろん援護しますが、部屋の片付けはこれからご自身でお願いします。私はハルトの身の回りを常に見ていなければならないので」





「うえ〜マジか。それはやべぇよ〜勘弁して〜〜」





 爆弾を敢えて多発させることで手の空いた人物を自身の戦場へと呼び寄せる作戦を取ったマヤウェル。

 彼女の作戦は見事に功を奏し、ポチをこの場に向かわせることに成功したのだった。




 とは言えあくまで冷静な態度のポチ。彼女は軽くマヤウェルをあしらい、次の戦場へと向かうべくくるりと身体の向きを反転させた。





 が、その時ーーー





「…勘弁して欲しいのはこっちの方だ。折角これから退屈しないと思っていたところだったのにな」





「!?」





 ポチの背後にて胴を崩し、後は消し炭になるだけだったはずのジェントリーが声を発した。




 すかさずポチが剣を振い、マヤウェルは蓄光型照射器をジェントリーに向けて構えるが、それは剣が何かとぶつかる甲高い音と共に不発に終わる。





「ーーーこれは…自身を凍らせている…?」





 ポチの剣を防ぎ、紫外線をいなした技術。それは自身を冷結させることによる硬化と、鏡面のように自身を覆ったことによる化勁であった。




 胴から離れた首と、袈裟斬りに両断された胴を冷結させることで繋ぎ止め、完全防御の形を取るジェントリー。さながら煌びやかな鉱石のように、水晶の中のジェントリーはフードを深く被ったまま()()した。




 ポチの斬撃も光の力も効果を成さない以上、二人にはどうすることも出来ないだろう。

 二人は完全に停止したはずの敵に些かの不穏さを感じつつ、しかし先を急がねばならない焦燥にも駆られた。




 そんな二人の様子を首だけの男はまるで気にせず、空気を凍らせた半透明の奥で言葉を続ける。





「安心しなよ。光の力で斬られた部分を冷結させて延命してるだけだ。周囲はずっと氷点下のままにしてしまうが、再生もしないし、これ以上は何も出来ない。

 多分爆発も防げるんじゃ無いか?本気で殺そうとするなら話は別だけど、()()()()()()んだろ?」





「…何が狙いなんだーい?」




「狙い…。そうだな、別に大したものでは無いが…強いて言うなら、()()()()()。ただそれだけだ」





「……あぁ、そっか〜。そう言えば生前の君は、大帝が暴れる前に死んだんだっけ」





 ただただ、大帝の暴をその目で見たい。そう発したジェントリーに対し、納得した顔を浮かべるマヤウェル。




 そう。生前、自身の退屈を紛らわそうと大帝側についたジェントリーだったが戦争中盤にシャーロックの計略に嵌ってしまい、大帝の真価を目にすることなく、もとい退屈を払拭することなく死んだのであった。




 だからこそ、ただ見たかった。今度こそは大帝のその猛威を目に焼き付けたかった。




 その城より巨大な体躯を。文字通り大地を割る剣戟を。地形を書き変える程の進撃を。破壊を、暴力を。

 単調な暴では無く、他を顧みぬ圧倒的な蹂躙。倦怠を感じるジェントリーを震わせる程の憤怒。それを見ることのみが、寡欲なジェントリーの唯一の願いなのだ。





「大帝が目覚めたってことは何となくわかってた。だから今度こそは見ないと、流石に甦った意味が無いってとこだ」





「…さっきからペラペラと。私がその氷に触れればお前を剥き出しに出来るぞ」





「やめといた方がいい。この冷結に残りの力を全て使ったんだ。言わば()()()。お前の能力にも弱点はあるんだろ?」





「っ、…何故それを」





「見てれば何となく予想はつく。流石に無法すぎるしな。

 だから俺なんかは放っておいて、とっとと上へ行った方がいい。ともすれば先手を打つ前に全滅だぞ?」





 表情は変えず、音だけで意思を伝えるジェントリー。

 されど彼の口調は半ば嘲笑的であり、口端が薄ら笑いでもするかのようにじんわりと上がったとポチは錯覚した。





「…ポチ〜、そいつの言う通りかもー…。ちょっと私たちも急がないと。何だかどんどん嫌な空気になってきてるからさ〜」





 マヤウェルは一人冷静に判断を下すと、ジェントリーのことは放って先に上階へと駆け出した。

 続いてポチもその後ろを走るが、後方へ振り返った際にジェントリーの眼孔とポチの視線がぶつかる。




 その双眸には、冬のように冷たい倦怠感では無く、子供のように無邪気な熱が宿っていた。







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