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ケツァルコアトル〜太陽になる男〜  作者: AU
第一章 北方攻略編

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第三十五話 アンデルセン孤独な闘争②

 





「神核…解放ッ!!!」





 アンデルセンの叫びと共に、彼の内側にあった“核”が解放される。




 神格者は神から力を与えられた存在。

 しかし人の肉体ではその力の全てを存分に使うことは不可能なため、本来それを部分的に制限した上で行使している。そのリミッターの役割を担うのが“神核”と言う存在。即ち神格者にとっての第二の心臓とも呼ぶべきもの。




 神核解放はそのリミッターを強制的に外し、神から授かりし力の全てを人の身で行使する神格者の奥義だ。




 無論、その門を開けるための条件は多々存在する。




 例えば肉体強度。肉体が成熟していない状態、或いは肉体が十全に鍛え上げられていなければ、神核を解放した瞬間に肉体が四散する。そもそも核を認知出来ないため、技を発動することすら不可能だろう。




 例えば能力との相性。能力への解釈、又は理解度が一定値を超えていなければ神核を正しく認識するに至らない。仮に無理やりこじ開けたとしてもその可能性全てを行使することは出来ない。




 例えば才覚。そもそも肉体をどこまで鍛え上げれるか、能力をどこまで活用できるかは才能次第だ。もっと言えば神核を正確に認識したとして、自身の能力を正確に理解したとして、空想を現実化させる力量が無ければ話にならない。




 ーーーそれで言えば、アンデルセンはどれもこれもが未熟であった。




 何十年も徹底的に修練を重ねた訳では無い。能力との相性は良いが、極限までそれを理解するには些か歳が若過ぎる。

 才能もあれど、その才能が本領を発揮するのは更に数年鍛え上げた末のこと。




 即ち、現在のアンデルセンは自身の力で神核を解放したのでは無く、シャーロックの『規律の神』の力で神核のリミッターを強制的に外され、強引に神核を発散しているに過ぎないのだ。




 未熟者による神核の強硬解放。それは彼の肉体と核が圧力に耐えきれず、数分後、確実に崩壊することを意味していた。





 更に言えばーーー





(いってぇ…いてぇーなー!これがツーカクって奴か!!)





 アンデルセンは今、痛覚を認識している。




 一般的な人間であれば痛みを感じることなど普通のこと。しかしアンデルセンには()()()()が無かった。

 ジャックやレンジが、アンデルセンは『再生の神』と相性が良過ぎる。と評したのはこれが理由だ。




 アンデルセン。彼は生まれながらにして特殊な肉体を持っていた。言わば“肉体の異常”。




 その異常は遺伝子の異常だ。記憶力が年齢に対し不釣り合いに衰える代わりに、温冷感を感じず、汗をかかず。更に痛みをも感じない体質。それは再生の神を司る者にとってこの上ないメリットであるだろう。故にこそアンデルセンは、あの強引且つ向こう見ずな戦闘スタイルを確立させていたのだ。




 そんなアンデルセンが自身の特性を失った理由。それはアレクセイが原因だ。




 アレクセイの『復讐の神』の力。

 自身や自身が至上とする存在が被った“不利益”に相当する“対価”を不利益を起こした張本人から奪い、“報復”する能力。その“報復”の内容、程度に関しては客観的に見て釣り合っているか否かは問われず、全て()()()()()()()()で行われる。




 要するに.アレクセイが特に大切にしている存在。マリアが被害を被った際に、この能力は真価を発揮してしまう。結果、シャーロックはマリアを罵倒したことで能力を奪われた訳だ。




 アンデルセンに関しては神核解放の能力でアレクセイを骨の状態まで戻したその寸前、姉を危惧したアレクセイによって()()()()()を奪われている。




 神核を解放した際の能力は途切れない。しかし、身体の特性を奪われたと言うことは、神格者として向上させた身体能力、そして無痛症の特性を消失したことと同義だ。




 対価として奪える対象は能力者自身が把握しているモノに限るのだが、一か八か、“身体の特性”と言うざっくりとした枠組みで取り立てを行おうとしたアレクセイの行動が、なんと功を奏してしまった。




 つまるところ、アンデルセンは今、殆ど素の人間としてマリアと対峙しているのだ。





「…貴様…。よもやそのレベルの…。それで逃すつもりか!」





「あぁ!逃すね!あれだぜ!こりゃあ命賭けてるって実感がすげぇーぜ!」





「…何を言っているかさっぱりだが、見逃す訳も無い!所詮体力が限界近い男に、心の折れた木偶。私一人でも全員仕留めてやろう!」





 マリアが、手に持つ黒い十字架に力を込める。




 棍棒のように振り回すとアンデルセンの腹を打ち据えて吹き飛ばし、素早く身を翻し、ハルトとクモナを追った。




 冥界領域が元に戻った今、ハルトたちの逃走を拒むものは何も無い。




 しかし、ハルトは既に意気消沈しており、アナは姉との再会に揺さぶられ千々に乱れた様子。クモナは体力が限界に近い中で二人の手を引き走るのだが、当然ながらそのスピードでマリアから逃げ切れる訳も無い。





「待って…クモナ…どうして…、ねぇ様が…。(わたくし)…どうすればいいの…」





「あぁ!?知るかよ!!とりあえず今は逃げねぇとダメだ!!残りたいならそりゃ残ってもいいけどな!?」





「おい黒髪。貴様今すぐにアナから手を離せ!!」





「うっおぉ!ほら言わんこっちゃねぇくそっ!!もう追いつかれた!!」





 襲い来るマリアの横凪の一閃を紙一重で躱すクモナ。

 影で弾幕を貼り時間を稼ぐが、それで稼げる時間はほんの数秒程度。しかもクモナの残りの体力的にもその作戦を継続は出来ない。




 どうあれハルトとアナを引き連れた状態でマリアから逃げ切ることは不可能だと思われた。





「黒女!お前の相手はぁ〜俺だろっ!!」





「チッ…しぶとい…!」





 口端から血を流しながら、何とかアンデルセンが戦線に復帰。

 三人を追うマリアを背後から奇襲する。





「おい!だから逃げるぞ!!ほらハルト…!!アナも!何迷ってんだ!絶対碌なことになんねぇぞ!?」





「でも……おねぇ様が…ねぇ、クモナ…。私が話せば…わかるかも…」





「えぇ!?この状況で何言ってんだよ!?」





 未だ状況が受け入れられないアナ。




 それも当然だ。現在北方を蹂躙している屍人の群れ。もっと言えば村を滅ぼし、自分を散々痛めつけたダッキ。その親玉が十年ぶりに会った姉だと言うのだから。




 本来ならば手を取り包容を交わしたいところを、屍人の悪夢を思い出した彼女の理性が止める。そんな葛藤を繰り返し、逡巡し続けている。




 クモナは懊悩した。アナの気持ちも理解した上で、大切な友人である以上この場から共に逃げなければと思うからだ。アナがマリアの手に渡って幸福な未来が来るとは想像できないからだ。





(…一難去ってまた一難ってやつだ…。アナはこれだし、ハルトはもう走る気力もねぇ…。その割にアンデルセンに加勢に行こうとしやがる。けど、二人の気持ちもすげぇ理解できるぜ…。どうする…?そうなったら俺はどうするのが正解だ??)





 目の前で、マリアに何とか喰らい付いて時間を稼ぐアンデルセン。

 彼の姿を見てクモナは頭を抱えた。




 クモナはアンデルセンが能力を使用できない状態になっていることや、神核解放の果てに何が待っているかを知らない。

 とは言え、アンデルセンが決死の思いで時間を稼いでいることは理解出来た。故にこそ、それを無駄にしたくないと思うのだ。




 そんなクモナの姿を察してか、生まれて初めて感じる痛みに顔を顰めながら、アンデルセンが声を上げる。





「ハルト!!まだ生きてっか!?」





「….ーーアン、デルセン…!」





「生きてんならいいぞ!でもあれだっ!元気なさすぎだぜ!?もっと腹から声出せよ!!」





 マリアの攻撃をスレスレで躱しながら何とか持ち堪えるアンデルセン。




 ハルトは疲労と精神的ダメージで上手く回らない頭を限界まで回転させ、アンデルセンの問いかけに答えた。





「とりあえず今は全力で逃げろよ!!三人で!必ずこの黒女から逃げ切るんだ!!」





「な…に言ってんだアンデルセン!!ダメだ!!俺も…まだ頑張るからっ、アンデルセンも一緒に逃げなきゃ!!!もうこれ以上……これ以上は…っ!!!今も!!」





「ーーーへっ、心配してくれんのか?あれだ、優しいな、ハルトは」





 アンデルセンは、マリアの十字架に腹を打たれようとも、気合いでそのダメージに耐え忍ぶ。  




 ハルトはその光景を目にして悲痛な叫びを上げたが、アンデルセンは普段の快活な表情を崩さない。




 最早彼には、根性でどうにかすることしか手段が無い。





「でもっ、お前は俺のことをよく知ってるだろ?俺は死なねぇよ!ぜってー大丈夫だ!!だからすぐにアニキたちと合流してよ、俺を助けに来てくれよ!!な!!」





「アンデルセン……でも、俺は!俺はまたお前に色々教えて欲しいよ!アンデルセンと修行したいんだ!!」





「んだよ!あれだぜ!折角きゅーちを切り抜けたんだからよ!とっとと行ってくんねぇと俺の頑張り損だぜ!?」





「っ、でもー!」





 尚も無理やり口端を吊り上げ、軽口を叩いて見せるアンデルセン。




 殆ど睡眠も取らずに北方中を動き続けたことで限界をとうに越えていた彼は、その身体に鞭を打って動き続ける。そして、こんなところで弱みを見せる訳にはいかないとばかりに無理に笑顔を浮かべる。




 鈍い痛みは蓄積し続けた。疲労の蓄積によるダメージも、神核を解放したことによる肉体の悲鳴も。悉くが彼の精神を崩しにかかった。

 いかに我慢強いアンデルセンと言えども、余裕な顔を見せ続けるのは無理があるだろう。




 今の彼を見れば、誰もがそう感じる。

 ほんの少しでも気を緩めれば、彼の痛みは暴走を始めるだろう。




 それでも、





「…ったく!修行なんて後でいくらでもしてやる!!だからっ…っ、俺を!俺を信じろ!ハルト!!!!」





 アンデルセンは叫ぶ。




 歯を食い縛り、命を削り、心臓や全身の筋肉が軋もうと、何度も何度も刀を振るいながら。

 その目には死ぬ気の覚悟と、轟々と燃え盛る確かな強さがあった。




 ハルトとクモナは二人同時にそれを目にするが、両者の受け取り方は違った。




 ハルトはその目を見て、未だどうするべきか逡巡する。アンデルセンのことを失いたくない。アンデルセンの能力の特性上死なないことは理解している。それでも、もうこれ以上誰かと離れ離れになりたくない。ハルトの精神はそれ程までに限界だったのだ。




 しかしクモナはアンデルセンの確かな覚悟と、未だ思案に暮れるハルトやアナを見て、一つの覚悟を決めた。





「ーーー悪りぃな。二人とも」





 クモナの言葉と同時に影が、二人の視界を奪う。




 そして精神を司る部分へと影を侵入させ、強制的に二人を昏睡状態へと落とした。





「手荒な手段だけど、許してくれよ。これで、いいはずだよな…アンデルセン」





「…、あぁ!クモナ!助かるぜ!!そのまま二人を連れて逃げ切れよ!!」





「言われなくてもだ!お前も早く戻ってこいよ!?」





 クモナは二人を担ぎ上げ、力を振り絞って前へと走る。

 彼自身も体力、そして能力を行使するためのエネルギーが枯渇寸前だ。




 しかし喉から血を吐こうと、クモナはその足を止めなかった。残された力を全て脚へと集中させ、兎にも角にも必死に前へと進み続ける。




 意識が落とされ、連れ去られてゆくアナの姿にマリアは怒りを露わにするも、行手はアンデルセンによって阻まれた。




 甲高い音を立てながら三度、アンデルセンの刀とマリアの十字架がぶつかり合う。





「どけ…貴様、その状態でまだ私の前に立つのか!?」





「だぁから、あれだぜ!さっきから言ってるじゃあねぇか!お前の相手は俺だってよぉ!」





 戦況は火を見るよりも明らかだった。

 アンデルセンがどれだけ攻撃を繰り返そうと、神格者としての特性を失った彼では、マリアの戦闘力を上回ることが出来ず、攻撃はほぼ完璧に防がれてしまう。




 剣戟は防がれ、打撃のカウンターを喰らう。

 マリアは敵を致命傷に追いやるような手段は持たないものの、数刻の間一方的に降り注ぐ打撃の雨は、アンデルセンを追い詰めるのに十二分に効果を成した。




 それでも、幾度となく黒き十字架がアンデルセンの身体を殴打しようと、彼が倒れることは無い。

 血を流し、全身の骨を軋ませながらも倒れず、再びマリアへと突貫する。




 マリアは難なくアンデルセンの剣戟を捌いていたが、幅広の刀に、アンデルセン本来の筋力。しばらくの後に、アンデルセンの猛攻が微かにマリアの十字架を押し始めた。




 ピシッと十字架にヒビが入り、頬を刀が掠める。マリアもようやく、肩で息をし始める。




 焦燥を目に見えて表情に出したマリアは、今までに無い力を十字架に込め、刀ごとアンデルセンの身体を弾き飛ばした。





「はぁ…はぁ…。まだ…、立つのか。貴様…」





「あぁ…アイツらが遠くに逃げるまではなぁ…。クソいてぇけど、あれだぜ。お前の行手を阻んでやるぜ…!」





「……なるほど。強いのだな…貴様は」





 荒い呼吸を繰り返し、胸を上下させるマリア。




 漆黒のドレスはアンデルセンの返り血で染まり、渇いた赤が禍々しさを醸し出している。




 頬から流れる血は、病的に白い肌をつたい顎先で途絶えた。




 先ほどの猛攻で遂に砕けた黒い十字架は先端を鋭利に尖らせたただの棒と化している。

 マリアはそれを使いアンデルセンの息の根を止めるつもりだ。





「強い…?俺が?…あれだぜ…、まだまだっ、これからだろーが!!」





 アンデルセンは近付くマリアに対し、啖呵を切って立ち上がろうとする。




 自分の体力の限界を認識しつつも、それでも彼の脳内に諦念の文字は無かったのだ。

 刀を手にし、マリアへと攻撃を仕掛けようとした。






 しかしーーー






「ーーーまだまだ?もう貴様に、これ以上先は無いだろう」





「……??…あ〜〜、おいおい…何だぁこりゃ…こんなに、…はえーのか?」





 アンデルセンは、立ち上がることが出来ない。




 理由は単純。アンデルセンの両脚は、限界を迎えて崩れ落ちていたのだ。





「あぁ、?おいマジで、くそー……治んねぇ、かぁ……」





「貴様の肉体が限界を越えて崩れ去っているのだ。完全に成熟し切っていない神格者の“神核解放”、そのリスクがこれだ」





「いや…んな訳はねぇだろ。あれだ。俺の力は…こんなもんじゃ……」





「能力に期待しているのか?であれば当てが外れたな。貴様の能力が何かは知らんが、アレクセイは貴様から()()()()()を奪っている。どれだけ特異な能力を持とうが、貴様がそこから起き上がることはもう無い」





 マリアは、淡々とアンデルセンの現状を述べる。




 アレクセイがアンデルセンから奪ったものは身体の特性。それは即ち、神格者としての身体能力や無痛症の症状だけに収まらない。




 当然ながら、“再生する肉体”という特性も剥奪されている。




 アンデルセンの能力の特性上、肉体が崩壊しようが問題は無いはずであった。継戦能力はある。仮に肉体を粉々にされようと、助けがあればまた生きて戦線に復帰が出来る。そう考えていた。




 だがやはり、現在のアンデルセンはあまりにも完璧に()()()()()だ。

 そもそも自身の能力に頼る限りなく薄い可能性だったが、淡い期待を込めた彼の考えは今一度水泡に帰した。





「貴様見たところ、元来痛覚を持たなかったのだろう?痛覚に異常に驚いていたな。その時点で薄々、自分の身体の異変に気付いていたのではないか?」





「…。異変…はは。そんなの、関係ねぇぜ!脚がねぇなら腕を使えばいい!腕もなくなったら噛み付いてやる!!頭がもげるまでやってやるぜ!!俺はまだまだ動けんだよっ!!」





「そうか。だが最早、それすら叶わん。貴様の肉体は指一つ動かすことも出来んだろう」





 マリアの言葉通り、いくら威勢よく、挑発的に言葉を発しようと、アンデルセンの身体は指先一つ満足には動かせない。

 ただ地面に倒れ込み、瓦礫を背に座り、目の前に立つマリアのことを見ることしか出来なかった。




 次第に、視界もぼやけてゆく。世界が閉ざされていく。手も、頭も、口すらも上手く動かすことが出来ない。




 彼の肉体はゆっくりと、しかし確実に終わりを迎えようとしていた。




 そうしてマリアが、アンデルセンへと歩を進める。

 その時。





「ーーーっ!」





「……ほら、な。あれ、だぜ。まだ俺は、動けんじゃねぇか…黒女」





 アンデルセンの幅広の刀がブーメランのようにマリアへと投げつけられ、マリアの脚を斬り裂く。




 本来なら造作も無く避けることが出来たはずの攻撃だったはず。が、彼女は警戒を怠っていた。

 この状態の人間にまさか何も出来るはずが無いと。立ち上がることはおろか、動くことすらも出来ないと油断していた。




 しかしそれにより、マリアは左脚に大きな傷を負う。流れ出る赤い血液。神格者の治癒力を持ってすればやがて止まるものの、数秒の間は満足に動くことが不可能だろう。




 気付けば、完全にクモナの姿は遠くへ見えなくなっている。

 ハルトやアナを奪取しようにも、今から追跡をしようともう手遅れ。屍人を復活させようと現在は昼間。冥界領域を再構築しようとすれど、その余力は残されていない。




 つまり、アンデルセンの肉体が終わるのと同時に、マリアの追撃も確実に途絶えることとなったのだ。





「………貴様は、よくやった。一介の帝国兵士、冥界領域に入り込んだ一匹。私の進路がそれに阻まれようとは。貴様を侮った私への罰だ。今から奴らを追えど、逆に窮地に陥るのは私だろうな」





「は…はは…。そー、だぜ…。よーやくわかったか。マヌケ…」





「いいだろう。何と呼ぼうと無礼とは言うまい。貴様の勇姿は敵ながら素晴らしかった。アンデルセン、と言ったか?貴様」





 マリアはアンデルセンの名前を告げながら、コツコツと音を鳴らし歩く。




 その悠然とした歩みには今や油断が無く、ただ目の前に力無く座り込む敵に対するある種の敬意と、今後巻き起こるであろう更なる戦闘に対する覚悟が内包していた。





「…貴様に免じて、今、奴らを追うことはやめよう。しかし。消滅する前に()()()は使わせてもらうぞ」





「はっ…何でもすりゃいいさ。俺にとっちゃ…アイツらを逃がせればそれで勝ちだからなぁ!」





「認めよう。今回は私の敗北だ。無論、最後に勝つのは私だがな」





「はっ!ははは!!まぁあれだ!!精々ホエヅラ?かきやがれ!はははは!!!」





 黒冠の皇女は静かにアンデルセンの頭に右手を置く。

 当のアンデルセンは、自身の勝利を確信し、高らかに笑ったのであった。






 ここにエルギンの街で人知れず始まった帝国側勢力と屍人たちとの戦闘は一時終幕を迎えた。




 痛み分け。否、帝国側の辛勝。




 されど、残されたものの傷はあまりにも大きい。肉体的にも、精神的にも、到底再起が見込めるものでは無いはずだ。




 ーーーそれでも、アンデルセンが残した可能性は、また一つ運命を大きく動かす。

 ハルトにクモナ。そしてアナスタシア。この三名の存在が運命へとメスを入れた。




 六日後。アンデルセンによって骨へと戻った屍人を全て復活させたマリアが、再びここエルギンの本城にて帝国勢力とぶつかる。

 磐石な準備を終えた帝国側と、戦力を補強した屍人側との決戦。




 その戦いの結末は、またしても誰もが予想だにしなかった方向へと帰結するのであった。







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