表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケツァルコアトル〜太陽になる男〜  作者: AU
第一章 北方攻略編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/56

第三十二話 霜来

 





「そうですそうです、逃しませんよぉ〜〜!」





「逃すんだよ!あれだぜ、お前の相手は俺なんだぜ〜!!」





 ハルトたち目掛け襲い来る黄金龍の突撃。




 まるで空飛ぶ重戦車が突進して来ているかの様に、前方にある遮蔽物の悉くを紙細工の如く簡単に破壊。けたたましい音を立てながら追撃が続く。




 結果、ハルトたちがダッキによって虐げられた地下空間は既にほぼ全てが崩落している。ネズミとアンデルセンは戦闘の舞台を城の一階へと移し、激しい破砕音を響かせていた。




 黄金龍の突撃を真正面から防ぎ続けているのはアンデルセンの刃。

 両の手でしっかりと握った幅広の刀を思い切り振り下ろし、龍の進撃を幾度となく真上から叩き落とす。




 やがて、再び地下へと争乱の地を移す二人。

 物量ではネズミが明らかに優っているものの、継戦能力で食いついてくるアンデルセンとの力量は拮抗していた。戦いは均衡状態だ。





「なぁんだあれじゃねぇか!見た目ほど硬くはないみたいだなぁお前!その金ピカはハリボテかぁ!?」





「ぐぬぅ〜…またっ、うるさくてうるさくてたまらない奴ですねぇ!」





 恨み言を口にしつつ、その強靭な体躯でアンデルセンを吹き飛ばすネズミ。

 壁を突き破り勢いよく飛ばされたアンデルセンは、やはりその衝撃とは裏腹に「びっくりしたぜ〜」と殆どダメージを受けた様子が見られない。




 ネズミは決してアンデルセンに力量で負けている訳では無いのだが、彼の想定外の膂力に若干の面倒臭さを感じていた。




 本来であれば真っ先にシャーロックを捉え責任を追求したいところ。ダッキの所在もわからない今、何よりも優先されるべきはシャーロックの尋問である。




 次いでハルトの捕縛。先程のアンデルセンとクモナの会話を耳にしていたネズミは、クモナが抱えていた白髪の青年こそ、敵がわざわざ冥界領域に侵入して来た理由だと判断した。





(ダッキ女史は昨日城に戻って来た時に何か興奮していらした様子…。邪魔をするなと言わんばかりに加虐オーラがぷんぷんでしたなぁ〜。恐らくそれはあの青年を虐めるためでしょう)





 そんなネズミの推測は殆ど核心をついている。ハルトを真っ先に捉えんとするその行動も正しい。

 しかしながら不明であるのはダッキの所在。




 現状城内にいる神格者はネズミを含めて四名。

 その内の一人がダッキであり、四名の神格者の中では一番の武闘派であったと言えよう。




 その一人が不在となると、敵の規模によっては様々な苦難が考えられる。





(どうあれ、人質を取れば上手くいくでしょうか。まず、コイツをどうにかしなければ…っと!)





 黄金龍にてアンデルセンへと追撃を加えようと突っ込むネズミ。

 縦横無尽に城の地下、そして一階を破壊して暴れ回る。




 そんな彼が、予想外の角度からの攻撃に態勢を崩した。





「おい。何暴れてやがる。()()()()()お前の黄金ごと切り刻んでやろうか?」





「……おお〜そうですか、シャーロックが裏切り者ならばあなたも当然そっち側ですよね。これはこれは、問い詰めなければならない奴が増えて、非常に面倒です」





 腹部を裂かれ飛び散る金片。

 黄金色の粉塵の中ネズミを睨むのは白い軽甲冑のワトスンだ。




 ワトスンは生前、ネズミを討ち取った功績を持っている。

 既に、屍人として甦ったことはお互い認識していたが、背信行為が明らかになった以上、その因縁を最早隠すこともしない。




 一進一退の攻防をアンデルセンと繰り返すネズミにとっては、また新たな脅威が参入して来たと言えよう。




 しかし、





「おぉ!やったぜ!あれか!?スケダチに来てくれたのかぁワトスン!!」





「ま、そんなとこだって言いたかったんだがな。悪りぃ、色々と引き連れて来ちまったぜ」





 アンデルセンに追随し、ネズミの黄金龍へと猛攻を加えんとするワトスン。





 途轍もない轟音を響かせ城を揺らしながら戦うネズミ。それに対抗しているアンデルセンの身を案じ、ワトスンは音を頼りにここまで辿り着いた訳だったが、ワトスンもここに来るまでに揺動のための激戦を繰り広げて来ている。




 その相手は百を越える屍人の群れ。




 ワトスンは大量の屍人から逃げる様にアンデルセンと合流した。




 ワトスン特異の脚力により屍人に捕捉されることはまず無い。更にシャーロックの『規律の神』の能力で屍人との交戦も制限が無かった。




 逆に相手の屍人の群れは同族の屍人(ワトスン)に対して攻撃の制限がかかったいるため、ワトスンは圧倒的アドバンテージの中、敵戦力を分断することには成功している。




 それでも厄介なことに、屍人の群れは無限に湧き出てきた。ワトスンに対して直接的な攻撃が出来ずとも、質量で押し潰すことは可能であろう。

 特に、同族では無く、明らかな敵性存在であるアンデルセンには攻撃が通る。ダメージを与えることは出来ずとも、二人を足止めすることは可能と言う訳だ。




 つまり、今回のワトスンの助太刀はまとめて敵を駆逐出来るメリットはあれど、逆にこちら側が不利になる可能性も孕んでいた。





(とは言え、ハルトの救出は叶った様だ。ここを抑えきれりゃ俺たちの勝ちだな)





「おーいワトスン!なんて量の敵を連れて来やがったんだ!!」





「うるさい、俺に策があるから黙って着いてこい」





 城の一階へとワラワラと雪崩れ込む屍人の群れを見て、瞠目するアンデルセン。




 だが、ワトスンはやけに落ち着いた様子でアンデルセンを引っ張りながら逃避行を繰り返した。





「おやおや!何かしてくるかと思いきや逃げるんですか!!やはり皆と合流してここを脱出したいんですかね〜!けれど、そうは行きませんよぉ!?」





 更に分厚い黄金を纏い上機嫌になったネズミが二人を追う。




 ネズミの『黄金の神』の能力は自身の保持する黄金、或いはそれに準ずる金銭を自在に操る能力。形状、硬度含め、あらゆる面で()()であり、使い方によっては既にアンデルセンを捕捉することが可能であったと思われる。




 しかし、ネズミの吝嗇な性格がこの能力の欠点だ。

 自身の財産に固執するばかり、あまり大量の金を消費したがらない。




 よって自身に金を纏い龍のように見せかけるのが関の山。当然張子の虎である金の鎧はそれ故にアンデルセンやワトスンでもひっぺがせる程に低硬度であったし、罠を作りどうこうと言う考えも少なくとも今のネズミには無かった。




 ネズミに追随する大量の屍人の群れも、けたたましい叫び声を発しながら二人の後を追うが、そこに知性は無い。

 ただ物量を持ってひたすらに二人の背後を追うだけの脅威。





「策ったってよ〜敵の根城だぜ〜!?何をしようってんだよ!」





「もう直ぐだ。この先、お前も注意しとけよ?」





「おいおい何がだよ〜何をしようってのかさっぱりだぜ?」





 そうして愚痴を溢しながら走るアンデルセンだったが、城の正門あたりまで来たところでようやく何かに勘付く。




 ワトスンが狙っていたそれは、シャーロックの仕掛けたとある罠。

 シャーロックが地下のダッキの元へと向かう以前に準備していたものであり、逃走の際に使用すべく正門付近に設置していた計略。





「お…!なるほど!わかって来たぞワトスン!!こっちまで誘導すりゃいいんだな!!」





「うるさいな、お前のせいで台無しになるのだけは止してくれ」





 それを察したアンデルセンはギアを一段階上げ、疾走する足を速めた。





「何をベラベラと喋ってるのか!?ほらほら、もうあなた方の喉元に刃が届きますよ〜〜!」





 逃避行を続け正門間近まで辿り着いた二人。




 その直ぐ後ろまでに迫ったネズミの黄金龍。

 黄金龍のギラギラ光る爪が逃げるアンデルセンの背中を引き裂こうと詰め寄る。




 その時、





「…んぁっ!?ーーーーなっーーー」





 ドゴゴゴン!!!!!





 耳を劈く凄絶な爆発音と共に、熱風と衝撃波とそに乗った礫の数々が、ネズミの黄金をひっぺがして悉く破壊した。





「うぉおおおおおお!!!!」





 粉微塵になり空中に舞い散る黄金。巻き込まれ弾け飛んだ屍人の肉片と共に、キラキラと美麗な金埃が空を彩る。が、その被害はネズミにとって耐え難いものである。




 彼にとって命よりも大切とする自身の財産が薙ぎ払われたのだ。当然正気ではいられない。目に見える身体の欠損よりも、遥かに大きなダメージをネズミは負ってしまった。





「くっ…ぉおおおお!私の!私の金がぁあ!!!こんなにも大量の私の財産が!!ふざけやがって〜〜〜!!!!」





 肉体を再生させながらも悶え苦しむネズミ。




 地面に這いつくばり、今し方金片、ないしは金粉となって散っていった自身の財産を再生したての腕でかき集める。




 ガシャガシャと音を立てながらかき集めようと、粉微塵になってしまった金では最早元の形は取り戻せない。




 今アンデルセンとワトスンの前にいるのは、見るも無惨に地面に腕を擦り付ける、小太りで中年の男だ。





「おいワトスン…なんか哀れだぜ…?コイツ」





「哀れんでる暇はねぇよ。他にもこの城には神格者がいるからなぁ、とっととここを出るぞ、アンデルセン」




「おう!任せろっーーーて、ぉお?なんじゃこりゃ…?」





 と、ネズミを後にし、歩を進めようとしたワトスンとアンデルセン。




 だがしかし、その意気込みとは裏腹に、彼らの足ははまるで地面に縫い付けられたかのように次の一歩を進めることが出来なかった。





「……クソ。まずい、これは…」





 アンデルセンも同様に、足の裏から底冷えする様な冷気が登り詰める。

 芯から凍てつく肉体。パリパリと逆立ち、白い霜を伴って硬化していく体毛。臓器も、眼球も、血液も。肉体を形成するあらゆる要素が徐々に機能を失っていく感覚を二人は覚える。




 彼らが陥っている冷結状態。それを成したのは何者のどんな能力なのか。

 北方大戦を経験しているワトスンは既に理解している。そして効率よくこの状態を脱する手段も。





「アンデルセン!脚を斬れ!」





「えっ!?おっ、了解だ!マジかマジか!!」





 動揺しながらも自らの手で自身の脚を切断する二人。




 ワトスンとアンデルセンは自身の膝から下を斬り落とすことでどうにか窮地を脱することに成功した。




 ワトスンは屍人の肉体であるため、アンデルセンは再生の能力を持っているため、脚を斬り落とすことは問題が無い。




 が、問題はそこではなく、目の前に佇む、この城の第二の神格者である。





「ほぉ、脚を斬り落とすのか。覚悟決まってるな、お前たち」





 二人を襲った冷気の正体。それは目の前のジェントリーと言う青年の能力であった。




 司る神は『霜の神』。

 雪と共に現れ、冷気を充満させ、冷気の設置面に触れた者をジワジワと芯から冷結させる。




 今回はシャーロックが爆弾を地中に仕掛けていたように、ジェントリーも冷気のトラップを地中に仕掛けていた。

 それはあくまでも攻撃の判定にはならない。そのため同族であるワトスンのことも捉えることが可能である。





(コイツが来るか…この中で一番、遭遇したく無かったんだがな…)





 ワトスンは冷血の効果を喰らわぬようジェントリーから大幅に距離を取り、敵を睨む。




 分厚いファー付きダウンコートのフードを目ぶかに被り、口元までチャックを上げているさながら雪男の様な風貌。

 そこから覗かせる金色の髪と碧い目から彼が若いことはわかるが、ネズミよりも戦闘経験があり、少なくとも自分たちにとって現状一番の脅威であることをワトスンは知っている。




 その能力で凍らされた時、屍人の再生もアンデルセンの能力も意味を成さなくなるのだ。

 先ほどの様にトラップで冷気を設置している分には同族への攻撃判定にも当てはまらず、十二分に自分たちが足止めを喰らう要素になる。




 更に、徐々に肉体を回復させている大量の屍人と、ネズミの存在。

 これらが先行して逃走するハルトたちを一斉に追い始めたならば、冥界領域脱出の確率は大きく低下するだろう。





「ジェントリー!!如何にしてか、シャーロックとワトスンは我々を裏切りました!!そしてそのオレンジ髪の仲間が、現在もここから逃走中です!!こちらはいい!ワイルドハントと共に、逃げた奴らを追いなさい!!」





「そう?加勢は必要なさそうか?」





「どうあれ今のコイツらに私は殺されません!!」





「ふぅん。わかった。まぁけど、ダメ押しで冷気をプレゼントしておこうかな」





 くるりとワトスンへと背を向け、シャーロックたちを追うべく城の外へと歩を進めるジェントリー。




 歩くその背中はまるで無防備だが、その手からは氷の礫の様なものがポロポロと地面に落とされていた。




 礫は地面に落ちた瞬間から花開く様にふわりと弾け、辺りの地を白く変色させて凍てつかせる。空気が一気に冷やされることで煙が発生し、誰が見ても、それを踏んではならないことは明白だ。




 これは先程とは別の冷気のトラップ。

 先程はまるで風の如く冷気を地面に這わせることで敵の脚を地面に縫い付けていたが、今回はこれを踏んだ瞬間、一気に全身を冷たい寒気が走り、冷結させる。




 アンデルセンやワトスンにしばらく身動きを取らせない様画策した、ジェントリーによる置き土産である。





(となると、俺が取るべき選択は…)





 それを目にし、思案するワトスン。

 熟考の末に、彼は自身の能力による鎖を取り出す。





「…!」





「警戒が緩すぎるんじゃねぇか?屍人同士の不戦の契りは俺には関係ねぇ。誰がお前を行かすかよ。偶々拾った第二の命。お前らを足止め出来ればその後は別にどうなってもいいんだわ」





「ふぅん、なるほどわかった。まだ勝てるつもりでいるんだな」





 ワトスンの鎖が、完全に油断し背中を見せていたジェントリーに突き刺さる。




 これによりワトスンの『決闘の神』の能力が発動。二人はこの場に冷気関係なく縛り付けられることとなった。





「ワトスン!何してる!!お前も行くんじゃねぇのか!?」





「この状況で生温いこと言ってんじゃあねぇよアンデルセン。いいか、お前はネズミが完全に再生する前にアイツらに追いつけ。そんでアイツらがこの領域を出るまで援護するんだ」





「援護か!まだ神格者がいるんだったっけか!?」





「覚えとけバカ。城にいる神格者は残り一人。ソイツは狙撃手だ。お前がいれば盾になれるだろ。とにかくコイツは俺が絶対に止めておくから早くしろってことだ」





 ジェントリーと対面し一触即発の空気を漂わせるワトスン。

 彼はアンデルセンに先に行く様に命じ、自身は確実にここで敵の一人を足止めする選択をした。




 ジェントリーは未だ不戦の命により屍人のワトスンには攻撃は不可能だ。が、冷気のトラップは脚力で敵を翻弄するワトスンにとって天敵と呼べるもの。




 されど屍人には同じ屍人の攻撃でダメージを与えることが可能で、不戦の命から抜け出したワトスンはジェントリーに致命傷を与えられる。




 お互いに違う側面でアドバンテージを持つ、そんな対立であった。




 二人の間に言葉は無く、視線が火花を散らしてぶつかる。

 どちらかが動けばそれが開戦の合図だ。事前に陥穽を仕掛けているジェントリーが優位か、屍人に有効打を与えられるワトスンが優位か。





「さぁ、とっとと行けよアンデルセン。ここまでやってんだ。絶対に奴らを逃して脱出しろ!」





「…おう!任せとけ!まぁあれだ!ワトスンも余裕があったらこっち来いよ!!」





「ふっ。相変わらず愉快な奴だよ」





「何言ってんだ」とふと笑みを溢すワトスン。




 この対戦を契機に、これより数刻の間続く、城内での激しい戦闘が幕を開けた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ