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ケツァルコアトル〜太陽になる男〜  作者: AU
第一章 北方攻略編

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第三十一話 Live and Let Die③

 






「なるほど?これは…、妙だな」





 アンデルセン、クモナ、ワトスンの三人が冥界領域へと侵入に成功した頃、諸々の準備を終えて、時間稼ぎのために地下拷問部屋へと足を運んだシャーロックは、拷問部屋の惨状を見てふと言葉を洩らす。




 ダッキはどうあれハルトを殺す。

 であればせめて時間を稼ぐために、あわよくば隙をつくため地下牢へと単身赴いたのだが、そこで見たのは顔から地面に倒れ伏す傷だらけのハルトと、彼へと手を伸ばし力尽きた全裸の少女の姿であったのだ。




 散乱する拷問器具。一帯に飛び散る血潮。そして意識を取り戻さない二人。

 ここで既に何かが起こったことは確実であった。




 しかし不可解なのは首謀者たるダッキの姿が無いこと。

 ダッキが着用していたであろう真紅のフリルドレスは床に捨て置かれているも、ダッキ自身の姿がまるで見当たらない。





(どう言うことだ?ダッキが衣服だけ捨て置いてどこかへ消える訳が無い。ハルトがやったのか??しかし…)





 ぐったりと倒れ込むハルトの口や首筋に手を当てるシャーロック。




 微かな呼吸に触れ、生存していることは確認したものの、身体にあるアレルギー性の斑点などを見たところ毒に侵されているとも判断した。




 これでは光を練ることはおろか、いくら欲望に短絡的なダッキであってもこの状態では討伐することは出来ないであろう。




 そう考えれば考える程にこの状況の不自然さが浮き彫りになるのだ。





(となると…、この女か?)





 ハルトの横に倒れるアナの姿を眺め、この状況を打破したのは倒れ伏した全裸の少女であると推測する。





(……この髪色…。まさか、な)





 アナを見て少しばかり訝しげな表情を浮かべるシャーロック。

 しかし一先ずはハルトが無事なこの状況に胸を撫で下ろした。





(とりあえず、二人とも生きているな。ダッキがいないのがまず幸運か)





 ダッキはシャーロックの背信を予測し、罠を張れるような人物では無い。

 そしてダッキが消滅しているこの状況。




 これに何かしら策略があると考え二の足を踏むようなことをシャーロックはしなかった。すぐさまハルトを拘束している手枷を破壊し、地下牢からの脱出を決意する。





(さて…この女が何者かはわからんが、どうする?連れていけば何かしらに使えるか…?)





「二人は、流石に重たいがなぁ。気合いを入れるか」





「ーーーおい、お前。何者だ」





 二人を担ごうとハルトの側に屈んだシャーロック。




 その姿を地下牢の外から見ていた人物が一人。

 クモナである。





「黙ってんじゃねぇ。お前は誰で、二人の何だって聞いてんだ」





「名前を知りたければ、自分から名乗るが筋じゃあねぇのか?最低限の情報を明かすなら、俺はこの光の神子の味方だが」





「……じゃあ、お前がシャーロック…で、間違いなさそうだな。あの甲冑の騎士が言っていた情報と同じだ。俺はクモナ。影の神子にしてハルトを救いに来た“味方”だ」





「…なるほど?影の神子と来たか。それで冥界領域を突破できたと言うわけだな?これは正しく僥倖だ」





 少ない情報から即座に現状を把握するシャーロックとクモナ。

 シャーロックの情報は突入前にワトスンから聞いており、それでクモナはシャーロックのことをすぐさま信用するに至った。




 しかしながら逆にハルトとアナ、二人の現状をクモナは全く把握出来ていない。




 否、目を背けていた。横たわる二人の惨状から。

 考えたくなかったのだ。二人がここで何をされたのかを。





「………、ハルト…アナ……畜生ここで、何が……」





(………アナ…?この少女の名前か?)





 全身を泥や唾液で汚された裸のアナと、身体の至る所を痛めつけられ出血が止まらないハルト。

 その二人を見て、「良かった無事であった」と安堵を覚えることはクモナには出来なかった。




 ダッキの姿は無くとも。二人は辛うじて生きてはいれど。何かしら惨たらしい仕打ちを受けたと言うことは容易に想像できてしまう。

 クモナが思わず目を背けてしまったのはそれが理由だ。




 しかし、クモナのその様子を見たシャーロックは冷静に今後の行動を言葉にして示す。





「おい影の神子、感傷に浸るのは後だ。確かにコイツらにとっちゃ()()()()が地獄だろうが、今はこっから脱出することだけ考えろ。奴が戻ってきちゃ話にならん」





「……奴?」





「屍人の主人だ。そいつは新しい屍人調達のためにここを離れている。予想外に時間がかかってるみたいだが、今日にでも戻ってくるぞ」





「マジかよ…それは、ヤベェな…とにかく急ぐしかねぇってことかーーー」






 ーーードギャギャギャ!!!





「!?」





 その瞬間、轟く破砕音が地下牢を震わせた。

 鉄と鉄がぶつかり合い弾けたような、鋭い刃が削れるような甲高い破砕音。




 クモナとシャーロックが思わず上を見上げる程に直上で響いた音は、よもやこの地下牢へと何者かが侵入してくるのでは無いかと疑惑を抱いかせる。




 ハルトやアナがその音で目覚めることは無かったが、他二人は間違いなく焦燥を感じていた。





「この音……。近付いて来ているな…。急げ影の神子。そいつに上着でも被せて早く背負え」





「わかってるよ!けど、おい、おいおいおいおい!まずいぞ!!この揺れ!天井が!!やばいっ!!!」





 天井が砂埃を落としながら、不気味な軋み音を地下牢へと伝える。

 不規則な揺れ、不気味な響音。まるで怒り狂っているかの様に部屋全体が震えている。




 その現状は最早、この地下牢が数秒後には崩落すると伝えるのに十分であった。




 二人はここで、朧げだった焦燥や危機感が確信へと変わるのを実感する。





「まずい!急げ影の神子!この部屋が落ちるぞ!!」





「言われなくても…だっ!!!」





「階段はあっちだ馬鹿野郎!」





 崩落の気配を感じ、急ぎ上階へ向かうシャーロックとクモナ。

 ハルトとアナを担ぎ全速力で石造りの階段へと向かい、薄暗い地下道を走る。




 そうしてどうにか、地下牢があったフロアを脱出出来るかどうかと言ったところまで来たところで、後方の天井に大きな放射状のヒビが入った。





 ズズズズズズ…ズズ……





 振り返った二人がヒビを目にした瞬間、怪物が這いずり回るような音を聞く。




 よもや恐怖すら覚えたその刹那ーーー






 ーーー天井が、鈍い音を立てて崩落した。






「うっぉおおおおおおおおお!、、!!!」





「馬鹿野郎!早く階段の奥へ行けっ!!」





 ガラガラと雪崩の様に崩落する地下牢の天井。

 度重なる爆発と勘違いする程の轟音はここが戦地のど真ん中であると錯覚させる。




 生物の生存を許さんと崩れ落ちる岩。舞い散り視界を遮る砂埃。

 言葉すら出ない一瞬の静止の後、反射的に後方に身を退いたものの、二人の視界は一気に灰色に染まった。




 支えを失った地下の空気は逃げ場を求め、階段にいる二人へと容赦なく吹き付ける。




 その暴風を背中に受けて再び走り出す二人。

 地下牢が崩落した今、これ以上ここにいるのもまずいと二人は理解していた。




 同時に、現在上階では激しい戦闘が繰り広げられていることも認識する。




 アンデルセン、クモナ、ワトスンの三人が城内へと潜入した際。シャーロックが既に地下牢へと向かっていることを知った三人は更に救出の可能性を高めるために、三人の内二人が囮となる陽動作戦を立案した。




 ハルト救出を本来の目的であると悟られないために、少しでも猶予を多く作るために、現在アンデルセンとワトスンは上階で暴れ回っていたのだ。




 しかしながらこの破壊状況はクモナにとって想定外だ。

 アンデルセンやワトスンが無事であるのかどうか、それを判断することも難しい。




 兎にも角にも、今はハルトとアナを連れ、冥界領域の外へ出ること。

 それのみがクモナの目的であり、走る理由であった訳だが、





「おっ!!あれだクモナ!!救出は成功したんだなぁ!!良かったぜ!!」





「っ!ぉお!びっくりした!!アンデルセン!無事…じゃ無さそーだけど、無事か!?」





 そんなクモナは後方からのアンデルセンの声に振り返り、彼の肉体の状況を目にする。





 片腕を捥がれ、頭部からも滂沱と血を流し、上半身の服は破かれた上で、更にその隙間から抉られた肉体が見える。

 痛々しい肉体の欠損。と言うよりも通常の人間であれば致命傷以外の何者でも無い光景。




 彼の能力を情報でしか知らないクモナは一瞬顔から血の気が引く感覚を覚えたものだ。




 しかし当のアンデルセンはその痛々しい欠損状況とは裏腹に、いつも通り快活で嬉々とした声を出しハルトの無事を喜ぶ。





「よーし、ハルトを救い出したってんならあれだな!話がはやいってやつだ!よっしゃとっととこの城を脱出するんだ!!」





「おいおい、何があったんだアンデルセン!お前も早く脱出するぞ!?」





「おう!そのつもりよ!けどなぁ、ちょっとばかし厄介な奴がいるんだ!俺はそいつを足止めしながら行くからなぁ!先行っとけ!」





「んな、厄介な奴?そいつぁどんなーーー」





「ンンン〜?まだ死なないとは、随分なタフな方ですね〜?」





 クモナとアンデルセンの会話に乱入してくる揚々とした声。




 砂埃と落石で半分灰色だったクモナの視界に、金色の光が落ちてくる。





 それは金色の龍であった。





「おや。おやおやおや。これはこれは北の智将と名高きシャーロックさん。なんですかなんですかこれは。

 随分とおかしなことになってる様じゃあ無いですか」





「……」





「ダッキ女史はどちらへ〜?ここはダッキ女史がいたはずですが…一体一体、どう言うことなのか。得意の弁舌でお伝え頂こうではありませんか?」





 落ちて来た金色の龍の口内から現れる人の影。




 やや小太りな金髪の男は、金色の歯を口から覗かせ、ニタニタとこの状況を楽しむ様にシャーロックへと語りかけた。




 手に嵌めた金の指輪の数々。十本の指では足りない程にギラギラと光りリングは、付けている当人も相まってあまりにも品の無い光を反射させる。





「まぁまぁ、金次第では、少々見逃してやらないこともありませんが〜?」





「金を取ったらすぐ裏切るだろう、お前みたいな奴はな」





「そんなそんな、裏切り者にそう言われちゃあ仕方が無いですね」





「なんだ、言うまでもなく理解してるじゃあねぇか。俺にしてやられた生前よりも少しばかり頭が良くなったんじゃあ無いかネズミ?」





 シャーロックの挑発。




 黄金龍の口内から顔を覗かせていたネズミと呼ばれた男は急激に怒りを顔に浮かべると、何も言わずにその顔を口内の奥へと隠した。




 そして天井から頭部のみ顕になっていた黄金龍が次の瞬間、地下の壁面、地面、あるゆる全てを破壊しながら全貌を見せる。




 それは正しく伝承上の生物であると勘違いしてしまう程の巨躯。

 黄金色の肉体、牙、爪、翼。それら全てがアンデルセンでなければ一撃必殺の刃となり得ることをクモナはひと目見て理解した。




『黄金の神』の神格者、ネズミ。

 かつてイヴァン大帝の執事兼側近として仕えた男の猛攻が今、始まろうとしていた。





「アイツは金に目のない馬鹿だが、戦闘力で言ったらダッキより上かもしれん。気を付けろよアンデルセン」





「あぁ、任せろ!!あれだぜ、美食家に勝った俺があんなのに今更怯むかよ!すぐに合流すっから先行っててくれ!」





「何をごちゃごちゃと…!この城は私たちの領域だ!!ここから逃げれると思わないことですね!!!」





 そうしてネズミの黄金龍が身を畝らせ、アンデルセンに向かって突貫する.

 次の瞬間、地下牢があった空間は、正真正銘の崩壊を迎えた。







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