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ケツァルコアトル〜太陽になる男〜  作者: AU
第一章 北方攻略編

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第三十話 Live and Let Die②

 





「おい…どーなってる?あの蛇女どこへ消えやがったんだ??」





 時は、ダッキがアナによって撃破された頃から少し遡る。




 ハルトやアナを拉致するダッキを背後から追跡していたクモナ。

 彼は影の中に体を隠し、音や匂いすら最小限に消してダッキのことを尾行していた。




 結果として尾行は成功。ダッキに怪しまれることも無く、エルギンの領土内まで到達する。




 しかし、エルギンの城に着くか着かないかと言った頃、突如としてダッキの姿が目の前から消えたのだ。




 まるでクモナの能力と同じように、地面に沈むかのようにひっそりと。

 これは屍人の主人であるマリアの『冥府の神』の能力であった。




 冥府の神の力は多岐に渡る。

 死体や遺骨に触れることでその人物をほぼ全盛の状態の屍人として甦らせる能力。そしてその屍人を支配し手駒として操る能力。




 更に、加えてもう一つの能力が“冥界領域”を地中に作り出す能力である。




 入り口はマリア次第で、どこにでも設置出来る。半径数キロの円形の領域。

 使用者であるマリア本人とマリアが許可を下した屍人であれば、世界中どこの場所にいてもこの冥界領域へと()()()ことが可能だ。




 基本的に侵入や退出が許可制且つ、“どこからでも入れる”と言う点から冥界領域がどこの地下に存在するのかわからない。

 冥界領域の強みはまずもってその秘匿性にあるだろう。




 しかしながらもう一つ長所がある。

 それは日中であろうと屍人が自由に活動できると言う点だ。




 本来屍人にとって太陽光は弱点。やや陰っている日でも皮膚が焼けるようなダメージを負うため、豪雪によって陽が完全に遮られているか、夜中であるか。その二つのケースでなければ屍人は屋外で活動できなかった。




 だが、冥界領域は違う。




 地中に存在しているためそもそも太陽光が届く訳も無く、薄紫色の空、黒く澱んだ大気、生命の気配が途絶えひび割れた地面。それら全てが屍人の活動を後押しする。




 昼夜問わず屍人が行動できる空間。その中に形成された城。侵入を許さない絶対的な防御。

 帝国の捜索を持ってしてもマリアの拠点が見つからなかった理由はこれである。




 では、屍人ですら侵入が不可能な領域にダッキが易々と入れた理由は?

 それは現在冥界領域内にマリアがいないため、冥界領域の門戸がオートになっているからである。




 マリアは新たな兵力調達のため北方より外へ出ている。その際冥界領域は信頼できる部下に一任しており、冥界領域をその者が自由に行き来出来るよう、屍人であれば自在に出入りが可能なシステムを組んでいた。




 反乱を防ぐためにエルギンの街にしか入り口は設置していないが、屍人であればそこから出入りすることに何ら問題は無い。




 よってシャーロックやダッキのような屍人は何の問題も無く、気絶し()()()()状態のハルトやアナも、マリアの拠点である冥界領域に出入りが可能であった。




 けれども、一般の人間は出入り出来る訳も無く、もっと言えば出入り口を視認することもままならず、クモナにはダッキが何処へ消えたのか分からず仕舞いだ。




 要するに、クモナに打つ手は無いように思われた。





「ーーーお?何だぁお前、屍人か??あれだぞ、今の俺は容赦しねぇぞ!?」





 その時、運命は流転する。




 クモナに声をかけた男は他でも無い。ハルトを捜索し、エルギンの本城付近に待機していたアンデルセンだ。




 帝国勢力はエルギン地下に敵の本拠地があることはシャーロックの報告からわかっていたものの、しかし同様にハルトが今のところ冥界領域にいないことも報告されていた。よって帝国軍の面々はハルトは別の場所にいると考え、現在北方全土を総力を持って捜索している。




 しかしアンデルセンはそうでは無かった。粗方、思い当たる市町村を探した結果、直感でやはりエルギンの街が怪しいと判断していたのだ。





「っ!あんた!その白くてかっけぇ制服!帝国の兵士か!?」





「おぉ?何だ何だ。あれか?俺のこと知ってんのか??」





「知らねぇよ!会ったことねぇだろ!けど、帝国の兵士ってことはわかった!手伝って欲しいことがあるんだよ!!」





「んん〜?何か怪しいじゃあねぇかよ」





 訝しげな表情を浮かべるアンデルセン。




 当然と言えば当然。クモナは服装からアンデルセンが帝国の兵士であると見抜き、ハルト救出のための助太刀を縋るように願ったが、アンデルセンはクモナのことを知りもしない。




 アンデルセンにとって信用の無い相手であることは間違いなく、加えてクモナが影の神子であることからも若干の違和感をアンデルセンは感じていた。




 が、クモナはそれに動じず、アンデルセンの説得に奔走する。





「違う!俺は敵じゃ無いぞ!!早くハルトを助けにいかねぇと取り返しのつかねぇことになるんだよ!!けど俺だけじゃあ救える可能性は薄い。だからアンタに手伝って欲しいんだ!!」





「おぉ?何でお前がハルトの名前を知ってやがるんだ??ますます怪しいじゃぁねぇか」





「…おい…くそっ、なんか雑に見えて疑り深い奴だな!」





 オレンジ髪をバサバサと掻き上げながら懐疑の念を抱くアンデルセンは、クモナへの追及を止めない。




 忸怩たる面持ちのクモナであったが、そんな彼はアンデルセンから信頼を勝ち取るべく、今までの出来事を簡潔に説明することにした。




 ダッキの転移能力によって飛ばされたハルトを保護していたこと。自分がハルトの友人であること。ダッキの脅威に脅かされ帝国の兵士とコンタクトが取れなかったこと。

 そして、自分たちの村が襲撃に遭い、ハルトとアナが連れ去られたこと。




 全てを包み隠さず、悔やむ記憶すらも誠実に伝えた。




 全てはハルトとアナを救うためだ。自身の人生の指標である人物を救うために恥も外聞も無く、情報も全て隠す必要は無い。




 と、そこまで情報を伝えると、次の瞬間にアンデルセンは警戒心を解き、今度はダッキへの怒りを露わにした。





「おいおい…そんなことが…あのゲロ女!!

 おい!そうと決まればお前!!とっととハルトを救いに行くぞ!!どこにダッキはいやがるんだ!?」





「え!?散々疑っといて今の説明でいいのかよ!?よくわかんねぇな!」





「いいんだよ!!仮に騙されてたとしてっ、俺はそう簡単に死なねーからな!」





 アンデルセンはそれを聞くや否や、すぐさま刀を抜き、その拳に力を込める。




 クモナはアンデルセンの直情的な性格に驚き目を丸めたが、しかしこれも僥倖だと感じ、ハルト救出のための作戦を考えた。





(コイツで大丈夫か…?いや、きっと問題ない。コイツは案外強そうだしな…。問題はどうやって中に入るかだが…)





 城は何の変哲も無い廃墟。しかしダッキは地面に溶け込むように消えた。

 クモナはそこから、地中に屍人たちの根城があると推測し、侵入方法を考える。





「……おい、アンタ名前は?」





「アンデルセンだ!」





「了解、俺はクモナだ。早速お願いなんだがアンデルセン、ちょっと地面に攻撃を打ってみてくれ。見たところアンタ強そうだ、神格者かなんかだろ?」





「お?あれだ、お前はするどいな!!そーだ俺は神格者だ!!まだ能力は教えてやらねぇけど!」





「いいから!!わかったから早く!!」





 地面を叩けど、影を地面に這わせど、出入り口が見つからないクモナは、少し強硬手段に出ようと考えた。




 どうあれこれから侵入することに変わりは無い。ならば空間の出入り口ごと破壊してしまっても問題ないかもしれない。と。

 中には大量の屍人が忍んでいるはずではあるが、その時はアンデルセンを囮にし自身は影に潜む算段だ。




 ハルトたちを救出するためであれば背に腹は変えられない。

 クモナは傭兵として育った経験から、ある種の冷酷さは持ち合わせていたのだ。





「よしっ!!ほんじゃちょっと離れてろクモン!!あれだぜ、ジャックさんばりにぶっ壊すぜ!!」





「誰だよジャックって。てか、俺の名前クモナなクモナ!!」





 そうしてより一層腕に力を込め攻撃態勢に入るアンデルセン。




 手に持つ幅広の刀が震え、軋む程に万力を込めたその拳は、今にも前方の地面を砕かんと、力の発散場所を求めていた。




 するとその時、





「お前ら、五月蝿すぎだマジで。ちょっとは冷静になれって」





 どこかで聞いたことのある声が、アンデルセンの耳に入った。





「お前は…!」





「ワトスンだ。どうせお前俺の名前覚えてねーだろ?とりあえずその刀しまえ。いきなりドンパチしてどーする?お前ら二人じゃ一瞬でお釈迦だぞ?」





 ワトスンは、やれやれと嘆息を吐きながらアンデルセンを制止する。





「いいか、お前らも何だか気付いてるみてぇだが、聞いた話だと、さっきダッキが光の神子を連れてここに来たらしい。シャーロックさんがどうにか作戦を練ってるが、まぁダッキが来てからしばらく経ってるからな…」





「そうなのか!?あれだぞ…この付近に待機してたってのに姿は見れなかったぞ!!」





「そりゃお前が()()にいすぎなんだろ?とにかく今、“冥界領域”の中にはダッキとハルトがいる。俺は確認してねぇが、もう拷問部屋かもな」





「おいおいおい、そりゃあヤベェって!!クモナ!だったか?やっぱり地面ぶっ壊そうぜ!!」





「ーーーそんなことはどうでもいい!!ダッキが来てから時間が経ってるとか、アンタが待機してた場所とかどーでもいいんだよ!!とにかく、まずはハルトを救わなきゃだろ!今、軽甲冑のアンタは地面から出てきたな!?だったらすぐに、ここへの入り方を教えてくれ!!」





 現状を整理するべく淡々と言葉を発するワトスン。

 それに対してクモナは焦る気持ちを抑えられず、大声を出して彼に詰め寄った。




 ワトスンとクモナは面識が無い。されどアンデルセンとワトスンが既知の間柄であったことから、一旦ワトスンを疑うことを止め、とにかく侵入方法を明らかにしようと胸ぐらを掴まんばかりに相手へにじり寄る。





「だからウルセェって。まず誰だよお前」と相手にしていなかったワトスンも、いつしかその気迫に押され、諦めたかのように静かに息を吐いた。





「ま、確かに言ってることは間違ってねぇ。けどな、冥界領域にゃ入れねぇんだよ。屍人か、死体、後はまぁそれに近い奴。冥界領域に出入り出来んのはそれだけだ」





「なんだって…。じゃああれじゃねぇか。そう、俺はは入れねぇってことじゃねぇかよ!」





「いいや、お前はそうでも無い。アンデルセン、お前肉体をばらけさせれるだろ?中に入ってから再生すりゃいい。要するに、入る時に生きてなきゃいいんだからな」





「なるほどぉ!じゃあそっか、俺の腕でも脚でも持ってって貰って中で再生させりゃいいわけだな!」





「おう。だからお前は問題無い。お前がいたことは予期せぬ幸運だよ。しっかし、この黒髪は同じこと出来ねぇだろ?だったらとっとと帝国の他の面々を呼んでこい。こっからはもう決戦に入るぞ」





 わかったら行けとばかりに手を払い、一瞥もせずクモナをあしらうワトスン。




 確かにワトスンの判断は間違っていない。

 城内のシャーロックと外のワトスンとアンデルセン。その三人でハルト救出は担当し、その後巻き起こることが予測される戦闘に備え帝国の援軍をクモナが呼びつける。




 それが唯一にして、最良の選択肢であった。




 が、ワトスンのその説明を聞いたクモナは、突然何か思い至ったかのように顔を上げ、目を見開いた。





「じゃあ……屍人に成り済ませりゃ…いいってことか?」





「?何言ってる。お前の仕事は援軍を呼ぶことだ。それ以外ねぇぞ」





「……出来るとしたら?俺の能力で全員、誰であれ領域に入ることが出来るとしたら??」





 クモナが、右手を広げてその中央に影を発生させる。




 モヤのように粒子の集まった黒は、やがて外郭をぼんやりと形成させ煙や綿のような形をとっていった。

 形を持たないハルトの光の力とは違う。霞のように淡い輪郭を持って引力を発生させる影。




 二人に見せつけるように生み出した影は周囲の空気を引き寄せ歪ませる。

 黒い靄と大気を歪ませたその力を見た二人は何か喋ろうと口をパクパク動かす。




 特にワトスンは口を開きかけてすぐに閉じ、喉元まで出かかっていた言葉を捻り出そうと精一杯だ。





「俺の力でみんなを覆う。さっきの話を聞いてる感じ、屍人やら気絶してる人間が通れるってことは、生者を拒絶してるってことだろ?だったら、その逆の影の力を持ってりゃどうにか出来るはずだ」





「…お前、その力…。まさか」





「あぁ、俺は影の神子だからな。そんで……」





 信頼を得れたと確信したクモナはグッと拳を握り、影を収束させる。




 そして奥歯を噛み締め、目から迷いを消し去り、揺るがぬ決意を固めて二人を見た。





「ーーーハルトを、救う人間だ」





 そうして三人は、遂に冥界領域へと侵入する。







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