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ケツァルコアトル〜太陽になる男〜  作者: AU


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第十話 急襲

 



 天帝より指令が下ってから早一週間。ハルトとアンデルセン、そしてポチの三人は北方へ向かって移動していた。



 出発の際、ジャックが何とも言えない名残惜しそうな顔で三人を送り出したのも三日前。既に辺りは一面の銀世界で、しんしんと純白の雪が降る中、ハルトたちは目的の場所まで雪上車を走らせていた。



 目的地は北方第三帝国支部。ダフタウンと言う退廃した街に最も近い帝国の支部である。

『美食家』シュウを討つために、彼らの根城であるダフタウンの街の近くをまずは目指していると言った具合だ。



 何故敵の所在が既にわかっているのか。これには二つの要因が起因している。



 一つはレンジの存在だ。



 レンジが北方に先入りし敵の所在やら戦力を探っていたことで明らかになった情報があるのだ。数週間の間たった一人で偵察を行なっていたと言うのだからその功績はかなりのもの。



 とにかく、敵にどんな人物がいるのか?規模はどの程度なのか?などはレンジの偵察の成果で可視化されている。



 二つ目は、シンプルに状況の変化だ。



 ハルトたちが修行をしている一月の間、敵側の動向は大きく変化していた。



 今まで屍人はただ単純に街を襲撃し、自らの力の誇示と反対勢力の沈静化のみを目的とした神出鬼没な行動を取っていた。故に出現地点もまるで不確か。第二部隊がいくら力を尽くそうと全てに対抗するのは不可能な状況だったと言えた。



 しかしここ最近はその襲撃の頻度が落ち、代わりに街を占拠して支配する動きに出ている。

 


無論それはそれで帝国や北方の住民からすれば脅威に変わり無い。

が、街を制圧し拠点化すると言うことはそこを牛耳る戦力がいると言うことで、帝国としては敵の配置をある程度把握できる状況になる。



 幸か不幸か、これらの要因があってハルトたちも思い切った対抗策を講じることができるのだ。



 ちなみに、ハルトたちの目下の標的は『美食家』シュウ、『北の智将』シャーロック、『鮮血女帝』ダッキの三人。

 その中でも最も厄介とされるシュウが今回最初の討伐対象だ。



 まだ敵はハルトの存在を知り得ない。が、これが数日後、屍人を撃破し続けて光の神子と言う存在に敵が気付いた時、自由に動かれて一番困るのはシュウであるとジャックや天帝は判断した。





『美食家』シュウ。かつて北方帝国にてイヴァン大帝の右腕を務めた人物にして狼の神格者。



 その機動力と殺傷能力は他の神格者と比較しても頭ひとつ抜けており、豊富な戦闘経験も相まって北方大戦の終盤まで猛威を奮い続けた人物だ。



 しかしながら、最も厄介なのは食への貪欲さである。



 彼はより美味い人を追い求め、捉え、人を喰らう。生存に必要だから喰らう訳では無く、性質故に喰らう訳でも無く、シンプルに人の味を好むから喰らうのだ。



 食指がどのような人物に動くのかは誰にもわからない。なんにせよ、人を捉えてそのまま悪戯に殺すのでは無く、捌き、調理し、キレイに仕立ててから()()()

 誰がどう見ても狂人である彼は、その性質故に『美食家』と呼ばれている。



 その狂気はやはり、極めて貪欲だ。

「狙った獲物を逃さない」と言う言葉があるが正しくシュウはそのタイプで、目星をつけた獲物は地の果てまでも追い詰めて喰らう。



 もしシュウが本気で帝国側を攻め立てようと画策したならばそれを撃退することは困難を極めるだろう。

 ハルトたち部隊の全滅もあり得ない話では無かった。



 よって、まず美食家を倒す。そう言う作戦だ。

 幸いハルトたちは敵の戦力図を把握済みであり、急襲をかければこちらに利があると判断している。




「しっかし、改めて聞いても恐ろしい奴だよな。何で人が人を喰うんだよ。しかも人を捌いて料理して…ゆっくり味わうから二つ名が『美食家』って。北方はそんなに修羅の国だったわけ?」




「はい。私も資料でしか見たことはありませんが、北方大戦に参加した人物たちは正しく修羅と言って過言ではないでしょう」




「うーん…資料見る限り…そうだよなぁ…。特に美食家と鮮血女帝か?」




「えぇ、イヴァン大帝や美食家、鮮血女帝などを始めとする数人の幹部はこの世のものとは思えない残虐なエピソードを生み出しています。資正直私でも恐ろしいと思えてしまうほどに」




「そうそう。美食家は。あぁあれだ、人間の養殖をしてたなんて話もある。もちろん、喰うためにな。でも女帝の方はもっと最悪。まだ美食家には大帝への義理とか言う、えー、そう。大義メーブンがあったんだが、女の方はそんなものはまるで無くてな。ほんとイタズラに敵を苦しめては高らかに笑うゴミクズだ。人を苦しめる大会がこの世にあるんだったら間違いなく奴がトップどくそーだと思うぜ」




「…おぉ、凄まじいな。アンデルセンがそんな顔するなんて。そんなにやばい奴なのかよ…」




 ふと、美食家では無く女帝の話にすり替わる。



 アンデルセンが露骨に嫌悪感を浮かべ唇を歪めているのは珍しく、外道具合で言うと女帝の方が遥かに上であるとハルトは理解した。




(その口ぶりだと今も苦しんでいる人たちがいるんだろうし、アンデルセンとしては美食家より先に女帝を討伐したいんだろうな…まぁ上の決定だし変えようがないけど)




 ハルトたちはまず狼退治に向かう。物騒な鮮血女帝を早急に討伐するためにも、この任務は恙無く終わらせる必要があった。




「ま、でも俺がいっちゃん警戒してるのはシャーロックかな?アイツは少数の兵士で神格者連合を組織してあの大帝に対抗した男だ。奴の巡らせる、えぇとあれだ、チリャクは到底俺なんかじゃ理解できないからな」




「そりゃアンデルセンじゃ無理だろ。嘘とか絶対つけなそうだし」




「む、なんかバカにされた気がするぞ。ハルト」




「流石にわかるか(笑)。

 けどさけどさ、こんだけ美食屋も女帝もやばいって話をされた上で今更何言われても驚かないって言うか。流石に他二人を倒したらもう後はどうにでもなりそうな感じがするけどね?」




 人を喰らう剛なる狼と残虐非道な外道女。

 北方大戦を長引かせる要因となったこの二人が目下の課題であって、もう一人の『北の智将』シャーロックに関しては今のところハルトはノーマークであった。



 故にアンデルセンの言葉にハルトはやや驚く。

 ポチだけではなく、天帝もジャックも美食家が最大の懸念点として見ていると聞いていたからだ。



 シャーロックなどはどうにかなるもんだと勝手にハルトは思い込んでいたのかもしれない。



 が、「ふむふむ。それはやや早計な判断かもしれませんね。ハルト」とほんのり得意げなポチがハルトに対して言葉を投げる。




「先ほどアンデルセンが言っていた通り、シャーロックは北方神格者連合を組織しイヴァン大帝に対抗した人物だと聞いています。しかしその話で重要なのは神格者連合を組織したことでは無く、連合を実質的にたった一人で率いたことです」



「ほぉ。すげぇカリスマ性だな」




「はい。その際戦力差は約三倍。既に大帝によって蹂躙され尽くした後に組織されたことで神格者連合の兵力は圧倒的に大帝に劣っていました。しかしその戦力差をものともせず北方帝国と拮抗した、或いは()()()のがシャーロックです」




「戦力差…三倍で?」




「えぇ。それはひとえに、指揮を執ったシャーロックの敏腕と計略故。彼が連合を率いていなければ、北方は今頃違う運命を辿っていたかもしれません。アンデルセンが警戒している理由はこれでしょう」




「おいおい、それ聞いてないぞ。シャーロックってのはそこまでの奴だったのか…。じゃあなに、美食屋倒しても巨大な関門は控えてるってことか?」




シャーロックの経歴を聞き愕然とするハルト。

ノーマークとまではいかないがあまり気にかけていなかったため、予想以上の難易度に身を震わせた。




「ですが、そうは言っても私や大兄様(てんていさま)はアンデルセンとは違う意見で、シャーロックは美食屋程の敵では無いと考えています。何故なら彼の能力は戦闘向きのものでは無い。加えて穏健派だからです。

 あくまで彼が認めたものを率いて、彼自身が戦術を組んだ場合のみ、その智略は真価を発揮する。黒幕に支配されている屍人の身体ではシャーロックの本領は発揮されないと思います。私がシャーロックを警戒していないのはそれが理由です」




「ほぉ…。そう言えばそうだった。屍人はその言動から読み取るに、主人(あるじ)の命令には逆らえないって天帝様が言ってたな」




「そうです。捉えた屍人を尋問しようとした時、まるで情報を吐かないどころか、()()()()様子が見られたと報告がありました。そこから推察するに、屍人は主人から制限された行動は出来ない。或いは主人からの命令には逆らえない。といった性質があるのでしょう」




「うん。確かに天帝様やジャックさんもそう言ってたな。まぁけど、何にせよこっからは出たとこ勝負って話だろ?元からその覚悟は出来てたさ」




「お、あれだな。あぁ、良い意気込みじゃあねぇかハルト!」




 結局のところ、どんな情報があろうと、敵が誰であろうと、厄介な人物から順に倒していく作戦に現状変わりは無い。

 そして無論のこと、ハルトは、たった一月の修行で歴戦の猛者とも言える敵に対応できる自信があるかと言われればそうではなかった。不安はそれなりに大きいだろう。



 ただし、アンデルセンやポチとの修行は確実にハルトを成長させている。実戦向きな動き、能力の応用、そもそもの基礎体力。あらゆる全てが一月前とは見違える程である。




(そうさ。やってやる。この一月でどれだけ強くなったか示してやる。俺も平穏を勝ち取れるってことを見せてやるぜ)




 あと数刻で北方第三支部に到着する。

 レンジと合流次第作戦は始まるので、一層気を引き締めていかなくてはと、ハルトは胸中で決意を改めた。




 次の瞬間ーーー




 ーーードゴン!!!




「おぉ!?何だぁ!?!?」




 談話を続けていたハルトたちの車内に突如として轟音が響く。

 車体は大きく左側に傾き、ハルトたちはその衝撃に流される。三者三様に体制を崩しながらも受け身を取り、現状を把握するべく思考を巡らせた。




(脱輪か!?いや、そうじゃない。()()()…俺にはわかる!これは、まず間違いなく脱輪や地盤の陥没による崩壊じゃねぇ!つまり…)




「敵の急襲だ!屍人の攻撃で車体が崩れ傾いている!!」




「おっ!あれだな。判断が早くて助かるぜハルト。どうだ?どんぐらい敵がいるかわかったか?」




「そうだな…ザッと二十人ってとこか。全員屍人で特別大きい気配はねぇ。推し量るに、侵入者を撃退するためにここに配置されていた雑兵みたいだな」




「なるほどな!……よし。だったらそうさ、肩慣らしには丁度いいってやつだ!

あれだ!!俺は今回手を出さないことにする!!ハルトとポチの二人で今回の屍人はぶっ倒してこい!」




 索敵にて敵の人数と力量を把握したハルトにアンデルセンは声高に叫ぶ。



 敵は二十数名の屍人の群れ。神格者と思しき強力な屍人もおらず、雑兵のみで構成された部隊。

 十中八九、侵入してきた敵に問答無用で対応しろと命令されている木端の屍人であるとハルトは予想した。



 しかし多勢に無勢。アンデルセンが手出しをしないと言う以上、帝国側は二人で、敵は二十を超えるのだ。約十倍の戦力差になる。



 ハルトは警戒を怠ることなく光の力を拳に込めながら初めての実戦に武者震いを覚えた。




「よし、良い機会だ。アンデルセンに俺らのコンビネーションプレイを見せつけてやろうぜ、ポチ!」




「ふふん!もちろんです!私がおに…いえ、ハルトのお役に立てると言うところを今一度この戦いで証明しましょう!」




「よぉし!二人とも気合十分だな!なら良いってことよ!ただあれだぞ?油断なんかするなよ?」




 アンデルセンの言葉に「うるさいですね、わかっていますよ」と剣を構えたポチが呟く。

 ハルトも全くもってポチと同じ気持ちだった。



 ハルトにとって、ようやく模擬戦では無い本当の戦闘が始まるのだ。劣勢に追いやられることなく、アンデルセンの手を借りことなく、完膚なきまでに敵を葬ってやると誓う。




「ほんじゃ、今回アンデルセンに出番はないからさ、大人しくそこで酒でも飲んでてくれ!」




「お!いいじゃねぇか!言い返せるぐらいの気力なら問題ねぇってことよ!!ただその代わり、もし遅れを取るようなことがあったら二人とも速攻帝国に送り返すからな!あぁあれだ。そう。足手纏いになってくれるなよ、二人とも!!」




 急襲によって始まったハルトの初陣が、今、幕を開ける。





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