イン・シント 3 謎の影
アダガンド、アールブルクと立て続けに話をまとめ、ディエンドに帰還。
これからラグナへと行くわけだが、その前にメンバーたちを集めた。
俺がブルーノ男爵のところへ行っている間、マスクバロン、ラナ、グレイメンさんにはラグナや帝国について情報を集めてもらっていたから、いまから教えてもらう。
「結論から先に言わせてもらうと、有益な情報はほとんどなかったよ」
妖精風ミニマスクバロンが浮遊しながら、全員に説明する。
「ラナ君やグレイメン君も同様の意見なのだが……間違いなく情報封鎖がなされている。念の入ったことだ」
「結局はなにもわからなかったってことだねえ」
「つまり、それくらいにはラグナの状況を知られたくない……ということでしょうか」
「まあ、そういうことだろう」
アミールの意見に、マスクバロンが深くうなずいた。
「ただ、反乱が勃発した少しあとに大きな戦があったのは間違いない。そして、ラグナは敗北したそうだ」
どよめきが上がった。
ラグナ公国はガラルと並ぶ帝国の矛であり、最強を自負している。巷ではよくガラルとラグナどちらが強いか、という話題になる時があるのだが、ラグナを挙げる人も多い。
要するに、負けるはずがない、と思われている。
「滅びた、という話は一切なかったから、存続はしているのだろう」
「ガラルの時とは少し違う、ということですね。ハイマスター、どのようにラグナへ入るおつもりですか?」
クロードさんからの質問だった。
「ラグナって偉い人のいる場所が二つあって、魔導城と呼ばれている所と、本家なんだけど」
「なんで二つなの?」
「どちらかが落とされても指揮が続けられるように、なんだって」
話で聞いただけだけど、嘘ではないと思う。
「どっちへ先に行くか、ちょっと迷ってて」
城には叔父上が、本家にはおじい様がいるだろう。
「……ちょっと待って」
珍しくアリステラが手を挙げた。
「どっちもなかったら?」
「それ、まずくない?」
「モナークが占領されてる可能性……」
「いやいや、だったらどうすれば」
「出だしからそれではな」
「ここでも大公捜索?」
だいぶ騒がしくなってきた。
「それについては行ってみるしかない。無事であればいいけどね」
今度はしーんとなった。
「で、でも、あなたの故郷じゃない。涼しい顔してるけど心配でしょ」
故郷か。生まれた地ではあるが、故郷ではない、と言いたい。
「故郷はフォールンです。ラグナではありません」
言い切ると、室内が冷えた、気がする。
とりあえず解散ということにして、一息つく。
最後に作戦会議室を出たところ、メリアムさんに呼び止められた。
なにか話があるようだが、心なしか青ざめているような。
「シントさん、少しよろしい?」
「もちろんです。どうしました?」
「それが……」
妙な雰囲気だけど、どうしたんだ。
「ミリアの様子が少しおかしいので、聞いてみたんです」
「おかしい、とは?」
「いつもと違い、ちょっと楽しそうでしたの。ですので、なにか良いことでもあったのか、と」
それは別におかしいことでもないような気がする。
「普通だったら、ミコちゃんとなになにして遊んだ~、とか言うのですが、黙ってしまって」
「え、ええ。それで?」
「シントさんに怒られるわよ、と言ったら」
「俺に?」
「ええ、そう言うと素直になりますので」
俺は怖がられているのだろうか。なんかショックだ。
「すみません、続きを」
「はい。そうしたら……男の子と遊んだと言うんです」
なに?
「いまこの艦で男の子と呼べるのはアミール君ぐらいですし、たぶん違います。そう思ったら、背筋が」
まさか停泊中に乗り込んでしまったのか?
でもどうだろう。ガラルを飛び立ってから地上へは降りていない。
あるいは、この前アテナが言っていた機関部の奇妙な反応が男の子だった?
「名前は知らないそうです。おそらくミコちゃんもいっしょだったと思いますが……秘密にしてほしいと言われたようでして」
「秘密、か。幻ではなさそうですね」
子どもはよく空想上の友達を作ることがあるそうで、その類かと一瞬疑った。しかし、ミコちゃんもいっしょだったなら、幻覚ではないだろう。
「シントさん、どうしたらいいのでしょう。わたし、話しているうちにすごく不安が」
めちゃくちゃ怖がっている。
「なんだか珍しいというか、元凄腕傭兵のあなたがそこまで怖がるなんて」
「それは……強面の男性などは少しも怖くありませんけれど」
だよね。
「乗っていないはずの、しかも男の子だなんて……」
誰も知らない謎の男の子が娘と遊んでいたら、そりゃ怖いな。
「ゴーストか? いや、しかし」
「やはり幽霊でしょうか」
「この世に幽霊なんていませんよ」
「えっ……? でもいまゴーストと」
「ゴーストは霊子の欠片がよくない魔力と合わさって生まれる魔物です。幽霊ではありません」
「そ、そうですか……」
「とりあえずダイアナに聞いてみます。そのあと、様子を見に行きますよ」
「もう夜ですし、シントさん、やめておいたほうが……」
「だいじょうぶです。ゴーストなら退治しておきますから。場所は聞いていますか?」
「貨物室の辺りと」
メリアムさんが知るかぎりのことを聞いたあと、不安そうだったので部屋まで送った。
ミリアちゃんに対しては、特になにも言わずにおく。別に悪いことをしているわけではないからね。
幻覚や妄想だと片付けるのは簡単だ。
しかし、艦内の安全はしっかり確認しておかないといけない。
ディエンドは空を飛んでいるわけだから、なにかあれば全員の命に関わる。
というわけで、ダイアナを訪ねてみた。これもまた珍しいことに、姉妹で食事をとっている。
「え? ううん。サナトゥスは、なにも」
「わかった、ありがとう」
「待って~ ちょっと座って~」
「もう少しゆっくりしていったらどうだ」
「急ぎすぎだから」
と、引き留められる。
やることがあるから、それはまた今度で。
早々に去り、貨物室へ向かった。
その途中、厨房に寄り、ルーナちゃんに話を聞いてみる。
「シントさん、お夜食ですか?」
「え? あ、うん、そうだよ」
「もう、食いしん坊さんですね」
いや、違う。条件反射みたいに肯定してしまったが、そうじゃないんだ。
「そういえば昨日もご自分で作ってましたよね? 言ってくれればいいのに」
……昨日は作ってない。
「それ、俺じゃないと思う」
「そうなんですか? 少し減っていたのでてっきりそうかと」
誰かが盗んだのか?
それって……
「どうしました?」
「なんでもないよ。それよりもガラルの子たちはどう?」
「はい、アイシア様はお風呂掃除で頑張っています。ウルスラ様はわたしに料理を教えてほしいって来て、作ってますよ。出来は……鋭意努力中って感じですけど」
ふむ。心配だったがよくやっているようだ。
「デューテ様はミコちゃんとミリアちゃんとヴィクトリアさんと遊んでくれるので、助かっていますね」
うーん、それはいいのか? 精神的な年齢が合っている、ということかな。なんにせよ、悪くはない。
「もしもまた食材が減っていたら、教えてほしい」
「あ、はい」
ますますおかしな話になりそうだ。食材をつまんだのがネズミなどでないなら、やはり俺たち以外の誰かがいると考えていい。
しかし、そんなことがあり得るのか?
いつ、どうやって乗り込んだというのだ。
気づかなかっただけで、ディエンドを覚醒させた時からいた可能性もある。
子どもたちに危害を加えたわけではないようだから、そこまで危険な存在とも思えない。もちろん、油断はできないが。
「考えてばかりでは、しかたないか」
機関部でした調査捜索では特になにもなかった。
今度は貨物室とその近辺を洗おう。
★★★★★★
「変な反応はない」
貨物室とその付近をしつこいくらいに探知してみたが、おかしなものは見れらなかった。
全てがまやかしで、勘違い……なのだろうか。
「……」
でもなんかいま影みたいのが通りすぎなかった?
「だけど魔力は感じないし……」
いや、結論づけるのはまだ早い。
もう少し様子を見てみよう。




