角笛が鳴る 67 長い眠り
ガラルホルン家の公女アイシア、ウルスラ、デューテという新たなメンバー三人を加え、俺たちはラグナ公国を目指す。
人数は四十名を超え、かなりの大所帯となってきた。しかしながら、ガラルの子たちは【神格】に選ばれたとてつもない使い手で、上の姉二人は優れた頭脳を持つ。一方、末の妹デューテはまさに戦闘の申し子といった戦士であり、我がギルドの総合戦力はかなり上昇したと言っていい。
そして、ガラルで得た力は、それだけじゃない。
行方がわからなかった【神格】神雷ソーが飛来し、俺たちの元へ身を寄せたのだ。
これから改めてディジアさんとイリアさんに魔力を供給してもらうつもり。
「ということで、ガラルでの仕事は終わったから、これからラグナに向かうんだけど」
作戦会議室に全員が集まり、顔を合わせる。
「その前にアイシア、ウルスラ、デューテがウチへ参加するから、みんな面倒を見て欲しい」
「よろぴく~」
「なにがよろぴくだ。あいさつくらい真面目にやったほうがいいぞ、姉上」
「だいたいの人は知っているけど、よろしくね」
三者三様にあいさつをしてもらい、いちおうフォローする。
「この三人はダイアナの姉妹だから、なにか変なことをしたらダイアナに言ってくれ」
「えっ!?」
ダイアナが過剰に反応している。姉妹の世話が嫌なのだろうか。
「アイシアとウルスラとデューテはわからないことがあればミューズさんかカサンドラかダイアナに聞いてほしい。あと特別扱いはしないし、ウチの新人なので、調子には乗らないこと。いいね?」
「え~」
「調子になど」
「わたしはちゃんと――」
「いいね?」
もう一回聞くと、素直にうなずいてくれた。
ガディスさんやミコちゃん、ルーナちゃんなどはまだ新しいメンバーだから、あとで個別に紹介しておこう。
「改めてこれからの予定を話しておくよ」
一転して空気が引き締まる。
「俺たちはラグナ公国に行くのだけれど、その前に一度、ダメオン侯爵たち合流する。場所はアダガンド山だ」
「アダガンド山……シントさんはよく行ってましたよね」
アミールの言うとおり、俺にとってはなじみ深い場所だ。しかし、他のメンバーのほとんどは行ったことがないだろう。
「ダメオン侯爵の軍はいまアダガンドへ向かっている。彼らがちょうど着くころに、このディエンドも追いつく手筈だ」
「アダガンドへ行く理由はなんだい?」
「もちろん、説明するよ」
まずはアダガンドの完全解放。
先月のことだが、【神格】を修復するためにアダガンドへ行った時、あそこは饗団に占領されていた。
なんとか街内の兵士たちを追い出し、山をくり抜いて作られたアダガンドの入り口をふさぐことで、遮断したという経緯がある。
「饗団の連中が撤退してくれていればいいけど、もしもいたらダメオン軍と戦闘になるだろうし、機械兵や天至がいた場合は俺たちの仕事だから、そのつもりで」
全員がうなずく。もう何度も倒してきたが、慢心や油断はない。
「その後はラグナにほど近い町であるアールブルクに行って、ダメオン侯爵軍が通過する旨を伝えるとともに、いったん休む場所を提供してもらおうかと」
「……アールブルクに行くの?」
「うん、そうだよ」
アールブルクは俺が生まれて初めて訪れた町だ。そこでアリステラとも出会ったし、すごく懐かしい。
「だったら、ウチの町にも行く?」
「シルフ町? 行きたいなら構わないけど」
「……わたしはいい。ルーナは?」
「あ、わたしもだいじょうぶです」
シルフ町は二人の故郷だ。アールブルクからは近いところにある。行こうと思えばすぐに行けるけど、離れてからせいぜい一か月と少しだし、二人はまだ恋しいわけでもないようだ。
「可能なら俺たちもアールブルクで少し休憩。その間、俺はマスクバロンといっしょにラグナの情報を集めようと思う。ラナとグレイメンさんは、申し訳ないけど手伝ってくれ」
「おっけー」
「もちろんだよ」
アールブルクにてラグナの情報を仕入れ、そこで作戦を決める。
「ただし、ラグナではガラルと同程度か、それ以上の敵戦力があるかもしれない。心の準備だけはしておいてほしいんだ」
「天至も機械兵もいっぱいってことだよね」
デューテの言うことに、うなずく。
「俺の話はこれでおしまい。なにか質問ある?」
「わたしからいいかしら」
「ミューズさん、どうぞ」
「ガラルでシャンダール伯にかなり鍛えられたし、わたしたちに仕事を振ってほしいのよ」
彼女はやる気だ。が、他の事務方メンバーはぐったりといった様子。
「いいのですか?」
「みんな戦っているんだもの。もうわたしたちだけここで待っているのは嫌よ」
これには笑みが出た。頼もしいことこの上ない。
「わかりました。必要な時はおねがいします」
「任せて」
「他になにかある?」
「シント、いいか?」
今度はウルスラだ。
「うん、言ってくれ」
「デューテは対機械兵の部隊に入るのだろう。私と姉上はどうすればいい?」
いちおう、考えてはいる。仮ではあるが。
「作戦を決める時に意見がほしい」
「参謀、ということか。わかった」
「やらせて~」
「それと、戦闘に際してはカサンドラかグイネヴィアさんの隊のどちらかに一人ずつ入ってくれ」
「対天至ではないのか?」
「空を飛べるなら、それでもいいけどね」
空、と聞きアイシアとウルスラは口を閉じた。
天至と戦うなら、最低限のラインが『空を飛べること』だ。そうでなくば一方的にやられてしまう。
「他に質問があれば――」
言い切る前にいっぱい手が挙がった。
「多い!?」
しかたない。一つずつ答えていこう。
★★★★★★
というわけで全部の質問に答えたら、だいぶ遅くなってしまった。
かなりゆっくりめの食事を摂り、風呂をいただいてから、自室に戻る。
「けっこうヘビーだったな」
椅子に座り、テーブルに【神格】たちを並べた。神槍ゲイボルグは大きいので、壁に立てかけてある。
そして、空けた真ん中のスペースにハンカチを引き、本であるディジアさんと、短剣であるイリアさんをそっと置いた。
「神雷ソー、君はいったい、なにをしたかったんだ?」
新たに加わった仲間ともいうべき【神格】に語りかける。
小さな珠と化した神雷ソーは明滅し、返事をしているようだ。
「……遊んでいた? それ、ほんと?」
意志が伝わってくる。
信じられないことを言ってるな。
神雷ソーは、饗団の最上級戦士ファンタステックフォオと追いかけっこで遊んでいたらしいのだ。
それで出たり消えたりしていた。俺を見つけたあとは、新しい遊び相手として認識し、稲妻を浴びせたと。
なんて言ったらいいか、わからない。思考が停止しそうだ。
「ま、まあ、でも嬉しいよ、俺のところに来てくれて。さっそくだけど、力を貸してくれ。本来あるべきところに、力を分けてほしいんだ」
神雷ソーの明滅が激しくなる。魔力がバチバチと跳ねて、二人に吸い込まれていった。
「おお!」
ディジアさんとイリアさんのサイズが大きくなる。
これは、以前の二人よりも大きいと思う。
これなら――
「ディジアさん、イリアさん、起きてください」
返事はない。
しかし、力のない時とは違い、脈打つかのような魔力の鼓動を感じるのだ。
まだ起きないのかな。寝坊でもしているのだろうか。
「俺です、シントですよ。二人とも、魔力が戻っているはずです」
やはり返事はない。
なぜだ。どうして起きない。まだ足りないのか。でも、俺たちがアルテト村へ行く以前よりも、力は強いはずなんだ。
「ディジアさん、イリアさん、そんなに眠いのですか?」
「みんな、待っています。会いたがっていますよ」
「二人がいてくれれば、力が出るんです」
「そろそろ起きましょうよ、ね?」
「やっぱりまだ眠いのかな」
「でも、魔力は十分だ」
「どうして……」
「なんで」
だめだ。
どれだけ呼びかけても、返事はない。なにを言っても反応がないんだ。
もしかして、ディジアさんとイリアさんは、もういないのか?
「――っ!?」
いま俺はなにを考えた?
そんなはずはない。二人は消えたりしない。
「俺を置いていくなんて、そんなこと――」
そんなわけない。
ディジアさんとイリアさんは生きている。絶対――




