角笛が鳴る 66 もうまとめて面倒みる
大叔父上のところを辞したあと、ティール侯爵のところへやってきた。
ちょうどギュスターさんもいるので、あいさつをするのに都合がいい。
「公子よ、短い別れになるだろうが、達者でな」
「もう少しいればいいと思うのだがな。おれとしてはおまえのところの美女たちと語り合いたい」
それは嫌なので、全力で拒否だ。
ほんとどうしようもないな、この人は。
くだらない話をしつつ、ティール侯爵、そして新たに家督を継ぎヘイムダル侯爵となる予定のギュスターさんと固く握手を交わす。
二人とも、ごつい手だ。それに、熱い。
「これからラグナか」
「ええ、行ってみます」
「ガラルに続き、ラグナとは……全世界を救う気か?」
「違いますよ、ギュスターさん。いえ、ヘイムダル侯爵」
「よせ。そう呼ばれるのはかゆくてたまらんぞ、シント・アーナズ」
本人の感情はともかく、ギュスターさんが自由に自家の軍を動かせるのは、悪くないことだと思う。
「目的は【神格】と饗団の追い出しです」
「すなわちラグナを救う、ということだろう」
「俺などがいなくとも、おじい様もいますし」
世界最強の魔法士たるジンク・ラグナがみすみすやられるはずもない。
「お二人も気をつけて。本国側の饗団がどれほど強いかはわかりませんが、かなりの精鋭でしょうから」
「ああ、わかっているさ」
「おまえとの戦いで、天至への対抗策も得たからな。なんとかできる。そうだろう? 義兄よ」
「練度次第では、と言っておこうか」
すごいな。それがほんとうなら、だいぶ楽になりそうだ。
「それではまた」
「武運を祈る」
「また会おう、お孫様よ」
「それはやめてください。かゆくなる」
「はーはっはっは!」
最後にいじり返されてしまった。
こうして二人と別れ、それから世話になった人たちのところへ顔を出した。
シャンダール伯には、孫を嫁に、とまたしても言われ、レイジアさんからは、ダイアナとはいつ? としつこく言われる。ダーゲッソ伯爵からは娘をどうか、などと再び言われ、さすがに疲れた。最後に会ったグレンドン・イノマタさんからは、とんでもないところで働かせやがって、と抗議されてしまう。
くたくたになりながら宮殿から出ると、戦士風の男たちが近づいてくる。
誰かと思えば、先頭にいたのはエーギル家から逃亡し、故郷に戻ったはずのゲクラン将軍だった。
「よう、お孫様」
なんだか軽い感じだ。復讐に来たわけではなさそう。
「びっくりしましたよ。よくグランガラルに入れましたね」
「別に賞金首ってわけじゃねえよ。それに大公さまは投降すれば罪を許すって言ってるんだ」
それは中隊長以下の人間に限ってのことだったはず。この人は元将軍だし、まずい気がするのだが。
それはいいとして、何の用だ?
「なにか話でも?」
「まあな。お孫様に会うために来たんだが、ちょうど出て来たから声をかけさせてもらった」
「俺に会いに?」
「ああ、あんたの元で戦いたい」
なんだそれ。
「それはなぜ」
「……母さんのところで畑でも耕そうと考えてたんだがな。戻った事情を話したら怒られたよ。それで、お孫様に謝って、そこで戦えと言われた」
そうとうバツの悪そうな顔だ。よっぽど怒られたみたい。
「ヤクザもんを畏怖させる将軍も、母親にはかなわないのか」
「そうだよ! それに、偽の手紙で嵌めた責任を取れ」
手紙作戦か。たしかにあれは俺の責任と言っていい。
さーて、どうしよう。
ゲクラン将軍に胆力があるのはわかっているし、有能だという評判も本物だろう。戦力にはなりそうだが――
「ところで、後ろの人たちは?」
「こいつらはおれの親戚だ。戦で名を上げたいんだと」
「あなたが面倒を?」
「そういうことになるな」
ちょっと考えてみる。
ティール侯爵に口を利いて味方にするのは悪くない。しかし、彼は一度ガラルと袂を分かっているのだ。
ならば、あそこがいいと思う。
「では協力を頼みます」
「そうこなくっちゃな!」
「さっそくみなさんをダメオン侯爵の元へ送ります。ええと、いまはアダガンド手前のウエストタック市……だったっけ? まあいいか」
「お、おい、なんの話だ?」
「あなたはガラル軍に居づらいでしょうし、ダメオン侯爵かガランギールさんの元へ。ちゃんとガラルからの援軍であり、シント・アーナズの紹介だと言ってくださいね?」
「んん? おい、まさかまた――」
≪空間ノ跳躍≫を発動し、ゲクラン将軍を含む若者数名を送った。
彼は船団を指揮できる人間だし、大河を使った作戦を立てられるという強みがある。きっとダメオン侯爵の負担を減らせるだろう。これでよし、と。
★★★★★★
いろいろと片付け、やっとのことで戦艦ディエンドのところへと戻る。
すると、大量の物資が運び込まれているところだった。
「さすがに多くないか?」
なにかが詰まっている木箱の数は、馬鹿みたいに多い。
「ミューズさん、戻りました」
「おかえり、シント」
「ところでこれは……」
「生活に必要な物資よ」
「なんか量が」
「シャンダール伯にいろいろ都合してもらったんだけど、それじゃちょっと足りないかもしれないし、買っておいたの」
彼女は積み荷のリストを眺めながら、事も無げに言う。
「こんなに必要なんですか?」
「一番食べる人がなに言ってるのよ」
すみません。
「それと、公女さまたちの身の回りのものも必要だしねえ」
「ん?」
「あなたは普通でいいって言うと思うけど、ほら、なんていうか、そこらへんはきっちりしとかないと、世界一のギルドを目指す会社として恥ずかしいじゃない?」
言ってることはわかるが、理解できそうにない。なにか変だ。
「公女さま……って?」
「アイシア様とウルスラ様とデューテ様に決まってるじゃない」
おかしい。絶対になにかがおかしくなってる。
「どうしたの?」
「い、いえ……それよりもガラルの子たちは?」
「中にいるわよ」
聞くが早いか、猛ダッシュで搭乗口を駆け、中に入る。
至急ブリッジへ向かうが、途中にある共有スペースで急停止した。というか転びそうになった。
「アイシアにウルスラ、なにをしているんだ」
アイシアはアミールと『剣棋』をしていた。
ウルスラは静かにお茶を飲んでいる。かすかに香る酒の匂いは、お茶に混ぜているからだろう。
って、冷静に見ている場合じゃない。なんでいるのよ。
「うわー……ぜんぜん勝てません。クラスじゃ負けたことないのに……」
「甘いわ~ 受けはいいけど~」
「ほんとですか……? 歩兵と大将しか使われていないんですけど……」
ハンデ付きの対局だったようだ。アイシアは歩兵と大将のみで戦っていたみたい。そのせいでアミールは見てて気の毒なくらい、落ち込んでいた。
「もう一度聞く。なんでいるのよ」
「……我らはおまえについていくことにした」
「はあ?」
「だって~ もうガラルはだいじょうぶだし~」
そうかもしれんけど、そりゃないだろ。
「父上から手紙を預かっている」
と、ウルスラが懐から出した手紙を受け取った。
さっきはなにも言われなかったから、ほんとうに大叔父上からのものかと疑ってしまう。
いちおう、ちゃんと封蝋がしてあるし、字も大叔父上のものっぽい。
すぐに封を開けて、読む。
手紙には、娘たちを頼む、と書いてあった。それと、婚前の子作りは許さん、とか。
ありえねえな。なに言ってんだ、あのおっさ……おっと、口が悪くなりそうだ。
読み終えた手紙は、魔法で燃やす。
「シント、なぜ燃やすのだ」
「こげくさ~い」
「あ、いや、なんかつい」
さすがに内容は見せられない。
「ほんとうに来る気なのか?」
「無論だ」
「ほんきほんき~」
「でも掃除とかできるの?」
いまのところ、風呂やトイレなど全員が交代で掃除をしている。彼女たちだけ特別扱いはできない。
「お風呂なら~ 任せて~」
と、神剣『水姫』をテーブルの上に置く。
ああ、なるほど……って違うわ! 【神格】を掃除に使うなんて、だめでしょうが。
「私は料理を」
「……なんの冗談?」
「冗談ではない。いまはまだ……できないが、習得するつもりだ」
じゃあルーナちゃんに先生をやってもらうか。
……じゃなくて、なんのつもりだ。料理なんてできるわけないだろ。
超でかいため息が出る。
どうすればいいのだろうか。
だけど、ディジアさんとイリアさんなら……
「いいではないですか、とか言いそうだし、仲間外れはだめ! って言われそう」
「シント、なにをぶつぶつ言っている」
しかたない。追い出すにしたって、そうとうめんどうだし、それなら戦力として加えたほうがいいか。それに、意外なほどにウチのメンバーたちとは仲が良い。うまくやれる……気がする。
「わかったよ」
「そう言ってくれると信じていた」
「がんばる~」
「だけど、特別扱いはしない。お客さんじゃないんだしね」
「わかっている」
「子どもじゃないし~」
ほんとか?
不安しかないのですが。
でもよくよく考えたら、二人は二十歳越えの大人だ。自分で決めたことならいちいち俺が口を挟むことでもないのかもしれない。
「あ、シントー!」
デューテがやってきた。
「あのね、この前言いかけたことなんだけど」
「うん?」
「戦の時の」
そういえばそうだった。
「いっしょに行きたいの。だめ?」
姉二人を許可したんだから、デューテだけだめってこともないだろう。
「いいよ、君はこの前みたいに機械兵特化の隊に入ってくれ」
「やったー!」
ぴょんぴょん飛び跳ねてる。
ここに来て【神格】に選ばれし者が三人加入か。ウチがどんどん強くなっていく。
いいさ。もうまとめて面倒を見よう。




